「あ、先輩〜、これ失敗したんであげますよ。一応役立つと思うんで」
「先輩に堂々と失敗作を渡す後輩がいるかぁ?」
窃盗の犯人逮捕から1ヶ月後。
榎本君は相変わらず、彼女と発明品ばかりにお熱で、どうやら今も何かの発明に夢中らしい。
僕には名前もわからないような細かい工具をデスクの上にたくさん並べて一日中何かを作っている。
家の方が設備が整っているといって、出社しないこともしばしばある。
まあ、僕と蓮さんからしたら、良い発明品を作ってくれるに越したことはないんだけど、連絡もなしに勝手に家で作業を始めるから、出社しないなら一言連絡が欲しいんだよなぁ...。
僕は、榎本君から貰った『失敗作』と悲しい名前をつけられた発明品を手に取り眺める。太いボールペンのような見た目をしている。
「それ、元々は彼女のために作ったものなんですけどねぇ〜」
「榎本君、どちらかというと、僕たち戦闘員のために作ってほしいところなんだけど...」
「いやいや、自分は彼女第一なんで」
榎本君はデスクで頬杖をしながら、ふてぶてしい顔をしている。
僕は(蓮さん、なんとか言ってくださいよ!!)と言った表情で蓮さんの方をチラチラと見る。
「榎本...お前が彼女に何を作るのも自由だが、今は仕事の時間だ。この時間は私がお前に給料を払っている。ちゃんと私たちの役に立つ代物を作ってくれよ」
蓮さんは僕の視線を感じてくれたのか、榎本君を諭すように注意してくれた。
「そうです蓮さんの言うとおりです!榎本君の彼女ばかりずるいです!僕の妻にも何か作って欲しい!!」
「おい、そこじゃないだろ...」
蓮さんは頭を抱えながら大きなため息をついた。
「ところで榎本君、このボールペンは一体どういう効果が...っておい!!寝ないで!」
先程まで椅子に座っていた榎本君がいつの間にかソファの上で横になってグゥグゥと寝ている。
榎本君は普段はだらしなくて行動の一つ一つが遅いが、発明品と睡眠に関してはすごいスピードで実行するんだよな...
僕は寝ている榎本君を見ながら「やれやれ...」と呟いて、この謎の失敗作をポケットにしまった。
「それじゃ、春野。さっそく今日の仕事についてだ。
最近多発している子供の誘拐事件について、刑事事件ではなく悪霊の仕業ということが分かった。私たちゴーストファイターの分野ってことさ。
...先に言っておくが、この事件は元々、うちの事務所にくる前に他のゴーストファイターの事務所が依頼を受けたらしい。そこもなかなかの実力者揃いらしいが、担当のゴーストファイターが大怪我をして、今もまだ意識不明で入院中だそうだ」
「え、意識不明...?」
「実際に見たわけじゃないから、まあ、断言は出来ないが、おそらく今まで春野が担当してきた悪霊より、はるかに強く危険な可能性が高い。気を引き締めるように」
「は、はい!」
震える両手を強く握り締め、体全身に力を入れる。
今までも強い悪霊退治の依頼がうちの事務所に来たことはあった。が、ほとんど蓮さんが対応していた。
蓮さんのゴーストファイターとしての強さは、この界隈では有名らしい。
今までは蓮さんに頼りっきりだったが、僕ももう3年目。蓮さんからも独り立ちできるようにと言われている。いつかこういう依頼が来ることは分かっていた。
1人で、やり切らないと。
今日は、もこ太は腹の調子が悪いと言って家で休んでいる。こないだGPSを飲み込ませたのが原因なのだろうか...いや、そもそも悪霊に腹の調子というものがあるのだろうか。
どちらにせよ、今日はもこ太の助けも借りられない。
(いや何言ってるんだ?そもそ悪霊の助けなんて借りようとするのがおかしい。僕1人で、やるんだ)
「すでに犯人のアジトは別事務所が特定済みだ。
アジトの候補はこの三つ、地図を渡すから後でよく確認するように。地図上の①が私、②が君の担当、③は別事務所の人が担当だ」
蓮さんから受け取った地図には、①②③と番号が振られている。どれも佐瀬市内にあるようだ。僕の担当は阿楽川(あらかわ)付近。ここから車で30分ほどだ。
「今回は別事務所と共同の仕事なんですか?」
「元々、協力依頼を出されて受けた仕事だからな。今回は関しては、共同でやるというよりは、我々は与えられたアジトを調査すればいいだけだ。実際に相手の事務所の担当者と一緒に行動することは少ないだろう」
「あの、アジトを別々で調査するのではなく、危険な悪霊相手なら、3人で一つずつアジトを調査した方がいいのでは...」
「今回は、犯人が単独犯か複数犯かもまだ分からない。もし複数犯であるなら、アジトも複数所有している可能性が高い。アジト候補を一つ一つ調査して我々の存在がバレる危険性を考慮すると、すべてのアジトを同時に調べる方が安全ってわけだ。
ゴーストファイターもまだまだ人手不足だからな。今回のように危険な依頼に対応できる人員はかなり少ないのが現状。私たち3人で対応するしかないってことだ」
「そう、ですよね...」
両手に汗がびっしりと染み込む。心臓の鼓動がいつもより速い。体が少し震えている。
(ビビるなよもう!!怖がるな、僕!しっかりしろ!)
唇を噛むように強く閉じて、体の震えを止めようとする。しかし、汗も震えも止まらない。
怖くない、大丈夫。
怖くない、怖くない、怖くない、怖くない。
僕はできる、僕は立派なゴーストファイターになって、
子供に胸を張れる、立派なパパになるんだ。
「大丈夫だ。私のアジトの調査が終わったら、すぐに春野ところへ向かう。それに、君は強い。安心しろ」
震える僕の右手の上に、蓮さんの手のひらが優しく添えられる。先ほどまで張り詰めていた僕の気持ちが一瞬にして解(ほど)けた。
「あ!べ、別に、びびってません!」
「ふふ、そうか。それはそれは、頼もしいな」
蓮さんは優しく微笑んでいた。その目は、僕の何もかも見透かしているような気がして、少し恥ずかしくなった。