KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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初投稿です。
色々と至らぬ未熟者ですが、精一杯努力してまいります。
どうかご愛読頂けると幸いです。


プロローグー私たちの宣戦布告ー

「―――本日はお忙しい中お集まり頂き、まことにありがとうございます」

 

 D.U.シラトリ区、サンクトゥムタワー。その一角に存在する小さな会議室。

 そこに押しかけた報道陣の前で、机に座る少女は小さく一礼した。

 

 雪のように真っ白なウルフカットの髪と、背後に控える黒い斑入りの大きな翼。鋭い目付きの奥で輝く琥珀色の瞳に、頭上で輝く柘榴色のヘイロー。

 まるで雪原に暮らすフクロウを彷彿とさせる風貌の少女は、少し低いよく通る声で言葉を紡ぎ始める。

 

「私は樋渡(ひわたり)カナメ。SRT特殊学園所属、OWL小隊の小隊長です」

 

「本日はある重要な発表を行うため、この場を設けさせて頂きました」

 

 OWL小隊。その名前に聞き覚えのある者は、少なくとも報道陣の中にはいなかった。

 だがその前のSRT特殊学園となると話は違う。何しろ今巷を騒がせている連邦生徒会長が創設した、少数精鋭の特殊部隊養成学園なのだから。

 その生徒が記者会見という場で何を話そうというのか。好奇と期待の感情が、視線を通して少女―――樋渡カナメに注がれる。

 

 そんな視線を向ける者達を一瞥すると、カナメは再び口を開いた。

 

「昨今の報道で皆様もご存知の通り、現在キヴォトスは治安の悪化に歯止めがかからない状態にあります」

 

「連邦生徒会長の失踪と、それに伴うサンクトゥムタワーの行政機能停止。幸い後者については昨日をもって解決されましたが、それでも治安の完全な回復には未だ時間が必要になるでしょう」

 

「こんな時にSRTは一体何をしているのか。そうお思いになる方も少なくないとは思います」

 

 と、ここでカナメが大きく息をつく。

 深い焦燥を感じさせる呼気が、大気へと拡散していく。

 

「ですがSRTもまた、動くに動けない状態にあります。突然の連邦生徒会長の失踪に伴い、新たな指揮権の確立に()()()()()()()()()()事態となっているのです」

 

 現役SRT生による、事実上のSRTの機能停止宣言。

 さては重要な発表とはこのことか。気の早い記者はすぐさま手帳にペンを走らせる。

 

「しかしそれは我々にとって、決して許容できることではありません」

 

 だがその手はすぐに抑え込まれた。

 これまでの事実を語る口調とは明らかに異なる、感情の熱がこもった言葉。

 突然の変調に、メモに視線を落としていた者達の顔が上がる。

 

「よって()()この事態を打開するため、一つの重大な決断を行うに至りました」

 

「これはこの場をお借りしていることからも分かる通り、既に連邦生徒会の承認を得た()()()()でもあります」

 

 そこで言葉を切り、瞼を閉じるカナメ。

 一体何が出てくるのか。記者たちは固唾をのんで、次の言葉を待つ。

 

 そして数瞬後、カナメは意を決したように目を見開いた。

 

「現時刻をもって、我々有志はSRTを離反します」

 

 会議室を覆う沈黙。

 だがそれは次の瞬間には、驚愕と熱狂の渦へと変貌した。

 記者たちが思い思いに言葉を口走る。ノートの表面に激しくペン先を打ちつける。カメラから放たれたフラッシュが、好き勝手に眼前の被写体を照らしつける。

 SRT生の公然とした離反宣言。こんな特ダネを前にして、報道に携わるものが冷静でいられるはずもない。

 

「そして我々が()()するための、新たな学園を創設します」

 

 その狂乱の炎へ薪をくべるかのように、カナメが立ち上がる。

 彼女が足元の紙袋から取り出したのは1枚のブレザー。どの学園のものとも異なるチャコールグレーの外套が、SRTの白いセーラー服に覆いかぶさる。

 

 そして白髪の少女は胸に手を当てた。右胸に記されたシンボル―――白い刺繍で描かれた、松明をくわえたハトを指し示すように。

 

KSS(Kivotos Security Service)警備学園―――それが私達が新たに背負う、学園の名前です」

 


 

「90点ね」

 

 サンクトゥムタワーを去り、目的地へ向かうヘリの中。

 私の向かいに座る少女は、長いアッシュブロンドの髪の先を弄りながらそう言った。

 

「演説の内容、表情、それに動き。私が見る限り、どれにも大きな乱れはなかった。むしろ想定より良かったぐらいよ」

 

「練習の甲斐はあった、ということか」

 

「カノンによればSNSはもうKSSの話題一色らしいわ。それこそ連邦生徒会長の失踪なんて、みんな忘れたかのように……本当、ここまで費用対効果(コスパ)のいい宣伝もないわね」

 

「その割には随分と不満そうだな、ホナミ」

 

 これでも長い付き合いだ。些細な仕草でその時々の機嫌くらいはすぐに分かる。

 果たして、こちらの問いかけに少女―――千堂(せんどう)ホナミは、色素の薄い水色の瞳を細めてこちらを軽く睨みけつけた。

 

「ええ、不満に決まってるじゃない」

 

「一応聞いておくが、どうしてだ?」

 

「私達が隣にいなかったからよ」

 

 背中の蝙蝠に似た翼膜が、大きく一つ跳ねる。

 肩から羽織ったチャコールグレーのブレザーが、マントのようにはためく。

 

()()()()は4人で行う。それがあなたの立てた計画だったはず」

 

「ああ、だが状況があまりにも変わりすぎた。お前だって納得してただろう」

 

「ええ、そうよ。けど一応確認しておくわ」

 

 こちらを睨む眼光に、別の感情の色が混じる。

 

「私達の掟、忘れたわけじゃないでしょうね?」

 

 それはとても複雑な色。怒りと寂しさが入り混じった、例えようのない色。

 彼女がそんな感情を見せることは、滅多にないことだ。

 

「大丈夫だ。忘れてはいない」

 

 だから私も、いくらか語気を和らげて答える。

 

「『小隊は一蓮托生。功績も責任も、得るもの全てを分かち合う』……だろう?」

 

「……ええ、その通りよ」

 

「今回は単にこうした方が良かったってだけだ。別に一人で抜け駆けするつもりだったわけじゃない」

 

「どうかしら。あなたって結構、そういう所あるから」

 

「そこは信じてほしいんだが」

 

「信じてるから疑うのよ」

 

 ホナミがふっと微笑む。釣られて私も軽く笑う。

 既に彼女の顔からは、暗い影は消えていた。

 

「……それにしても、本当にどうしてこうなったんでしょうね。会長の方から先に消えられたんじゃ、私達の計画(プラン)も形無しよ」

 

「ああ、本当にな」

 

 本当に人生は予想外の事ばかりだ。何しろ一度死んだはずの人間が、こうして第二の生を生きているような事もある。

 それに比べれば、これはまだマシな方なのだろう。予定が狂いに狂って、自分が一つの学園を率いる立場になるくらいは。

 

「まもなく学園です!」

 

 不意に操縦席から、少し弾んだ声が飛ぶ。

 それに合わせて僅かに傾く機体の中で、私達は地上の側を向く窓を覗き込む。

 

「あいつら……」

 

「なるほど、あの子たちらしいわ」

 

 眼下に見える小さな学舎。その脇に設けられた運動場。

 そこには白線で描かれた仮設のヘリポートと、その側に整列する数十人の生徒の姿があった。

 


 

「「「お疲れさまです、会長!!」」」

 

 ヘリから降りた途端、一斉に敬礼が向けられる。

 整然と整列した生徒がまとっているのは、見慣れた白と黒のセーラー服。あるいは青を基本に白を差した、今年から導入されたばかりの新デザインの制服。どちらも一目でSRTの制服と分かるもの。

 ただ一つだけ違うのは、袖口に白と黒のストライプが描かれている事だ。

 

「慕われてるわね、「会長」さん」

 

「……まあな」

 

 浴びせられる視線から感じるのは、混じり気のない好意や敬意の情。

 それは彼女達が私のことを新たなリーダーとして認めてくれている、どんな言葉よりも確かな証拠だ。

 ……だからこそ、つい考えてしまう。果たして自分はそれに値するのか。それに応えられるような人間なのかと。

 

「ほら、考え事は後」

 

 思索の深みから意識を引き上げたのは、背後からの声と軽い衝撃だった。

 ……確かに今は目の前の事が優先だ。いつまでもこうさせておく訳にはいかない。

 こちらも数歩歩み寄り、敬礼を返す。すると一拍置いた後、彼女達は一糸乱れぬ動きで素早く手を降ろした。

 

 そうして姿勢を整え終えたタイミングを見計らい、私は近くにいた青い制服の生徒を見据える。

 

「誰が発起人だ?」

 

「アヤ先輩です! 会長が大仕事を終えて帰ってくるのだから、皆で盛大に出迎えよう、と!」

 

「なるほど」

 

 言われてみれば納得の人選。それに思わず口角を緩めながら、軽く周囲を見渡す。

 しかし予想に反して、記憶にあるその顔は居並ぶ生徒達の中に見当たらない。

 

「それで、アヤはどこに?」

 

「屋上です。さっき校旗を立てに―――」

 

 別の生徒がそう言いながら、校舎を指さそうとした、その時。

 

「カナメせんぱーーーいっ!」

 

 ちょうどその方角から、元気に満ち溢れた声が響く。

 その出所は、屋上に立ち手をぶんぶんと大きく振る一人の少女。その傍らでは別の小柄な少女が慌てている。

 そんな彼女達を隔てているのは、転落防止用のフェンス。つまり片方はその外側にいるということ。

 

(まさか)

 

 そう思った次の瞬間、少女は勢い良く地を蹴り宙へ飛び出した。

 同時に開かれる、彼女の背中に生えた濡羽色の大きな翼。カラスを思わせるその翼は器用に空気を捕まえ、少女に重力へ抗う力をもたらす。

 そうしてふわりと滑空に入った少女は、何度か円を描きながら高度を下げ……

 

「よっ……わ、わわっ!?」

 

 ……着地の瞬間につんのめり、止まらぬ勢いのまま盛大に地面を転がった。

 

「あー、やっぱりドジっちゃったかぁ」

 

「アヤちゃん、大丈夫ー?」

 

 途端に居並ぶ生徒から漏れる笑い声。中には直接声をかける者もいる。

 だがそこに嘲りや侮蔑の色はない。あるのはさながら小動物の珍行動を見たときのような、朗らかな笑顔だけ。

 

「まったく、あの子ったら……」

 

「こんな日でも変わらないな、本当に」

 

 思わず苦笑するホナミの声を背に受けながら、私はブレザーについた砂を払いながら起き上がる彼女―――朱島(あけしま)アヤへと歩み寄る。

 

「アヤ、怪我はないか?」

 

「はい、大丈夫です! 受け身はバッチリでしたので、かすり傷一つありません!」

 

「本当か? 結構な勢いだっただろう?」

 

「心配ご無用! この「不運のプロ」がこの程度で怪我する訳ないじゃないですか!」

 

「威張るな」

 

 相変わらずの調子に軽く笑いながら、指で軽く額を小突く。

 するとアヤはポニーテールに結った黒髪を軽く揺らしながら、照れくさそうに顔を綻ばせた。

 

「もう、アヤちゃんったら。やっぱりこうなっちゃったじゃない」

 

 と、そんな彼女の背後に、ふわりと人影が舞い降りる。

 深いミッドナイトブルーの髪をセミロングに整えた小柄な少女―――白峰(しらみね)カノンは、同じ色の翼をぱたぱたはためかせながら、軽く頬を膨らませた。

 

「ダメよ、いきなり飛び出すなんて。いくらアヤちゃんでも、怪我しちゃうかもしれないんだから」

 

「あれくらいなら平気ですって! 何なら任務の時なんてもっと……」

 

「めっ」

 

「……はい。ごめんなさい、カノン先輩」

 

 柔らかな口調とは裏腹の、有無を言わせぬ圧。

 それに思わずうなだれたアヤの頭を撫でたかと思うと、カノンはこちらへ視線を移す。

 

「カナメちゃんもお疲れ様。会見、とってもよかったわ」

 

「どうにかうまくいってくれたよ」

 

「謙遜しないで。あれだけ力強い()()は、あなたにしか出せないんだから」

 

 カノンが少しだけかかとを浮かせる。普段は少しだけ下にある目が、同じ高さに揃う。

 

「よくできました」 

 

 そして幼子をあやすかのように、半分ブレザーの袖が被った手で私の頭をぽんぽんと撫でるカノン。

 頑張ったり良いことをした相手はとりあえず撫でる、それが彼女のルーティン。何ともこそばゆいが、こればかりは甘んじて受け入れるしかない。

 どうせ拒んだところで、結局は押し切られるだけなのだから。

 

「カノン、そこまでにしておきなさい」

 

 そんな彼女を制したのは、ホナミが手を打ち鳴らす音だった。

 

「今日は大事な日なのよ。あまり緩みすぎるのも考えものだわ」

 

「そうかしら。大事な事ほど、リラックスしてあたるべきだと思うけど」

 

「大抵の事はそうね、でもこれは違う。そうでしょう、カナメ?」

 

「……ああ、そうだな」

 

 ホナミの言葉に頷きを返し、再び校舎の屋上を見上げる。

 その天辺に掲げられているのは、紺色の地に白で校章を描いた校旗。ブレザーのものと同じ、松明を咥えて羽ばたく鳩のシルエットは、風を受けて誇らしげにはためいていた。 

 これが今日から私達が仰ぐ旗。他ならぬ自分達で決断し、道を選んだ何よりの証。

 そして私には義務がある。この旗を掲げた張本人として、付いて来てくれた者達の先導者となる義務が。

 

「皆、聞いてくれ」

 

 気づけば、自然と言葉が漏れ出していた。

 

「カナメ先輩?」

 

「ほらアヤちゃん、こっち」

 

「えっ、あ、はいっ!」

 

 示し合わせたかのように、ホナミとカノンが私の後ろへ回る。

 きょとんとしていたアヤもカノンに促され、彼女達の横へと並ぶ。

 咄嗟に姿勢を正す生徒たち、そのさざなみのような流れが落ち着いたのを見計らい、私は再び口を開いた。

 

「私達はSRTを離れ、新たな旗を掲げた。これからはこのKSSの名を背負って、自活のために行動していく事になる」

 

「この決断が正しかったと、今の時点で断じることはできない。その判断が下せるのは、ずっと先の未来になってからだろう」

 

 言葉を切り、大きく息を吸う。

 胸に手を当て、肺の空気を音に変えて吐き出す。

 

「―――それでも、()()()()()事にしてみせる」

 

「たとえ裏切り者と後ろ指を指されても、守るべきもののために行動する。それはとても辛く、厳しく、覚悟が必要な事だ」

 

「それを()()()()()()事にはしたくない。あなた達の意思を、決断を……決して過ちになどはさせない!」

 

 新たな空気を求めて荒くなる呼吸。

 目を瞑り、数度深呼吸をしてそれを落ちつかせると、私は再び瞼を開き目の前の人垣を見据える。

 

 

「……だから、どうか力を貸してほしい。今この瞬間を、私達が望む未来に繫げるためにも」

 

 場を包む静寂。

 だがそれが続いたのも、僅かな間だけだった。

 

「分かりました、会長!」

 

 誰かが声を張り上げる。

 

「元よりそのつもりだよ!」

 

「私の力でいいなら喜んで!」

 

「やってやりましょう、アタシ達の手で!」

 

 それを皮切りに、次から次へと声を上げ始める生徒達。

 その声に宿っているのは激しい熱。意欲を駆り立て、ともすれば理性をも狂わせかねない危うさを持つ情熱だ。

 だが冷めきっているよりははるかにマシかもしれない。少なくとも熱は、何かを動かす力になるのだから。

 

「いい演説ね。これなら文句なしの100点よ」

 

「でもちょっと温め過ぎかも。初めからこんな調子じゃ、みんなすぐにバテちゃうわよ?」

 

「大丈夫ですって。みんな結構タフですから!」

 

 横合いから届く声を耳に入れながら、再び屋上に翻る旗を見上げる。

 今この瞬間、私はこの旗に向かって宣誓した。己の覚悟を誓った。

 これでもう自分に課した義務から逃げることはできない。逃げるつもりもない。自分を信じて着いてきてくれた者達を、決して後悔させないという義務からは。

 

「さあ、始めるぞ―――私達の理想(おもい)を貫くための戦いを」

 

 誰でもない、自分自身に向けた呟き。

 それに応えるように、ばさりと校旗が大きくはためいた。

 




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