KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
「発信機の信号はこの地点で留まり続けています。恐らくはここが連中の拠点かと」
「ここは……砂漠化が進んでいる市街地の端の方ですね?」
「住民もいないし、廃墟になったエリア。治安が維持できなくて、チンピラばかりが集まってる場所だね」
「以前危険要素の分析をした際に、カタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です。やっぱりここを拠点としていたんですね」
翌朝。私は早速昨晩の襲撃と、その際にζ小隊が仕掛けた発信機の情報を対策委員会へと共有していた。
デバイスに映る発信機の光点が示す場所は、アビドス市街地の外れ。アヤネやシロコによれば、前からヘルメット団のような不良集団のたまり場として認識されていたらしい。
「なるほどねー、5人一緒だとかなわないから、帰宅途中のセリカちゃんが一人のところを襲った感じかー」
「もしかしたら人質を取って、脅迫しようってことかも」
「どちらにせよ、こんな事が起きた以上は放置しておく訳にもいかないね」
「そうよ! あの連中、今度こそ足踏みもできないようにしてやるんだから!」
大切な仲間が襲われたという事もあって、既に先生を含めた対策委員会はやる気十分だ。
特に襲撃を受けた張本人であるセリカは怒りに燃えている。真っ先に自分が狙われた事を、よほど腹に据えかねているのだろう。
もちろん私としても異論はない。明らかに裏がある集団を野放しにしておけば、次に何をしてくるか分かったものではない。
『こちらι1、OWL1応答願います』
と、そこにインカムへと着信。朝から別の任務を任せていたη小隊の小隊長からだ。
「こちらOWL1、どうだった?」
『カノン先輩の見分が終わりました。どうやら爆発の衝撃で走行装置の一部が破損していたようです』
「なるほど、道理でヘルメット団も置いていく訳だ」
あの後確認したところ、ヘルメット団は改造重戦車を放置したまま撤退していた。
虎の子であるはずの機甲戦力を置いて逃げるのはどうも腑に落ちない。もしかすると
そう考えた私は、機械に詳しいカノンにドローンを介した調査を依頼。ι小隊はその手足として、現地で活動してもらっていたのだ。
しかし実際は危惧していたような事情ではなく、単に行動不能な損傷が生じたから乗り捨てただけだったらしい。
確かに大口径砲を搭載した戦車は、その重量故に足回りが弱点となる傾向がある。特に今回の戦車は無理にFlak41を乗せた改造型なので、その短所がもろに出た形だろう。
砲塔も車体も動かない以上、最早こいつは使い物にはならない。だったらいっそ捨ててしまおう……修理できるだけの知識がないヘルメット団なら、そう考える可能性は十分有り得る。
『ただ砲塔旋回装置の損傷は意外と軽微で、足回りも応急修理を行えば自走はできるとの事です。手順を教わりましたが、これなら私達でもできると思います』
「という事は、アビドス高校まで持ってくる事もできそうだな」
『どうしますか?』
「こちらから対策委員会に相談してみる。一応修理を始めておいてくれ」
『了解』
戦車としての性能はさておき、砲の性能は間違いなく本物。活かそうと思えばいくらでも使い道はある。
ただそれを決めるのは私達ではない。この自治区の管理者である、アビドス高校の生徒達だ。
「んー、どったの? 何かいい話?」
「例の戦車ですが調査が終わりました。少し直せばまだ使えそうとの事です」
「ってことは、あれをそのままアビドスのものにできるって事?」
「ええ。放棄されている以上、鹵獲しても何ら問題はないでしょう」
戦車の火力と装甲は防衛戦でも役に立つ。人が少ないアビドスの環境では大きく貢献してくれるだろう。
……と思ったのだが、対策委員会の反応はどうも芳しくない。
「うーん、良いことなんでしょうけど……私達で扱えるでしょうか?」
「ヘルメット団でも使えていたんですから、操作は問題ないと思いますが……それよりも維持費が心配です。改造戦車だとパーツも手に入るとは限りませんし」
「そもそもヘルメット団を追い払ったら、学校が襲われることもなくなるのよ? そうなったら、あんなの校庭の置物にしかならないわよ」
「ならスクラップにしてしまおう。戦車一台分なら、きっとそれなりの値段で売れる」
……彼女達の事情からすると、戦車一台の追加はそこまで嬉しくないと見える。勿体ないとは思うものの、それが彼女達の選択なら仕方ない。
ただFlak41の悪用だけは防ぐ必要がある。いっそ今のうちに砲の爆破を指示してしまおうか。
「まあさー、それについては後で考えるって事でいいんじゃない?」
そんな会話の流れと思考を打ち切ったのは、ホシノの一言だった。
「今はヘルメット団のアジトを叩くのが最優先。そうでしょ?」
「ん、確かに」
「ですね。戦車の事は終わってから考えましょう」
戦車の事は一旦棚上げ。その方針が決まった対策委員会は、急いで出撃の準備を整え始める。
普段は寝坊助なのに、こういう所ではしっかりと委員長としての役目を果たす……やはり彼女はよく分からない。どちらが本質なのだろうか。
「敵拠点を発見しました……さすが最新型、
「あ、それ型落ち品だよ。最新型は流石に持ち出せなかったんだって」
「えっ、そうなんですか!?」
装甲車の操縦席からアヤネとζ小隊の隊員の声が響く。
そのやりとりを後部の兵員輸送室で聞きながら、私たちは携帯デバイスに共有された映像に視線を落としていた。
「やっぱり拠点というだけあって、ヘルメット団の数も多いね」
「これだけの数を相手にするのは、ちょっと苦労しそう」
「この建物の影に映ってるのは……装甲車でしょうか?」
「
拠点に揃っているヘルメット団の数は相当なもの。しかしそれ以上に気になるのは、彼女達が保有している機甲戦力。
5cm砲搭載の装甲偵察車ともなれば、キヴォトスでも流通量は限られている。重戦車よりは入手難度は低いのは確かだが、それでも普通ならヘルメット団ごときが保有できるものではないのも確かだ。
やはり彼女達には何かバックが控えている。それを確かめるためにも、この拠点は確実に制圧しなければ。
「今回は私も戦闘に参加します」
「お、いいの? 先生の護衛でしょ?」
「あの砲はこの装甲車でも防げません。攻めの姿勢に転じた方が、かえって安全も確保できます」
“分かった。じゃあカナメは装甲車の対処をお願い“
「
相手が装甲車であればそこまで苦労はない。装甲厚が薄い分、どこからでもライフルグレネードで貫通できる。
ただその方法で無力化した場合、敵装甲車は高い確率で爆散するだろう。やろうと思えば残骸からでも流通経路を辿ることはできるが、それでも可能な限り原型を保っていた方がやりやすいのも事実だ。
とはいえあえて急所を外した場合は、確実な無力化は期待できない。あちらを立てればこちらが立たず……どうしたものか。
「……いや、待てよ?」
デバイスの画面をスワイプし、ドローンからの映像を拡大する。
装甲車周辺の地形、遮蔽物、そして警備に当たるヘルメット団の数。
それらの情報は脳内で統合され、やがて一つの結論を導き出す。
「先生、私の任務は装甲車の対処という事でしたね?」
“うん、そうだよ“
「対処の方法については手段を問わない。その解釈でよろしいですか?」
“別に何か制限を設けるつもりはないけど……“
「……何をするつもり?」
こちらの確認に首を傾げる先生に、怪訝そうな視線を向けるシロコ。
そんな彼らに向けて、私は頭の中の考えを口にした。
「詳しく説明すると長くなりますが……一言で言うなら、装甲車を奪います」
「こちらOWL1、目標地点に到達しました」
“大丈夫? ずいぶん時間がかかってたみたいだけど“
「ええ、任務遂行に支障はありません」
それから30分後。
目標地点に到達した私は、周囲に転がる列車の残骸に身を隠しながら先生と交信を試みていた。
敵の警戒が薄い方角から侵入するために、随分と砂漠を迂回する事になってしまった。おかげで対策委員会の面々もだいぶ待たせることになってしまったが……まあ、装甲車にもエアコンがあるから大丈夫だろう。
「これより奪取を開始します。そちらは騒ぎが生じたことを確認し次第、突入を開始してください」
“分かった。もし奪取に失敗したら?“
「その時も同様に。最低でも無力化は達成します―――
通信を切り、物陰越しに装甲車周辺の様子を伺う。
周囲に歩哨として立つヘルメット団は2人。そして装甲車が停められているのは、他の拠点から少し離れた場所。
「しかし勿体なかったよなあ、あの重戦車」
「仕方ないだろ、キャタピラが完全にぶっ壊れちまったんだから。ああなったらもう私達にはどうしようもねえよ」
「折角だし、後一台くらい貰えないかな? 不良品だったとか何とか、うまくイチャモンつけてさ」
さらに都合が良い事に、歩哨は警備中にもかかわらず雑談に興じている。警戒心は相当低いらしい。
昼間の潜入任務はえてして成功率が下がるものだが、この状況ならその下げ幅も大きく緩和できるだろう。
成功に繋がる条件は全て揃っている。後は自分が正確に実行できるかだ。
ワイヤーガンを取り出し、吸盤部に煙幕手榴弾を取り付ける。同時に銃本体と手榴弾のピンを、細いワイヤーで結び付ける。
そしてやや上方に向けて狙いを定めると、トリガーを引いて吸盤を撃ち放った。
銃と結ばれたワイヤーに引かれ、ピンが引き抜かれる手榴弾。一定の高度まで達したところで吸盤の吸着を解除すると、それは放物線を描いて落下していく。
「ん、なんだ今の音?」
「何か落ちたような……って!?」
それが落着したのは、歩哨に立つ二人のちょうど真後ろ。
彼女達がその正体を認識するよりも炸裂した煙幕手榴弾は、装甲車の周囲を視認性の低い濃い白煙で包み込んだ。
それと同時に廃列車の残骸を駆けあがり、翼を広げて飛び上がる。
この距離では普通に滑空しても目標までは辿り着けない。だがアシストがあるなら話は違う。
記憶していた位置に向け、巻き取ったワイヤーガンを射出。何かに当たった感触が伝わると同時にワイヤーを巻き戻すと、反動で身体は一気に加速する。
そして煙幕が間近に迫った瞬間、ワイヤーをロックすると同時に翼を大きく一振り。生じた突風は身体に急制動をかけると同時に、生じていた濃白色の煙を瞬く間に霧散させた。
「くそっ、何なんだ……ぎゃっ!」
「て、敵……ぐえっ!」
流石に歩哨たちもこちらに気づくが、もう遅い。
脚を装甲板に踏ん張り、左手のワイヤーガンで身体を保持したまま右手でライフルを連射。ヘルメット越しに複数の弾丸を受けた二人は、そのまま地面に崩れ落ちる。
この銃声で拠点のヘルメット団も敵襲に気づいただろう。しかし彼女達が動き出すよりも、こちらが装甲車の前部操縦席ハッチに滑り込む方が早かった。
「やはり狭いな……!」
幸い操縦席のレイアウトは、私が知るものと大差なかった。
窮屈な座席に身を潜り込ませ、記憶を頼りに始動手順をこなす。それに従い、装甲車のエンジンがうなりを上げる。
「……よし、いくぞ!」
狭いスリット越しに見える、こちらへ向かってくるヘルメット団。
そちらに車輪が向くようにハンドルを切ると、私は一気にアクセルを踏み込んだ。
一人では主砲は満足に運用できない。だったらこの車体を武器にするまでだ。
「ひいぃ! く、来るなぁ!?」
「落ち着け! 足を潰せ! タ、タイヤを狙うんだ!」
「どうやって狙うんだよ! あんな無茶苦茶な動きの装甲車のタイヤを!」
対策委員会がヘルメット団の拠点へ足を踏み入れた時、そこは既に混乱の坩堝と化していた。
あちこちに散乱した物資、跳ね飛ばされたと思しき残骸、そしてその隙間を縫って逃げ纏うヘルメット団の団員達。
それらを生み出しているのは、たった一台の装甲車。八輪の車輪を持つ鋼の獣はその巨体に見合わない小回りで、まるで狩りを行うがごとくヘルメット団を追いまわしている。逃げ遅れた生徒は容赦なく跳ね飛ばされ、地面へとのびていく。
何名かの団員は果敢にも反撃を行うも、それらは装甲に弾かれ全く意味を成さない。例え最大30㎜程度といえど、小火器に対してその装甲は絶対的な優位を持っていた。
「うへえ、こりゃ酷いねえ」
「装甲車1台で、ここまでの状態にできるんですね……」
「昨日もだいぶ無茶苦茶な運転してたけど……まだ自重してる方だったんだ」
誰もが逃げ惑うのに必死で、自分達の迎撃にすら現れない惨状。
それに他人事のような感想を漏らすホシノに、どこか感心しつつも若干引いているノノミ。セリカは昨日見た装甲車のドリフトが序の口に過ぎなかったことに戦慄している。
そんな中、シロコだけは他の生徒と違った感想を持っていた。
(……装甲車を奪った技術、とても気になる。もしかしたら参考になるかも)
シロコは知っている。見張りが厳重な車を盗むことは、決して容易くない事を。
しかしカナメはそれをいとも簡単にやってのけた。きっと相当な経験を持つ手練れなのだろう。
もし彼女からその技術を学ぶ事ができたら、彼女が温めている計画の一つ―――現金輸送車強奪計画を、より洗練した形に昇華できるかもしれない。
「帰ったら、ちょっと聞いてみようかな……」
「シロコちゃ~ん? 何か変な事考えてなーい?」
「ん、別に何も。早くあいつらを倒そう」
だがその思考は、ホシノに釘を刺された事で中断された。
こういう時の彼女はやけに鋭い。まるで本当に思考を読まれているかのように。
ひとまず図星を指された事を誤魔化すように、シロコは愛銃「WHITE FANG 465」を構え突撃していく。
『えーっと……カナメさんのおかげで敵は大きく混乱しています! この隙に一気に叩きましょう!』
“ヘルメット団はいくつかの集団に分断されているみたいだ。ひとつずつ制圧していこう“
「はいはーい、じゃあパパッと片付けちゃいますか」
「ちょっと気の毒になってきましたけど……お仕置きの時間ですよ~☆」
「これに懲りたら、さっさとアビドスから出ていく事ね!」
いくら数で勝っていようと、統制が崩壊してしまえばその有利を活かすことなどできない。
先生の指揮とアカネのサポートの元、分断された敵集団へ猛攻を加えていく対策委員会の面々。それを前にヘルメット団は次々と各個撃破されていく。
そして戦闘開始から十数分後。ヘルメット団の拠点は完全に制圧されるのだった。
この世界のヘルメット団の保有戦力は重戦車1台+装甲車1台でした。
ゲーム版とアニメ版を足して2で割った形です。