KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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アビドス防衛力増強計画

「よーし、次降ろすぞー!」

 

「落とすなよー、爆発物満載だからなー」

 

「大丈夫ですって! アヤ先輩じゃないんですから!」

 

 早朝のアビドス高校の正門前。そこに停められたトラックの荷台から、ζ小隊の隊員達が木箱を降ろしていく。

 箱に刻まれているのはSRTの校章。しかしトラックの幌に描かれているのは、鳩の衣装を象ったKSSの校章。

 どこか矛盾しているようだが、何も問題はない。元を辿れば私たちの装備は、全てSRTからの持出品なのだから。

 そんな後輩達を尻目に、私は補給品を運搬してきたΔ分隊の小隊長と言葉を交わす。

 

「悪いな、せっかくの任務明けに」

 

「ヘーキヘーキ。ちゃんと任務手当も出るしね」

 

「追加で注文した、小銃用の徹甲弾は?」

 

「ちゃんと5.56mmと7.62mmの両方持ってきたよ。でもそんなに必要な感じ?」

 

「どうも最近装甲車両と交戦する機会が多い。だからあるに越したことはないだろう」

 

「そっか。でも無駄遣いは禁物だからね?」

 

「分かってる」

 

 渡されたリストを見ると、いくつかの品目の隣に赤丸がついていた。市場には一切流通していない、SRT専用の装備だ。

 市販品と一線を画する性能を有する代わりに、再入手する手段は事実上皆無。特に弾丸のような消耗品は、持ち出せた数が在庫の全てと言っていい。

 代替品の入手も模索しているが、成果が出るのは当分先になるだろう。それまでは大切に使わなければ。

 

「―――にしても、これがアビドス高校かぁ」

 

 そんな事を考えていると、小隊長が興味深そうにアビドス高校の校舎へと視線を移す。

 

「思ったよりもしっかりしてるんだねぇ。生徒が5人だけっていうから、てっきりレッドウィンターの227号みたいなとこだと思ってたのに」

 

「あそこまでひどい所はそうそうないだろう……ここは対策委員会がしっかり整備しているそうだ」

 

「ってことは、あれもその子達が作ったの?」

 

 そう言って彼女が指さしたのは、校庭に作られたバリケード。

 土嚢や机、それにロッカーなどを用いて作られた即席の防壁には、いくつもの弾痕が見受けられる。きっとこれで幾多ものヘルメット団の襲撃を乗り切ってきたのだろう。

 こちらの目から見ても、素人が作ったにしては中々の完成度だ。

 

「そうらしい。なかなかよくできている」

 

「だよねぇ。でもさ、全校生徒の数を考えたら、もっとしっかりした陣地があった方がいいんじゃない?」

 

「そうかもしれないが、これ以上は難しいだろう。何も知識がなければ、この辺が限界だ」

 

「だったら私達で作っちゃえばいいじゃん! ほら、1年生達の陣地構築訓練ってことでさ!」

 

 目を輝かせながら力説する小隊長。

 ……そうだった。こいつはどんな任務よりも陣地構築が好きという変わり者。KSSの防衛設備の整備も自分から買って出ている筋金入りだ。

 そんな奴が動機を得てしまえば、乗り気になってしまうのは当然のこと。

 

 しかしこれは決して悪い話ではない。むしろ今後のことを考えれば、積極的に検討すべきことかもしれない。

 分不相応な装備から察するにように、ヘルメット団の背後には何かしらのアビドス高校占拠を目論む勢力がいる。そしてこういう輩は、手駒の一つが失われた程度で諦めるほどヤワではないのが常だ。きっと第二第三の刺客を導入して、再度アビドスを襲わせることだろう。

 その際に校舎が戦場になる可能性が高い以上、その防衛力を上げておくことは、回り回って先生の安全を確保する事につながる。

 

「確かに、それもいいかもしれないな。早速―――」

 

「よっし、じゃあ早速始めますか!」

 

「待て、許可を取ってからにしろ」

 

 どこからかシャベルを取り出し駆け出そうとする小隊長。その襟首を掴んで強引に制止させる。

 いくらアビドスの利になることとはいえ、勝手に敷地内へ陣地を作って良い道理はない。まずは対策委員会に話を通して、許可を得ることから始める必要がある。

 多少は打ち解けてきたとはいえ、こういう事の筋はしっかり通しておかなければ。

 


 

 結論から言えば、陣地構築の許可は驚くほどすんなりと降りた。

 

「別にいいんじゃない? いちいち校舎まで踏み込まれると、掃除も面倒だしねー」

 

「わあ、ありがとうございます! 廃材ならいっぱいあるので、遠慮なく使っちゃってください!」

 

「私も協力する。その代わり、今度装甲車の襲い方を教えて」

 

「別に今のままでも十分だと思うけど。まあ、好きにしたらいいんじゃない?」

 

「私も賛成です。でも、できればあまり物騒な感じにはしないでくださいね」

 

 積極的か消極的かの違いはあれど、構築自体には対策委員会の全員が賛成で一致。部外者が勝手に防御力を高めてくれるなら、反対する理由もないという事なのだろう。

 こちらとしても説得の手間が省けたので、ありがたい限りだ。

 

「これよりアビドス高校敷地内における防衛用陣地構築任務―――「フェレット作戦」のブリーフィングを開始する」

 

 そして正午を少し回った頃。

 宿舎としている教室に集まったι小隊とΔ小隊の前で、私は机の上にアビドス高校の地図を広げていた。

 次の言葉を発しようとしたその時、唐突に誰かが手を上げる。ι小隊の生徒だ。

 

「どうした?」

 

「その、カナメ会長……なぜシロコさんがこの場にいるのですか?」

 

 その言葉に、一斉に視線を私の隣にいる生徒ーーーシロコへと向けるKSS生達。

 確かに作戦会議の場に部外者、特に他校の生徒がいることは滅多にない。その存在を訝しむのも無理はない。

 しかしこちらが答えるよりも早く、シロコは眉一つ動かさない平然とした様子で口を開く。

 

「私はアビドス側のアドバイザー。今回の作戦について、アビドスの生徒として助言するのが仕事」

 

「……と、いう事だ。我々はまだアビドスに不慣れな以上、彼女の知見に頼ることも多くなるだろう」

 

「ん、よろしく」

 

 これは半分本当で半分嘘。対策委員会に許可を得た際に異様に乗り気だったので、半ば押される形で参加してもらったというのが事実だったりする。

 しかもその対価は装甲車を襲撃する方法の教授。そんな事を知って何をするつもりなのだろうか。

 大体私の戦法は翼ありきのものなので、教えたところで真似できるようなものでもないのだが。

 

「まあ、そういう訳だ。話を戻すぞ」

 

 そんな疑問を頭の片隅へ追いやりながら、再び計画の内容へと話の流れを修整する。

 

「まず前提として、今回の拠点整備には鉄条網及び地雷は使用しない。これはアビドス側からの要求だ」

 

「え、マジ? それがなきゃ片手落ちじゃない?」

 

「向こうの要求なら仕方ないですよ、先輩。それに今回の補給品にもありませんでしたし」

 

「なので今回は現地調達可能な資材及び廃材を主として、()()()の防衛設備を整える事を目的とする」

 

 そこで言葉を切り、指示棒を用いて地図を指し示す。

 

「まずは外周部。フェンスを乗り越えての侵入を抑止するため、脆弱な箇所に「アスパラガス」を設置する。この材料には椅子や机を使う」

 

「アスパラ……? なんで野菜が出てくるの?」

 

「空挺部隊を阻止するための障害物の俗称だね。まあカナメくらいしか使ってる人いないけど」

 

 アビドスを防衛する上で一番面倒なのが、多方面から、同時攻撃を受けること。人数が少ない以上、兵力の分散を強いられるのは非常に辛い。

 しかし要点さえ抑えてしまえば、対策もさほど難しくはない。要は敵が乗り越えて来そうな場所を、先につぶしてしまえばいいのだ。

 机や椅子の脚を斜めに切り、先端だけ露出する形で地面へ埋めておく。こんなものがびっしりと生えた所に飛び込める者はそうそういない。

 

「そして唯一の入り口となる校門周辺には、複数の半埋没式障害物と機関銃陣地を設ける。ある意味ここが本命だ」

 

「足をひっかけそうな障害物で動きを抑制し、機関銃陣地からの掃射で殲滅する……キルゾーンを設定するんですね」

 

「その通りだ。よく勉強してるな」

 

 想定される敵はヘルメット団、ないしはそれに類する歩兵主体の戦力。それを効率的に叩くには、砲兵の支援か機関銃の十字砲火が一番だ。今回は前者がないので、後者を主体にする。

 幸いヘルメット団の拠点から鹵獲した武器には、いくらかのマシンガンが含まれていた。折角なので遠慮なく使わせてもらうとしよう。

 

「対戦車はどーする? 流石に龍の歯を作ってる暇はないよ?」

 

「今回の補給品の中に、装甲車修理用の溶接キットがあったはずだ。それと廃材で対戦車障害物(ハリネズミ)を作ろう」

 

 一定の強度を持つ鋼材と溶接機材があれば、あれを作るのにはさほど難儀しない。材料の数にもよるが、少なくとも必要な数は揃えられるはずだ。

 そんな目算を立てていると、隣のシロコが首をかしげた。

 

「……アスパラにハリネズミ。カナメは変な呼び方をよく使う」

 

「でしょー? 昔からこうなんだよねぇ」

 

「でも何かちょっとかわいいですよね、そういうところって」

 

「……そこ、私語は慎め」

 

 仕方ないだろう。キヴォトスじゃ滅多に使われない呼び方かもしれないが、こちらの中ではそれで根付いているんだから。

 

「そして最後にここ、校舎前。最終防衛ラインとして、この箇所には例の重戦車を配置する」

 

「待って、あれは違法機種だったはず。アヤネがそう言っていた」

 

「いくら鹵獲品といっても、違法機種を使うのは流石にまずくない?」

 

 一斉に飛んでくる反論。しかしそれも予想済みだ。

 確かに違法機種の戦車を運用することには問題がある。しかしそれは、一切使えないという訳ではない。

 

「ああ。だから……埋める」

 

「埋める? 埋めちゃうんですか、あれを!?」

 

「正確には砲塔だけ出して、トーチカにしてしまう。flak41は戦車砲として搭載する事は規制されているが、要塞砲としてはその限りではない」

 

 あの重戦車が違法機種となっていたのは、規制で搭載が認められていない砲を主砲として採用していたから。

 しかし走行装置を外し、車体を地中に埋没した戦車はもはや「戦車」ではない。ただのトーチカだ。

 そしてトーチカに対して採用する砲を制限する規制は、今のところ存在しない。故に法的には何の問題もなくなる。

 

「戦車を埋めた簡易トーチカかあ。ずいぶん古い手を考えつくねぇ」

 

「古かろうと何だろうと、有効なら使うまでさ」

 

 例え砲塔だけでも重戦車は重戦車。並の銃火器が相手なら、まず撃ち破られることはない。

 それに金網も追加しておけば、形成炸薬弾(HEAT)に対してもある程度は耐えてくれるだろう。

 後は周りに機関銃陣地を幾つか設けておけば、容易く抜けない最終防衛ラインの完成だ。

 

「次の襲撃がいつ来るか未知数な以上、可能な限り早く完成させておきたい。今言った機構と連絡路、2日で仕上げるぞ」

 

「任されました! さあ1年生達、腕の見せ所だよ!」

 

「はい! 訓練の成果、今こそ発揮します!」

 

「私達だって、陣地設営なら成績上位だったんだから!」

 

「まあ、ミヤコ達には負けてたけどね」

 

「今はそれ言わなくてもいいでしょ!?」

 

 私の言葉に意欲を顕にするKSS生達。

 しかしそれに反して、シロコは心配そうな視線をこちらに投げかける。

 

「……ちょっと無理がある気がする。これだけの設備を作りきるには、絶対に2日じゃ足りない」

 

「大丈夫ですよ、シロコさん」

 

 確かに普通なら、こんなスケジュールを達成するのはまず無理だ。3交代24時間制にしても、絶対にどこかでガタが来る。

 しかしそれはあくまで常人の話。専門の訓練を積み、心身を鍛えた者たちなら、話はまた違ってくる。

 

「彼女達も、元SRTですから」

 

 そう、SRTの系譜に連なる者達なら。

 


「お疲れ様、みんな」

 

「差し入れを買ってきた。一旦休憩にしよう」

 

「マジで!? おーい、みんな! 一旦休憩!」

 

 夕日の残照がわずかに残る、夕方の頃合い。

 私が先生と共に買い出しから戻ってくると、既に防衛陣地はその輪郭が生み出されつつあった。

 土嚢が積み上げられた機関銃陣地と、それを繋ぐ形で掘られた塹壕。そしてフェンスの端に連なる、鋭い切っ先を天に向けた椅子や机。重戦車はまだ車体を地上に晒しているものの、それを収める掩体壕は既に掘られている。

 

「なかなか良いペースだな」

 

「まあ、これだけ人数がいればね。それにアビドスの助っ人も、なかなか頑張ってくれてるし」

 

「そうなんです! あそこの機関銃陣地、シロコちゃんが全部一人で仕上げちゃったんですよ!」

 

 差し入れのスポーツドリンクを片手に、シロコを褒めそやすKSSの生徒達。

 思わぬ称賛を受けた彼女は、赤くなった頬をマフラーで覆い隠す。

 

「そんなことはない。流石に皆に比べたら、私の作業量は劣る」

 

「それでも頑張ってくれたことには変わりないよ。ありがとう、シロコ」

 

「……ん」

 

 先生のお礼の言葉に対して、恥ずかしげにスポーツドリンクのペットボトルへ口をつけるシロコ。

 やはり先生は生徒を褒めるのがうまい。間というのだろうか、適切なタイミングで適切な言葉を差し込むことに長けているように思える。

 こういう点については、私も見習いたいものだ。

 

「……それにしても、KSSの生徒達は皆仕事が早い。それに動きも正確」

 

 そんな事を考えていると、不意にシロコがそんな言葉を口にした。

 

「日頃の訓練の賜物ですよ」

 

「こんな人達とチームを組めれば、銀行強盗もきっと捗る」

 

「ええ、そうです……ん?」

 

 ちょっと待て。今何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。

 周囲を見渡せば、先生や他の生徒も目を丸くしている。どうやら聞き間違いではなかったようだ。

 

「銀行強盗……ですか」

 

「ん。このチームなら1日で10件、10億円稼ぐのも不可能でない」

 

「……流石にそれは非現実的かと。できて2件かそこらが現実的でしょう」

 

「確かに。欲をかけば破滅するというし、それくらいにしておいた方がいいのかも」

 

 いや、違う。そんな事を答えてどうするんだ。

 どうやらあまりにも予想外の言葉に、自分でも思いの外混乱してしまっているらしい。

 何度か深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻すも、ほかの生徒はそうもいかないと見える。

 

「か、カナメ先輩! 一度確保しておいた方がいいのでは……!?」

 

「えっと、ヴァルキューレに通報? それとも私達で逮捕できるんだっけ……?」

 

「いや、今の私達には逮捕権はない……けど現行犯逮捕できるのかな、これって?」

 

「落ち着け。まだ既犯と決まった訳じゃない」

 

 1年生どころかΔ小隊まで混乱しだしたことで、混沌としていく状況。どうにか宥めようとするも、混乱が加速していく方が早い。

 そんな流れを変えたのは、どうにか驚愕から立ち直った先生だった。

 

「……もしかしてシロコ、銀行強盗をしたことがあるの?」

 

「ううん、まだ1回もない。色々と計画はしているのだけど」 

 

「じゃあなんで、そんな計画をしているの?」

 

「……アビドスの借金返済のため。きっとこうでもしないと、あれだけの借金を返済しきる事はできない」

 

 帰ってきた答えに、思わず安堵の息をつく。どうやら彼女はまだ清い体だったらしい。 

 それに動機もちゃんと理解が及ぶものだった。確かに9億円以上の借金ともなれば、一発逆転のチャンスに賭けたくなる気持ちも理解できる。

 それにしたって、その出力先が銀行強盗なのはどうかと思うが。

 

 それでも未犯で動機も真っ当なら、まだ打てる手は残っている。

 彼女は銀行強盗の計画を構想していると言っていた。ならその知識を別の方向へ活かす道を示せばいいのだ。

 

「それなら、防犯コンサルタントなどを目指すのはどうでしょう」

 

「防犯コンサルタント?」

 

「ええ。成功の可能性がある銀行強盗の計画を練れるということは、裏を返せば銀行のセキュリティホールを把握しているということ。それを銀行側に教えて、対価を得るのです」

 

 蛇の道は蛇。犯罪に長けた者は、少し応用を加えるだけでそれを防ぐ者へと転じることができる。

 これならシロコが蓄えた知識を無駄にすることなく、真っ当な方法で返済資金を稼げるはず。

 

「確かに銀行強盗に比べれば収入は小さいですが、リスクは段違いに小さい。それに需要も尽きることはありません」

 

「……なるほど。そんな方法、考えたこともなかった」

 

 ふむ、と口元に手を当てて考え込むシロコ。 

 良かった。どうにか悪の道に染まる事を回避させられたらしい。

 

「…………もしかして防犯コンサルタントと銀行強盗を兼業すれば、倍の効率で稼げる?」

 

 ……前言撤回。余計な知識を与えてしまっただけかもしれない。

 


 

「セリカちゃん……私、まだ寝ぼけてるんでしょうか?」

 

「ううん、ちゃんと起きてると思うわ。だって私も同じものが見えてるもの」

 

 翌朝、アビドス高校・校門。

 何気なく登校していたアヤネとセリカは、目の前に広がる光景に絶句していた。

 

 昨日彼女達が下校するまでは、そこにあったのはごく普通の校庭だった。代わり映えのしない、とても見慣れた景色だった。

 しかし今は全く違う。そこら中に土嚢が積み上げれ、一際高くなったところには据え付けられた機関銃が黒光りしている。フェンスの陰には殺意の高い形状をした、細い鉄製の柱が林立している。

 そして何より目を引くのは、校舎の前でゆっくりと旋回する戦車の砲塔。周囲に存在する複数の機関銃陣地と相まって、それはさながら従者を従える王のような威圧感を醸し出していた。

 

「おはようございます。アヤネさん、セリカさん」

 

 確かに知っているはずなのに、全く違う。 

 そんなアビドス高校の景色に2人が唖然としていると、不意に背後から声がかけられた。

 振り向くとそこに立っていたのはカナメ。彼女は頬についた機械油を手で拭いながら、何事もないかのように2人へと話しかける。

 

「シロコさんでしたら校舎の方で寝ていますよ。昨日は遅くまで頑張ってもらいましたので」

 

「あ、そうなんですね……って、そうじゃなくて!」

 

「?」

 

「こ、これ! あなた達がやったんですか!? たった一晩で?」

 

「ええ。まだ仕上げが残っているので、後1日はかかりますが」

 

 アヤネ達は知らなかった。SRTの生徒達は例え1年生であっても、1小隊(4人)も揃えば公園を短期間で拠点化するぐらいは難なくできるということを。 

 それが3年生込みで3小隊揃い、かつ自由に廃材を使える状況であれば、一晩で防衛陣地を築く事程度は容易くということを。

 

「もっとも、これはあくまで()()()の陣地です。もし拡張の必要があるなら、また何なりとお申し付け下さい」

 

 そしてそれを指揮した目の前の少女は、大抵の試算で敵の戦力を多めに見積もる傾向にあることを。

 

 これらの誤算が重なった結果、アビドス高校は一晩にして強力な防衛設備を獲得する事となった。

 良いことではあるのだろう。しかし人は己に利することであったとしても、必ずしもすぐに受け入れられるとは限らない。

 

「……こ」

 

 だからセリカは晴れ渡るアビドスの空に向けて、己の感情を解き放った。 

 腹の底から絞り出した大声という、感情の発散にはこの上なく向いた形で。

 

「これのどこが「最低限」なのよっ!?」

 

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