KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
「いやぁ、また派手なものを作ったねぇ。おじさんびっくりして腰を抜かしちゃうかと思ったよ」
「流石プロの方ですね! 仕事がとっても早いです!」
作業の汚れをシャワーで流し、少し休んだ後は先生の護衛を交代。
彼に連れ添って対策委員会の部室に踏み入ると、出し抜けに飛んできたのは呆れ混じりの称賛の声だった。
「ん、私も頑張った」
「いくらなんでも頑張りすぎよ! 何もここまでする必要ないじゃない!」
「そうでもありませんよ。強固な防備は敵の侵攻を抑止する効果もあります」
「えっ、そうなの?」
「もしセリカさんが襲撃者の側なら、今のアビドスには攻め込みたくないでしょう?」
「……言われてみれば、確かにそうね」
もし襲撃が長引くようなら、彼女達にも次第に疲労が蓄積していく。もしそれが重なって誰か倒れるような事になれば、人数が少ないアビドスには致命的だ。
そうでなくとも、彼女達は指名手配犯の捕獲やアルバイト、ボランティアなど忙しい日々を送っている。その貴重な時間を潰す校舎の防衛戦は、少ないに越したことはない。
その視点に立つと、今構築中の防衛陣地は抑止力という点では今一つ心もとないのも事実。時間さえ許すのなら、もっと大がかりなものを作りたたかったのだが。
「では、先生も来られたことですし……アビドス対策委員会の定例会議を始めます」
そんな折に、アヤネが場の空気を変える一言を放つ。
今日先生が対策委員会へ来たのは、顧問としてこの定例会議に出席するため。本来なら部外者は立ち入るべきではないのだろうが、私も護衛として同伴する事を快く許可してもらえた。
やはり初日からの積み重ねは、少しずつだが良い方へ転がり始めているらしい。
「アヤネ、今日の議題は何?」
「「学校の負債をどう返済するか」について、具体的な方法を議論します。今日は先生もいらっしゃるので、いつもより真面目な議論になると思うのですが……」
「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない」
セリカの言葉に苦笑いを浮かべるアヤネ。それだけで普段の会議がどんな調子なのかは察せられた。
もしそうなら先生が増えたところで結果も変わらない気もするが……だとしてもこの場で護衛に発言権はない。
今の私にできるのは、一歩引いたところから会議の様子を見守る事だけだ。例えどれだけ嫌な予感がしようとも。
―――そして数分と経たないうちに、それは現実のものとなった。
「このままじゃ埒が明かないわ! だからこれでガッポガッポ稼ごうよ!」
「「ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金」……ねえ……?」
「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……」
先陣を切ったセリカが持ち出したのは、まさかのマルチ商法の商材。なんでも一攫千金の謳い文句につられて、2個も買ってしまったとのこと。
前に説得した時も感じたが、どうやら彼女は相当騙されやすいタイプらしい。果たして会計担当がそれでいいのだろうか。
「我が校の問題って、生徒があまりに少なすぎる事なんだよねー。だからまずは生徒の数を増やすところからかなー」
「鋭い指摘ですね……ですが、どうやって?」
「簡単だよー。他校のスクールバスを拉致って、転校届を書かせればオッケー! これで生徒数がぐーんと増えること間違いなーし!」
「そんな事したら他校の風紀委員が黙っていませんよ!?」
「うへ〜、やっぱりそうだよねー?」
続くホシノの案はまさかのバスジャック。
スクールバスを拉致して強引に転校届にサインさせる。何ともふざけた案だが、アビドスの戦力なら出来なくもないのが怖いところ。
ただそうなれば最悪の場合、アビドスと他校の全面戦争すら生じかねない。幸いホシノは冗談半分だったが、もし本気だったらその時は……いや、考えるのはやめておこう。
「いい考えがある。銀行を襲うの」
「いい考えな訳あるかっ! 却下ー!」
「なら防犯コンサルタントを目指す。その知識と経験を得るために、まずは手頃な銀行を襲う」
「手段と目的が噛み合ってませんよね、それ!?」
シロコは……何というか、予想通り。昨日の話からしてそう来ると思ったところを、直球で貫いていった。
しかも私の提案を変な形で取り込んでしまっている。一体何をどうしたら、防犯コンサルタントになるために銀行強盗になる選択肢が出来上がるのだろうか。
そんな事を考えているとホシノと視線が合ったので、軽く目で謝っておいた。これは間違いなく私の責任だ。
「アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです! 私たち全員がアイドルとしてデビューすれば……」
「却下」
「なんで? ホシノ先輩なら特定のマニアに大ウケしそうなのに」
「こんな貧相な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」
最後にノノミが提案したのはスクールアイドル。十分突飛ではあるものの、これまでの案に比べるとまだまともに思えてくる。
しかしホシノはあまり乗り気ではないようだ。どうやら体型が理由のようだが……アイドルとはそこまでプロポーションが求められるものなのだろうか。どうもこういう事に関しては、今も昔もよく分からない。
「……先生としては、どの案が一番有望そうとお考えですか?」
「今の4択なら……アイドルグループかな」
「同感です」
びしりとアイドルとしての決めポーズを決めるノノミを尻目に、今出た案について語り合う先生と私。
この中ならまだアイドルの方がいい。というより他に選択肢がない。マルチ商法の詐欺商品は論外だし、他の二つはただの犯罪行為だ。
ただアイドルもアイドルで、成功するかはかなり不確かなのは事実。もっと何か堅実な方法があれば良いのだが。
「そうだ、カナメちゃんにも聞いてみない? 折角他所の生徒がいるんだしさー」
「はい?」
と、その時。突然ホシノがこちらへ話を振ってきた。
予想だにしないキラーパスに思わず声が漏れ出ると、それにつられて8つの瞳がこちらへ向く。
「確かに、他の学校の人の意見も聞いてみたい」
「違う視点から見れば、何か新しい発見があるかもしれませんね」
「ま、一応聞いてあげないこともないわよ」
「私からもお願いします。このままだと全然議論が進まなくて……」
一斉に向けられる期待の視線。特にさっきから振り回されているアヤネに至っては、もはや縋るような必死さすら感じられる。
そんな目で見られてしまっては、こちらも投げ出すわけにはいかない。
とはいえ、これは結構な難題だ。何しろ私は彼女達ほどアビドスには詳しくない。
知っているのはたった5人でアビドス廃校を阻止すべく尽力している事と、並の不良集団ぐらいなら跳ね除けられる戦闘技術があること。後は各人の細々したことぐらい……。
……いや、待てよ。それだけ分かってたら十分じゃないか。
たった5人で校舎を襲う不良達を跳ね除けてきた経験。これ十分な武器になる。
「……インストラクター、などはどうでしょう?」
「インストラクター? 何のですか?」
「不良生徒対策のインストラクターです。潜在的な需要は大きいかもしれません」
キヴォトスに存在する学園の全てが、必ずしも十分な防衛戦力を持っている訳ではない。
中にはゲヘナやトリニティの庇護を受けている所もあるが、当然そこからも漏れる学校だって少なくない。そういった学校はヘルメット団のような不良集団には、絶好のカモなのだ。
「零細の学校に集る不良を排除した後、そこの生徒が自力で学校を守れるように指導する。これなら皆さんが培ってきたことをそのまま活かせるはずです」
「そっか、今やってる事をそのまま教えればいいんだものね」
「でも零細学校だと、報酬もあまり期待できないのでは?」
「そこは数でカバーすればいいかと。1校あたり5万円としても、10校回れば50万円です」
なにしろキヴォトスには数千もの学校が存在する。それだけあれば、10や20の顧客を確保するのも十分現実的だろう。
「それにこのやり方なら、アヤネさんが稼ぎ頭になれそうです」
「えっ、私ですか?」
「あなたの技量なら十分教える側に回れると思います。希少なんですよ、オペレーターの教官役って」
彼女のオペレーターとしての能力は、これまでの戦闘を通して把握している。正直1年生でここまでできるなら、将来的にはSRTのオペレーターにも引けを取らない逸材になるかもしれない。
そして教える側にまわれるほど熟達したオペレーターというのは案外少ない。だから中小の学園のみならず、もしかすると大手から依頼を受けるチャンスだって舞い込む可能性もある。
加えて私の見立てでは、アヤネは比較的論理型の人間。これは講師になる上で有利に働く要素だ。
「私が教える側に……本当にできるでしょうか?」
「きっとできますよ。アヤネちゃんは頑張り屋ですから!」
「私達みんなで他の学校の生徒を鍛えて、そのお礼として報酬を貰う……うん、いける気がしてきたわ!」
半信半疑なアヤネを励ますノノミに、すっかりその気になっているセリカ。
ともすれば既成事実になりかねないこの流れにブレーキをかけたのは、この場における最年長の生徒だった。
「うーん、でもうちにそんな事依頼しに来る学校があるかなぁ? そういうのって、やっぱりゲヘナとかトリニティに行くもんじゃない?」
「私もそう思う。アビドスには知名度が足りない」
「ええ。ですので、その点は何かしらのテコ入れが必要になるでしょう」
いくらインストラクターを始めたとしても、顧客が現れない事にはどうにもならない。
多分一度口コミが広まれば、芋づる式に依頼が来るようになると思う。しかしそのためには最初の一手が必要になる。相手の関心を惹くための肩書や実績が。
とはいえ、そういう事なら少しは力になれそうだ。
幸いこちらにはヴァルキューレへのツテがある。必要ならそこを介して、どこかしらの学校へ仲介してもらえばいい……と思っていたのだが。
「だったらなおさらアイドルですよ! 歌って踊れて、それに戦えるアイドルの誕生です!」
「インストラクターは実力が大事。だから銀行を襲って実力を示そう」
「いっそバスジャック中に宣伝してみる? 意外と効果あるかもよ〜?」
必要が生じたと思うが早いが、ここぞとばかりに自分達の案へと繋げようとしてくるアビドス生達。
ノノミの案は悪くないかもしれないが、シロコのやり方は完全に悪手だ。そしてホシノは悪ノリしないでくれ。
おかげで纏まりかけていた案は再び縺れ、会議の場は混沌と化していく。
「……い」
そんな状況を、彼女が許せるはずもない。
唯一この場で、真っ当に会議を進めようとしていた彼女が。
「い?」
「いい加減にして下さいっ!!」
寸前にセリカが感づくも、時すでに遅し。
アヤネが激情のままに振り上げた手は、部室に置かれていたちゃぶ台をひっくり返した。
「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」
「……怒ってませんっ」
「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」
「赤ちゃんじゃありませんからっ」
普段大人しい人ほどキレると恐ろしい。それはアヤネもまた例外ではなかったらしい。
数十分に渡るお説教を経てもなお、未だにアヤネはご機嫌斜め。そのため怒らせた対策委員会の面々は柴関ラーメンにて、必死に彼女の機嫌を取る羽目になっていた。
当然先生も一緒なので、護衛である私も同行している。前回と同じように、店の隅で気配を消して待機中だ。
「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」
「……ふぁい」
自分のチャーシューを差し出すシロコに、若干へそを曲げながらもそれを口に運ぶアヤネ。
こうしてじゃれあっている様子は、傍目から見れば年相応の女子学生のそれ。さっきまで銀行強盗だのバスジャックだの、物騒な事を提案していた人間と同一人物とは到底思えない。
……いや、違うか。多分こっちが彼女達の本質なんだ。
それが9億円以上の借金返済という難題に迫られているがために、少しばかり変質させられてしまっているのだろう。何しろ利子だけで毎月800万円近い支払いに迫られている環境なのだから。
人は追い込まれると、一発逆転を信じて過激な手段に頼りたくなるもの。前世で何度も見てきた光景を、またこんな形で目の当たりにする事になるとは。
「あ……あのう……」
そんな思索に耽っていると、店の扉がガラリと開く。
そしておずおずと入ってきたのは、ダークパープルの髪色をした生徒。ゲヘナと思しき制服を纏った彼女は、おどおどと店内を見渡す。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「えっと、一番安いのは……580円の柴関ラーメンです! 看板メニューなんで、美味しいですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
セリカが店員として接客する中、ふと彼女の左腕に目が留まった。
獣の頭骨を模した意匠の上に記された、「ⅥⅧ」のギリシャ数字。どうもそのマークはどこかで見た記憶がある。
確かゲヘナに関連したものだったような気もするが……はて、何だったか。
「えへへっ、やっと見つかった! 600円以下のメニュー!」
「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」
「そ、そうでしたか。さすが社長、何でもご存知ですね……」
「はあ……」
その疑念は、続いて現れた3人の生徒によって確信に変わった。
大きな鞄を携えたサイドテールの生徒、ワインレッドのコートを纏った桃色の髪の生徒。そしてどこか呆れた様子の、目つきが鋭い白髪の生徒。
そうだ、思い出した。SRT時代に見た、ゲヘナの要注意団体のリストだ。あそこには確かにこの面々の顔写真があった。
ただそこまでは思い出せても、彼女達が何のグループだったかまでは絞り込めない。
そもそもゲヘナには要注意団体が多すぎる。最低4人のグループという条件だけでも、多分数えるには両手の指では足りないほどあったはずだ。
しかしこのタイミングで現れた要注意団体というだけでも、警戒に値するのは事実。ここは一つ、踏み込んで確認しておくべきかもしれない。
『映像を送る。特定求む』
スマホを取り出し、モモトークで短いメッセージを送信する。
そして専用のアプリを立ち上げると、そのまま隠しスリットの入ったポーチへとスマホを滑り込ませた。
「あっ、わがままのついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん」
「えっ?4膳ですか?ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」
「ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金のない虫けら以下の存在ですみませんっ!!」
「お金がないのは罪じゃないよ! 胸を張って!」
会話に耳をそばだててみれば、彼女達はどうも金欠の様子。今も一杯のラーメンを4人で分け合うつもりらしい。
こういう分かりやすい弱みがあるのはありがたいことだ。おかげで接近する口実も簡単に思いつく。
幸い懐事情にもまだ余裕はある。接近のためにラーメンの4つぐらい奢るのはわけもない。
「……待って。あそこ、誰かいる」
だがセリカに声をかけるよりも早く、鋭い眼光がこちらを睨みつけた。
あの白髪の生徒、相当目がいいらしい。呼吸に乱れがあったとはいえ、こちらの潜伏を見破るとは。
「おっ、さすがカヨコちゃん……でも、店員さんって感じじゃないよねぇ?」
「アル様の食事を邪魔するつもりなら、私が……!」
それに釣られて、残る2人の生徒もこちらへと静かな警戒心を込めた視線を向けてくる。
先生の安全を考えれば、ここで戦闘になるのはまずい。咄嗟に釈明の言葉を脳裏で練り上げ、口にしようとした、その時。
「待ちなさい」
すっと立ち上がり、2人を制する桃色の髪の生徒。
かと思えば彼女は薄い微笑を浮かべたまま、こちらへと歩み寄ってきた。
「あなた、知ってるわよ。樋渡カナメでしょう?」
「……ご存じでしたか、私のことを」
「当然よ。だって―――」
一歩、また一歩。ゆっくりとこちらとの距離が縮まっていく。
やがてその感覚が、手の届く距離まで近づくと―――
「―――あなたほどのアウトロー、忘れる方が難しいもの!」
「……は?」
―――途端にその表情は、ぱっと明るくなった。
それと同時に放たれる予想外の言葉。思わず呆気にとられるこちらを気にせず、少女はさらに言葉をまくし立てていく。
「見たわよ、あの記者会見! キヴォトス中に向けて離反を宣言して、しかも新しい学校まで立ち上げるなんて……最っ高に我が道を行くアウトローしてるじゃない!」
「はあ、どうも……」
「私も一流のアウトローのつもりだったけど、あの会見のおかげでまだ上を目指せるってことに気づいたの! だからそのきっかけをくれたあなたとは、一度会って話をしてみたかったのよ!」
「……なるほど?」
言葉とともに向けられる、輝きに満ちた瞳。さながらスター選手に少年が向けるものに似たそれは、決して悪い気はしないものだ。
ただしそれは理由が真っ当ならの話。なんなんだ、最高に我が道を行く
こちらは転生してからの17年、ずっと
「あー、やっぱりこうなっちゃったかぁ。アルちゃん定期的に見返してるもんねぇ、あの動画」
「なるほど、どこかで見たことあると思ったら……」
「アル様の憧れの方なら、攻撃しない方が良いのでしょうか……?」
しかし彼女の謎の情景のおかげで、残る生徒からの警戒もだいぶ薄くなっている。
ありがたいことであるのは間違いないが……一体どうしたらいいんだ、これ。
「はい、お待たせいたしました! お熱いのでお気をつけて!」
思わぬ事態に内心で頭を抱えていると、セリカがお盆に注文の品を乗せて運んできた。
それは注文通り一杯のラーメン。しかしよく見ずとも量がおかしい。丼から溢れんばかりに盛られた麺に、数多のトッピングが散りばめられたそれは、明らかに並盛の範疇を超えている。
近くに座る対策委員会のラーメンと比べても、その差は一目瞭然だ。
「ひぇっ、何これ!?ラーメン超大盛じゃん!」
「ざっと10人前はあるね……」
「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよぉ……」
これには注文した側も目を丸くするが、対する店側は涼しい顔。
「いやいや、580円の柴関ラーメン並ですって!ですよね、大将?」
「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないで食ってくれ」
「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで! それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」
セリカが頼み込んだのか、あるいは柴大将が気を利かせたのか。どちらにせよ人情味のある人達だ。こういうのは嫌いじゃない。
ただ、これで計画していた「飯で釣って情報を得る」作戦は使えなくなってしまった。これだけのものを出されてしまえば、何を追加しても蛇足になってしまう。
こうなった以上、予想外に手に入れてしまった手札を切る他にないだろう。うまく使えるといいが。
「さすがにこれは想定外だったけど……厚意に甘えて、ありがたく頂かないとね」
「アルさん、でしたか」
聞こえてきた会話を頼りに、席に着いた生徒のものと思しき名前を呼ぶ。
「あら、何かしら?」
「折角の機会です。そいつを食べながら、アウトロー同士の交流会といきましょう……私もあなたから学べることは多そうだ」
「!……ええ、いいわよ!」
桃色の髪の生徒―――アルの表情が、また一層華やいだ。
「それじゃあ、気を付けてね!」
「お仕事、上手くいきますように!」
「あははっ!了解! あなたたちも学校の復興、頑張ってね! 私も応援してるから!」
「御社に栄光と繁栄を、アル社長」
「ええ、そちらこそ、カナメ会長!」
柴関ラーメンの前。「便利屋68」の面々……というよりアルが手を振りながら遠ざかっていく。
あの後生じた
おかげでこちらからもセリカとノノミが手を振って見送っている。すっかり友人のような距離感だ。
「でもさー……どうするの、カナメちゃん?」
そんな彼女達を眺めていると、横に並んだホシノが小声で問いさせていた。
「あいつらが言ってた「仕事」って、間違いなく
「でしょうね。ですが何も問題はありません」
「うへー、自信満々だねぇ」
「私達は何も渡さなかった。向こうは多くを曝け出した。それだけでこの
確かに交流会の中で、対策委員会は自分達の学校の事情について多くの事を話した。
しかしその中に防衛に影響するものは何も含まれていない。どんな間取りをしているか、どこが弱いか、どんな戦術が苦手か。そんな渡してはいけない情報は、何一つ向こうの手には渡っていない。
対してこちらは、便利屋の事情について多くの情報を得ることができた。
というのも、社長を務めるアルの口が異様に軽かったのだ。
『失敗は許されない、だからあらゆるリソースを総動員して臨む。それが我が便利屋68のモットーよ!』
『なるほど。となると今回の仕事にも相当なリソースを注ぎ込んだわけですか』
『ええ! おかげで懐は少し……いえ、だいぶ苦しくなったけど。そのおかげでなんと傭兵を―――』
『ストップ。社長、それ以上は話しすぎ』
……とまあ、こんな感じで適度にうまく流れを誘導すれば、驚くほど色々な事を話してくれた。
肝心な所はあの白髪の生徒ーーーカヨコにブロックされたものも多かったが、それでも得られた情報は役に立つものばかりだ。
敵は傭兵を主体としていること、機甲戦力の類は有していないこと、そして懐事情的に、数度の襲撃が限界であること。これだけの事が分かっていれば、いくらでも手の打ちようはある。
ただアル社長はともかく、他の社員については未だに油断ならない。
特にあのカヨコという生徒は勘が鋭そうだ。恐らくこちらの素性と目的についても、大方は察しているだろう。
それを考慮した上で、どこまで出し抜ける策を打ち出せるか。そこが指揮官の腕の見せ所だ。
『カナメ先輩、応答願います!』
そんなことを考え始めた矢先、インカム越しに快活な声が飛んできた。アヤだ。
……そういえば彼女に調査を依頼していたな。今更のように思い出しながら、私も口を開く。
「こちらOWL1。何か掴めたか?」
『はい! 要注意団体リストと照合した結果、「便利屋68」であることが判明しました!』
「なるほど、やっぱりか」
『あれ? なんだかもう分かってる、みたいな雰囲気じゃないですか?』
「……すまない、アヤ。向こうが大体全部吐いた」
『そんなぁ!? 私の1時間の苦労がぁ……』
恐らくはがっくりうなだれたのだろう。何か硬いものがぶつかる音が響く。
申し訳ないことをしてしまったな。そう思いはしたものの、口にする前にまた元気な声が飛んできた。
『……でもまあ、考えてみればよくあることですね! とりあえずこちらの資料も、そっちへ送っておきます!』
「助かる。後、追加でここらの傭兵について調べられるか? 何か組織でもあるか、あるいは独立傭兵が多いかが知りたい」
『分かりました! ちょちょいと調べておきますね!』
「後生徒会室の冷蔵庫に入ってる私のプリン、そっちで食べてしまっていいぞ。多分帰る前に賞味期限が切れそうだ」
『本当ですか!? じゃあカノン先輩に見つかる前に食べちゃわないと!』
慌ただしく席を立つ音と共に切れる通信。
実際には賞味期限はまだ先だが、徒労に対する報酬だ。これくらいの犠牲は甘んじて受け入れよう。
そんな事を考えながら通話ボタンから指を話した所で、ちょっとした心残りに気付く。
……私がアウトローに見えるか、聞いてみれば良かったな。