KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
「ええっ!? じゃああの人達の言ってた「仕事」って、アビドスの襲撃だったの!?」
「あくまで推論ですが、可能性は非常に高いかと」
対策委員会の部室に、セリカが驚愕する声が響き渡る。
それも無理はないだろう。何せ先程まで親しく話していた相手が札付きのワルで、しかもその目的が自分達の校舎を襲う事かもしれないと知ってしまったのだから。
そんな目を丸くするセリカを尻目に、アヤがまとめた便利屋68の情報を印刷した用紙を机に置くシロコ。
「それならあそこで襲っておくべきだったかも。そうすれば先手を打てたのに」
“それはできないよ。あくまで今はまだ、可能性でしかないからね“
「それに懸賞金もかかっていないので、外れなら弾代が無駄になるだけですよ」
「……ん、それなら仕方ない」
心なしか先生の正論よりも弾代の方に心が動いたように見えるが……流石に気のせいだと思いたい。
「こんな事なら、無料で特盛になんかしてやるんじゃなかったぁ……敵に塩を送ったようなものじゃない……」
「そんな事ありませんよ。もしかしたらそのおかげで、襲撃を思いとどまってくれるかもしれないですし」
「なんとかの恩返しってやつ? 本当にそんなことがあったらいいけどね~」
その横では落ち込むセリカを、ノノミとホシノが何とか励まそうとしている。
確かにこれで恩義を感じて襲撃を反故にしてくれるなら、これほどありがたい事もない。もしそうなれば、セリカは戦わずしてアビドス高校を守ったMVPになるだろう。
「!―――校舎より南15㎞地点付近で大規模な兵力を確認!」
しかしそんな淡い期待は、アヤネの報告によってはかなくも掻き消された。
「まさか、ヘルメット団が?」
「いえ、ヘルメット団ではありません!……傭兵です! おそらく日雇いの傭兵!」
「へえー、傭兵かあ。結構高いはずだけど」
「先程の話とも一致します。どうやら彼女達で間違いなさそうですね」
アヤネの端末を覗き込んでみれば、映る傭兵の数はおよそ10から12程度。
確かにこれだけの数を雇えば、相当な出費になるのは間違いない。アルが会社の資金のほとんどを費やしたと言っていたのも頷ける。
「これ以上接近されるのは危険です! 先生、出動命令を!」
「いや、ここは校舎で迎え撃とう」
「ですが、これだけの数が相手では!」
「これだけの数だから、だよ」
慌てるアヤネを優しく諭した先生は、そのまま視線をこちらへと移す。
“カナメ、君の見立ては? あの陣地で撃退できそう?“
「ええ、問題ありません。ζとι小隊も参加すれば、十分に撃退は可能です」
一般的に防備を固めた拠点を攻略するには、攻撃側は防衛側の3倍の戦力が必要とされている。
その視点から言えば、こちらは対策委員会と2小隊を合わせて13人。対する敵は20名未満。数的にはほぼ拮抗している以上、勝算は十分にある。
「ですが一つ手を打っておきたいところではあります。何しろ敵はSRTの要注意リストに載るような相手ですから」
“分かった。けど、どうするの?“
「私が別働隊を率いて、挟撃を仕掛けます。なので先生はζ小隊とι小隊の指揮を」
正面から迎え撃っても勝てることは勝てるだろう。しかし生じる損害は大きくなるし、不測の事態が発生する恐れもある。
それを最小限に抑えるには、戦闘の流れをこちらが握らなくてはならない。そのためには奇襲による動揺を起こさせるのが最適だ。
最小限の数で十分な奇襲効果を得るには……うん、
「アヤネさん、それにセリカさん。少し力を貸していただけますか?」
「わ、私ですか?」
「別にいいけど……何をするつもりなのよ?」
「例のあれを使います。スクラップにする前に、もうひと働きしてもらいましょう」
(な……なんなのよ、この学校は!?)
アビドス高校の校舎から、少し離れた道路。
そこで陸八魔アルは、目の前の光景に内心で驚愕を隠せずにいた。
なお辛うじて外面こそ取り繕ったつもりではいたものの、その感情はばっちりと表情にも表れていた。
これから襲撃するアビドス高校は、あくまで普通の校舎。現地の生徒が多少の防備は整えているものの、あくまで素人が作ったバリケードぐらいしかない。
それが
しかし現実はまるで違う。一体これのどこが
校門には十字架を立体化したような形状の障害物が所狭しと並べられ、その奥には土嚢で構築された機関銃陣地が控えている。それも一つや二つといったレベルではない。
しかもその周囲には見慣れぬロゴが記された装甲車が2台も控えている。上部の機銃が頻繁に動いているあたり、中に人がいることは疑いない。
極め付きは校舎の近くにある、戦車の砲塔だけを抜き取ったかのような砲台。遠目から見てもその口径は、
まるで軍事拠点と見まごうほど厳重に施された重防備。これほどのものをたった5人しかいない学生が作れるはずがない。
「……やられた。KSSの仕業だよ、きっと」
驚愕から立ち直れないアルの横で、白黒のツートンカラーの髪色をした生徒―――鬼方カヨコが、少し悔し気に呟く。
「元SRTの彼女達なら、短期間でこれだけの陣地を作り上げても不思議じゃない……樋渡カナメがアビドスの生徒といた時点で、こうなっている可能性を予測しておくべきだった」
「他所の校舎に勝手にこれだけの陣地を作るなんて……流石、私が認めたアウトローってところね!」
「いや、流石に許可は取ってると思うけど」
「アルちゃん、戻ったよー」
そんな話をしていると、路地裏から二人の生徒が姿を現す。浅黄ムツキと伊草ハルカだ。
「ムツキ、ハルカ! そっちはどうだったの?」
「うーん、ちょっとダメっぽい。多分あのフェンス、弱そうなところは全部補強されてるよ。手持ちの爆薬じゃちょっと足りないかも」
「乗り越えようともしてみましたが、槍のようなものがびっしりと……で、でも、アル様が行けと仰るなら……!」
「駄目よ! そんな危ないこと、させられるわけないじゃない!」
確かにハルカなら命令一つで乗り越えていきそうだが、そうなれば大怪我をするのは想像に難くない。
仲間を犠牲に依頼を遂行する。そんなやり方はアルの目指す理想のアウトローにはそぐわない。
しかしそうなると、残された道は正面突破しかない事になる。つまり真っ向から突撃しなければならないのだ。あれだけの備えで待ち構えている防御陣地へと。
「え、あそこに突撃しろっていうの?」
「無理無理! やられにいけって言ってるようなものじゃない!」
「それはちょっと割に合わないかなー。降りさせてもらってもいい?」
「ちょっと! それは契約違反でしょ!?」
「契約違反っていうならそっちもじゃん。こんなところを襲うなんて、こっちは全く聞いてなかったんだけど?」
「そ、それは私達も知らなかったからで……」
現に失敗が明らかな仕事を前に、傭兵達の士気は著しく低下していた。中には堂々と業務放棄を宣言する者まで現れ始めている。
ここで抜けられては作戦自体が成り立たない。そのためアルがどうにか説得を試みようとした、その時。
「やっぱりあなた達だったんですね!」
アビドスの方から、大声量の声が飛んできた。
見ればそこにいたのは、障害物の後ろに並ぶ3人のアビドス生。どれも柴関ラーメンで見た顔だ。
「うへ―、やっぱり襲いに来たんだ」
「とんでもない恩知らず。セリカに無料で特盛にしてもらったくせに」
「うっ……!」
内心で気にしていたことを突かれ、言葉に窮するアル。
そこへ咄嗟にムツキとカヨコがフォローに入る。
「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ……こっちも仕事でさ」
「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」
「……なるほど、それが便利屋のやり方なんだ」
「もう!学生なら他にもっと健全なアルバイトがあるでしょう? それなのに便利屋だなんて!」
「ちょっ、アルバイトじゃないわ! れっきとしたビジネス! 社長に課長、室長って肩書もあるんだから!」
「はあ……社長。ここでそういう風に言っちゃうと、余計薄っぺらさが際立つよ」
「それにあなた達だって人の事言えないじゃない! 借金で困ってるって言ってたのに、こんな警備会社まで雇って!」
咄嗟に反論を繰り出すものの、アビドス生達は素知らぬ顔。
「別に私達が雇った訳じゃないよー。先生についてきただけだし」
「あの人たちがアビドスを守っているのは、先生の護衛の一環」
「この陣地だって、無償で作ってくれましたもんね」
「くっ……! なんてサービス精神なの!」
これだけの陣地を無料で作ったというのか。自分達ならどう考えても追加料金を取っているレベルだというのに。
流石は樋渡カナメが率いる組織。悔しいがやることのスケールが違う。
その事に打ち震えるアルへと、さらに言葉を投げかける桃髪の生徒。
「なんでもいいけどさー、襲ってこないならさっさと帰ってくれない? 私達も忙しいんだよー」
「……帰る、ですって?」
その一言が、アルに火をつけた。
もしここで帰ってしまえば、依頼の達成はままならない。この案件の準備に事実上の全財産を投入している以上、失敗は便利屋68の存続を脅かすことになる。
それに戦いもせず逃げ帰るような情けない真似は、アウトローとしての矜持が許さなかった。
「ふふっ……そんな情けない真似を、私達がすると思っているの?」
そして陸八魔アルという人間は、往々にして衝動で先走る事が多い生徒でもあった。
「こんな陣地、何てことないわ! 私達にとっては乗り越えられる程度の障害でしかないもの!」
「おおっ! さっすがアルちゃん!」
「流石ですアル様!」
「……はぁ」
アビドスの校舎に向けて指を突きつけ、堂々とアルは啖呵を切る。その威勢を純粋に賞賛するハルカ。
しかし実際には勢い任せでしかない事は、彼女を知る者ならすぐに分かる事。故にカヨコは呆れ交じりのため息をつき、ムツキは分かった上であえてほめそやす。
「……何をするつもり?」
「そんな事、わざわざ教える訳ないでしょう?」
(い、言っちゃったああぁぁぁーー!!!! ど、どうしよう! 言った以上は何か考えないと……!)
表向きは平静を装いながらも、ようやく追いついた思考で打開策を考え始めるアル。
しかしこれだけの陣地を突破する方法など、簡単に思いつくはずもない。思いつくなら最初から実行している。
―――だが幸か不幸か、彼女が思い悩む時間はそう長くはならなかった。
「……ん、何の音?」
初めにそれに気づいたのは、傭兵の一人だった。
過疎化で閑静になった高校周辺に響き渡る、ディーゼルエンジンの排気音。それは次第にアル達の方へと近づいてくる。
そして姿を現したのは、一台の密閉砲塔を備えた装甲車。その外観には、所属が分かるようなものは何一つ記されていない。
「何あれ、増援?」
「アルちゃん、あんなの調達してたっけ?」
「してないわよ!? そんなお金あるわけないじゃない!」
突然現れたそれに当惑するアル達をよそに、疾走しながら砲塔を動かす装甲車。
その砲身が狙いを定めたのは―――前方に居座る集団。
「……まずい」
カヨコがそれに気づいたのと、砲身から爆炎が迸ったのは、ほとんど同じタイミングだった。
「命中を確認! 敵集団は複数方向に離散!」
「よし! 意外とやればできるものね!」
榴弾が直撃し、爆発で吹き飛ばされる襲撃者達。
その姿をペリスコープ越しに捉えると、私は次の砲弾を力強く薬室へ送り込んだ。
鹵獲したはいいものの、運用に必要な人数が多い事から持て余していた装甲車。
装甲が薄いのでトーチカにも向かず、スクラップとして売り払う予定になっていたが……やはり、物には使いどころというものがある。
対人用の小口径銃が主武装の集団相手なら、この装甲も役に立つ。それに搭載する5cm砲から撃ちだされる榴弾は、歩兵相手なら十分すぎる威力だ。
「アヤネさん、準備はいいですか!?」
「は、はい! えっと、どのペダルだっけ……」
「右から二番目です! それ以外は考えなくていい!」
「分かりました―――えいっ!」
アヤネの掛け声とともに、8輪の車輪にかかる急制動。
思い切りブレーキを踏み込まれた車体は、襲撃者達が来た道を塞ぐ形で停車した。
これで彼女達の退路は一つ塞がれた。逃げるには左右、あるいは
「次弾装填完了!」
「了解! 次はどれを狙うの!?」
「右の集団を! そっちの方が数が多い!」
こちらの索敵情報に従い、ハンドルを回して砲塔を旋回させるセリカ。
装甲車の中はエンジン音などでとにかくうるさい。だからどうしても大声になってしまうのだが……彼女の威勢がいいのは、どうもそれだけが理由でもないらしい。
やはり色々と、敵に対して腹に据えかねたことがあるのだろう。
「捉えた! そこっ!」
「ぎゃあっ!」
そんなセリカが足元のペダルを踏み込むと、勢い良く砲から放たれる砲弾。
それはアサルトライフルの弾丸で装甲を叩いていた傭兵達の眼前に着弾し、彼女達を再び吹き飛ばす。
「くそっ、あんなの相手にしていられるか!」
「校舎だ! 学校を盾にすれば撃てないだろ!」
後ろには下がれない。左右は砲の射程圏内。そんな状態に置かれてしまえば、逃げ道は一つ。
校舎を盾にして砲撃から逃れよう。そう考えた傭兵達は、校門のハリネズミを乗り越えてアビドス高校への敷地内へと踏み込む。
だが、それこそこちらの狙い通り。喫緊の脅威が迫っていると、人は視野が狭くなるものだ。
『ζ小隊、攻撃を開始して!』
『了解! 皆、行くよ!』
「し、しま……ぐええっ!」
「駄目だ、逃げ……うぎゃあ!」
そこに待ち構えていたのは、準備万端で機関銃陣地についていたζ小隊の隊員達。
うかうかとキルゾーンへ飛び込んだ傭兵達は、四方八方から飛んでくる弾丸の雨になぎ倒される。
もちろん逃げようとするものもいた。しかし彼女達は反埋没式の障害物に足を取られ、転んだところをめった撃ちにされていく。
『私も加勢しますよー!』
『支援攻撃を開始します!』
さらに加わるノノミのミニガンや、KSSの装甲車の機銃。
密度を増した弾幕を前に、誘い込まれた傭兵が全滅するのは、もはや時間の問題だった。
そんな惨状をちらりと見ると、私はすぐさま別の方向へとペリスコープを動かす。
はっきり言って彼女達はどうでもいい。問題は便利屋68のメンバーだ。
目を白黒させるアルに、彼女を引っ張って電柱の陰に隠れるカヨコ。そして砲撃に巻き込まれて気絶したらしいハルカ。だが最も警戒すべき生徒の姿がどこにも見あたらない。
「……いた!」
ようやく物陰にその姿を認めた時、彼女は既に攻撃態勢に入っていた。
身の丈ほどはある大きな鞄を振り回すムツキ。常識的に考えれば、装甲車に鞄を投げつける意味はどこにもない。
にもかかわらずそれを行うという事は、何かしらの勝算があるということ。
「二人とも、衝撃に備えて!」
すぐさま傍らに置いていたライフルを握り、ハッチを開いて上体を乗り出す。
その時には既に遠心力を乗せたカバンは、ムツキの手から離れていた。
もう阻止は間に合わない。素早く狙いを定めて数度トリガーを引くと、結果を見ることなく車内へ体を滑り込ませる。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
「何、爆発!?」
直後、大きな衝撃が車体を揺らした。
やはりあのカバンの中身は爆発物だったらしい。爆発物を好むという、資料に記されていた通りの傾向だ。
迎撃してもこれだけの衝撃が来るのだから、直撃していれば装甲車の破壊も有り得たかもしれない。
「損害は!?」
「私は大丈夫です!」
「こっちも怪我はなし! けど砲塔が回らない!」
「車両放棄! ホシノさん、シロコさん、支援を!」
『分かった、すぐ向かう』
『こっちも向かってるよー』
主砲か駆動系のどちらかが機能不全に陥れば、装甲車は放棄して脱出する。それが事前に決めていた作戦だ。
そのためには周辺の敵を排除する必要がある。再びライフルを握ったままハッチから上半身だけを乗り出し、周囲の様子をうかがう。
見た所こちらを狙う敵はほとんどいない。唯一こちらに向けてマシンガンを構えるムツキを除いては。
「させるかっ!」
翼を大きく羽ばたかせて跳躍。同時にライフルの射撃を浴びせかける。
それを避けるため、物陰に身を隠すムツキ。出来た隙は一瞬だが、一瞬あれば十分だ。
着地と同時に再び翼を振るい、同時に足で大地を蹴る。横に向けられた加速のベクトルは、彼我の距離を一気に縮める。
「っ! やるね、KSSの会長さん!」
「そちらもな!」
既にマシンガンを構えられる間合いではない。こちらもライフルを手放し、近接格闘の構えを取る。
―――だが彼女の腕を取ろうとした刹那、側方から突き刺さる殺気。咄嗟に身をかがめると、頭のあった位置を弾丸が通り抜けていく。
すぐさま体を転がし、ライフルを回収して構えながら立ち上がる。その上で弾丸の射線を辿ると、そこにはスナイパーライフルを構えたアルの姿があった。
「悪いけど、そう簡単に社員はやらせないわよ」
「……なるほど、いい上司だ」
互いの銃口と視線が交わる中、距離を取るムツキにこちらの死角に回ろうとするカヨコ。
一見すると3対1という不利な状況。しかしこちらにも友軍がいる。
「よっと……間に合ったみたいだね」
「アヤネはノノミが回収した。もう大丈夫」
「私も加勢するわよ!」
盾を構えてアルの射線に割り込むホシノに、それぞれムツキとカヨコに牽制の銃口を向けるシロコにセリカ。
これで戦力は4対3。そう、3だ。
「……ところでアル社長。雇われの傭兵、随分数が少なくなってないか?」
「? 何を言って……え?」
こちらに指摘され、アルは素直に周囲を見渡す。そしてようやく自分達のおかれた状況に気づいたらしい。
今ここに残っている傭兵は、十字砲火を受けて倒れた者だけ。それ以外は影も形もない。
「……逃げられたね」
「な、なんですってえええぇ!?」
まあ、傭兵なんてこんなものだ。
確かに依頼の放棄は風評にかかわることではある。しかし風評のために命を懸ける者もそういない。
だから依頼を放棄するメリットがデメリットを上回ったのなら、放棄することを一切躊躇わない。大半の傭兵はそういう生き物だ。
今回の場合は防衛陣地と装甲車の存在から、真っ当にやっても任務成功が見込めないと踏んだのだろう。
傭兵の相場と数を併せて考えれば、一人当たりの報酬も相当値切ったと見える。そんな状況では、割に合わないと思われるのも仕方ない。
「で、どうするの? まだ続ける?」
「と、当然じゃない! 私達がこの程度で引き下がると思っているの!?」
ホシノの問いかけに、明らかに虚勢と分かる意地を張るアル。
……仕方ない。ここは一つ、
「ι3、Flak41発射準備。諸元は次の通り―――」
わざと聞こえるような大声で、インカムに向けて指示を飛ばす。
すると途端にアルの顔色が変わった。
「ま、待ちなさい! 今Flak41って言った!?」
「ええ、我々の有する兵器の一つです」
「人に向けるものではないでしょう、それは!?」
「私もそう思います。ですがこれ以上交戦が続くなら、やむを得ません」
ゆっくりと砲塔と動く砲台。確実に狙いを定めていく砲口。
その射線が近づいていくにつれ、アルの顔は次第に青ざめていく。
「まずいね、こんな事になるなんて……」
「……アルちゃん?どうする?逃げる?」
「あ、うう……」
「
あからさまに迷ってたので、最後の一押しにはったりを一つ。
すると便利屋68の社長は、無事賢明な決断をするに至ってくれた。
「こ、これで終わったと思わないことね! アビドス、それにKSS!!」
「あはは! アルちゃん、完全に三流悪役のセリフじゃんそれ!」
「うるさい! 逃げ……じゃなくて、退却するわよ!」
倒れていたハルカを抱え、そのまま走り去っていく便利屋達。
その背中はあっという間に小さくなっていった。
「待ちなさい!……って、逃げ足早すぎるでしょ!」
「うへ~、どうする? 追っかける?」
「いえ、その必要はないでしょう」
私達の目的は防衛であって討伐ではない。敵を追い払えたならそれで十分だ。
それに今回の作戦に財産の大半を費やした事は、ほかならぬ本人の口から聞いている。追加の資金調達ができない限りは、当面次の襲撃も行えないだろう。
『それにしても、便利屋にまで狙われるなんて……一体何が起きているのでしょう』
「まー、その辺もこれから調べていこうよ。カナメちゃん、さっきの資料ってもう一回見せてもらえる?」
「ええ、後でもう一度確認しましょう」
次に考えるべきは、これから先の事。
襲撃に空白が生まれている間に、この裏にいる者の正体を突き止めなければ。