KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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手がかりを探しに

「―――そしたら「仕事以外の時は仲良くしたっていいじゃん?」なんて言い出したんですよ、あの人。しかも先生ともやけに距離を詰めていましたし……」

 

「はは、それは随分と傭兵向きな性格だ」

 

 早朝、対策委員会の部室。

 どこかご機嫌斜めなアヤネの言葉に相槌を打ちながら、アタッシュケースへ現金を詰めていく。

 今日はアビドス高校の借金、正確に言えば利息の返済日。ちょうど雑用任務に当たっていた私は、返済の準備を行うアヤネの手伝いに回っていた。

 

「敵と味方が流動的に変わるのが傭われというものです。そのぐらいのメンタルじゃないと、便利屋もやっていけないのでしょう」

 

「だからって、わざわざ仲良くしようと思いますか? 私達はまだ敵同士なんですよ?」

 

「そんな事が気にならなくなるほど、アヤネさんが気に入られたのかもしれませんね」

 

「……有り得るかもしれません。さっきも「眼鏡ちゃん」なんて呼ばれましたし」

 

 なんとも複雑そうな顔になるアヤネ。

 ここを起点に便利屋を懐柔する事が出来たらいいのだが、それも難しいだろう。昨日の襲撃を見る限り、恐らく彼女達は仕事に誠実なタイプだ。

 資金さえあれば逆にこちらで雇用するという手も取れるのだろうが、今のアビドスではそれも難しい。

 中々難しいな。ああいう組織は味方に引き込めれば心強そうなのだが。

 

「……よし。アヤネさん、こちらは終わりました」

 

「ありがとうございます。これで今月分の支払いの準備も終わりですね」

 

 そんなことを考えているうちに、最後の札束がアタッシュケースに収まった。

 総額788万3250円。数値としては理解していても、こうして現物を見ると改めてその重みを実感する。

 毎月これだけの額をかき集めるために、彼女達の青春の大半は費やされているのだと。

 

 

 ……しかしこうして収まった札束を見ると、改めて疑問が一つ。

 

「カナメさん、ありがとうございます。おかげで今日は早めに終わりました」

 

「それは良かった……ところで、アヤネさん」

 

「はい、何ですか?」

 

「これまでの支払いも、このように現金払いだったのですか?」

 

 これだけの額の返済となると、普通なら口座決済が用いられるはずだ。

 現金払いでは重すぎるし、一々回収を行う手間も生じる。そのために現金輸送車を動かす必要がある事も鑑みれば、非効率だし余計なコストもかかる。

 効率を重視し、コストを削るのが企業としての常道。それに反するこの返済方式は明らかに何かおかしい。

 

「はい、カイザーローンは現金でしか返済を受け付けないんです。なんでもホシノ先輩が1年生の頃からそうだったみたいで」

 

「カイザーローン……カイザー系列ですか」

 

 自分でも眉間にしわが寄るのが分かる。

 はっきり言ってあのグループにはいい思い出がない。違法製品の製造や違法取引の摘発のために、何度SRTとして動くことになったことか。もはや突入先としては常連レベルだったぞ。

 

 ……とはいえ、カイザーローンが返済先なら少し話が変わってくる。

 わざわざ非効率な手段を取るということは、相応の理由があるという事。そして現金払いが口座振込よりも重用される時と言えば―――その多くはまともではない事だ。

 それで何を企んでいるのかは知らないが……どうせあのグループ傘下の企業だ。ろくなことではないだろう。

 

「カナメさん、どうかしたんですか?」

 

「いえ、少し嫌な事を思い出しただけです」

 

 こちらの様子に首を傾げるアヤネ。それを短い言葉で誤魔化し、視線が外れた隙に袖口に仕込んだ発信機を取り出す。

 一見するとゴミか何かにしか見えない、米粒サイズの黒い塊。しかし性能と隠密性は抜群のSRT仕様だ。

 正直なところ、今回の襲撃と直接関係があるとは思えない。だが折角の機会だ。今後に備えて、一つカイザーの弱みを探っておくのも悪くはない。

 

「あっ、もう現金輸送車が来たみたいです。行きましょう!」

 

「分かりました」

 

 小さな仕込みが行われたアタッシュケースは、パタンと小さな音を立てて閉じられた。

 


 

「昨日私達を襲った「便利屋68」ですが、未だにアビドス自治区内に潜伏しているようです」

 

 無事に利息返済も終わり、部室へと戻ってきた対策委員会の面々。

 全員が揃っている事を確認したアヤネは、真剣な表情で話を切り出した。

 

「確か昨日の襲撃で全財産を使い果たしたから、しばらくは動けないだろうって話だったよね?」

「はい。ですが資金のかからない、小規模な襲撃を行ってくる可能性はあります。例えば一人になったところを闇討ちする、とか」

 

「……それはちょっと、シャレにならないわね」

 

 セリカが顔をしかめる。

 実際に彼女がヘルメット団の襲撃を受けた前例がある以上、確かに可能性としては否定できない。

 

「相手はゲヘナで非行の限りを尽くした、SRTにもマークされているような部活です。そんな危険な組織が私たちの学校を狙っているのですから、もっと気を引き締めないといけません!」

 

「なるほどねー。次は取っ捕まえて取り調べでもするかー」

 

「はい、機会があればぜひ……」

 

「ところでアヤネちゃん、何かあったの? 並々ならぬ恨みを感じるんだけど……」

 

「……いえ、特に何も」

 

 セリカの問いかけに顔を伏せるアヤネ。それでは何かあったと言っているようなものだ。

 実際に居合わせたわけではないから、内容は分からないが……そんなに「眼鏡ちゃん」呼びが嫌だったのだろうか。

 その露骨な様子に、ホシノやシロコから向けられる疑惑の視線。それを誤魔化すように、アヤネは次の話題を切り出す。

 

「続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!」

 

「何か分かったの?」

 

「はい。先日鹵獲した兵器を分析した結果……現在は取引されていない型番だということが判明しました」

 

KSS(こちら)の調査でも同様の結論に至りました。特に戦車の車体と装甲車の主砲、これらは既にメーカーでは廃番となっています」

 

 中でも戦車の方は、カノンが既に製造ラインが廃止されている事まで確認してくれた。

 こうなった以上、闇工場でも稼働していない限りは新造の可能性はあり得ない。十中八九メーカーの在庫か中古品か、二つに一つだ。

 

「そんなもの、どうやって手に入れたのかしら」

 

「生産が中止された型番を手に入れる方法は……キヴォトスでは「ブラックマーケット」しかありません」

 

「ブラックマーケット……とっても危ない場所じゃないですか」

 

「はい。普通の生徒は足を踏み入れるような場所ではありません」

 

「その言い方……もしかして、カナメは行ったことがある?」

 

「ええ、任務で何度か」

 

 ブラックマーケット。それは様々な理由で学校を辞めた生徒たちが集まる、いわばたまり場のようなもの。

 外界とは異なる秩序が構築されたそこでは、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活も活動している。その中には当然、犯罪行為を生業としているものもある。

 何も知らない生徒が踏み込めば、あっという間に身ぐるみはがされる事だろう。最悪の場合。()()()()になってもおかしくない。

 

「だったらさー、カナメちゃんに案内してもらおうよ。どうせ手がかりは今のところ、そこしかないんだし」

 

「そうですね。便利屋68もブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞きますし……ふたつの出来事の関連性を探すのも、ひとつの方法かもしれません」

 

「案内ができる人がいるなら、とっても心強いですね!」

 

 だがそんな懸念とは裏腹に、対策委員会はすっかりブラックマーケットへ赴く空気になっていた。しかも私の案内という条件まで付けて。

 いや、別にその決定には異論はない。現状ではブラックマーケットをあたるのが唯一の手掛かりだし、素人を野放しにするぐらいなら案内も引き受ける。

 ……ただ、少しだけ問題がある。主に個人としてではなく、KSSの生徒としての問題が。

 

「カナメ、何か心配事があるの?」

 

 そんな考えが表情に出ていたのだろうか。

 隣に並んでいた先生が、心配そうにこちらの顔を覗き込んできた。

 

「心配事……というよりは、少し懸念が」

 

「懸念?」 

 

「KSSの制服で行くことです。ブラックマーケットはお世辞にも、あまり評判のいいところではありませんから」

 

 KSSは設立したばかりの学園。今の時期の評判や風評は、今後の行く末にも大きな影響を与えるだろう。

 そんな時期にブラックマーケットでKSSの制服を着た生徒がいるのは、あまり良い事ではない。最悪の場合「ブラックマーケットに入り浸るヤバい組織」と、あらぬ汚名を着せられる可能性もある。

 一度ついた風評は早々消えない。KSSの会長として、数十名の行く末を担う者として、そんな悪影響を及ぼす訳にはいかない。

 

 だが原因がはっきりしているなら、対策も容易い。

 KSSの制服が問題なら、着替えてしまえばいいのだ。

 

 目だけを動かして、居並ぶ対策委員会のメンバーを一瞥する。

 ……うん、ホシノとノノミは論外。体形があまりに違いすぎる。

 シロコもやめておいた方がいいだろう。アビドスを知る者がいれば、知らない2年生が増えるのはあまりに不自然だ。

 となると残るは1年生の二人。自分の体形と重ねて考えるなら……

 

「……よし、決めた」

 

「何をですか?」

 

「アヤネさん。申し訳ありませんが、制服を貸していただけませんか?」

 

「え、ええっ!?」

 

 アヤネの素っ頓狂な声が、教室の中に響き渡った。

 


 

「久しぶりだな……うまくいけばいいけど」

 

 それから数十分後。

 下着姿になった私は、空き教室に置かれた姿見の前に立っていた。

 傍らにはアヤネの、一年生用のアビドスの制服。わざわざ予備を家から持ってきてくれたのだ。

 

 借り物なのだから、大切に使わなければ。

 そんなことを考えながら、左の翼を体に沿わせる形で巻き付ける。

 腰から生えた翼は大きいものの、見た目に反してだいぶしなやか。おかげで二巻きもしたところで端まで巻き切る事ができた。

 

「ぅ……っ」

 

 続いてできるだけ厚みが出ないよう、右の翼も体に二巻き。

 終わったところで専用のロープを用いて、胸周りをきつく縛り上げる。

 呼吸が浅くなるが、この程度なら問題ない。長時間の戦闘にでもならなければ、十分対応可能な範囲だ。

 

「……うん、完璧だ」

 

 その状態で制服を着こみ、少し不自然になった体形を詰め物で補正。最後に前髪を少し目にかかるように下ろす。

 たったそれだけの事で鏡の中から「樋渡カナメ」は消え失せ、今やどこにでもいそうな風貌の生徒が佇んでいた。

 我ながら不思議なものだ。翼と目を隠すだけで、ここまで没個性的(モブ)な見た目になるなんて。

 

 これで準備は万全。事情を知らない者からすれば、アビドスの生徒とみなされるだろう。

もう一度姿見で細部を確認すると、いつもより少し動きにくくなった体を動かし対策委員会への教室へと向かう。

 

「お待たせしました」

 

「……え?」

 

「う、うへ?」

 

 扉を開けると、真っ先に反応したのは先生とホシノだった。

 まるで見覚えのない生徒を見るかのように、丸く開いた目でこちらを見つめている。

 

「だ……誰よあなた! なんで私達以外のアビドス生がいるの!?」

 

 続いて慌てて立ち上がったのはセリカ。

 リアクションから見るに、本気で私がカナメだと気付いていないらしい。気づいた上で驚いている様子の二人とはまた違った反応だ。

 ……ここまで気づいていない様子だと、ちょっと悪ふざけの一つもしてみたくなる。

 

「……ひどいじゃないですか、セリカさん。私、ずっといましたよ?」

 

「嘘よ! アビドスの全校生徒は私達の5人で……」

 

「だからいたんですよ。ずっと()()()()()

 

「ひっ……ま、まさか、昔のアビドス生の幽霊……!?」

 

 少し妖しい笑みを浮かべ、声のトーンを低くして語りかける。

 すると面白いくらいに顔を青くするセリカ。はやり彼女はこういう事を信じ込みやすい性質(タチ)らしい。

 

「カナメさん、あまりからかわないでください」

 

 だがそんないたずらは、横合いからの指摘であっさりと終わりを迎えてしまった。

 

「セリカちゃん、本気で信じちゃってるじゃないですか」

 

「やはり分かりますか」

 

「そりゃそうですよ、私が制服を貸したんですから……ここまで似合うとは思いませんでしたけど」

 

「ゆ、幽霊じゃないのね……もう、紛らわしいことしないでよ!」

 

 しげしげとこちらを眺めるアヤネに、騙された事で目を剥くセリカ。

 

「でもとってもかわいいですね! いつもの印象とは大違いです!」

 

「ん、これはもうアビドスの生徒。6人目の生徒として正式に編入するべき」

 

 他方ノノミは微笑ましい目でこちらを見つめ、シロコに至っては何か妙な事を言い出している。

 

「……あー、びっくりした。でもこれで問題は解決したんじゃなーい?」

 

「そうだね。今のカナメはどこからどう見てもアビドスの生徒だよ」

 

 そんな混沌とした状況に終止符を打ったのは、驚愕から立ち直ったホシノと先生だった。

 

「はい、これでブラックマーケットでも問題なく行動できます」

 

「じゃあ早速行こっかー。こういう事はなるべく早めの方がいいしね」

 

 その通りだ。ブラックマーケットは日没が近づくほど危険度が増していく。 

 脆弱な先生がいる事を考えれば、タイムリミットは夕方。それまでに何かしらの成果を得たいが……さて、どうなる事か。 

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