KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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守るべき一線

「見つけた! あの車です!」

 

「あの車……カイザーローンの!」

 

「間違いない。午前中に来た現金輸送車」

 

 転送された発信機の反応を辿れば、対象と出くわすのにさほど時間はかからなかった。

 ちょうどビルの前に止まった車は、今朝見たカイザーローンの現金輸送車。

 ナンバープレートも記憶にあるものと完全に同じ。間違いなく同一車両だ。

 

「このビル……ブラックマーケットに名を馳せる闇銀行じゃないですか!」

 

 後を追いかけてきたヒフミが、ビルを認めた途端に驚きの声を上げる。

 

「闇銀行?」

 

「ブラックマーケットで最も大きな銀行のひとつです。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうです」

 

「犯罪で稼がれた財貨を別の形に変え、また別の犯罪の材料とする。いわば犯罪の再生産装置のようなものですよ」

 

 そんな所にわざわざ車を止める以上、まさか小休止を取る訳でもないだろう。

 その予想通り、マーケットガードの護衛の下でカイザーローンの銀行員は闇銀行員の前に降り立つ。

 

「今月の集金です」

 

「ご苦労様、早かったな。では、こちらの集金確認書類にサインを」

 

「はい……これで」

 

「……いいでしょう」

 

 そして闇銀行員の差し出した書類へサインを記す銀行員。

 その顔は遠目に見ても、今朝アビドスを訪れた者のそれと一致している。

 

「あいつ、毎月うちに来て利息を受け取っているあの銀行員……!?」

 

「あれ、ホントだ……どういうこと?」

 

「……まさか、アビドスの返済金はここに預けられている?」

 

 神妙な面持ちで先生が呟く。その傍らで私はデバイスの画面に視線を落とす。

 そこに映る光点は現在進行形で移動している。ちょうど、銀行の奥へと移動する形で。

 状況証拠的には間違いない。そしてこの銀行に金を預けるという事は……つまり、そういう事だ。

 

「―――どうやらアビドスの返済金は、巡り巡ってこの銀行の資金とされているようです。信じがたい事ですが」

 

「……ってことは、私たちはブラックマーケットに犯罪資金を提供してたってこと!?」

 

「じゃあいつも返済が現金だけだったのは……!」

 

「その方が()()()()()からでしょう」

 

 もっとも、これはあくまで状況証拠のみの話だ。明確な物証がなければ断定することは危うい。

 こういうあくどい事をする連中は、いくらでも言い抜けられるだけの口実を用意しているのが常なのだから。

 

「あの……もしかしてアビドスはカイザーローンから融資を? かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者ですよ?」

 

「まあ。そこは話すと長くなるんだけどね~。アヤネちゃん、さっき入ってった現金輸送車の走行ルート、調べられる?」

 

「……駄目ですね。すべてのデータをオフラインで管理しているようです。全然ヒットしません」

 

「カナメが発信機を仕掛けていた。それで何か分からないの?」

 

「どこに行ったかまで分かります。ですがそこで何をしていたか、までは」

 

 今回の発信機はあくまで輸送車の行き先を追尾するためのもの。だから位置情報までは特定できても、それ以上の事は分からない。

 ……我ながら判断を誤った。こうなると分かっていたら、盗聴器の一つでも仕込んでいたものを。

 

「…あっ!」

 

 自分達の努力が犯罪に還元されていた可能性と、それ以上の追及が難しい現実。

 次第に空気が重苦しくなる中、それを打破したのはヒフミだった。

 

「さっきサインしてた集金確認の書類……。それを見れば証拠になりませんか?」

 

「おお、そりゃナイスアイデアだねー、ヒフミちゃん」

 

「さすが」

 

 そうだ、集金記録には金の流れの一切が記されている。

 それを確かめることができれば、アビドスの返済金がどのような経路を辿ったかを特定できる。今抱えている問題も一挙に解決するはずだ。

 しかし思うと行うとでは難易度が違う。数分前ならともかく、今となってはそれも容易に行えることでもない。

 

「そのためにはあの銀行のセキュリティを突破する必要がありますね。もしやるなら、なかなか難儀しますよ」

 

「あはは……確かに、相手はブラックマーケットでも最も強固なセキュリティの持ち主ですもんね。それにマーケットガードも大勢いますし……」

 

 思わず顔を見合わせ、ため息を吐く私とヒフミ。

 一応方法がない訳ではないが、さすがにリスクが高すぎる。証拠としての確実性には欠けるが……ここは発信機で特定した経路を辿り、その途上にあるものから推測するのが最善だろう。

 

「……うん、他に方法はないよ。例の方法しか」

 

「なるほど、あれかー。あれなのかあー」

 

「あ……!!そうですね、あの方法なら!」

 

「何?どういうこと?……まさか、あれ? 本気であれをやるつもりなの!?」

 

 だが対策委員会は、同じ結論には至らなかったようだ。

 シロコが輪郭をぼかした言葉を告げると、それだけで通じ合う4人。

 要領を得ない私とヒフミは、首を傾げることしかできない。

 

「あ、あのぉ……全然話が見えないんですけど……」

 

「「あの方法」、とは?」

 

「……残された方法はたったひとつ」

 

 そう言ってシロコは鞄から何かを取り出す。

 それは番号が記された青い覆面。対策委員会の定例会議で、シロコが目的遂行の道具として取り出したもの。

 確かその時にシロコが、借金返済の手段として挙げていたのは―――。

 

「……まさか!」

 

「そう。銀行を襲う」

 

「は、はいいいいっ!?」

 

 予想外であろう言葉に、今日一番の驚愕の声を上げるヒフミ。 

 しかし一度スイッチが入った彼女達はもう止まらない。

 

「だよねー、そういう展開になるよねー」

 

「わあ☆ そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

 

「はあ、マジでやるのかぁ……なら、とことんまでやるしかないか!!」

 

「……はぁ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……どうにかなる、はず……」

 

 ホシノやノノミは既に乗り気だし、反対寄りだったセリカも既に開き直ってしまっている。

 しかも唯一ブレーキ役になれそうなアヤネまでもが、消極的な賛成に回っている始末。もう対策委員会の中にブレーキ役が誰もいない。

 

「無茶だ! あまりにリスクが高すぎる!」

 

 だから私は、気づけば反射的に叫んでいた。

 

「そんなことはない、計画は万全。監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造……すべて頭に入ってる」

 

「だとしてもです! もし正体が露呈すれば、皆裏社会の指名手配犯だ! 学校存続どころじゃなくなるんですよ!?」

 

 確かに私だってその選択肢は考えた。それでも却下したのは、露呈した際のリスクがあまりに大きすぎるからだ。

  裏社会の人間は自らの懐に手を突っ込んだ者には容赦しない。恐らく正体を掴まれれば最後、表裏問わずあらゆる手段をもって下手人を潰しにかかる。

 そうなれば5人しか生徒がいないアビドスに、それをしのぎ切る体力はない。借金問題を同行する前に、アビドス高等学校は歴史上の存在と化すだろう。

 

「……だったらどうしろっていうのさ~。今はあの集金記録ぐらいしか手がかりはないんだよ?」

 

「なら私が行きます。営業時間後に忍び込んで、集金書類を取ってくればいい。それぐらいの事なら私だけでもできる!」

 

 私だって元SRTだ。このぐらいの銀行ならセキュリティを突破して、書類を奪うくらいは造作もない。

 バックアップがない分、いつも以上に困難な任務になるだろうが……それでも可能なのは確かだ。

 

「カナメ、落ち着いて」

 

 そんな私の意見を遮ったのは、後ろに控えていた先生だった。

 

「その方法じゃ、カナメが一人で全てのリスクを背負う事になる」

 

「下手に痕跡を残すようなヘマはしませんよ。それに少なくともアビドス一つが脅かされるよりは――――」

 

「私にとっては、どちらも許容できないよ。だって君も、大切な生徒の一人だから」

「……」

 

 いつもよりも真剣な表情。そして確固たる意志を宿した瞳。

 それを向けられた私は思わず押し黙ってしまう。どんな反論を並べても、これを覆せる気がしない。

 

「それに今動かないと、書類は私達の手の届かない場所に渡ってしまうかもしれない。だから私は、今回の作戦に賛成だ」

 

「……ええ。確かにそのリスクは否定できません」

 

 営業時間終了まで待つことの問題、それは書類の行方が分からなくなる可能性がある事。

 今保管されている場所から動かないなら別に構わない。しかし銀行の都合で別の場所に移される可能性はゼロではない。

 そうなれば私達はその所在を知る術を失ってしまう。書類には発信機が取り付けられている訳でもないのだから。

 

 それでも、それが分かっていても、強盗案は取りたくなかった。

 別に手を汚す事を厭っているわけではなない。SRTとして何度も汚れ仕事(ブラックオプス)にも取り組んできた以上、今更嫌がっても遅すぎる。

 なら何故か。それは強盗の味を知る者を生み出したくなかったから。

 

「…………二つ、条件があります」

 

 数度深呼吸を繰り替えし、荒れた息と昂る心を整える。

 そしてある程度の自制が戻ったところで、私は次の言葉を口にした。

 

「まず、奪うのはあくまで集金確認の書類だけ。それ以外の紙幣も金塊も、一切懐に入れないでください」

 

 どさぐさに紛れて奪ってもいい。そう考える余地があれば、人には欲が生まれる。

 欲がある状態で動けば、必ず動きに粗や乱れが出る。そしてそれらは往々にして、破綻の端緒となるものだ。

 

「そしてもう一つ。この強盗を、いかなる理論を用いても正当化しないでください。例え相手が悪党だろうと、悪事を行うのは立派な悪です」

 

 相手が悪いから、非があるから何をやってもいい。そんな甘美な理屈は、容易く良心を麻痺させてしまう。

 そして一度それを覚えれば、人はあらゆる理屈を用いて己の行動を正当化しようとする。己の良心を眠らせ、獣性に身を委ねてしまうために。

 その果てに行き着くのは、ただの獣だ。それも人の知性と能力を有した、最もたちの悪い類の。

 

「もしこの二つを守ることなく、銀行を襲うというなら―――」 

 

 そこで言葉を切り、携行していたライフルを構える。

 安全装置は解除し、初弾も既に装填済み。いつでも撃てる状態の上で、トリガーに指をかける。

 向けられた銃に対し驚愕するセリカにノノミ。そして反射的に愛銃を構えるホシノとシロコ。それでも躊躇う事はない。

 

「―――今ここで止めます。貴方達と一戦交えることになってでも」

 

「「「「「!」」」」」

 

 この数日で対策委員会の面々にも愛着がわいてきた。そんな彼女達に銃口を向けることに、思うところがないと言えば嘘になる。

 でも、だからこそ最後の一線は越えさせない。「アビドス存続に励む生徒達」が「ただの強盗団」に転がり落ちるかもしれない、最後の一線だけは。

 

 向かい合う銃口の間に流れる沈黙。

 体感では一分とも一時間ともつかない静寂を打ち破ったのは―――ホシノだった。

 

「……うん、わかったよ」

 

 静かに地面へと、ショットガンの銃口が下がる。

 

「おじさんとしても、あまり見たくないからね。カワイイ後輩たちが「仕方ない」なんて言いながら、悪いことに手を染めるようになっちゃうのは」

 

「ん、ホシノ先輩がそう言うなら」

 

「……分かったわ。別に私だって、犯罪者になりたいわけじゃないんだし」

 

「いくら相手が悪人でも、悪い事をしていい理由にはならない……言われてみれば、その通りでした」

 

 警戒の構えを解くシロコ。続いて同意を示すセリカとノノミ。

 全員が賛同してくれた事を確認すると、私は大きく息を吐きながら安全装置をかけた。

 

「申し訳ありません。こんな形で銃を向けてしまって」

 

「いやー、別に気にしなくていいよ。アビドスを思っての行動だっていうのは、よく分かったしね」

 

「はい。そうじゃなきゃ、あんなに辛そうな顔はしないはずですから」

 

「……そんな顔でしたか?」

 

 ノノミの言葉に、思わず手で顔を触ってしまう。

 あくまで無表情を貫いていたつもりだったのだが、思わず表情に出てしまったのだろうか。

 

「び、びっくりしました……てっきりアビドスの人同士で銃撃戦になるものかと」

「それで、カナメはどうする? もし参加したくないなら、別に構わないけど」

 

 気を利かせてくれる先生。しかし私は首を横に振る。

 

「いえ、参加します。恐らく経験者は私だけでしょうから」

 

「……えっ、ちょっと待って!? むしろなんで経験があるのよ!?」

 

「似たような事はしたことがある、というだけです」

 

 銀行強盗はしたことはないが、敵拠点への襲撃任務なら何度も参加した経験がある。

 迅速に突入し、最小限の手間で目的を達し、即座に撤収する。やることは違えど、骨子は似たようなものだ。

 

「シロコさん、今把握している情報を教えてください。それを元に突入計画を立案します」

 

「任せて。必要な事は全部そろってる」

 

「ヒフミさんには買い出しをお願いできますか? 護衛は……ホシノさん、頼みます」

  

「は、はいっ!」

 

 メモとペンを取り出し、必要になりそうなものを記入。それが終わるとページを破り捨て、携帯していた数枚の紙幣と共にヒフミへ手渡す。

 そんな私の様子を見て、ホシノが軽い苦笑を漏らした。

 

「うへ~、すっごいやる気じゃん。さっきまであんなに反対してたのにさ」

 

「一度決まったなら、ベストを尽くすまでの事ですよ」

 

 例え事前に反対していた作戦でも、一度実行が決まればその中で最善を尽くす。それが軍人というものだ。

 それに襲撃が長引けば長引くほど、先生の安全も脅かされる。一秒でも早く離脱するための襲撃案を導き出すことが出来るのは、きっとこの場では私だけ。

 何より大事な理由がもう一つ。ウェイトで言えば、これが一番大きいかもしれない。

 

「……それに今だけは、私もアビドスの生徒ですからね」

 

 

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