KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

18 / 33
お気に入り数が400件を突破していました。
皆様の応援に心から感謝しております。今後も期待に沿えるよう、精進して参ります。


発動、カワセミ作戦

『こちらの準備はできた。いつでも始められるよ』

 

「分かりました。では合図とともにお願いします」

 

 先生との通信を切り、口元を覆う黒いバンダナの位置を正す。

 シロコの作っていた覆面は5枚しかなかったから、こうしてあり合わせのもので代用する形になってしまった。

 まあ少し喋る時に邪魔ではあるが、二枚のバンダナは頭と顔を隠す用途を果たしている。特に問題はないだろう。

 

 そんな考えを頭の片隅に追いやりながら、私は背後へと振り返った。

 

「いよいよ作戦開始です。皆さん、手順は確認できましたか?」

 

「大丈夫。一から十までばっちり覚えた」

 

「私の役割って結構重要よね……うまくやれるかしら」

 

「大丈夫です。セリ……レッドちゃんならうまくやれますよ!」

 

 既に準備万端のシロコに、試験直前の学生のように緊張しているセリカ。そんな彼女を優しい口調でフォローするノノミ。

 そんな面々を横目に見ながら、ホシノがいつもの調子で口を開く。

 

「でもさ~、こんな格好する必要ってあったの? これじゃまるで変な集団みたいじゃん」

 

「強盗団は十分変な集団でしょう」

 

「いや、そういうことじゃなくてね?」

 

 ホシノの言いたい事は分かる。確かに今の私達の格好は随分と奇抜なものだ。

 顔には色とりどりの覆面、あるいはバンダナ。そして身体を覆うのは暗い灰色をした簡素なマント。これでは何かの宗教団体と思われても仕方ない。

 もちろん、伊達や酔狂でこんな格好はしていない。ちゃんと合理的な理由がある。 

 

「制服の露出を最低限にするには、こうするのが一番です。それにこれから臨む環境では、この色もいい目くらましになりますしね」

 

「なるほど、だからヒフ……ファウストさんに買ってきてもらったんですね」

 

「はい。ノノミ(グリーン)さんもありがとうございました」

 

 ヒフミに買ってきて貰った生地をナイフで割き、ノノミの持っていたソーイングセットで仕立て上げた即席のマント。

 無論耐久性は期待できないものの、別にそれでも構わない。たった数分持ってくれれば、それで十分役目を果たせる。

 

 「だったら私にもそれをくださいよ! なんで私だけ制服のままなんですか!?」

 

 その出来を見返していると、隣から抗議の声があがる。

 その出所は、頭に穴の開いた紙袋を被ったヒフミ。彼女だけは先程までと同じ、トリニティの制服のままだ。

 

ヒフミ(ファウスト)さんの役割を果たす上では、そのままが最善です。むしろ隠していた方が支障が出かねません」

 

「でもこの格好だったら、トリニティの生徒だってすぐにばれちゃいますよぉ……」

 

「大丈夫、()()()()()()()()()()。ばれたところで、特に咎めは受けませんよ」

 

「いえ、そういう事じゃなくて……そもそもブラックマーケットに来ていた事自体がばれたら……」

 

 ヒフミの事情も大体察せるが、こればっかりは自己責任だ。

 彼女は誰かに強制された訳ではなく、自分の意思でブラックマーケットに足を踏み入れている。ならば何に巻き込まれようとも、その責任は自分が負わなくてはならない。

 

「心配なら救護騎士団に駆けこむことをおすすめします。PTSDの兆候があると言えば、しばらくは匿ってくれるでしょう」

 

「は、はい……本当にトリニティに詳しいんですね」

 

「まあ、色々ありまして」

 

 それでも巻き込んだ側の責任として、最低限の命綱だけは投げておこう。

 ヒフミが賢明な生徒なら、これを活用して窮地を切り抜ける事もできるはずだ。

 

 そうしているうちにも刻一刻と過ぎる時間。

 腕時計を見れば、既に予定開始時刻の30秒前まで迫っていた。最後の確認として、もう一度ライフルの各部を確認する。

 

「タイムリミットは3分です。これを過ぎたら、危険度は一気に上がると思ってください」

 

 残り15秒。これで3度目になる警告に、神妙に頷く生徒達。

 ……正直な所、不安はある。今回の作戦はいつもの仲間と行うものではない。自分一人だけ外様な状況で、彼女達と高度な連携を保てるだろうか。

 

(落ち着け、カナメ。お前ならできる)

 

 残り5秒。弱気な思考を頭を振って霧散させる。

 こういった状況は滅多にない事だが、別に初めてという訳でもない。今まで生きてきた中で、経験自体は何度もある。

 今回もそれと同じこと。落ち着いてやれば、どうとでもなるはずだ。

 

 そして時計の針が頂点を示した瞬間、私は作戦開始のトリガーを引いた。

 

「―――カワセミ作戦、開始」

 

 次の瞬間、目の前の銀行の電灯が一斉に消灯する。先生が銀行にハッキングして、警報装置共々電気系統を無効化したのだ。

 一体あのタブレットでどうやっているのかは気になるところだが……今はそんなことはどうでもいい。大事なのは今この瞬間、闇銀行は電子的に一切無防備になったということ。

 

「グリーン!」

 

「任せてください!」

 

 数瞬遅れて、うなりを上げるノノミのミニガン。

 ビルの外観をなぞるように描かれていく弾丸の軌跡は、進路上に並ぶ窓ガラスをことごとく破片に変えていく。

 

突入(ゴー)!」

 

 それを合図に、私達は一気に銀行内へと踏み入った。

 明かりが消え、シャッターも閉まった薄暗い室内。目を凝らして辺りを見渡せば、奇襲に動揺するマーケットガードの姿が見える。

 位置、人数、それに装備。全てシロコの前情報通りだ。

 

「うわああああっ!」

 

「あ、足がっ!」

 

「くそっ、何が……があっ!」

 

 だとしたら対処も容易い。

 素早く体の向きを変えながら弾丸を撃ちこみ、次々とマーケットガードを無力化していく。

 狙うのは主に足。素早く狙うには、頭は少し小さすぎる。それに今は一時的に動けなくなってもらうだけでいい。

 

「じ、銃声っ!?」

 

「わわっ、ちょっと何なの!?」

 

「伏せろっ! ガラスが降ってくるぞっ!」

 

 背後ではセリカとホシノが、各々の目標に向けてトリガーを引いていた。

 セリカは点在する監視カメラ、ホシノは天井に並ぶ照明。位置さえ分かっているのなら、動かないものを撃ち抜くことは彼女達にも造作もない。

 特にホシノの砕いた照明は、無数の破片となって床へと降り注ぐ。その下にいる者は咄嗟にその場を離れ、難を逃れるべく頭を下げて地面へと伏せる。

 

 突然の停電に窓ガラスの破壊、そして室内に響く銃声と破片の雨。

 それらの相乗効果は、銀行内の人間に極度の混乱をもたらした。少なくともこちらが認識できる限りでは、冷静に私達を観察できている者はいない。

 いい具合だ。これなら今すぐ第二段階に移る事ができる。

 

「ファウスト!」

 

「た、助けてくださいっ!」

 

「撃たないで! あいつら、人質を取ってるわ!」

 

 私が呼びかけると、すぐさま怯えた悲鳴を上げるヒフミ。すかさずセリカが緊迫した声で叫ぶ。

 その効果はてきめんだった。足を撃ち抜かれてなお、こちらに反撃を試みようとしていたマーケットガードの動きが、目に見えて鈍くなる。

 これだけの暗所で人質がいるとなれば、下手に撃てば誤射する可能性が高い。いくらブラックマーケットの警備員と言えど、そんなへまをすれば相応の罰を受けることになるだろう。

 だから奴らは動けない。例えその人質が、こちらが事前に用意した()()()だったとしても。

 

 もっとも、この魔法はじきに切れる。その前にカタをつけてしまわなければ。

 

「ピンク! ブルー!」

 

「あいよー」

 

「任せて」

 

 ペンライトで前方を照らしながら、シロコとホシノが走り出す。

 目指す先はカウンター。狙いは必死に外部へ通信を取ろうとしている銀行員だ。

 

「ひ、非常事態発生! 非常事態発生っ!」

 

「うへ~、無駄無駄ー。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー」

 

「ひぃっ!」

 

 銀行員の肩を掴み、強引に自分の方を向かせるホシノ。

 そこにシロコが銃口を付きつけ、言葉を続ける。

 

「少し前に現金輸送車が到着したはず。それに関するものを全て出して」

 

「わっ、わかりました!何でも差し上げます!現金でも、債券でも、金塊でも―――」

 

「聞こえなかった? 現金輸送車関連のものを出して」

 

「は、はいいっ!!」

 

 動揺しているところに威嚇の弾丸を撃ちこまれ、完全に度を失ったのだろう。

 明らかにパニック状態で、机の上に札束や書類を積み上げていく銀行員。それをホシノはペンライトで照らしながら、手袋をはめた手で持参した麻袋へと詰め込んでいく。

 

「30秒後にフェーズ2へ移行。シャッター開放、及びグリーン突入準備」

 

 インカムに短く伝えると、私も二人のもとへと駆け寄る。

 ここからは時間の問題だ。一刻も早く、それでいて正確に目標を回収しなくてはならない。そのためにはどうしても人手がいる。

 

書類(ブツ)は?」

 

「ちょっと待って……あった、これだ!」

 

「よし、ブルーが持て。こいつは処理しておく」

 

 だが幸運にも、到着した時点で目当ての書類は見つかったようだ。これなら話は早い。

 駆け寄った勢いのままカウンターを飛び越え、まだ札束を積もうとしている銀行員を壁に押し付ける。

 

「ひいっ! こ、殺さないでくれ!」

 

「……」

 

 必死の懇願は耳を貸さずに、その手足を調達してきたガムテープで両手足を拘束。

 安心しろ、別に殺すつもりはない。ただしばらくは身動きできなくなってもらうが。

 そして彼を地面に転がしたところで、閉鎖されていたシャッターが音を立てて開きだす。

 

「ファウスト! レッド! グリーン!」

 

 もう目的は達した。これ以上長居する必要はない。

 予め決めていた符号を叫ぶと、携行していた発煙手榴弾を投げるセリカとヒフミ。

 数秒後、僅かに光が差し込み初めていた室内は、今度は煙が生み出す白い闇に覆われた。

 

「グリーン、10秒頼む!」

 

「はい、任せてください!」

 

 そこに紛れて5人が屋外に駆けだすとと、入れ違いに室内へと行われるノノミの掃射。

 実際は射角をだいぶ上に取っているので、まず誰かにあたることはない。だが視界を遮られた中では、そんなことに気づく余裕などないはずだ。

 だから追手は、掃射が終わるまではまともに動けない。その隙にこちらは、最後の仕上げをしてしまえる。

 

「ピンク、仕上げだ!」

 

「りょーかいっ!」

 

 手にしていた麻袋を、勢いよく空へ放り投げるホシノ。

 すぐさまライフルを構え、数発発射。隣ではシロコもまた、同様に引き金を引く。

 交錯する二筋の射線に捉えられ、引き裂かれる麻袋。すると中に詰まっていた札束が、一斉に宙へ解き放たれた。

 

「おい、なんだあれ?」

 

「か、金だ! 金が巻き上げられてるぞ!」

 

「急げ! なんだか知らないが、今のうちに回収しちまうんだ!」

 

  そしてここはブラックマーケット。一部の例外を除けば、常に金に飢えた者達が集う街。

 そんなところに突然大量の札束が撒き散らされれば、冷静でいられるものは早々いない。

 こちらが拡散する必要もなく、あちこちから駆け寄ってくるチンピラやスケバン達。じきにここは少しでも多くの儲けを得ようとする者達の、醜い抗争の場となるだろう。

 

「あー……勿体ない。やっぱり少しでも拾っちゃ駄目?」

 

「だめだよセ……レッドちゃん。そういう約束でしょー?」

 

「終わりました! さあ、引き揚げましょう!」

 

「カワセミ作戦終了。総員撤退!」

 

 にわかに生じ始めた人垣をかき分け、私達は銀行から遠ざかっていく。

 その途中で時計を見れば、経過時間は2分と15秒。タイムリミットより45秒、想定より12秒も早い。

 ……どうやら思いのほか、うまく連携はできていたようだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。