KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
皆様の応援に心から感謝しております。今後も期待に沿えるよう、精進して参ります。
『こちらの準備はできた。いつでも始められるよ』
「分かりました。では合図とともにお願いします」
先生との通信を切り、口元を覆う黒いバンダナの位置を正す。
シロコの作っていた覆面は5枚しかなかったから、こうしてあり合わせのもので代用する形になってしまった。
まあ少し喋る時に邪魔ではあるが、二枚のバンダナは頭と顔を隠す用途を果たしている。特に問題はないだろう。
そんな考えを頭の片隅に追いやりながら、私は背後へと振り返った。
「いよいよ作戦開始です。皆さん、手順は確認できましたか?」
「大丈夫。一から十までばっちり覚えた」
「私の役割って結構重要よね……うまくやれるかしら」
「大丈夫です。セリ……レッドちゃんならうまくやれますよ!」
既に準備万端のシロコに、試験直前の学生のように緊張しているセリカ。そんな彼女を優しい口調でフォローするノノミ。
そんな面々を横目に見ながら、ホシノがいつもの調子で口を開く。
「でもさ~、こんな格好する必要ってあったの? これじゃまるで変な集団みたいじゃん」
「強盗団は十分変な集団でしょう」
「いや、そういうことじゃなくてね?」
ホシノの言いたい事は分かる。確かに今の私達の格好は随分と奇抜なものだ。
顔には色とりどりの覆面、あるいはバンダナ。そして身体を覆うのは暗い灰色をした簡素なマント。これでは何かの宗教団体と思われても仕方ない。
もちろん、伊達や酔狂でこんな格好はしていない。ちゃんと合理的な理由がある。
「制服の露出を最低限にするには、こうするのが一番です。それにこれから臨む環境では、この色もいい目くらましになりますしね」
「なるほど、だからヒフ……ファウストさんに買ってきてもらったんですね」
「はい。
ヒフミに買ってきて貰った生地をナイフで割き、ノノミの持っていたソーイングセットで仕立て上げた即席のマント。
無論耐久性は期待できないものの、別にそれでも構わない。たった数分持ってくれれば、それで十分役目を果たせる。
「だったら私にもそれをくださいよ! なんで私だけ制服のままなんですか!?」
その出来を見返していると、隣から抗議の声があがる。
その出所は、頭に穴の開いた紙袋を被ったヒフミ。彼女だけは先程までと同じ、トリニティの制服のままだ。
「
「でもこの格好だったら、トリニティの生徒だってすぐにばれちゃいますよぉ……」
「大丈夫、
「いえ、そういう事じゃなくて……そもそもブラックマーケットに来ていた事自体がばれたら……」
ヒフミの事情も大体察せるが、こればっかりは自己責任だ。
彼女は誰かに強制された訳ではなく、自分の意思でブラックマーケットに足を踏み入れている。ならば何に巻き込まれようとも、その責任は自分が負わなくてはならない。
「心配なら救護騎士団に駆けこむことをおすすめします。PTSDの兆候があると言えば、しばらくは匿ってくれるでしょう」
「は、はい……本当にトリニティに詳しいんですね」
「まあ、色々ありまして」
それでも巻き込んだ側の責任として、最低限の命綱だけは投げておこう。
ヒフミが賢明な生徒なら、これを活用して窮地を切り抜ける事もできるはずだ。
そうしているうちにも刻一刻と過ぎる時間。
腕時計を見れば、既に予定開始時刻の30秒前まで迫っていた。最後の確認として、もう一度ライフルの各部を確認する。
「タイムリミットは3分です。これを過ぎたら、危険度は一気に上がると思ってください」
残り15秒。これで3度目になる警告に、神妙に頷く生徒達。
……正直な所、不安はある。今回の作戦はいつもの仲間と行うものではない。自分一人だけ外様な状況で、彼女達と高度な連携を保てるだろうか。
(落ち着け、カナメ。お前ならできる)
残り5秒。弱気な思考を頭を振って霧散させる。
こういった状況は滅多にない事だが、別に初めてという訳でもない。今まで生きてきた中で、経験自体は何度もある。
今回もそれと同じこと。落ち着いてやれば、どうとでもなるはずだ。
そして時計の針が頂点を示した瞬間、私は作戦開始のトリガーを引いた。
「―――カワセミ作戦、開始」
次の瞬間、目の前の銀行の電灯が一斉に消灯する。先生が銀行にハッキングして、警報装置共々電気系統を無効化したのだ。
一体あのタブレットでどうやっているのかは気になるところだが……今はそんなことはどうでもいい。大事なのは今この瞬間、闇銀行は電子的に一切無防備になったということ。
「グリーン!」
「任せてください!」
数瞬遅れて、うなりを上げるノノミのミニガン。
ビルの外観をなぞるように描かれていく弾丸の軌跡は、進路上に並ぶ窓ガラスをことごとく破片に変えていく。
「
それを合図に、私達は一気に銀行内へと踏み入った。
明かりが消え、シャッターも閉まった薄暗い室内。目を凝らして辺りを見渡せば、奇襲に動揺するマーケットガードの姿が見える。
位置、人数、それに装備。全てシロコの前情報通りだ。
「うわああああっ!」
「あ、足がっ!」
「くそっ、何が……があっ!」
だとしたら対処も容易い。
素早く体の向きを変えながら弾丸を撃ちこみ、次々とマーケットガードを無力化していく。
狙うのは主に足。素早く狙うには、頭は少し小さすぎる。それに今は一時的に動けなくなってもらうだけでいい。
「じ、銃声っ!?」
「わわっ、ちょっと何なの!?」
「伏せろっ! ガラスが降ってくるぞっ!」
背後ではセリカとホシノが、各々の目標に向けてトリガーを引いていた。
セリカは点在する監視カメラ、ホシノは天井に並ぶ照明。位置さえ分かっているのなら、動かないものを撃ち抜くことは彼女達にも造作もない。
特にホシノの砕いた照明は、無数の破片となって床へと降り注ぐ。その下にいる者は咄嗟にその場を離れ、難を逃れるべく頭を下げて地面へと伏せる。
突然の停電に窓ガラスの破壊、そして室内に響く銃声と破片の雨。
それらの相乗効果は、銀行内の人間に極度の混乱をもたらした。少なくともこちらが認識できる限りでは、冷静に私達を観察できている者はいない。
いい具合だ。これなら今すぐ第二段階に移る事ができる。
「ファウスト!」
「た、助けてくださいっ!」
「撃たないで! あいつら、人質を取ってるわ!」
私が呼びかけると、すぐさま怯えた悲鳴を上げるヒフミ。すかさずセリカが緊迫した声で叫ぶ。
その効果はてきめんだった。足を撃ち抜かれてなお、こちらに反撃を試みようとしていたマーケットガードの動きが、目に見えて鈍くなる。
これだけの暗所で人質がいるとなれば、下手に撃てば誤射する可能性が高い。いくらブラックマーケットの警備員と言えど、そんなへまをすれば相応の罰を受けることになるだろう。
だから奴らは動けない。例えその人質が、こちらが事前に用意した
もっとも、この魔法はじきに切れる。その前にカタをつけてしまわなければ。
「ピンク! ブルー!」
「あいよー」
「任せて」
ペンライトで前方を照らしながら、シロコとホシノが走り出す。
目指す先はカウンター。狙いは必死に外部へ通信を取ろうとしている銀行員だ。
「ひ、非常事態発生! 非常事態発生っ!」
「うへ~、無駄無駄ー。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー」
「ひぃっ!」
銀行員の肩を掴み、強引に自分の方を向かせるホシノ。
そこにシロコが銃口を付きつけ、言葉を続ける。
「少し前に現金輸送車が到着したはず。それに関するものを全て出して」
「わっ、わかりました!何でも差し上げます!現金でも、債券でも、金塊でも―――」
「聞こえなかった? 現金輸送車関連のものを出して」
「は、はいいっ!!」
動揺しているところに威嚇の弾丸を撃ちこまれ、完全に度を失ったのだろう。
明らかにパニック状態で、机の上に札束や書類を積み上げていく銀行員。それをホシノはペンライトで照らしながら、手袋をはめた手で持参した麻袋へと詰め込んでいく。
「30秒後にフェーズ2へ移行。シャッター開放、及びグリーン突入準備」
インカムに短く伝えると、私も二人のもとへと駆け寄る。
ここからは時間の問題だ。一刻も早く、それでいて正確に目標を回収しなくてはならない。そのためにはどうしても人手がいる。
「
「ちょっと待って……あった、これだ!」
「よし、ブルーが持て。こいつは処理しておく」
だが幸運にも、到着した時点で目当ての書類は見つかったようだ。これなら話は早い。
駆け寄った勢いのままカウンターを飛び越え、まだ札束を積もうとしている銀行員を壁に押し付ける。
「ひいっ! こ、殺さないでくれ!」
「……」
必死の懇願は耳を貸さずに、その手足を調達してきたガムテープで両手足を拘束。
安心しろ、別に殺すつもりはない。ただしばらくは身動きできなくなってもらうが。
そして彼を地面に転がしたところで、閉鎖されていたシャッターが音を立てて開きだす。
「ファウスト! レッド! グリーン!」
もう目的は達した。これ以上長居する必要はない。
予め決めていた符号を叫ぶと、携行していた発煙手榴弾を投げるセリカとヒフミ。
数秒後、僅かに光が差し込み初めていた室内は、今度は煙が生み出す白い闇に覆われた。
「グリーン、10秒頼む!」
「はい、任せてください!」
そこに紛れて5人が屋外に駆けだすとと、入れ違いに室内へと行われるノノミの掃射。
実際は射角をだいぶ上に取っているので、まず誰かにあたることはない。だが視界を遮られた中では、そんなことに気づく余裕などないはずだ。
だから追手は、掃射が終わるまではまともに動けない。その隙にこちらは、最後の仕上げをしてしまえる。
「ピンク、仕上げだ!」
「りょーかいっ!」
手にしていた麻袋を、勢いよく空へ放り投げるホシノ。
すぐさまライフルを構え、数発発射。隣ではシロコもまた、同様に引き金を引く。
交錯する二筋の射線に捉えられ、引き裂かれる麻袋。すると中に詰まっていた札束が、一斉に宙へ解き放たれた。
「おい、なんだあれ?」
「か、金だ! 金が巻き上げられてるぞ!」
「急げ! なんだか知らないが、今のうちに回収しちまうんだ!」
そしてここはブラックマーケット。一部の例外を除けば、常に金に飢えた者達が集う街。
そんなところに突然大量の札束が撒き散らされれば、冷静でいられるものは早々いない。
こちらが拡散する必要もなく、あちこちから駆け寄ってくるチンピラやスケバン達。じきにここは少しでも多くの儲けを得ようとする者達の、醜い抗争の場となるだろう。
「あー……勿体ない。やっぱり少しでも拾っちゃ駄目?」
「だめだよセ……レッドちゃん。そういう約束でしょー?」
「終わりました! さあ、引き揚げましょう!」
「カワセミ作戦終了。総員撤退!」
にわかに生じ始めた人垣をかき分け、私達は銀行から遠ざかっていく。
その途中で時計を見れば、経過時間は2分と15秒。タイムリミットより45秒、想定より12秒も早い。
……どうやら思いのほか、うまく連携はできていたようだ。