KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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順調な滑り出し

「くそっ、一旦立て直して……ぐわあっ!?」

 

「駄目だ、出口にトラップが仕掛けられてる!」

 

 暗闇の中で爆音と銃声が響く。それに紛れて、仲間達の悲鳴が上がる。

 それを被ったフルフェイスヘルメット越しに聞きながら、少女は愛銃を抱えて柱の陰にうずくまった。

 

(どうしてこんな事に……!)

 

 彼女の属する「ギラギラヘルメット団」は、このところずっと上り調子だった。

 周辺の不良組織との抗争は連戦連勝。そのおかげで縄張りもどんどん拡大。そしてこの前は武器輸送トラックを襲撃して、大量の銃や弾薬まで手に入れた。

 今の調子なら、この辺り一帯で最も有力なヘルメット団になれるかもしれない。そんな話をつい先程もしていたほどだ。

 

 そう、全て順調だった。

 ほんの数分前―――突然電気が消え、窓を突き破ってきた閃光手榴弾が炸裂し、銃声と共に「敵」が突入してくるまでは。

 

「コンタクト! 10時、軽機関銃(LMG)!」

 

Δ(デルタ)2!」

 

「任された!」

 

 再び生じる爆発音。

 それに紛れて聞こえてくる声の数からして、恐らく「敵」の人数はそこまで多くない。暗闇のせいで正確には分からないが、それでも10人……いや5人以下なのは間違いないだろう。

 にもかかわらず、自分達は圧倒されている。少なくとも3倍、ともすれば6倍の数がいるはずなのに。

 

(もしかしてヴァルキューレ……いや、あいつらがこんなに強いなんて話は聞いたことがない。でもそれなら一体誰が……?)

 

 身体を襲う震えを抑え込みながら、考えを巡らせる少女。

 だがそうしているうちにも、状況は次第に彼女達の不利へと傾いていく。

 

「チクショウ、敵は3人だぞ! なのにどうしてこっちがやられてるんだよっ!?」

 

「違う、4人だ! もう1人すばしっこいヤツがいる!」

 

「3人も4人も同じだろ! 大体どこにいるんだよ!」

 

「分からない、見つけても次の瞬間には……あ、ああっ!?」

 

「どうし……ぐえっ!」

 

 一つ、また一つと減っていく仲間達の声。

 やがてそれが途絶えたかと思うと、先程までとは一転して、耳が痛くなりそうな静寂が室内を支配した。

 

「……クリア。そっちは?」

 

「こっちも敵影なし。大方片付いたっぽい」

 

「気をつけて、事前情報と数が合わない。まだどこかに隠れてるはず」

 

 再び「敵」の声が響く。

 その口ぶりからして、彼女達はまだ自分の存在に気づいていないらしい。その推測が、少女を一つの決断へと至らしめる。

 

(……だったら、こっちからやってやる。せめてみんなの仇を!)

 

 正直なところ自信は全くない。仲間達を全滅させるような相手を前に、一人で立ち向かえるとは到底思っていない。

 それでもここまで好き勝手をされておいて、このまま尻尾を巻いて逃げ去るつもりも毛頭ない。

 少女は臆病者ではあったが、同時に「ギラギラヘルメット団」の一員である事にも強い誇りを抱いていた。その矜持が逃亡を許さなかったのだ。

 

 次第に足音が近づいてくる。

 それが己の愛銃の射程圏まで迫ったと直感した瞬間、少女は立ち上がり―――

 

「動くな」

 

 ―――柱の陰から飛び出そうとした瞬間、冷たい声に身体を硬直させた。

 顔を上げれば、そこに突きつけられていたのはアサルトライフルの銃口。その先には見慣れぬ一人の女子生徒が、白髪の下から琥珀色の眼光を向けている。

 

(ど、どこから現れたの!?)

 

 さっきまでここには誰もいなかった。何かが近づく音さえもしなかった。

 なのに彼女はここにいる。自分の目の前で、己の生殺与奪を握っている。

 理解を拒む現実を前に、恐怖と混乱に見舞われる少女の脳内。そこへ追い打ちをかけるように、白髪の女子生徒が口を開く。

 

「武器を捨てて、両手を頭の後ろで組め。抵抗しなければ無事は保証する」

 

 愛銃が地面に転がり落ちる。

 誇りや矜持も、多大な恐怖を前にしては最早何の役にも立たなかった。

 


 

「い゛っ……!」

 

「我慢しろ。少しの辛抱だ」

 

 地面に伏したヘルメット団員の両腕を、持参したハンドカフで後ろ手に拘束。同時に袖口や手の届く範囲にボディチェックを行い、刃物の類がないことを確認する。

 このハンドカフは特殊な樹脂製。外側から切断されない限りは、まず千切られることはないだろう。

 

 作業が終わったところで、近づいてくる生徒が一人。

 袖口に白黒のストライプが描かれた制服の上からボディアーマーを着込み、目には特徴的な見た目の暗視ゴーグル(NVG)

 SRTの標準的な夜間作戦用装備に身を包んだ彼女は、こちらの姿を認めた途端に口を開く。

 

「OWL1、どんな感じー?」

 

「一通り片付いた。そっちは?」

 

「こっちも終わったよー。Δ2がヴァルキューレに通報してくれたから、後はそれ待ちってところ」

 

「了解。順調だな」

 

「後は盗まれた武器弾薬を見つけたら、任務完了だねー」

 

 そう言ってケラケラと笑う生徒・Δ1。

 相変わらずノリが軽い奴だ。だがこれでいて警戒心は人一倍なのだから、人というのは本当に分からない。

 現に今も手に握られたライフルのトリガーには、しっかりと指がかけられている。

 

「人数の方はどうだった。やはり事前情報通りではなかったか?」

 

「うん、やっぱり3人足りない。Δ3が今ドローンで走査してくれてるけど……」

 

「多分ここにはいないだろう。いるなら静かすぎる」

 

 耳をすませてみても、聞こえてくるのはドローンのかすかな稼働音だけ。味方のものを除けば、人が放つ息づかいや身動ぎで生じる音はどこからも感じられない。

 人が人である以上、いくら抑えても音を無にすることは不可能だ。それがない以上は偶然外出していたか、あるいは―――

 

 そこまで考えたその時、ふと耳に微かな異音が耳朶を打つ。

 

「……どうやら向こうから来てくれたみたいだ」

 

「え、マジ? 何か聞こえる?」

 

「ああ」

 

 

 何か硬いものが壊れる音と、ガソリンエンジンの駆動音。それが意味するものは限られる。

 脳裏に浮かぶいくつかの憶測。それを確信に変えたのは、直後に左耳のイヤホンから届いた通信だった。

 

『こちらΔ4、敵機甲戦力の出現を確認。数1、そちらの入口を封鎖するつもりのようです』

 

「随伴歩兵はいるか?」

 

『いえ、戦車のみです』

 

「了解、私がやる」

 

 携行する自動小銃―――「SRT制式 OWL-58自動小銃」のマガジンを抜き、セレクターとレギュレーターを切替。

 そして腰に懸架していたライフルグレネードを銃口に差し込むと、専用のマガジンを装填し空砲を薬室に送り込む。

 今まで何百、何千と繰り返してきた動作を終えると、私は入口へ向けて駆け出した。

 

「お、やっちゃう感じ?」

 

「ああ。Δ4は敵の動向を観測。Δ1からΔ3は遮蔽物の影で待機だ」

 

『 「「「了解(ウィルコ)」」」』

 

 十数秒かけて入口に辿り着いたところで、扉の陰に身を隠し外の様子を伺う。

 月のない闇夜の中、静寂を引き裂き動き回るのは1台の戦車。その幾何学的な多面体構造の砲塔には見覚えがある。

 

「クルセイダー……どこにでも出てくるな」

 

『援護射撃は必要ですか?』

 

「いや、これなら必要ない」

 

 どうやら勢いをつけて建物内に突入するつもりらしい。大きく旋回して軌道を変えようとしているクルセイダー。

 しかし旋回しているために、砲身も車体正面の覗き窓もこちらを向いていない。絶好のチャンスだ。

 

「……!」

 

 一度だけ大きく息を吸い、扉の影から飛び出す。

 頭に叩き込んだクルセイダーの視界に従い、目指すは車体側方。旋回する車体の内側に回り込む形で一気に距離を詰める。

 こちらを認めたのか、砲塔を動かし狙いを定めようとするクルセイダー。だが遅い。それでは間に合わない。

 

 足に力を籠め大地を蹴る。同時に背中の翼を力一杯羽ばたかせる。

 すると脚力によって僅かに浮いた身体は、羽ばたきが生み出す推力により加速。地を駆けるクルセイダーの真上を飛び越す形で、私の身体は飛翔する。

 そして己と車体の軸線が重なった瞬間、私は構えていたライフルのトリガーを引いた。

 

 直後、身体を襲う強烈な反動。

 その勢いを活かして体をねじり、敵の方向を見据えたまま着地する。

 一瞬後―――クルセイダーは巨大な火柱を上げて爆散した。

 

『目標の沈黙を確認。流石ですね』

 

『おー、ばっちり決めたんだ。さっすが『戦車殺しのカナメ』!』

 

「Δ1、作戦中だ。名前を出すな」

 

『Δ4、また格好つけてた?』

 

『ええΔ3、それはもうばっちりと』

 

「訂正する。必要な動作を行っただけだ」

 

 弾薬庫までメタルジェットが貫通したのだろう。爆発で空へ舞い上がり、地へ墜ちる砲塔。

 その轟音以上に喧しくなる通信を適当にいなしながら、私はクルセイダーの残骸へと視線を移す。

 見れば炎上する戦車からは、ボロボロになったヘルメット団員が這う這うの体で脱出しているところだった。

 

 ……いい加減慣れたとはいえ、この世界は本当に非常識だ。

 巡航戦車を持ち出してくる上に、それが爆散してもピンピンしている不良集団。そしてそれを倒す事に慣れ切ってしまっている自分自身。

 前世の私が聞いたら、一体どんな顔をするだろう……そんな感傷とも自嘲ともつかない思考を、頭を振って掻き消す。

 

「……OWL1よりΔ小隊各位、これより敵戦車搭乗員の確保に移行する」

 

 そして無線に一言指示を入れると、ヘルメット団員の元に駆け出した。

 

 


 

「廃工場を占拠していたヘルメット団員は全員ヴァルキューレが逮捕。奪取されていた武器弾薬も無事全数を回収。対して当方の損害ゼロ……」

 

 

 

 翌日、KSS警備学園・生徒会室。

 報告書に目を落としていたカノンは、顔を上げると共に緩い笑顔をこちらに向けた。

 

「うん、問題なさそう。後はこっちで連邦生徒会に送っておくわ」

 

「これで東区第7管路の治安回復任務も完了だな」

 

「ええ。でも報告書はもう少し後でも良かったのに」

 

「溜めておくものじゃないだろう、こういうのは」

 

 中央のモニター一体型のデスク越しに、報告書を反対側へ受け渡すカノン。

 それを受け取ったアヤは、その表紙を眺めながら嬉しそうに呟く。

 

「これで5件目の依頼達成! やりましたね、カナメ先輩!」

 

「ああ。創設から数日でこのペースなら悪くない。予想よりも良いくらいだ」

 

「まあ大半は……というより、全部連邦生徒会からの委託業務ですけど」

 

「そういう約束だからな。それに仕事がないよりはよっぽどマシだろう」

 

 独立を取り付ける際に連邦生徒会と結んだ協定。これがある限り、KSSはこの組織からの依頼を優先して受諾する義務がある。

 しかし今後どうなるかはともかく、今はそれもありがたい。何しろ今のKSS(私達)には実績がない。

 元SRTという肩書こそあるものの、それだけでは市民からの信頼を得るには不十分。だから当面の間、こうして運用資金と共に実績を積み重ねる機会があるのは、とてもありがたい事だ。

 

 でも、これがいつまでも続くわけではない。

 今の状況は連邦生徒会長の失踪によって生じた混乱に起因するもの。早晩それが沈静化すれば、連邦生徒会からの業務委託が激減するのは想像に難くない。

 だからそれまでの間に、どうにか一定の信頼を稼ぐ必要がある。他の学園や民間の勢力が、KSSを雇うに値する組織と見なすだけの信頼を。

 

「アヤ、例の話はどうなってる?」

 

「まだ保留にしてもらってます。今の状況で3個小隊が張り付けになるのはちょっと……」

 

「サンクトゥムタワーに2個小隊、連邦捜査部(シャーレ)のオフィスに1個小隊ですものねえ……実入りが多いのは助かるけど、動かせる部隊が5つになるのは厳しいわ」

 

「5個小隊でも回せない事はないんだろうが……できればやりたくはないな」

 

 窓の外に視線を移すと、グラウンドでは何人かの生徒が訓練に勤しんでいた。

 走り込みを行う者、筋トレに励む者、それに紅白戦を行っている小隊。どれもSRTの頃から、何一つ変わらない光景だ。

 彼女達を酷使するという選択肢は、可能な限りは取りたくはない。人は組織を維持するために存在するわけではないのだから。

 

「カナメ、戻ってきていたのね」

 

 そんなことを考えていると、聞き慣れた声と共に生徒会室の扉が開く。

 振り向いて見ると、そこにはバインダーを小脇に挟んだホナミが立っていた。

 

「どうした?」

 

「報告よ。昨日行った、1年生達の試験の結果が出たわ」

 

「ああ、前に言ってた分か」

 

 そういえば今回の任務に出向く前、そんな事を行うという話をしていた。

 その記憶を思い返しながら、差し出されたバインダーを受け取り内容を確認する。

 「実戦投入判断試験」というタイトルの元、事細かに記された何十個もの項目。それらの横には全て「可」や「優良」の文字が記されていた。

 

「……全員、問題はなさそうだ」

 

「ええ、もう彼女達もKSSの戦力として運用可能よ。私が保障するわ」

 

「おお! という事は、ζ(ゼータ)小隊とη(イータ)小隊も実戦投入できるんですね!」

 

 1年生から構成された2個小隊。これが動かせるようになるのなら、保留にしている連邦生徒会からの要請にも応じる事ができる。

 未だ実戦経験がない事を考慮して、追加の訓練に回していたが……ホナミが合格を出したのなら、もう心配はないのだろう。彼女の人を見る目が間違っていた事はない。

 

「とはいえ、投入する任務は選びたいな。初実戦がまだな事には変わりない」

 

「そうね。できれば簡単な任務から始めた方がいいかも」

 

「一理あるわ。アヤ、何かいい依頼は来ていない?」

 

「それなら任せてください! ちょうどぴったりな依頼が来てるんです!」

 

 カタカタとリズミカルにキーボードを叩き、パソコンを操作するアヤ。

 同時に机を兼用する大型ディスプレイが光を放ち、大画面に情報を映し出す。

 

「これはシャーレ……いえ、連邦生徒会からの依頼?」

 

「はい! 「アビドス高等学校」へ赴く、「シャーレの先生」の護衛依頼です!」

 

 




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