KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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明かされる秘密と陰謀の影

「なっ……何よこれ!? 一体どういうことなのっ!?」

 

 驚きと怒りが入り混じった声と共に、セリカが机に書類を叩きつける。

 彼女だけではない。対策委員会の面々やヒフミ、そして先生。この教室に居並ぶ全ての人の顔に、信じられないという思いがありありと現れていた。

 それも当然だ。銀行から奪い取ってきた集金書類には、こちらの想像をはるかに越えた事実が記されていたのだから。

 

“……シロコ、確かに間違いないんだね?“

 

「うん。現金輸送車は確かにアビドスで788万円を集金した。でも……その後すぐにカタカタヘルメット団に対して「任務補助金500万円提供」って記録がある」

 

“時刻の記載は?“

 

「ある。一時間も空いていない」

 

「ということは……それって……」

 

「私たちのお金を受け取った直後にヘルメット団のアジトに直行して、任務補助金を渡したってことだよね!?」

 

  闇銀行で犯罪の資金に用いられているのだろう。事前の予想は精々その程度のものでしかなかった。

 だがアビドスの返済金が渡っていたのは、よりにもよってアビドスを脅かすヘルメット団だったのだ。

 汗水たらして稼いだ金が、自らの敵の軍資金となる。これほど無茶苦茶な話は早々ない。

 

「まさかヘルメット団の背後にいるのは……カイザーローン?」

 

「り、理解できません! 学校が破産したら貸し付けたお金も回収できないでしょうに、どうしてそのようなことを……!?」

 

 アヤネの推測に、困惑に満ちた呟きを漏らすノノミ。

 これは債権者が自ら債務者を潰しにかかっているようなもの。常識的に考えれば、あまりに筋が通らない。

 ……だが私はそれ以上に、もっと別の方向の疑問を抱いていた。

 

“カナメ、何か気になることがあるの?“

 

「はい。ヘルメット団への任務補助金ですが……あまりに多すぎます」

 

 788万円の集金から抽出された、500万円の補助金。割合にすれば実に約64%。

 総額の3分の2もの額を費やしてしまえば、最早利益など見込めるはずがない。つまりカイザーローンは採算度外視でヘルメット団の支援を行っている事になる。

 

「仮にカイザーローンが黒幕だったとしても、その目的は金ではないでしょう。アビドス高校そのものを潰すことを主眼に置いていると考えた方が妥当かと」

 

「貸している側が借りている側を潰そうとしてるっていうの!? 普通逆でしょ、そういうのって!?」

 

「仮にアビドスを潰せば、カイザーローンだって貸し倒れです! 9億円以上の損害が生じるんですよ!?」

 

 私の推論に、困惑を隠せないながらも反論するセリカとアヤネ。

 確かに筋は通っている。アビドス高校がなくなれば、そこに貸し付けている9億円以上の借金は返済が見込めない。カイザーローンとしても丸損だ。

 そもそもカイザーローンも、なんでそこまで金を貸し付けたんだ? 金貸しだって慈善事業では無い以上、どこかで見切りをつけてもおかしくないはずなのに。

 

(……いや、待てよ)

 

 その時、ふと一つの考えが脳裏によぎる。

 この額の金を借りたとなれば、必ず求められるものがあるはずだ。仮に少額ずつの借入だったとしても、ここまで膨らめばどこかで求められていないと流石におかしい。

 そしてその存在を考慮すれば―――この複雑で奇怪な構図に一本の軸を通すことができるようになる。

 

「―――抵当だ」

 

「師匠、何か分かったの?」

 

「抵当ですよ。奴らはアビドスを破産させて、担保を差し押さえようとしているのかもしれない」

 

 カイザーローンほどの強欲な企業が、まさか無担保で9億円もの金を貸し出すとは思えない。おそらくどこかのタイミングで、何かしらの担保が抵当として抵当に入れられているはずだ。

 そしてアビドスの返済能力が失われたと見なされれば、カイザーローンは借金のカタとしてそれを差し押さえる事ができる。法的に一切の問題がない、()()()()な立場のままで。

 

「しかしアビドスは利息だけとはいえ、毎月の返済を欠かさず行なっていました。これでは支払能力が失われたとは見なせません」

 

「そっか、だからヘルメット団に校舎を占拠させて……!」

 

 校舎が不良集団に占拠されるようでは、最早学校としての体を成しているとは見なせない。事実それで廃校となった学校は、キヴォトスにはごまんとある。

 そして学校の機能が失われたとしたら、借金も債務不履行に陥ったと見るのが妥当。債権者は大手を振って差し押さえの強制執行を行えるようになるだろう。

 

「だとしたらあまりに悪辣すぎます! お金を貸している側が、自分で相手が返せないようにするなんて!」

 

「……けど、何を抵当に入れているんだろう。今のアビドスには、お金になりそうなものは何もないし」

 

「いえ、ありますよ。少なくとも一定の価値を見いだせそうなものが」

 

 そう言って、私は地面に向けて指をさす。

 

「この校舎、ということですか?」

 

「それもありますが、もっと根本的なものです―――土地ですよ」

 

 瞬間、教室を沈黙が支配した。

 企業が学校の自治区の土地を狙う。それがどのような意味を持つかは、少し考えれば誰でも理解できることだ。

 

「……待って。じゃあ、カイザーローンの狙いは」

 

「アビドス自治区の乗っ取り、という事ですか……!?」

 

「あくまで推測ですが、その可能性が高いかと」

 

 私は専門家ではない。それでも前世の知識を活かせばある程度の予想はつく。

 アビドスが抱える借金の額に、推定されるアビドス自治区の土地の資産価値。それらを併せて考えれば……恐らくアビドス自治区の大半、ないしは全域が抵当に入れられていると見るのが妥当だ。

 そしてもしこれが事実なら、話は大きく変わってくる。現在進行系で進められているのは、企業による自治区掌握の陰謀ということになるのだから。

 

「……この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない」

 

 眉間に皺を寄せながら、そう口にするシロコ。

 確かにこれほどの陰謀は、カイザーローンだけで進めるには荷が重い。本社が裏で糸を引いていると考えた方が自然だろう。

 だとしたら相当厄介だぞ。よほど上手く立ち回らなければ、あそこは容易く子会社を切り捨てる。そうなれば看板が変わるだけで、結局は同じことの繰り返しになるだけだ。

 

「……でも、待って下さい」

 

 摘発の度に切り捨てられてきた企業の数を思い返すと、心なしか軽い頭痛がしてくる。

 思わず頭を抑えていると、不意にノノミが疑問を口にした。

 

「いくらカイザーでも、勝手に自治区の土地を担保にするなんて事はできないはずです。なら一体誰が……?」

 

「それは恐らく―――」

 

「―――アビドスの生徒会、でしょ」

 

 こちらに重ねるように放たれる声。

 その出所はホシノ。見るとその表情は心なしか、いつもより曇っているように感じられた。

 

「学校の資産の議決権は、生徒会にある。それが可能なのは普通に考えて、その学校の生徒会だけ」

 

「これに従うなら、土地を担保に借金を行う決定が可能なのも、また生徒会だけということになります」

 

 学園都市であるキヴォトスにおいて、学校は一つの国家のようなもの。その国土である自治区の権利を握っているのは、政府に該当する生徒会だけ。

 そして借金のカタに国土や領地を売り払う事例というのは、外の世界では往々にしてよくあることだ。

 それを知らないのか、あるいは知っていても納得できないのか。机を荒々しく叩きながら声を荒げるセリカ。

 

「信じられない! 一体何をしてるのよ、その生徒会の奴らは!?」

 

「恐らく他に手がなかったのでしょう。既に多くの借財を重ねた上で、さらに金を借りるためには」

 

「だとしても、そのせいでカイザーに自治区を奪われかけてるのよ!? その生徒会の連中、どんだけ無能なわけ!?」

 

「追い詰められている者には、どんな見え透いた罠でも魅力的に見えるものです。セリカさんにも覚えがあるのでは?」

 

 暗に先日のゲルマニウム麦飯石ブレスレットの事を仄めかしながら、セリカに視線を送る。

 するとすぐに思い当たったのか、彼女はバツの悪そうな顔になりながら語勢を弱めた。

 

「……そうね。ちょっと言い過ぎたわ」

 

「それにそもそも、これはまだ仮説に過ぎません。どう動くにせよ、まずは裏を取る所から始めるべきかと」

 

「それなら私に任せて下さい。登記事項を確認できれば、抵当に入っているかも分かると思います」

 

 どこか自信ありげに名乗り出るアヤネ。

 彼女にはヘルメット団の兵器や便利屋68についても、独自に高い精度の情報を収集していた実績がある。この件についても一任してしまっていいだろう。

 

「……そうだ、アヤネさん。その時に、一緒に地籍図も確認してもらってもいいですか?」

 

「はい、別に構いませんが……地籍図では抵当権については分からないのでは?」

 

「少々気になることがありまして。まあ、念のためですよ」

 

 軽い口調で誤魔化してみたが、実際はさらなる懸念を解消するため。

 必要以上に混乱させる事を避けるため、あえて口にはしなかったものの……正直に言えば、抵当ならまだ良い方だ。場合によっては、実情はもっと悪い可能性さえある。

 もしこれが当たっていれば、アビドスはさらなる窮地に陥りかねない。どうか杞憂であってくれればいいのだが。

 


 

“カナメ、ちょっといい?“

 

 それから1時間後。

 対策委員会の面々がヒフミの見送りへ向かう中、私は不意に先生に呼び止められた。

 いかにアビドス生に扮しているとはいえ、本来の仕事は先生の護衛。私は自然に歩む速度を落とし、歩み寄ってきた先生と合流する。

 

「何か御用ですか?」

 

“ちょっと明日の事について、相談があってね“

 

 そこで言葉を切った先生は、少し表情を引き締めると再び口を開く。

 

“実は明日、朝からアビドス自治区での聞き込みをしようと思ってるんだ“

 

「聞き込み?」

 

“もしカナメの推測通りカイザーの狙いが土地の獲得なら、既に住民へ何か干渉しているかもしれない。例えば、嫌がらせとか

 

「なるほど、可能性はありそうですね」

 

 カイザーのことだから、仮に自治区を奪ってもその原型を残した運営なんて考えないだろう。十中八九、大規模な再開発に着手するはずだ。

 その際に行う住民の立ち退きには、土地の獲得を待つ必要もない。()()()()引っ越してもらえれば、それだけで事足りる。

 普通の企業ならまずしない所業だが、あそこが真っ当でないのは周知の事実。やるかやらないかで言えば、多分やるだろう。

 

「確かにそういったことは、先生が出向いた方が捗りそうですね」

 

 このような調査においては、大人は意外と素直に話してくれない。

 生徒に解決できはしないという侮り、あるいは子供に格好悪い所は見せられないという見栄。そういった心理的な壁がとかく邪魔をするのだ。

 その点、先生は彼らと対等の「大人」。私達では難しくても、彼なら引き出せる情報というものは確実に存在する。

 

「それでしたらι小隊を護衛につけましょう。ちょうどローテーション的にも、彼女達が担当の時間です」

 

“それなんだけど……ちょっと予定を変えて、カナメだけにしてもらう事ってできるかな?

 

「可能ですが、理由をお聞かせ頂いても?」

 

“何人も護衛がいたら、住民の方に威圧感を与えてしまうかもしれない。だからできるだけ少ない数で行きたいんだ“

 

「……なるほど」

 

 確かに理屈は通っている。だが、それだけでもないらしい。

 笑顔は微妙にぎこちないし、目も若干泳いでいる。嘘をついている際に出る肉体的な兆候だ。

 どうも別の意図があるのは間違いない。とはいえ、今はそれ以上の事は分かりそうにない。

 

「……分かりました。では、そのように調整しておきます」

 

 しばしの沈思黙考の末、私は首を縦に振った。

 これまでの交流から、彼が生徒に友好的な存在なのは間違いない。そんな彼が今更こちらを罠にはめるとは考えにくい。

 それにもし罠だとしても、私一人なら被害を最小限で抑えられる。少なくとも1年生が巻き込まれるよりはマシだ。

 

「その代わりι小隊も陰から護衛につけますが、それでよろしいですか?」

 

“うん、いいよ。でも随分厳重だね“

 

「もし敵がカイザーなら、脅威度はヘルメット団とは比べ物になりません。警戒するに越したことはないでしょう」

 

 先生へと言葉を返しながら、教室の窓の外へと視界を向ける。

 そこでは対策委員会に見送られ、トリニティへの帰路につくヒフミの姿があった。

 トリニティの門限は厳しい。とはいえ今の時間から帰るなら、寮監のお叱りを受けることもないだろう。

 

「……あっ」

 

 そんな事を考えていると、ふとある事が脳内に浮かぶ。

 

“どうしたの?“

 

「ヒフミさんにインストラクターとしての広告塔になってもらおうと思っていたのですが……すっかり忘れていました」

 

 銀行強盗というイレギュラーな形ながらも、ヒフミは対策委員会の実力を目の当たりにした。そんな彼女なら、トリニティ内でアビドスの精強さをアピールすることができる。

 もちろん正義実現委員会を擁するトリニティ自体には、インストラクターとしての需要は見込めない。しかしトリニティ傘下の中小校であれば話は違う。

 中小校が自衛できるようになれば、正義実現委員会の普段も減る。そうすれば巡り巡って、アビドスに対するトリニティの謝礼も上がるかも知れない。

 

 そんなことを考えていたのに、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。全部あの集金記録のせいだ。

 今から追いかけようにも、既にヒフミははるか先。走っても到底追いつけそうにない。

 窓から飛び出して滑空すれば辛うじて追いつけるが、翼を縛っている今はそれも無理だ。

 

「……ぬかった」

 

“うん。まあ、きっと次の機会があるよ“

 

 思わず窓枠に手をかけうなだれる。

 そんな私の背中に、先生は優しい声色で慰めの言葉をかけるのだった。

 

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