KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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紫関ラーメンの危機(後編)

「……ハルカを離して」

 

「悪いのはどう考えてもこっちだけどさぁ……こんな事されたら、黙ってるわけにもいかないよねぇ?」

 

 店の出入口をくぐった途端、カヨコとムツキがこちらに銃口を向ける。

 対する私も腕の拘束を強めながら、ムツキへと向けて狙いを定めた。

 目だけを動かして周囲を伺えば、先生と柴大将は物陰からこちらの様子を伺っている。できればもっと遠くに避難してほしいのだが。

 

「随分な量の爆弾を仕掛けたようだな」

 

「もう気づくなんてね。さすがは元SRT、ってところかな」

 

「どれだけ仕掛けた? それが分からない限りは、申し訳ないが彼女を解放する訳にはいかない」

 

 発見された爆弾は柴関ラーメンの周辺だけ。しかしそれで全てという保証はない。

 どこに、どれだけ仕掛けられているのか。それが分からない事には、真の意味で安全を確保したとは言い切れない。

 だがこちらの問いかけに、ムツキは小馬鹿にするかのように小首を傾げる。

 

「ごめん、分かんないや」

 

「……ふざけているのか?」

 

「そうじゃなくて、本当に分かんないの。大体の位置は分かるけど……どれだけ仕掛けたか知ってるのは、実際に作業したハルカちゃんだけ」

 

「ムツキの言う通り。ポイントは指示したけど、仕掛ける量は一任していたから」

 

 それはつまり、計画的にアビドス自治区を吹き飛ばすつもりだったという事に他ならない。

 それも看過できることではないが、今は後回しだ。私は腕にに爪を立てて抵抗するハルカへと視線を移す。

 

「教えろ。どれだけ仕掛けたんだ?」

 

「……お、おしえ、ませんっ……アル様の、作戦の……邪魔はっ……!」

 

「聞き出そうとしても無駄だよ。その子、社長に関する事は本当に口が固いから」

 

「……そのようだな」

 

 息も絶え絶えになりながらも、口にするのは上司の計画を守り抜くための言葉。なるほど、大した忠誠心だ。

 しかし彼女をこのまま放す訳にもいかない。何しろ事の経緯はよく分からないが、やると決まったら即座に起爆スイッチに指をかけるような相手だ。 

 

「……もしハルカのヘイローが消えたら、その時は容赦しない」

 

「そうだねぇ。その時はちょーっと、痛い目に遭ってもらわないと」

 

『こちらι1、対象の死角へ移動中。到着まで後1分』

 

『ι4、狙撃地点に到達。いつでも撃てます』

 

 右耳と左耳から交互に届く、敵味方の声。それがもたらす情報が、こちらに腹を括らせる。

 爆弾の総量が分からない以上、爆発時の被害範囲を推測することは不可能だ。だから最悪の場合、起爆すれば先生が逃げ切れない可能性すらある。

 そして起爆スイッチの総数も不明。この状況で起爆を防ぐ、確実な方法は―――スイッチの保有者候補を、全員制圧することだけ。

 

「OWL1よりι小隊へ―――これより対象の制圧を開始する。各員、戦闘準備」

 

 通信機に短い一言を吹き込む。

 

「か、く、ぅ……っ!」

 

 それと同時に、ハルカの首に回した腕の力の込め方を変える。

 今まではあくまで動きを縛るための拘束。しかし今行っているのは、頸動脈の血流を阻害するための絞め技だ。

 頑丈なキヴォトスの生徒といえど、生物としての摂理には逆らえない。脳への酸素供給が妨げられれば、その意識は次第に薄れていく。

 

 次第に弱まっていくハルカの抵抗。

 しかし彼女の腕が下がり切る前に、状況は動いた。

 

「警告はしたから」

 

「なるほど……じゃあ、こうするしかないよねぇ!」

 

 ハンドガンを携え突撃するカヨコに、その後ろで機関銃を構えるムツキ。

 両者の距離を素早く目測で図ると、ハルカの拘束を解く。そして迫るカヨコに向けて付き飛ばす。

 

「っ!」

 

 倒れる仲間を避ける事もできず、そのまま受け止めるカヨコ。

 その隙を突く形で私は助走をつけ、地を蹴り勢いよく跳躍した。

 目標は前方に見える柴関ラーメンの看板。空中で姿勢を整え、衝突の瞬間に看板を思い切り蹴り、また別の方向へと跳ね上がる。

 

「速いっ……!」

 

 背後から機関銃の連射が迫るが、こちらには一歩追いつけない。

 旋回式の銃架があるならともかく、相手は手持ちで運用している。故に射線を動かす際はその重量がもろに反映されることになる。

 だからこそ、急な軌道に追従することは難しい。特にこのような三次元的な動きには。

 

 「う゛っ!?」

 

 地面を転がり着地の衝撃を打ち消し、起き上がると同時にハンドガンを発砲。

 放たれた弾丸は狙い通り、振り向きざまに無防備となったムツキの喉へと命中した。

 経験則上、無力化を試みるならここが一番向いている。キヴォトス人の弱点である呼吸に直接影響する箇所で、何より頭よりは動かない。

 

 「やってくれたね……!」

 

 ムツキが前のめりに倒れたのも束の間、頬を掠める弾丸。

 見ればハルカを地面に寝かせたカヨコが、発砲しながら再びこちらへ迫ってきていた。

 既に回避は間に合わない。最小限の動きで射線から逃れつつ、距離が詰まったところで回し蹴りを放つ。

 

「!」

 

「そのぐらいの動きならっ!」

 

 しかしカヨコは咄嗟に身を屈め、蹴りの進路上から身をかわした。

 この動き、相当近接格闘に習熟している。だとすれば決して侮れない。

 そう思考が走る間にも、こちらの軸足に向けて放たれる足払い。それが当たる直前、私は翼を大きく羽ばたかせる。

 

 咄嗟の事だったので、出力はさほど大きくない。しかし生み出された揚力は僅かに身体を浮かせ、軸足への攻撃をすかさせる。

 同時にハンドガンを連射して動きを封じると、着地と同時に再度接近。身体を起こした直後のカヨコの腕と首元を掴むと、一気に地面へと叩きつけた。

 

「ぐっ……反則でしょ、それ……!」

 

 呻く彼女の体を裏返し、両手首をハンドカフで拘束。これで一人は無力化完了だ。

 そのまま視線を走らせれば、ハルカは未だに地へ伏せたまま。ムツキは息を荒げながらも立ち上がり、再びマシンガンを構えようとしている。

 しかしその手に握っていた獲物は、予期せぬ角度からの銃撃―――ι4の狙撃によって吹き飛ばされた。

 

「ちょ、嘘……きゃあっ!?」

 

「エネミーダウン! これより拘束を―――ぐあっ!」

 

 思わぬ攻撃に驚きを見せる彼女を、さらに死角からの弾幕―――ι1の奇襲が襲う。

 先程喉に負っていたダメージの累積もあり、再度倒れるムツキ。だがそれを拘束しようとしたι1もまた、頭部への直撃弾を受けて倒れ伏した。

 

「……派手にやってくれたみたいね」

 

 その出所は柴関ラーメンから姿を現したアル。

 ワインレッドとゴールドに彩られたスナイパーライフルを片手で構えるその様は、随分と様になっている。

 だがよく見れば瞳はせわしなく動き回り、額には大粒の汗が浮かんでいる。どうやら相当に動揺しているようだ。

 

「随分と遅いお出ましだな」

 

「し、仕方ないでしょ!? まさか気が付いたらこんなことになってたなんて、予想できる訳ないじゃない!? まだ2分も経ってないのよ!?」

 

 流石にスナイパーライフル相手にハンドガンでは分が悪い。素早くホルスターに銃を収めると、携行していたライフルに持ち替える。

 

「けど、これしきで屈するとは思わないことね。私達はそれほど、ヤワな悪党ではないのよ……!」

 

 アルの銃口がこちらの頭部を捉える。同時に私もライフルを構える。

 そしてトリガーを引こうとした―――その時。奇妙な異音が戦場に響き渡った。

 まるでホイッスルを吹きならしたかのような、甲高い風切り音。それが耳に入った途端、本能が全力で警鐘を打ち鳴らす。

 

「伏せろ、迫撃砲だ!」

 

「……え、へっ?」

 

 もう銃を向けあっている場合ではない。

 すぐさま体の向きを変え、先生たちの方へ向けて羽ばたきと脚力で一気に加速。

 そして前転を挟んで勢いを殺すと、そのまま二人を地面へと押し倒した。

 

“うわっ!“

 

「うぉっ! な、何するんだよ!?」

 

「説明は後! 口を開けて、頭を守って!」

 

 抗議の声を叫びで押し返しながら、翼で二人の頭を覆い隠す。

 その直後、無数の爆発が一帯を覆いつくした。

 

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