KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
もし読まれていた方がいたら申し訳ありません。
こちらを取り囲む相手が接触を仕掛けてきたのは、それから数分後のことだった。
「便利屋68を発見……すでに拘束されていますね?」
「……なんだお前? ここらじゃ見ない制服だな」
軍服然とした制服を着た生徒達を率いて現れた、二人の生徒。
そのうち巨大な鞄を抱えた眼鏡の生徒は便利屋の状態に首を傾げ、銀の長髪をツインテールに結った生徒はこちらを怪訝な目で見据える。
そんな二人に対して、私は格式ばった敬礼を向けた。
「KSS警備学園生徒会長、樋渡カナメと申します」
「KSS?……どこかで聞いたことがあるような」
「少し前に独立を宣言した、あの……まさかこんな所でお会いするとは思いませんでした」
「そちらはゲヘナ学園の風紀委員会とお見受けしますが」
「はい。ゲヘナ学園風紀委員会1年生、火宮チナツと申します」
「……2年生の銀鏡イオリだ」
こちらの問いかけに名乗りを返すチナツとイオリ。
そんな彼女達に私は軽く頷くと、再び口を開いた。
「こちらは護衛任務の実施中、偶発的に破壊工作を目論む便利屋68と遭遇。
そう言って、隣に並ぶアルへと視線を向ける。
悔し気に目を伏せる彼女の両腕は、ハンドカフによってがっちりと拘束されていた。
……しかしそれはあくまで見た目だけ。実際にはすぐ束縛を解けるようにするための加工済みだ。
「ふーん……まあ何にせよ、うちの厄介者を捕まえてくれたんだな」
そんな彼女を、イオリはどこか意外そうに眺める。
「ならこっちも手間が省けた。後はゲヘナで対処するから、引き渡してもらおうか」
そう言って差し出された手に向けて―――私は黙って首を横に振った。
「申し訳ありませんが、それは出来ません」
「……なんだと!?」
「そう声を荒らげないで下さい。こちらにも相応の理由があるのです」
怒りを顕にこちらへ銃口を向けるイオリ。対するこちらは努めて顔色を変えないまま、さらに話を続ける。
どうやら相手は相当短気な性格らしい。相当簡潔に話を運ばないと、本筋に入る前に交渉が決裂しかねないぞ。
「我々としても引き渡したいのは山々です。ですが先程簡便な取り調べをしていた所、彼女達がこの付近に大量の爆発物を埋設していたことが判明しまして」
「それがどうした。そんなもの、後で撤去すればいい話だろう」
「そうですね。私もそうしたいところではあったのです―――」
彼女の反応ももっともだ。単なる爆発物なら、犯人を引き渡した後に処理してしまえばいい。
だから一つのハッタリを付け足す。物足りない事実を脚色し、説得力を与えるためのはったりを。
「―――その爆発物が
「っ!?」
「ペンスリット……? なんだそれ?」
瞬間、二人は好対照な反応を示した。
聞き慣れぬ名前に首を傾げるイオリ。しかしチナツは途端に目を見開き、次の瞬間には顔から血の気が引いていく。
どちらも知らなければこちらから説明するつもりだったが、その必要もなさそうだ。
「……これは相当まずい事態かもしれません」
「どうしてだ? ただの爆弾だろう?」
「はい。ペンスリットは爆薬の一種であります……C4以上の爆発力を持ち、非常に敏感であることを除けば」
「……つまり、どういう事だ?」
「もしカナメさんの言う事が事実なら……この周辺には大量の爆薬が埋まっている事になります。それも非常に強力で、摩擦や衝撃に敏感な爆薬が」
「!!」
その意味を理解したイオリがはっと息をのむ。
そのタイミングを計っていたように、俯いていたアルが含み笑いを漏らす。
「ようやく事の重大さに気づいたようね」
「陸八魔アル……まさか!」
「ええ、そうよ。とっておきの罠を仕掛けていたの。アビドスの邪魔者を消し去るために……上手くいけば、区画一つは軽く吹き飛ぶほどのトラップをね」
即席で叩き込んだ演技指導だが、中々堂に入っている。
本当に悪党を演じることに関しては、かなりの才能があるんじゃないだろうか。
「さっきの砲撃で一つくらいは起動するんじゃないかと思っていたけど……どうやら
「……さっきからずっとこの調子でして。虚言の可能性もありますが、我々としては
「ですが、それが何故引き渡しの拒否に繋がるのですか?」
「彼女達が一向に口を割らないからですよ。爆弾を仕掛けた場所も、その数量も」
まさにその質問こそ、こちらが待ち望んでいたもの。
あらかじめ考えていた理由を即興で調整し、湿らせた唇から続けざまに放っていく。
「はっきり言って、これは自治区の住民には死活問題です。何しろ自分達の足元に、全てを吹き飛ばす特大の罠が仕掛けられているんです」
「確かにそちらでも取り調べは行われるでしょう。しかしそこで得られた情報が、全てこちらやアビドスに伝わる保証はない。もし矯正局送りにでもなれば、尚更です」
「そうなれば我々は何の頼りもなく、どこに幾つあるかもしれない爆弾の除去作業に臨まなくてはならない。それも突き刺したスコップの先端が、信管に早変わりする恐怖と戦いながら」
これは確かに事実ではない。しかしまるっきり嘘でもない。
爆弾は確かに埋められている。その数量と位置が分からないのも本当の事。
嘘なのはただ一つ、爆弾の種類が違う事だけ。それでも8割の事実に混ぜ込まれた2割の嘘は、ただの嘘以上の真実味を纏うものだ。
何故なら埋まった爆薬の種類は、掘り出してみないことには証明のしようがないのだから。
「なので少なくとも我々か、直接の利害関係があるアビドスで取り調べを行いたいのです」
「……確かにそのリスクは、十分懸念されるべきものですが……」
「だからといって、4人全員を渡さない理由にはならないだろう! 首謀者のそいつだけがいれば十分なはずだ!」
既にこちらのペースに呑まれかけているチナツ。しかしイオリは依然として自身の態度を譲らない。
これは手強い相手だ。こちらも気を抜かずにハッタリを張り続けなければ。
「4人全員が手分けして各所に設置したそうです。もし事実なら、一人だけいた所で4分の1しか分かりません」
「第一、なんで無関係の学校が出張ってくるんだ!?」
「我々は連邦生徒会からの依頼の元、シャーレの先生の護衛任務にあたっています。その先生は現在アビドス廃校対策委員会の顧問に就任している以上、決して無関係とは言えないかと」
「!……まさか、ここにシャーレの先生がいるのですか!?」
「ええ、あちらに」
目で背後の建物の影を指し示す。
すると物陰に姿を隠していた先生が、すっと姿を現した。
「久しぶりだね、チナツ」
「先生……こんな形でお目にかかるとは……」
どうやら二人はどこかで顔見知りになっていたらしい。その姿を目の当たりにしたチナツが、眼鏡の奥で瞳を丸くする。
そしてしばしの沈黙の後、彼女の視線は隣の同輩の元へと向けられた。
「イオリ、ここはKSSの要求を呑むことも検討するべきかもしれません」
「チナツ? なんでいきなりそんなことを?」
「もし先生がアビドスに長期滞在しているというのなら、その近隣に大規模な破壊を生じさせる脅威が存在することは極めて危険です。あの方は私達よりも、ずっと貧弱なのですから」
「区画一つ吹き飛ばすほどの爆発は、我々であっても耐えられるか怪しい威力です。外の世界から来られた先生では……まず、助かる見込みはないかと」
チナツの援護射撃に感謝しよう。ここでこの話題を出せるのはとてもありがたい。
おかげでこちらとしても、切り札の一つを出すことが出来る。
「……あまり関係はないのですが、我々は業務内容を常時映像と音声で記録しています」
「仮にここで彼女達の引き渡しに応じ、その後自治区と先生に万一の事があった場合……この会話は、重要な証拠として扱われる事でしょう」
万一の事があれば、その責任はゲヘナの風紀委員会に向かう可能性が高い。その事を理解しているのか?
そんな言外の問いかけをぶつけた途端―――イオリの姿勢が急変した。
「ふざけるな! さっきから勝手な理屈ばかりを!」
「あっ!?」
「私は騙されないぞ! どうせ妙なハッタリを並べて、便利屋と裏で繋がっているんだろう!」
怒りをあらわに、再びこちらへと銃口を向けるイオリ。
チナツが制止しようとするも、その勢いは止まらない。
「歩兵、第2小隊まで突入! 拘束されている便利屋を―――」
「―――ハッタリ、ですか」
だから彼女の言葉を、私は意図して出した低い声でねじ伏せた。
ハッタリがばれそうな時、大事なのは決して慌てない事。そして無理やりにでもその場の流れを、自分の元に引き寄せる事だ。
「心外な話だ。我々の警戒と危惧を、そちらはハッタリと切り捨てる訳だ。それも何の根拠もなく」
一歩、また一歩。
頭部に向けられる銃口に構うことなく、ゆっくりと彼我の距離を詰める。
『こちらι4、
ちょうどその最中に飛んでくる、一年生からの朗報。
これはいい流れだ。このまま一気に押し切ってしまおう。
「銀鏡さん、でしたか。それなら一つ、賭けをしましょう」
「っ!?」
急速に歩幅を詰め、一気にイオリへと肉薄。
後ろに飛びのこうとした彼女のスナイパーライフルのバレルを、固く鷲掴みにする。
「今、私の部下がそちらの迫撃砲分隊を制圧しました」
「くっ! この期に及んでまだハッタリか!」
「ハッタリかどうか、試してみれば良いでしょう。呼んでみれば分かる事です」
「言われなくても!……迫撃砲分隊、応答しろ!」
通信機に叫ぶイオリ。しかし誰も答える者はいない。
当然だ。既にι小隊によって制圧されているのだから。
「どうした! 迫撃砲分隊、何をしている!……なんで応えないんだ!」
「これでおわかりでしょう。既にそちらの迫撃砲は、こちらの手中にあります」
数度呼びかけても、一向に誰も答えない通信。
沈黙が長引くにつれ、呼びかける彼女の顔に焦りと驚きの色が濃く刻まれていく。
「ハッタリだと思うなら、引き金を引けばいい。突撃命令の一つでも出せばいい。ただしそうした瞬間……我々は即座に迫撃砲をを
風紀委員会はこちらを包囲する形で展開している。
そこに
そう、何度も撃ち込むのだ。衝撃に弱い爆薬が、大量に眠るかも知れない場所に。
「っ! そんなことをすれば……!!」
「運が良ければ、先程と同じ結果になるでしょうね。悪ければ……ご想像にお任せします」
「まずい、あいつ全部吹き飛ばす気だ……!」
「そんなことになったら、私達も道連れだぞ!」
言外に匂わせた破局は、後方に並ぶ風紀委員会の生徒達に動揺をもたらした。
足元に致命的な量の爆薬が眠っているかもしれない。それが何かの間違いで、一気に起爆するかもしれない。こんな状況でまともに戦えるのは、よく訓練された兵士か壊れた兵士だけだ。
幸いにも、彼女達はそのどちらでもなかったらしい。
「お前達、護衛だろう!? なのにその護衛対象ごと自爆するつもりなのか?!」
「ご心配なく、先生の安全は既に確保されています。消えるのは我々と、貴方達だけです」
「く、狂ってるのか……!?」
「好きで狂いたいわけじゃないんですよ。必要さえなければね」
さらにハッタリと威圧を重ねながら、銃口を胸に押し当てる。
真っすぐ見据えたイオリの瞳に、明らかな恐怖の色がにじみ出る。
「進むか、退くか―――さあ、選んでもらいましょうか」
荒い呼吸が耳を打つ中、改めて低い声を投げかけた、その時。
『―――それでしたら、私から答えさせていただきます』
突如として第三者の声が、この場に割り入った。
見ればそれは通信用の立体映像。そこに映し出されたのは、胸部が開放的な服をまとった、青色の髪の女性。
「アコちゃん……?」
「アコ行政官?」
風紀委員会の二名が視線を向ける中、その生徒はこちらに向けて頭を下げる。
『こんにちは、樋渡生徒会長。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』
カナメのハッタリは基本的にそれっぽい理屈と勢いで押し通すスタイルです。