KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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銃撃戦なき死闘:4

「私の身柄を?」

 

 自分が名指しされたことに、驚きの声を漏らす先生。

 こちらにとってもこの要求は予想外だ。だが考えてみれば、分からない話でもない。

 

「エデン条約を見越しての行動ですか」

 

『話が早いですね。こちらとしても助かります』

 

 こちらの予測を首肯すると、再び口を開くアコ。

 

『きっかけはティーパーティーでした。どうやらシャーレに関する報告書を手にしているらしい……と、そんな話がうちの情報部から上がってきまして』

 

「対立関係にある学園の生徒会が情報を掴んだ以上、ゲヘナとしても放置してはおけない。そういう事ですね」

 

『ええ。ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。幸いチナツさんが書いた報告書がありましたので、さほど難しい事ではありませんでした」

 

 恐らくティーパーティーにはヒフミから情報が渡ったのだろう。先生とトリニティ生が接触したのは、こちらが知る限りではそこしかない。

 そしてその事をゲヘナが察知したことで、風紀委員会も動くに至ったと。これはまた大規模な連鎖反応だ。

 ……ただ必要に迫られて報告書を確認したという事は、それまで放置されていたという事に他ならない。おかげで書いた張本人が目の前で思い切り顔をしかめている。

 

『連邦生徒会長が残した正体不明の組織。大人の先生が担当している、超法規的な部活……これほど怪しい組織は、とても危険な不確定要素に見えます』

 

「だから自分達の制御下に置こうとした、と」

 

『そこまでは考えていません。せめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです』

 

「……私達はその口実だったって訳ね」

 

 隣に並ぶアルが、忌々しげに呟く。

 確かに自分達の宿敵である風紀委員会にまんまと利用された形になるのだから、決して面白くはないだろう。

 だがアコは怒気の籠った視線を意に介する事無く、再び私に語りかける。

 

『ですが先生があなた達と行動している時に出くわしたのは、こちらとしても予想外でした。遭遇するとすれば、アビドスの生徒がいる時と思っていましたから』

 

「なるほど、用意周到なことで」

 

『料金であれば、連邦生徒会が依頼した金額の倍を出します。設立したばかりのそちらにも、悪い話ではないでしょう』

 

「もし断れば?」

 

『それは樋渡会長であれば、ご理解いただけると思いますが』

 

 その言葉と共に、こちらに向けて銃を構えるイオリとチナツ。

 一瞬遅れて、風紀委員会の生徒達もそれに続く。聞こえた音から推察しただけでも、向けられている銃口の数は30を下らないだろう。

 もし一人だったなら、地形を活かせばどうにかできる数ではある。しかし周囲の護衛対象を守りながらでは、少しばかり厳しい。

 

『それと、別の区画に2個中隊を待機させています。誘爆は決定打にはなり得ませんよ』

 

 勝ち誇った顔でアコが付け加える。

 確かにこの配置ならペンスリットが誘爆しても、その後に後詰めの部隊を送り込めばいい。

 何しろ先生の無事が確保されることは、さっきこちらが保証してしまった。だったら後は爆心地から先生を回収すればいいだけ……なるほど、風紀委員会の参謀は伊達ではないという事か。

 

「今対策委員会がこっちに来ている。何とかもう少し持ちこたえて!」

 

「私も加勢するわ。このまま袋叩きに遭うのはごめんよ!」

 

『私達が包囲網に穴を開けます。その隙に離脱を!』

 

 タブレットを構える先生、密かに拘束を緩めるアル、そして無線越しに気炎を上げるι小隊。

 四方から聞こえてくる声に対して、私は首を横に振った。

 

 増援はまず間に合わない。それにこの数が相手では、多少頭数が増えた所で焼け石に水。

 先生の指揮があれば勝ち目も出るのかもしれないが、それでも相応の犠牲が出るだろう。

 それに……この状況に持ち込まれた時点で、こちらは既に勝っている。

 

「天雨行政官。先程料金は連邦生徒会の倍出す、と仰いましたね」

 

『増額をご希望ですか? でしたら多少は考慮しますが』

 

「―――ふざけるのも大概にしろ」

 

 語気を荒げ、敬語を投げ捨て、衝動のままに吐く。

 この反応は予想していなかったのだろう。アコの肩がびくりと跳ねる。

 

「KSSを甘く見るな。金で護衛対象を売り払うほど、私達は下卑た組織じゃない」

 

 信頼は金で買えない。故に金で売り払えば、その組織は未来を失う。それは歴史が幾度も証明してきた不朽の事実だ。

 何より我々は元SRT。例え掲げる旗は変われど、その意思は変わらず胸にあり続けている。

 その生徒会長たる私が、自ら信念を揺るがすような真似はできない。できるはずがない。

 

「不当な脅迫には断固として抵抗する。例え三大校が相手だとしてもだ」

 

『……そうですか。もう少し賢い選択をしていただけると思ったのですが』

 

「それは武力行使を開始する、という意思表示と見て間違いないか?」

 

『私達としても本意ではありませんが……仕方ありませんね』

 

 勝利を確信した表情で、命令を出そうと息を吸い込むアコ。

 だがそれよりも早く、私はインカムの通話ボタンに指を押し当てた。

 

「―――アヤ、聞いていたな?」

 

『はい、ばっちりです! 一から十まで、余すことなく記録しました!』

 

 耳に響くのは、OWL小隊一の元気っ娘の快活な声。

 それは聞こえずとも、こちらの様子に違和感を覚えたのだろう。アコがこちらへ怪訝そうな目を向ける。

 

『この期に及んで何を―――』

 

「先程までの会話は全て録音させてもらった。もう言い逃れはできないぞ」

 

『……何ですって?』

 

 カラクリはいたって単純。特殊な外音取り込み機能(アンビエントモード)に切り替えたインカムをブルートゥースでスマホに接続し、取り込んだ会話内容を全てKSSのアヤへと送信していたのだ。

 おかげでこちらには確固たる証拠ができた。ゲヘナ風紀委員会のナンバー2が先生の()()を目論み、KSSを脅迫した事実の証拠が。

 

「この脅迫は我々の任務遂行と独立性に多大な影響を及ぼすものだ。決して看過することはできない」

 

 威圧感を与えるため、あえて堅苦しい語句を選びながら言葉を紡ぐ。

 我々はただのPMCではない。小さくともキヴォトスで独立した地位を持つ学校だ。

 だからこそ、こんな手も打てる。例え三大校のゲヘナといえど、決して無視できない一手を。

 

「よって私、樋渡カナメはKSS警備学園を代表し―――ゲヘナ学園万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)及び風紀委員会に対し、()()()()()を行う用意がある」

 

『―――っ!?』

 

 途端にアコの表情は、一瞬にして凍りついた。

 

「アコちゃん、なんであそこまで狼狽えてるんだ? ただ抗議をすると言われただけだろう?」

 

「……学校間で正式な抗議が行われる場合、大抵は抗議文の提出という形がとられます。まして万魔殿にまで行うとなれば……」

 

「……そっか、間違いなく委員長にバレる!」

 

 独断専行を行う者が最も恐れること。それは指揮系統を逸脱した行動が露見することだ。

 だからこそ、事の次第を公文書という形で送りつける。それも風紀委員会だけでなく、形式上は上位組織にあたる万魔殿にも。

 あそこの議長の風紀委員長嫌いは有名だ。その明確な失点があると知れば、嬉々として利用する事だろう。

 

「それと、強行手段は考えない方が良い。現有戦力でも、先生の離脱のみに限れば十分可能だ」

 

『またハッタリを……!』

 

「ハッタリかどうかは、試してみれば分かる」

 

 私達の無事を度外視すれば、先生をこの包囲網から離脱させることはできる。

 後は対策委員会と合流した上で、校舎に残るζ小隊が安全圏まで護送すればいい。

 そうなればアコの側に残るのは無断で戦力を動かした事実と、無為に消耗した人員だけだ。場合によっては他校の生徒会長を無断で拉致するという、政治的な失点も加わるかもしれない。

 

 自分で計算してみても、同様の結論に至ったのだろう。

 僅かな沈黙を経たアコは、悔しげに口元を歪めながらうめく。

 

『……やってくれましたね』

 

「戦力差に気を取られすぎたな、天雨行政官」

 

 数や力に勝る者は、えてしてそれらを過信する。これだけの差があればどうとでもできるという()()が、大なり小なり目を曇らせるのだ。

 だからこそ、思わぬところで隙をさらす。普段なら気づけるはずの、僅かな違和感も見落としてしまう。そこを突けば、思わぬ一撃を食らわせることは不可能ではない。

 とはいえ紙一重ではあった。もしこれが独断だと察せていなかったら、こんな勝ち筋を見出すことはできなかっただろう。

 

 だがおかげで、やっとスタートラインに立てる。

 これまでやってきたのはただの引き伸ばし。武力行使に出られたら劣勢なのは明らかな以上、どうにかして相手の手足を縛ることに苦心する他に道はなかった。

 だがこうして明確な弱みを掴んだ以上、彼我の立場は対等。ここからが交渉の本番だ。

 

「―――ですが我々も、必要以上に事を荒立てるつもりはありません」

 

 息を大きく吐き出して気性を落ち着け、語気を幾らか和らげる。

 ここからは理性の仕事。激情に駆られた言動はもう必要ない。

 

「ここらで一つ手打ちといきましょう。そちらに幾らか譲歩していただければ、今回の事案も()()()()()()として処理する事もできます」

 

 こちらとしても、風紀委員会の顔に泥を塗るのが目的ではない。

 便利屋の身柄確保という最低限の目的さえ達せれるなら、それ以外の場所で譲れるものはある。それで撃発を防げるなら安いものだ。

 

「今日この場において、便利屋68は存在しなかった。それを風紀委員会の公式な見解として頂きたい」

 

『……つまり我々が、何の理由もなしに越境したことにしろと?』

 

「そうは言っていません。()()()だった事にしてもらいたいのです」

 

 風紀委員会……というよりアコは、便利屋68の 捕縛を口実にこの区域に侵入した。つまり標的である便利屋が存在しなければ、ここに留まり続ける正当な理由は存在しない。

 そして存在しない相手を捕縛することはできない以上、風紀委員会は手ぶらで帰らざるを得ない。つまりこちらの目的である、便利屋の面々の確保も実現できる。

 それにこれはアコの方にとっても、決して悪い話ではないはずだ。

 

()()()()()だったから引き上げた。これなら空崎委員長への言い訳も立つのではありませんか?」

 

 例えこちらとのいざこざを闇に葬るとしても、なぜ戦力を動かしたのかという説明が必要になる。その時便利屋68の捕縛を理由にしてしまえば、今度はなぜ捕縛せずに撤退したかを疑問に思われるだろう。

 しかし実際は人違いだったことにしてしまえば、その辺りもうまく説明できる。

 情報部は大目玉を食らうかもしれないが……まあ、そこは致し方ない犠牲だ。

 

『……』

 

 立体映像に映るアコは答えを返さない。ただ目を瞑り、歯を食いしばりながら、時折意味を持たない声を漏らすだけだ。

 よほどこちらの要求に対して逡巡しているのだろうか。それとも、この状況を打開する策でも考えているのだろうか。

 とはいえ、急かせば逆効果になりかねない。この場は黙って見守ろう。

 

『カナメ先輩! 抗議文の文面、完成しました!』

 

「よし、いつでも出せるようにしておいてくれ」

 

 そうしている間にも、最悪の場合に備えた準備は怠らない。

 向こうが決断を下すまでは、こちらの方針も先程までのまま。いつでも正式な抗議を行えるようにするまでだ。

 

『……各員、撤退を開始してください』

 

 そして待つこと数分。

 ようやく目を開いたアコは、絞り出すような声で命令を下した。

 

『どうやら情報に誤りがあったようです。便利屋が()()()()()のであれば、この場に留まり続ける理由もありません』

 

「ご高配、感謝いたします」

 

『その代わり、この一件については双方がなかったことにする。その認識で間違いはありませんね?』

 

「もちろんです。こちらも「誤認による偶発的な衝突」として処理しましょう」

 

 風紀委員会が()()()()()()を便利屋68と誤認したために、制圧のため迫撃砲による砲撃を実施した。そしてそれに巻き込まれたKSS側も、護衛対象の安全確保のために迫撃砲分隊の制圧を行った。

 今ここで交わされた会話は、この小競り合いを終息させるための事実確認と話し合い。少なくとも公的な記録の上では、そういう事になる。

 風紀委員会の方が同様の措置を取るかは分からない。だが取らない理由もないだろう。真相がバレたら、不利なのは明らかに向こうの方なのだから。

 

「ι4、奪取した迫撃砲の返還を実施せよ。発煙筒を用いた現在位置の提示を許可する」

 

『第7小隊は確認が取れ次第、現地で迫撃砲の受領を行ってください。交戦は厳に慎むように』

 

 これでこの銃弾が飛び交わない戦いも、どうにか終わりに向かうだろう。

 ι小隊に指示を出しながら、そんな考えが頭をよぎった―――その時。

 

『……え? ひ、ヒナ委員長!?』

 

 突如アコが素っ頓狂な声を上げた。

 見れば立ち直りかけていたその顔色は、先程抗議の可能性をちらつかせた直後と同じくらいに青ざめている。

 

『アコ、今どこ?』

 

『私は……そ、その……えっと……げ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを……』

 

 さらに通信回線までこちらと混同させてしまっているのだから、その狼狽ぶりは相当なものだ。

 そして聞こえてくる声色に、アコが呼んだ名前。相手の正体は自ずと伺い知れる。

 

『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に?  出張中だったのでは?』

 

『さっき帰ってきた』

 

『そ、そうでしたか……! 私達もこれから戻りますが、少々時間がかかりそうで……また後ほど連絡いたします!』

 

『戻るのに時間がかかる? ……ゲヘナ近郊の市内でパトロールをしているのに?』

 

『あっ………。いえ、そ、その……それは……』

 

 しかし妙だ。通信のものとは別に、同じ声が別の方向からも聞こえてくる。

 目を閉じ耳を澄ませてみれば、その出所はここからそう距離のない場所。しかも小さく規則的な足音と共に、こちらへ次第に近づいてくる。

 

「……先生、こちらへ」

 

「カナメ? どうしたの?」

 

「まず大丈夫とは思いますが……もしかすると、もう一波乱あるかもしれません」

 

 万が一の事態に備え、アルを引き連れて先生の側へと移動。彼の姿を背に隠す形で立ちはだかる。

 想定通りの相手なら、まず敵対の可能性はない。だが最悪の事態が生じたなら……その時は先生の安全のため、抱えてでも逃走しなければ。

 

「それとも、もしかしてかなり遠方まで出向いているのかしら。例えば、そう……他の学園の自治区とか」

 

『……え?』

 

 その直後。風紀委員会が作った人垣を割って、その人物は姿を現した。

 小柄な体躯に、不釣り合いに思えるほどボリュームのある白髪。そして小脇に抱えられた、身長と同等の全長はある巨大な機関銃。

 

「い、い、い、委員長!? い、一体いつから!?」

 

「!!」

 

『え、えええっ!?』

 

 風紀委員会の面々が驚きの声を上げる中、彼女―――空崎ヒナは立体映像のアコへと視線を向ける。

 

「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」

 

 その一言は短くも、とてつもない威圧感に満ちていた。

 

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