KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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勧誘、便利屋68

「傭兵を前の二倍雇ったうえで、地の利を活かせる地形まで誘い出して……」

 

「数十個仕掛けた爆弾で一網打尽……そんな計画を立ててたんだ」

 

「そんなところ。まあ、もう全部ばれちゃったけど」

 

 それから数分後。

 あちこちに爆発の痕が残る紫関ラーメンの前は、対策委員会による便利屋68の尋問会場と化していた。

 もちろん拷問のような手荒な真似はしていない。そんなことをしなくても、勝手に向こうの方が話してくれる状態だ。

 

「だってあれだけ防備を固められたら、いくら傭兵を雇っても意味がないもの! ならこっちから誘い出すしかないでしょ!?」

 

「アルちゃーん……いくらなんでも喋りすぎだって」

 

「まあ、別にいいけどね。どの道爆弾の存在がばれた時点で、成功率はゼロに等しいから」

 

「ん、当然。分かっていればそんな罠には引っかからない」

 

 というのも、便利屋68の面々は既に諦めムード。どうやら爆弾の存在が露呈したことは、彼女達の作戦の根幹を揺るがす失態だったらしい。

 それに全員が両手を拘束されている状況というのも、彼女達に失敗を悟らせたのだろう。おかげで3人とも、すっかり開き直ってしまっているようだ。

 

「わ、私のせいで計画が全部、全部台無しに……! し、死んでもいいですか? 死にますっっ!!!」

 

「死なないでください! 失敗なんて誰にでもありますからっ!」

 

 ……若干一名、放っておいたら自責の念で死を選びそうな者もいるが。

 

「こんな奴らを野放しにしていたら、何が起こるか分かったものじゃないわ!」

 

「だね~。おじさんもセリカちゃんに賛成かなー」

 

 当然そんな相手に対して、対策委員会からの評価は厳しい。

 バイト先を吹き飛ばされた事もあって、怒り心頭のセリカ。遅れてきたホシノも、彼女の意見に頷く。

 

「わざわざゲヘナが引き取りに来たんでしょ? その時に引き渡しちゃえばよかったじゃない」

 

「そうするとこの自治区中の爆弾を総出で捜索する羽目になります。だからこちらで抑えたんですよ」

 

「うへー、それは勘弁願いたいなぁ。ありがとね、カナメちゃん」

 

「けど、こいつらに任せて大丈夫なの?」

 

「ええ、勿論」

 

 疑惑の目を向けるセリカに、アルは胸を張りながら答える。

 

「与えられた恩には応えるのがアウトローの流儀よ。カナメ会長に助けてもらった恩は、しっかりと返させてもらうわ」

 

「……無料でラーメン特盛にしてもらった店を爆破しようとしたのに?」

 

「あっ……それは、その……」

 

 痛いところをセリカに突かれ、気まずそうな顔になるアル。

 それが良きにつけ悪しきにつけ、過去は延々と付きまとうもの。今回は最悪の形で返ってきてしまったらしい。

 とはいえ、このままだと少し彼女達も可哀そうだ。ここは一つ、助け舟を出すことにしよう。

 

「セリカさんの疑念ももっともです。ならここは一つ、彼女達を雇用してみるのはどうでしょう?」

 

「雇用? こいつらを雇うっていうの?」

 

「ええ、彼女達は「仕事」に対しては誠実です。それは今回の件で実証されています」

 

 便利屋達は全財産を投入した作戦に失敗するという、手痛い敗北を喫した。普通の傭兵なら、依頼を放棄して撤退する選択肢も出てくるレベルだ。

 にもかかわらず、彼女達は諦めなかった。どこからか資金を調達し、敗北の原因を分析し、それを克服するための作戦を練り上げた。

 その内容と結果については別としても、依頼に対する姿勢は非常に真摯なもの。その点については手放しで評価できる。

 

「契約という形で拘束すれば、その期間中はアビドスの戦力として誠実に働いてくれるでしょう。幸い、戦力としての評価も折り紙つきです」

 

「うーん……確かに足りない頭数を補えるのは、ありがたいかもねー」

 

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい!」

 

 と、ここで反論の声が上がる。アルからだ。

 

「私達はまだカイザーと契約しているのよ!? それを裏切るのは、それこそわが社の信頼に関わるわ!」

 

「……やっぱりカイザーだったんだ」

 

「あっ!?」

 

「……何やってるの、社長」

 

 口を抑えるアルだが、時すでに遅し。

 とはいえ、既に公然の秘密だったようなものだ。今更判明したところで、特に影響はないだろう。

 それに契約先がカイザーだと明確になったのはありがたい。おかげで説得も捗りそうだ。

 

「それなら今回の結果を報告すれば、向こうから打ち切ってくれるでしょう」

 

「いえ、それも信頼に……」

 

「どうせ向こうは端から信頼なんかしてませんよ。仮にあったところで、「使()()()使い捨ての駒」が関の山です」

 

 何しろカイザーは必要なら正社員すら容赦なく切り捨てるところだ。そんなところが下請けなどに特別な認識を持つはずもない。

 何なら逆に評価が上がったら、商売敵になるから排除に動くぐらいの事も考えるんじゃないんだろうか。実例は聞いたことはないが、あそこならやりかねないぞ。

 

「それに失敗した事がばれたら、向こうは刺客を送り込んで口封じを謀るでしょう」

 

「だろうねー。私達もヘルメット団の口封じをやらされたし」

 

「その点アビドスの協力を得られれば、返り討ちにできる可能性は大きく上昇します。彼女達の強さは、身を以て知っているはずだ」

 

 つまり便利屋は戦力を、アビドスはいざという時の後ろ盾を。互いに足りないものを提供し合う形になる。

 こういった補完の関係は、時に下手な精神的な繋がりよりも強固だ。少なくとも別の補完手段が見つかるまでは、互いに手放せない相手になるのだから。

 

「この相互補完の関係を保てるのなら、依頼によるもの以上の拘束力が生じます。アビドスにとっても悪い話ではないかと」

 

「なるほど、確かに一理ありますね」

 

「よく分からないけど……師匠が言うんだから、嘘ではないと思う」

 

「うーん……そう言われたら、悪い話じゃないのかも……?」

 

 素直に同意してくれるノノミに、こちらを信頼してくれるシロコ。セリカはまだ悩んでいるようだが、賛成に傾きつつあるようだ。

 一方でホシノは言葉を発しない。ただ品定めをするように、便利屋達を観察している。

 

『待ってください! アビドスに便利屋の皆さんを雇えるような余裕はありません!』

 

 ただ一人、明確に反対を示すのはアヤネ。

 それも当然の事だ。ただでさえ対策委員会は、毎月の利息の返済に追われている。傭兵を雇うような余裕があるならとっくに雇っているか、借金の返済に充てているだろう。

 だが私もそれを考慮せずに、この案を出したわけではない。ちゃんとアビドスでも便利屋を雇えるようにするだけの策は練っている。

 

「時にアル社長、一つ相談なのですが」

 

「……何かしら、急に改まって」

 

「今回の依頼に限り、物納払いで受けてもらうことは可能ですか?」

 


 

「これって、あの時の……!」

 

 ()()を目の当たりにしたムツキが、驚きの声をあげる。

 便利屋達を伴って戻ってきた、アビドス高校の校庭。そこに鎮座していたのは、一台の大口径砲を備えた車両だった。

 そう。ヘルメット団の拠点で鹵獲し、便利屋68との防衛戦の際に用いた、あの装甲車だ。

 

「損傷した砲塔旋回機構も、応急修理ですが処置は完了しています。当面は問題なく使えるはずです」

 

「そう、ありがとう……じゃなくて! 装甲車一台が報酬って、少し気前が良すぎない!?」

 

『そうでもないんですよ。実はそれ、私達には使いにくくて』

 

 この車両がアビドスで持て余されていた理由。それは運用に必要な人手にある。

 というのもこの車両、スペックを最大限発揮するにはそれなりの人数がいるのだ。具体的には操縦手・車長兼装填手・砲手・無線手兼後部操縦手の4人が必要になる。

 防衛戦で使った時は3人で運用したが、あれは最低限の機能と役割に限定できる局面だったから。もしバックが必要になっていたら、少し危なかった。

 

 そして4人という数が、アビドスにとってはネックになっていた。

 アビドスの全校生徒は5人で、かつ前線要員は4人。つまり運用しようとすると、前線要員の全てが乗り込む必要がある。それかアヤネが乗り込んで、誰か一人が外に出るかだ。

 そして想定される環境は主に防衛戦。戦力の分散も必要に応じて求められる状況で、これだけの人手を取られるのは痛い。

 

 かといって移動に用いるにも、5人目を乗せるスペースはない。何より燃費を考慮すれば、既にある自動車で事足りる。

 トーチカに転用することも考えたが、期待できる防御力は精々小銃弾に耐えられる程度。これでは少し心もとない。

 そのため有効な用途が見つからないまま、スクラップとして借金返済の足しにすることに決められていた。

 

『でも確かに、便利屋の皆さんにはちょうど良さそうですね。人数も4人ぴったりですし』

 

 しかし便利屋68が使うとなれば話は違う。

 彼女達はちょうど4人。つまり全員が車内へと収まることができる。

 しかも便利屋はその性質上、襲撃などの攻撃的な任務にあたることが多いはず。そういった場面では、適度な火力と防御、そして俊足を備えた装甲車は大いに役立つだろう。

 

「主砲は5cm対戦車砲、装甲は軽機関銃まで対応。加えて最高速度は時速80キロ。中々悪くない代物だと思いますよ」

 

「……」

 

 アルの返事はない。

 ただこちらに向けられた彼女の背は、わなわなと細かく打ち震えている。それだけで何を考えているのかは、概ね予想がつく。

 

「……最っ高じゃない!!」

 

 そして振り向いた彼女が見せたのは、満面の笑みだった。

 

「実は前々から思ってたのよ! 格好いいアウトローの移動手段が、徒歩や公共交通機関なのはどうなのかって!」

 

「それ、交通費が嵩むからって理由じゃなかった?」

 

「だからずっと社用車が欲しいと考えてたのだけど……これならピッタリだわ! 日頃から装甲車を乗り回すなんて、いかにもアウトローって感じじゃない!」

 

 ……そうだろうか。別にこのキヴォトスではさほど珍しくない気もするのだが。

 というよりそういったアウトローが乗り回しているのは、黒塗りの高級車やリムジンなんかじゃないのか?

 そんな疑問も出るが、喉元で止めておく。喜んでくれているところに、わざわざ水をさす必要もない。

 

「決めたわ! アビドス高校からの依頼、便利屋68として引き受けるわよ!」

 

「アルちゃんも単純だねー……ま、面白そうだからいいけど!」

 

「……まあ資金に余裕もあるし、今後のために貰っておくのもいいか」

 

「アル様に社用車が……わ、私、頑張って運転します!」

 

 すっかりその気になったアルにつられて、依頼に前向きな姿勢を示していく便利屋の面々。

 便利屋は報酬として装甲車が手に入り、アビドスは実質ただで追加の戦力を得られる。これぞウィンウィンというものだろう。

 

「でもさー、本当に大丈夫?」

 そんなことを考えていると、いつの間にか傍らに来ていたホシノが小声で問いかける。

 

「あんなもの渡しちゃったら、依頼を放り捨ててどっか行っちゃうかもしれないよ?」

 

「そこはプロとしての彼女達を信じましょう」

 

 アウトローとしては疑問符がつくのは間違いない。しかし仕事に向き合う姿勢には、現時点でも評価できるものがあると思う。

 故に好感が持てる。何であれ己の責務から逃げ出さない者というのは、それだけで敬意を表するに値するものだ。

 

「それに仮に裏切ったとしても問題ありません。責任を持って私が対処します」

 

「さすがにカナメちゃんでも、装甲車の全速力に追いつくのはキツいんじゃない?」

 

「大丈夫です。後でメインシャフトに爆薬を仕掛けておきますので」

 

「……うへぇ。そういうとこ、容赦ないよねぇ」

 

 そんな会話がかわされているとは露知らず。

 便利屋68の面々は、舞い込んだ依頼に決意を新たにしていた。

 

「よーし、やるわよーっ!」

 


 

 その後の話し合いで、便利屋68はカイザーの依頼が失効し次第合流する事が決定。それまでは仕掛けた爆弾の撤去に勤しむことになった。

 それまでは実質野放しにするようなものだが……彼女とて格好いいアウトローを目指しているなら、早々恩を仇で返すような事はしないだろう。

 それに装甲車もまだ渡していないので、失うものも特にない。

 

「お呼び立てしてすみません、先生」

 

 そして夕方。

 私はアヤネに呼び出された先生に付き添って、対策委員会の教室を訪れていた。

 

「とても重要な事が分かった。そう言っていたね」

 

「はい。明日対策委員会の皆さんにも伝える予定ですが……先に先生にはお伝えしておこうと思いまして」

 

 そう言ってタブレットを机上に置くアヤネ。

 その画面には何かの記録を電子化したものが映し出されている。

 

「カナメさんに言われて調査した、地籍図の記録です。どうぞご覧ください」

 

 そう応えるアヤネの表情は、神妙な面持ちのまま変化がない。

 それだけでこの内容が、決して愉快なものではないのは理解できた。

 それでも先生はタブレットを受け取り、しばし画面に目を落とす。

 

「……」

 

 そして数分後。顔を上げた先生は、険しい顔で私にタブレットを差し出した。

 

「よろしいのですか?」

 

「うん、カナメにも目を通しておいてほしい」

 

 一体どのような内容なのか。一抹の不安を抱きながら、電子データを最初のページまで差し戻す。

 それはアビドスにおける土地の取引記録。最新の2年前の記録から遡る形で、これまでの取引の履歴が余すことなく記されている。

 

「……これは」

 

 何故アヤネや先生が、ここまで深刻そうなのか。その理由は程なくして理解できた。

 取引により変更された所有者の名義。それはどこまで遡ろうと、たった一つの名前しか出てこない。

 ―――カイザーコンストラクション。主に建設事業を担当する、カイザーグループの傘下企業。

 

 いや、問題はそこではない。 

 再びデータを先頭まで戻し、改めて一つ一つの記録を見直す。

 私はアビドスの土地事情には詳しくない。しかし頭の中に入れた地図と照らし合わせれば、その異様さはすぐに理解できた。

 

「……アヤネさん」

 

「はい、間違いありません」

 

 顔を上げて短く問いかけると、アヤネは小さく頷きを返す。

 

「既にアビドス自治区は……ほとんどがアビドスのものではなくなっています」

 

 それは想像以上の窮状を示す、残酷な事実だった。

 

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