KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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邂逅、シャーレの先生

「シャーレの先生……この前連邦捜査部に着任した「大人」だったわね」

 

「何でもとても高い指揮能力を持っているそうよ。それを活かしてサンクトゥムタワーの機能回復にも大きく貢献したんだって」

 

 ホナミとカノンの言葉を聞き流しながら、ディスプレイをタップして添付ファイルを開く。

 するとテキスト形式で表示される、本件に関する様々な情報。その中にあった「先生」の顔写真に、ふと目が留まる。

 ……このキヴォトスにおいて、いわゆる「男性」に該当する存在は皆無に等しい。いない訳ではないが、私の知る限りほぼ全て機械か獣人だ。

 だからこの写真に写っているような、いわゆる人型の男性は……なんというか、すごく懐かしい。

 

「カナメちゃん、どうかした?」

 

 そのいかにも人畜無害な風貌を凝視してしまっていたせいだろう。

 カノンが少し心配そうな様子で声をかけてきた。

 

「いや、何でもない。少し読み込んでいただけだ」

 

 首を横に振って誤魔化し、画面をスワイプする。

 

「アビドスへの訪問目的は「現地生の救援要請に基づく補給物資の支援」か」

 

「何というか……使い走りみたいですよね。これが連邦捜査部の仕事なんでしょうか?」

 

「さあ? そもそもシャーレ自体、よく分からない組織ですもの」

 

 連邦捜査部・通称シャーレ。今は行方の知れない連邦生徒会長が立ち上げた機関。

 今までまともに稼働していなかっただけあって、その実態は謎に包まれている。しかし今分かる範囲でも普通の組織でないことは間違いない。

 「キヴォトスで発生する諸問題の解決」を題目にいかなる学園への介入を可能とし、規約や法律による規制や罰則を免れる特権を有した超法規的機関。しかもその権限は連邦生徒会長が「外の世界」から招いたという、「先生」という大人に一任されているというのだから。

 

 一体何のために連邦生徒会長はこんなものを作ったのか。そしてそれを任された「先生」とはどのような人物なのか。

 これは遅かれ早かれ見極めなければならないこと。ならば、この依頼は絶好の機会だ。

 

「「先生は本案件遂行に非常に意欲的。可及的速やかな依頼受諾を希望します」……なるほどな」

 

 末尾に記された事務的な文面。

 文字越しにも分かる書き手の顔を脳裏に浮かべながら、私は顔を上げる。

 

「私はこの依頼、受けるべきだと思う」

 

 そして居並ぶ面々の顔を見つめながら、己の考えを口にした。

 

「今読んだ限りではこちらの規約に抵触する内容はないし、報酬金の額も妥当だ。それに今後のKSSの運営を考えれば、件の「先生」と繋がりを持っておくに越したことはないだろう」

 

「私は賛成。今は依頼を選り好みしている余裕はないもの」

 

「私からも反対する理由はないわね」

 

 カノンに続いて口を開いたのはホナミ。

 机の端にに置いていたバインダーを取り上げると、その内容に指を走らせていく、

 

「この案件で赴く環境は、あの子達が苦手としている分野にあてはまる。今後に備えた教導という点では最適な任務だと思うわ」

 

「状態の急変に対する対応力、か。砂漠に放り込んで鍛えさせるのは、少し酷だと思うが」

 

「そのくらいがちょうどいいのよ、1年生(ひよっこ)達には」

 

「……そうか」

 

 胸を張って断言するあたり、そう言い切れるだけの根拠はあるらしい。

 ただ砂漠というのは少しの判断ミスが命取りとなる環境だ。それを鑑みると、少し不安が残るのも事実。

 

「分かった。ただ万一に備えて、私が引率としてつかせてもらう。それでいいか?」

 

「ええ、そうして頂戴」

 

「よし。アヤは?」

 

「私も賛成ですけど……危険性判定(リスクアセスメント)の確度は低くなりそうです。アビドスって情報が少なすぎるんですよ」

 

「ある程度は推測でいい。アヤの意見を聞かせてくれ」

 

 こちらの言葉に頷き、眉間にしわを寄せながらパソコンの画面を睨むアヤ。

 そのしわが消えたのは、およそ数分後の事だった。

 

「……今あるデータを参照した限りでは、顕著な脅威はなしです。現地にヘルメット団はいるでしょうが、その程度かと」

 

「なるほど。で、推測の方は?」

 

「現地の過疎化の状況を踏まえると、密かに逃れた指名手配犯や武装戦力が潜伏しているかもしれません。救援物資の配達だけならそこまで影響はないでしょうけど……念のため備えは多いに越したことはないと思います」

 

「だったら、戦力も少し足した方が良さそうね」

 

 カノンがディスプレイを何度か叩く。

 すると映し出されたのはKSSの保有兵器リスト。独立の際に持ち出すことができた、貴重な旧式兵器の一覧だ。

 

「2個小隊にカナメちゃん1人、この条件で黒字をキープとなると……追加できるのは装甲車2両かヘリ1機ってところかしら」

 

「装甲車にしよう。ヘリは砂嵐が怖い」

 

「了解、整備のみんなに伝えておくわ」 

 

 そう言って席を立ち、整備班の元へと向かうカノン。

 その背を見送ると、私もまた席から立ち上がる。

 

「アヤ、連邦生徒会と話を進めてくれ。こっちは6時間後から行動可能だ」

 

「分かりました!」

 

「ホナミ、ζとΙの皆は?」

 

「今の時間なら座学の真っ最中よ」

 

「分かった、ありがとう」

 

 短く礼を述べ、壁にかけられたKSSの校旗の前を横切って生徒会室を出る。

 折角の初出撃だ。ただ文章で指示するだけでは、少し味気ないだろう。

 

ーーー

 

 そして翌朝。

 私達はシャーレのオフィス前で、先生が現れるのを待っていた。

 今のところ誰かがオフィスから出てくる気配はない。出くわしたのは掃除のために出てきた、1階のコンビニ店員ぐらいのものだ。

 

(シャーレの先生、か)

 

 正直なところ、彼と会うことにいくらかの不安はある。

 彼、というよりシャーレが有する強大な権限は、悪用しようと思えば学校の1つや2つを潰すことぐらい難なくできるもの。

 そんな権力を連邦生徒会長から与えられた「先生」とは、一体どのような人物なのか。もしキヴォトスを害することを目的としているのであれば……その時は、どう動くべきなのか。

 

「うぅ……緊張する……」

 

「だ、大丈夫かな……」

 

 だが幸か不幸か、思索に耽っている暇はあまりなかった。

 目の前を見れば、そこには身体の震えを隠しきれていない生徒が2人。青と白の制服を着た、KSSの1年生だ。

 それぞれζ小隊とι小隊のリーダーを任せられるほどの人材とはいえ、初の実戦ともなればその緊張は抑えられるものではないらしい。

 

「二人とも、落ち着け」

 

「わあっ!?」

 

「ひゃっ!」

 

 できれば見守りに徹したかったが、この状態はあまりよろしくない。

 背後から近づき、優しく肩を叩く。すると2人は飛び上がらんばかりに驚くと、慌ててこちらを振り向いた。

 

「か、カナメ先輩! びっくりさせないでください!」

 

「ああ、悪い。だがあまり緊張しすぎると、この先の行動に差し障りが出るぞ」

 

「そうは言っても……これはKSSの今後を左右する任務なんですよね?」

 

「いや、別にそんな事はないが」

 

「でもホナミ先輩が言ってましたよ! この任務に失敗は許されないって!」

 

「……なるほど」

 

 ホナミ、脅かしすぎだ。

 相変わらずあいつは発破のかけ方が過激すぎる。おかげで自信にまでヒビが入ってるじゃないか。

 

「ホナミが言いたかったのはそういう事じゃない。単に小さなミスとかに気をつけろというだけの話だ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「端から失敗すると思ってるなら、最初から出撃許可なんて出していない」

 

 肩に置いた手を2人の頭に移し、そのまま少し強めに撫でる。

 

「あなた達にはまだ実戦経験がない。でも逆に言えば、足りないのはそれだけだ」

 

「先輩……」

 

「難しく考えず、いつも通りやればいい。そうすれば自然と任務は成功する。私が保証する」

 

「……はい、分かりました!」

 

 いくらか強張りが取れた2人の顔を確かめ、頭から手を離した……その時。

 

「!」

 

 不意に自動ドアが開く音がした。

 今の位置からでは戻るのも間に合わない。咄嗟に2人と並ぶ形で整列し、姿勢を整える。

 

 すると現れたのは、グレーのスーツを身にまとった一人の青年男性。

 事前に見た写真の風貌と同じ青年―――シャーレの先生は、目の前に広がる光景に目を丸くする。

 それもそうだろう。職場を出たら装甲車と完全武装の兵士が待ち構えている状況なんて、立場が逆なら私だって驚いている。

 

 先生が驚きで固まってしまったことで、膠着する現場の空気。

 それを和らげるため、私は一歩前に歩み出た。

 

「おはようございます、先生」

 

「……おはよう。もしかして君達が、リンちゃんの言っていた護衛?」

 

「はい。連邦生徒会からの依頼に基づき、今回のアビドス訪問に同行させて頂きます」

 

 リンちゃん……もしかして七神代行の事か?

 聞き慣れぬ呼び名に首を傾げたくなるのを抑え、即座に敬礼を向ける。

 

「今回の護衛部隊の総隊長を務めます、樋渡カナメです。何卒よろしくおねがいします」

 

「うん。よろしくね、カナメ」

 

 そう言ってにこりと微笑む先生。

 どうやら少なくとも、表向きはフレンドリーな性格なのは間違いないらしい。

 

「あの……先生?」

 

 と、ζ小隊の小隊長がおずおずと私の隣に並ぶ。

 

「どうしたの?」

 

「その……もしかして、防具をお忘れではありませんか?」

 

「えっ?」

 

「外の世界の方は私達ほど頑丈ではないと聞いています。なので外出の際は、防具が必要ではないのかな、と」

 

 それは私も気になっている事だった。

 人間が銃弾に対してどれほど脆弱かは、前世を通してよく知っている。だから先生もボディアーマーか防弾チョッキのような防具を着てくるものだとばかり思っていた。

 しかし彼にそのようなものはない。見た限りでは来ているのはただのスーツだ。

 

「うん、それは大丈夫。とっておきの備えがあるからね」

 

 しかし先生に慌てた様子はない。

 その顔に油断や侮りといったものも感じられない以上、どうやら本当に何かしらの対策はしているようだ。

 しかし「とっておきの備え」とは何なのだろう。実はスーツが防弾仕様だったりするのだろうか。

 

 だがそんな事はどうでもいい。いや、良くはないが優先度は低い。

 私としてはもっと気になる事がある。

 

「先生、私からも一つよろしいですか?」

 

「何かな?」

 

「飲料水の類は、どちらで確保されるおつもりですか?」

 

 そう、見たところ彼は飲み物の類を一切持ちあわせていない。これから砂漠地帯のアビドスに赴くというのに。

 砂漠において水は命綱。それ無しに砂漠へ飛び込むのは、ゴム無しのバンジージャンプに挑むようなものだ。

 

「現地のお店で買おうかな、と思ってたんだけど」

 

「……現在のアビドスは過疎地帯です。土地勘のない我々では、水を売っている店に辿り着ける保証も、道を尋ねられる人に出会える保証もありません」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 七神代行。依頼を入れてもらい、ありがとうございます。

 もしこの人が一人でアビドスへ向かっていたら、最悪の場合遭難していたかもしれません。

 

 心の中でサンクトゥムタワーにいる首席行政官に感謝しながら、私は装甲車の1台を指し示す。

 

「幸い水は多めに確保しています。どうぞ、こちらへ」

 

「えっ、これに乗るの?」

 

「快適とは言い難いですが、安全な旅は保証しますよ」

 

 

 正直に言えば、少しばかり慣れがいる乗り心地なのは否定できない。

 それでも砂漠の炎天下を歩くよりは、よほどマシな旅路にはなるはずだ。




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