KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
日頃のご愛読ありがどうございます。いつも励みになっております。
砂漠の環境が過酷なのは、たとえキヴォトスであっても変わりない。
容赦なく照りつける日差しによって熱せられた大気。足を沈み込ませる細かい砂。そして気まぐれに吹き付ける風が生じさせる砂嵐。人の生存を拒絶するかのような環境は、立っているだけでも体力を奪い去っていく。
それに加えて壊れたドローンや警備ロボットまでもが徘徊し、訪れる者を襲う始末。確かにこんな魔境なら、普段から好き好んで立ち入る者がいないのも当然だろう。
「ここから先が、捨てられた砂漠……」
「砂だらけの市街地に行ったことはありましたが……ここから先は私も初めてです」
それでも私と対策委員会―――もといポカポカヘルメット団の面々は、どうにか目的地に向けて進みつつあった。
長らくアビドスに住む彼女達にとっても、この辺りは未知の領域のようだ。遮光度の高いバイザー越しに、恐る恐る周囲を見回しているのが見て取れる。
……ただ一人、先頭を歩く小柄な団員を除いては。
「いや~……久しぶりだねえ、この景色も」
「先輩、ここに来たことあるの?」
「うん、前に生徒会の仕事で何度かね~」
そういえば、昨日も生徒会長と2人で様々な事をしていたと語っていたな。
もしかするとここを訪れたのも、そういった活動の一環だったのだろう。
ただこんなところに、アビドス復興に繋がるチャンスがあるようにも思えないが……一体何をしていたのだろうか。
そんな疑問をそっと胸にしまいながら、私はホシノへと声をかける。
「って事は、この辺には詳しいのか?」
「まあね。例えばもう少し進めば……そこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!」
「え、オアシス?こんなところに?」
「まあ、今はもう全部干上がっちゃったんだけどね。元々はそんじょそこらの湖より広くって、船を浮かべられるくらいだったらしいよ〜」
「そんな湖も、今となっては砂の海か。やりきれねぇな」
アビドスの砂祭りについては、何かの資料で読んだことがある。かつての三大校にふさわしい、相当な規模の祭りだったそうだ。
そんな祭りが催されていた頃は、この辺りもきっと今とは違った景色だったに違いない。だが長年の砂嵐という災厄は、それを栄光もろとも砂の下に埋め尽くしてしまった。
もしかすると過去のアビドス生徒会が諦めなかったのは、その栄光を掘り出すためだったのかもしれない。
「砂祭り……私も聞いたことある。アビドスでは有名なお祭りで、すごい数の人が集まるって」
「ここでそんなすごいお祭りが? ちょっと信じられないわね」
「前までは、この辺りも結構住みやすい場所だったらしいからね〜……ま、思い出話はここまでにして、先に進もっか」
「目当てのセクターまではあと30分くらいの距離だ。ま、気楽にいこうぜ」
止めていた足を動かし、先に進み始める一行。
しかしよく聞いてみれば、足音が一つ足りない。振り向き見ると、セリカが一人立ち止まったままだった。
どうやら疲れたという訳でもないようだが……一体どうしたのだろうか。
「どうした、
「違うわよ! ただ、なんというか……」
何やら言い淀みながら、バイザーを上げてこちらをまじまじと見つめるセリカ。
その訝しげな視線を一身に受けていると、やがて彼女は再び口を開く。
「……やっぱりあんた、別人だったりしない?」
「何言ってんだ、んな訳ねえだろ」
「ほら、そういうところ! いつもと全然違うじゃない!」
「確かに。先生の護衛をしている時とは、だいぶ雰囲気が違いますよね」
「実はこっちが素だったりするんじゃな〜い?」
セリカの疑問を皮切りに、あちこちから飛んでくる興味と関心に満ちた声。
それに私は軽くため息をつくと、手にしていた銃を肩に担ぎ上げた。
「変装ってのは見た目だけを整えればいいだけじゃねぇ。しっかり内面まで上っ面に合わせてこそ、ちゃんとした効果を発揮するんだ」
「つまり今はヘルメット団になりきっているということ?」
「そういうこと。敬語で話すヘルメット団なんざ、今まで見たことないだろ?」
ヘルメット団は確かに変装しやすい。しかしそれでも
例えばトリニティ生のごとく優雅にティータイムに勤しむヘルメット団員がいれば、周囲は間違いなくヘルメットの中身を怪しみ出すだろう。
それを防ぐには、内面までヘルメット団になりきってしまうのが手っ取り早い。幸い数が多いので、サンプルにだって困らない。
「でもまあ、お前らはそこまで合わせる必要はないからな。何かあったらアタシがフォローするから」
「分かった。でも師匠、今度上手ななりすまし方も教えて」
「別に難しいことはねぇよ。そこらをうろついてる連中をしっかり観察しとけ」
「……なるほど。今度やってみよう」
「ちょっとちょっと〜、あんまりシロコちゃんに変なこと教えないでよ〜?」
あえて時間のかかる学び方を教えたのだが、それを真に受けて話に割り込んでくるホシノ。
しかしシロコは彼女に対し、首を横に振りながら言葉を返す。
「
「っとと、そうだったね。ごめんごめん、
彼女達が口にする聞き慣れない名前。それはヘルメット団として活動する上での偽名だ。
これから対峙するカイザーは、既にアビドスの情報を相当に掴んでいると考えるのが自然。そんな相手を前に名前を明かせば、いくら姿を欺いても正体がバレてしまう。
だから変装している間は、こうしてそれぞれの名前から取った偽名を名乗ることにした。意外と一文字抜けるだけでも、人は同一人物の可能性を疑えなくなるものだ。
『必要なのは分かるけど……やっぱりややこしいわ。頭がこんがらがりそう……』
『ニックネームだと思えばいいんですよ☆ ね、
「
そう答えて再び歩き始めた、その時。
『ルートの再計算が終わりました。今送ります』
「ありがとね〜、
通信機から響くアヤネの声と、礼を返すホシノの言葉。
それが耳に入った途端、思わず反射的に足が止めてしまった。
「どうしたの?」
「……オペレーターがアヤっていうのは、どうにもまだ慣れなくてよ」
「? 師匠と一緒に戦ってる時だって、いつも後方支援をしていたよ?」
「いや、そうだが……そうじゃねぇんだ」
「???」
こちらの言葉に首を傾げるシロコ。
だがこればっかりは分からなくてもしょうがない。同名の後輩がいるという、こちらの身にでもなってみなければ。
そんなことがありながらも、歩き続けて30分。
ようやく目的地へと辿り着いた私達の目に飛び込んできたのは、思いもよらない光景だった。
「何これ……なんでこんなものが?」
「この張り巡らされている有刺鉄線、優に数キロ先までありそう……」
「工場でもボーリング施設でもなさそうな……一体何なのでしょう、この建物は……?」
砂と岩だけの景色にはあまりにミスマッチな、明らかに人工物と分かる意匠の建造物。
見渡す限りに張り巡らされた塀から覗くのは、監視塔やサーチライトと思しき鉄塔。さらにその外周には、有刺鉄線がこれでもかとばかりに張り巡らされている。
そして所々にある金網のフェンスから見える、土嚢を積み重ねた陣地や何両ものトラック。これだけの情報があれば、いくら謎でもある程度は見当がつく。
「駐屯地だな。それも相当でかい規模の」
「駐屯地って……じゃあ、ここに軍隊がいるってこと!?」
「ああ。だがここはカイザーの土地だ。そこにこんなものを作れる連中なんて、一つしかないだろうよ」
「……カイザーPMC」
ホシノの言葉に、私は頷きを一つ返す。
カイザーグループに属する民間軍事会社にして、連中にとっては使い勝手のいい戦力。
こちらにとってはいい思い出のない顔見知りでもある。何しろカイザー系列の企業の摘発に出向けば、ほぼ毎回と言っていいほど出くわしてきたのだから。
いい加減縁も切れたと思っていたが……まさかこんな僻地で出会う事になろうとは。
『だとしたら、ヘルメット団のようなチンピラとはレベルが違います。本当に組織化されたプロの、文字通り軍隊のようなものです!』
「そうだな。はっきり言って、正面から挑むのはバカのやることだ」
訓練された兵士というのは、相手をする上でとても厄介だ。
例え個々の戦力は大したことがなくても、訓練で体得した連携は複数人を一つの生物に変える。それは時にして、突出した個であっても抑え込む力を発揮する事もある。
加えて駐屯地の規模からして、大隊以上の兵力が控えている事は間違いない。それだけの数の兵士が控えている基地に真正面から挑むのは、愚策以外の何物でもないだろう。
「だが調べてみる価値もあると思う。何しろこんな所に、これだけのものを作っているんだから」
『普通に考えたら不経済すぎる。なのにそうする以上は、きっと何か理由がある。そういう事だね』
「……もしかしたら、ここにカイザーがアビドスにこだわる理由があるのかもしれない」
「かもな」
とはいえ、この状況ではどうしようもないのも事実。ここは一度引き返して、新たな策を考えるべきだろう。
ここにカイザーの駐屯地があった。その事が分かっただけでも、十分な収穫だ。
「とにかく、今は一度戻るぞ。そして―――」
だがその時。こちらの声を掻き消すように、大音量でサイレンが鳴り響く。
……どうやら向こうも、こちらの存在に気づいたらしい。
「侵入者だ!」
「捕らえろ、逃すな!」
それと同時に正面ゲートが開き、中から飛び出してくるPMCの兵士達。
その手に握られた武装は、どれもカイザー製の最新型。この駐屯地に惜しみなく金がつぎ込まれている証拠だ。
「どうする、リーダー?」
「まともにカチ合いたくはないが……素直に逃がしてくれそうもねえな」
手にしたライフルを構え、素早く照準を補正。先頭に立つ兵士に狙いを定め、引き金を引く。
「ぐわぁ!」
「くそっ、この距離で当ててきたのか!」
弾丸が胸に命中し、地面へと転がる兵士。
それを目にした途端、周囲の兵士達は一斉に散開する。なるほど、確かに次の攻撃を避ける上では妥当な判断だ。
だが散開したということは、一時的にとはいえ数の有利を捨てたも同然。つまり少数のこちらにも、各個撃破の目が生まれる事になる。
「まずは先鋒を叩き潰す! 後は隙が出来るまで、逃げ回りながら戦うぞ!」
「ん、了解!」
「逃げるのはシャクだけど……こんな状況じゃ、そんなことも言ってられないよね!」
その隙を突いて突撃するシロコに、こちらに続いて狙撃を試みるセリカ。
さらにその後ろではノノミがガトリング砲を構え、ホシノがショットガンに初弾を送り込む。
「先生、奴らの戦術なら大体分かる! 分からない事があったらアタシに聞け!」
『分かった。カナメ、まずは右翼の相手を叩いて!』
「了解!」
『こちらからも支援物資を送ります!』
そして指揮を取る先生に、後方支援を行うアヤネ。
この布陣であれば、例えカイザーPMCが相手だろうとある程度は戦えるだろう。
「さて……一つ暴れてやるか!」
今の私達はヘルメット団。いくらこの場で暴れようとも、アビドスにもKSSにも悪評が及ぶことはない。
だとしたら一切の自重は必要なし。派手に暴れて、奴らの戦力を少しでも削ってやるまでだ。
そんな思考を脳裏に走らせながら、私は眼前に居並ぶ敵へと向けて飛び込んだ。
『第五波が来るよ! 今度は戦車もいる!』
「この地形なら……先生、奴ら正面を戦車で塞いで、左右から挟みこむ気だ!」
『ならホシノとシロコは戦車をお願い! ノノミとセリカは、カナメと歩兵の対処を!』
戦闘開始から十数分。戦況はどちらの有利とも言い切れない状況に突入していた。
こまめに場所を移し続けることで、こちらは包囲される事無く戦い続けることができている。しかしカイザーの方もまた、絶え間なく戦力を送り込むことでこちらを逃そうとしない。
既に相当な数を叩いたつもりだが、向こうに息切れの気配はない。恐らく持久戦になれば、先に力尽きるのはこちらの方だ。
「流石に、あまり楽じゃないな……!」
少し苦しくなってきた息を整えながら、誰に言うともなしに吐き捨てる。
翼を体に巻きつけている関係で、体温の上昇が普段よりも早い。それにきつく縛られた胸部は、こちらの呼吸を僅かに妨げている。
今はまだ行動に支障はない。しかしそれも、後どれくらい持つものか。
「リカ、ノノ! 右を頼む!」
「分かりました!」
「ああもう、本当にしつこいんだから!」
それでも立ち止まっていたところで、状況は好転しない。
ガトリング砲とアサルトライフルの絶え間ない発射音を背に、私は迫る兵士に向けて、鹵獲したグレネードを放り込んだ。
「ぎゃあっ!」
「畜生、やってくれたな!」
時間を調節した事もあって、放り込まれた直後に爆発するグレネード。
だが爆発を逃れた兵士の一人が、こちらに向けてロケットランチャーを放つ。咄嗟に飛びのけば、元いた空間をロケット弾が通り過ぎる。
砂に衝撃を預けながら、数度引き金を引く。次弾を装填しようとしていた兵士は、そのまま地面に倒れこんだ。
その直後、別の方向から轟く爆発。
見るとそこには、砲塔を天高くまで吹き飛ばしながら炎上する戦車が。その傍らにはライフルを構えたシロコと、鹵獲したロケットランチャーを抱えたホシノの姿もある。
「ロコ、シノ! やったな!」
『囮役が気を引いているうちに、ランチャーで物陰から砲撃。師匠の戦術、うまくいった』
『おじさんもこれくらいはやっておかないとねー。今日は盾も置いてきてるんだし』
あの二人ならまず大丈夫だと思っていたが……どうやらうまくいってくれたらしい。
だが安堵の息を吐いた矢先に、耳が僅かな雑音を捕らえる。
乾燥した大気に響き渡る、ローターブレ-ドが空気を切り裂く音……ヘリだ。
「皆隠れろ! ヘリが来るぞ!」
無線に向けて叫ぶと、先程倒した兵士の下へ走る。
そして気絶したその手からランチャーを引き剥がし、種類を確認。どうやらこれなら問題なく使えそうだ。
周囲に転がる弾頭を装填し、音の聞こえる方向へ向けて構える。同時に脳内では、可能な限りの計算を走らせる。
「―――見えた!」
待つこと数十秒、ついに音の主が姿を現した。
地をなめ回すような低空で飛行し、獲物を探し回る攻撃ヘリ。あれに空を抑えられてしまえば、逃げるにしても戦うにしてもだいぶ不利になる。
だから、ここで墜とす。そのための準備は既に整えてある。
「行けっ!」
目測よし。弾道計算よし。敵進路に顕著な変更―――なし。
全ての条件が揃ったのを確認すると同時に、トリガーを引く。激しいバックブラストを残し、ロケット弾が空へと駆けていく。
そして狙い通りに直進した弾頭は、進路上に飛び込んできたヘリのメインローターに直撃。生じた爆発で回転翼を吹き飛ばされたヘリは、急激に高度を墜とした末に地面へたたきつけられた。
『うへ~、そっちこそやるじゃん』
「こんな事、SRT生なら訓練すりゃ大体はできる!」
ロケットランチャーを投げ捨て、近くに落ちていたアサルトライフルを拾い上げる。
これで都合、5度目の銃の交換だ。幸い敵の銃の質が良いので、鹵獲して運用するのにもさしたる問題はない。
ついでに倒れた兵士の体からマガジンを抜き去ったところで―――ふと、ある違和感に気づいた。
「……増援が来ない?」
先ほどまでひっきりなしに増援の兵士を吐き出していた、駐屯地の正面ゲート。
しかしここに来て、そこから兵士は一向に姿を現さない。
「まさか、これで全部だったっていうの?」
「いえ、多分違います。これだけの基地なら、もっと多くの戦力がいるはずです」
「……となると、何か企んでいる?」
息を荒げながらも、この奇妙な状況を訝しむ対策委員会の面々。
だが何にせよ、これは撤退のチャンスだ。そう考えて号令を下そうとした―――その時。
『敵の増援を確認! かなりの数です!』
アヤネが通信機越しに、焦り交じりの声を届かせた。
それと同時に、ゲートから姿を現すカイザーPMCの兵士達。その数はざっと数十、これまでの増援の中で最も多い。
「なるほど、ここで勝負を仕掛けに来たって事ね!」
「……いや待て、何か様子が変だ」
だが数以上に気を引いたのは、その動き。
彼らがとっているのは、異様なほどの密集陣形。そしてこれまでの増援とは異なり、その展開速度もやけに緩慢だ。
普通ならまず考えられないような動き。だがこれが必要とされる状況が一つだけある。それは―――
「侵入者と聞いていたが……これは予想外だ」
その予想を裏付けるように、陣形の中心から響く低い声。
同時に散開する兵士達。その間を縫って現れたのは、上質なスーツを纏った大柄なロボの男だった。
「まさか、これほど活きの良いネズミが迷い込んでくるとはな」
「……誰だ、てめえ」
「私のことを知らないとは……まあ、ヘルメット団ごときでは無理もないか」
こちらの問いかけに、男は侮蔑の色を隠す事もなく嘲笑を漏らす。
「―――私はカイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。同時にこのカイザーPMCの代表取締役でもある」