KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~ 作:卵パサパサ感
言われてみれば、その顔に見覚えはある。
かつて敵情分析の一環として調べた、カイザーPMCのホームページ。そこには確かに、今目の前にいる男の姿が掲載されていた。
とはいえこんな場所、しかも形で出くわすことになるとは。流石にこれは想定外だ。
だが見方を変えれば、これは望外のチャンスでもある。
何しろ相手はこの場所に駐屯地を築いているカイザーPMCのトップ。しかもわざわざ足まで運んでいるのだから、何が行われているのか知らないとも思えない。
どうにかして彼から情報を抜き出すことができれば、カイザーの真意にも一つ近づくことができるだろう。
「ここは私が対応します。何が起ころうと、どうか静観を」
きっとこの場でそれができるのは、専門の訓練も受けている私だけ。
無線にそっと小声で呟くと、こちらを見据える理事へと向けて一方前に進み出る。
「カイザーPMCの理事……ってことは、結構偉いヤツなんだな」
「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今はカイザーPMCの代表取締役も務めている」
「……おう。ご丁寧な自己紹介、どうも」
……こいつ、どうやら相当に自己顕示欲が強いらしいな。聞いてもいないのにいきなり肩書を並べ始めたぞ。
だがおかげで良いことが分かった。カイザーローンにカイザーコンストラクション、それらはどちらもアビドスを脅かす陰謀の中核を成す企業だ。
つまりこの理事は何か知っているどころじゃない。全てを知っていると考えた方が自然だ。
「で、その偉い人が何の用だよ? まさかあんたまで戦いに来たってのか?」
「まさか。派手に暴れている不法侵入者がいると聞いたから、興味本位で見に来ただけだ」
「不法侵入? アタシらが一体どこに忍び込んだってんだよ?」
「君達は知らないだろうが、この砂漠は全て我々の私有地なのだよ。つまり君達は勝手に私有地へ不法侵入した挙げ句、善良なるPMC職員たちを攻撃した不法侵入者という訳だ」
「へーえ、そりゃ知らなかったなぁ。何せそんな事、どこにも書いてなかったもんだからさ」
ちゃらけた口調で挑発を向けるも、理事は顔色一つ変えることはない。
流石は企業の重役。この程度で感情を乱すことはないか。
「まあ、そうケチ臭いこと言うなって。これだけだだっ広い土地なんだから、宝探しの一つくらいさせてくれよ」
「……ほう、宝探しだと?」
しかしその直後。
こちらが放った何気ない一言に、理事は僅かに首を傾げた。
「こんな砂漠で、一体何を探すつもりだ?」
「決まってんだろ、埋蔵金だ! 何だったら迷惑料として、あんたらにも幾らか分けてやってもいいぜ?」
そう言って鞄の中から、1枚の古い地図を取り出す。
これはキヴォトス三大埋蔵金の在り処を示している……などという謳い文句の元、ブラックマーケットのあちこちで売られている偽の地図。よく一攫千金を夢見たチンピラなんかが騙されて買っている、ありふれた詐欺商品だ。
しかしこの状況では、こんなものでも絶妙な働きを見せる。デタラメな地図に騙されてわざわざアビドス砂漠まで来た、バカなヘルメット団を演出する小道具として。
「ふ……はははっ! 何かと思えばそんなことか!」
そして案の定、その愚かな姿は嘲笑の対象となる。
だが次に理事が放った言葉は、こちらの想定から外れたものだった。
「生憎だがそれは偽物だ。ここにそんなものが埋まっているはずもないからな」
「何で決めつけるんだよ。まだ見つかってないかだけもしれないだろ?」
「既にこちらで調べたからだ。この辺り一帯は既に掘り尽くして、何もない事が確認されている」
「……へぇ」
こちらで調べた。そして一帯を掘り尽くした。それらの言葉が意味するのは、カイザーがこの地の埋蔵物を調査していたという事実。
アビドスに有望な地下資源がないという事は、既に過去の調査で判明している。にもかかわらずそんな事をしているのは、そうするだけに値する何らかの理由があるということ。
砂漠のど真ん中にこんな施設を立ててまで、探し求めているもの。それこそがこの謎の手がかりになるものかもしれない。
となればやる事はただ一つ。どうにかして懐に飛び込み、情報を掠め取るまで。
「……ってことは、マジか。また偽物を掴まされちまったのかぁ!?」
両手で頭を抱え、その場に蹲る。
少しオーバーすぎるかもしれないが、今はこれでいい。動作が少し大げさすぎる方が、より一層バカっぽく見えるものだ。
「畜生、今度こそは本物だって思ったのによぉ! 全財産はたいて買ったのによぉ……!」
「ちょっとリーダー、どうするのさ〜」
「このままじゃ一文無し。また3食抜きの生活は嫌だよ」
これみよがしに地面を叩いて悔しがってみせると、横合いから飛んでくるホシノとシロコの野次。
意図が伝わったのか、それともノリで言っているだけなのかは分からない。それでもこの状況での援護射撃としてはありがたい。
「ま、まあ待て。今次の策を考えるからよ。それもとびっきり冴えてるやつをさ」
体を起こし、天を仰いで考え込むふり。同時に加工を施したゴーグル越しに、横目で周囲の様子を伺う。
見れば理事は呆れと見下しが入り混じった目で、こちらの醜態を見つめていた。
そこに訝しみや警戒の色は一切ない。これなら次のステップに進んでも問題ないだろう。
「……そうだ!」
ぱちんと指を鳴らし、その勢いのまま理事へ向けて一歩踏み込む。
周囲の兵士が咄嗟に周囲を固めるが、何ら問題ない。なんなら必要によっては、ちょっとしたアピールに使えるかもしれない。
「なあ、理事さんよ。アタシ達を雇ってみる気はねぇか?」
「……何だと?」
「実力に関しちゃ
そう言って手で指し示すのは、周囲に倒れた兵士達や戦車の残骸。
お前達の抱える戦力をここまで叩ける力がある―――戦闘能力のアピールとしては、これ以上のものもない。
「ふん、不法侵入の次は戦力の押し売りか。呆れてものも言えんな」
「別に雇わないっていうなら、それでもいいんだぜ? その代わりこっちにも考えがあるけどな」
「ほう? なんだ、言ってみろ」
「あんたらの戦車を1台、無傷でかっぱらう。ブラックマーケットで売れば、数日分の飯代にはなるだろうよ」
「何だと、貴様!」
次の瞬間、周囲の兵士が一斉に銃口をこちらに向けた。
一歩間違えば蜂の巣になりかねない状況。しかし慌てることなく、悠々と腕を組んでみせる。どれだけ虚勢を張り通せるかが、ハッタリの成否の分かれどころだ。
そのままにっと口角を吊り上げてみるも、よく考えれば今はガスマスクを装備中。表情でのハッタリはできないのを忘れていた。
「アタシ達はできる事しか言わないぜ。そこら辺、よく考えてみてくれよ」
「……いいだろう。ちょうどこちらも、生じた損害を払ってもらいたかったところだ」
「賢明なご決断どうも、理事さん」
カイザーはアビドスへの攻撃に、自社の戦力を用いようとはしない。ヘルメット団しかり便利屋68しかり、これまでは必ず外部の戦力を金で釣って投入してきた。
しかし便利屋68は先日依頼に失敗し、契約を打ち切られるのはほぼ確定。そんな状態で使える戦力が自分を売り込んでくれば、いくらでも使い潰せる駒として食指が動くだろう。
そんな考えの元に一芝居打ってみたが……どうやらうまくいってくれたようだ。
「それで、何をすればいい? 大概のことなら、卒なくこなしてやるぜ」
「アビドス高校の事は知っているな?」
「ああ。何でもたった5人で学校を守ろうとしてるって連中だろ?」
「そいつらを排除して、校舎を占拠しろ。働き次第では追加の報酬も出そう」
「こいつっ……!」
「リカちゃん、落ち着いて下さい!」
「今動いたら全部台無し。抑えて」
背後から聞こえる小声の会話。案の定理事の言葉は、セリカの逆鱗に触れたらしい。
そんなやりとりを悟られないように、私は少しだけ声を大きくする。
「分かった。けど、なんで自分達でやらねえんだ」
「どういう意味だ?」
「たった5人の学校だろ? ご自慢の戦力で押し潰しちまえばいいじゃねえか」
「……これだから、物の道理を知らない奴は困る」
軽く嘆息すると、わざとらしく首を横に振る理事。
……偽りを説いて真実を知る。人は他人の間違いを見ると、つい訂正したくなるものだ。
「いいか? あの学校に生徒が在籍しているうちは、アビドス自治区は奴らのものだ。そこに攻め込めばどうなると思う?」
「分からねぇ。どうなるんだ?」
「連邦生徒会に余計ないちゃもんを付けられるのだ。やれ自治権の侵害だなんだ、とな」
「……政治の話ってやつか」
「我々カイザーPMCは
「なるほど、高尚なことで」
思わず乾いた笑いが漏れる。
これはお笑いだ。現在進行系で不良をけしかけようとする奴らが、自分でクリーンな企業を名乗るなんて。
だがおかげで個人的な疑問が解消できた。カイザーが直接的な行動に出なかったのは、未だアビドスに残る自治権を警戒してのことだったのか。
「難しいことは分からねぇが……とにかくあんたたらが、アビドス高校の連中を鬱陶しがってるのは分かったよ」
「鬱陶しがってる? 違うな、ただ邪魔なだけだ」
「……何が違うんだ、それ?」
「我々は奴らに対処できない訳ではない。奴らが毎月律儀に返済している利息の金利を上げれば、それだけでたちまち音を上げるだろうよ」
そこで言葉を切ると、理事は再び大きく息を吐く。
「……だが、なぜ
それはどうしようもないほどの侮蔑と、煩わしさがこもった言葉だった。
それは例えるなら、歩道にはみ出す形で駐輪している自転車を見かけた時のような感情。通行の妨げになる鬱陶しさと、撤去する面倒さが両立した情緒。
……ああ、そうか。この男にとって、アビドスはその程度の存在なんだ。
「君はどう思う? たった5人の学校が、9億円近い借金を返済しきることができると思うか?」
「……現実的じゃあないだろうな」
「そうだろう。君でも分かることが、あの連中は分かっていない。……いや、分かろうとしていないだけか」
拳を握ろうとする手を、どうにか理性で押さえ込む。
何も知らないお前が何を。そう叫びたくなる衝動を食い止める。
落ち着け、冷静になれ。ここで怒ったところで、何も解決しない。
「我々も忙しい身だ。だから付き合っている暇などないのだよ―――現実知らずな子供のままごとには」
「……黙って言わせておけばっ!」
『リカちゃん、駄目っ!』
「リカっ!」
だが自分を抑えられても、他人に関してはそうもいかない。
対策委員会の面々、特にセリカの怒りは既に臨界点に達している。このままではいつ暴発してもおかしくない。
これ以上理事に話させるのは駄目だ。何としても会話の主導権をうばい取らなければ。
「……理事さんよ。いい加減、もっと建設的な話をしようや」
だから私はすぐさま、脳裏で計画を練り上げる。
もし自分が襲撃者側なら、アビドスをどうやって破壊するか。そんな普段なら考えたくもない計画を。
「あんたは色々難しく考えすぎだ。全部まとめて吹っ飛ばしちまえばいいんだよ」
「ほう、何か考えがあるというのかね?」
「学校の地下まで穴を掘って、そこにしこたま爆薬を仕掛けるんだ。そうすりゃ後はスイッチ一つで……木っ端微塵さ」
「なるほど、坑道爆破か。面白い手を考えつくな」
爆発を模して握った手を開くと、心なしか、理事の目が細められた。
こういう男は何かと派手なものを好む。その予想は的を射ていたようだ。
「二週間ほど時間をくれ。そうすりゃあんたに特等席でショーを見せてやるよ」
「……いいだろう。だだし、一つだけ条件がある」
「なんだよ、そりゃ?」
「あまり深く爆薬を仕掛けすぎるな。もし
ただ聞いただけでは、今一つ意味を掴みがたい言葉。
しかしこれまでの推論と合わせれば―――その意図と狙いを察するのは難しいことではなかった。
「……何もないな」
それから数時間後。
半分ほど砂に埋もれた廃墟の一角で、私はアタッシュケースを改めていた。
その中に詰め込まれているのは大量の札束。あの後理事から
外面や内面はもちろんのこと、取っ手や金具に至るまで。一通り怪しい箇所を確認してみたものの……何かが仕込まれた形跡はどこにもない。
加えて電波探知機にも一切の反応はなし。つまり発信機の類が仕込まれている可能性は、限りなくゼロに等しい。
「仕込む価値もない、という事か」
独り言を吐き捨て、アタッシュケースを閉じる。
そして廃墟を後にすると、出迎えたのはヘルメットを脱いだ対策委員会の面々だった。
「どうでしたか? やっぱり何か仕掛けられてたり……」
「いえ、何も。恐らくこれを起点とした罠はありません」
「……そ。いっそ襲ってきてくれた方が、気も楽だったんだけど」
「セリカちゃん……」
目を伏せるセリカの肩に手をかけるノノミ。
だが彼女もまた、固く結んだ唇を隠すことができていない。
「……って事は、このお金は全部持ち逃げできるって事だねー」
「ん……ざっと600万はある。これだけあれば、来月の利息返済はだいぶ楽」
大金を前にしたシロコでさえも、どこか言葉に覇気がない。
相対的に元気なのはホシノだけ。しかしその素振りから、彼女もまた空元気を出しているのが察せられた。
……それも無理はないだろう。あんなものを、あんな態度を見せつけられてしまったら。
「……今回の接触で、二つ分かったことがあります」
それでも現状を整理するため、私は皆に向けて口を開く。
「まず一つ目は、カイザーの狙いはアビドスの地下に眠る「何か」であるということ」
「宝物……なんて言ってたよね、あいつ。そんなもの、本当にあるのかしら?」
「少なくともカイザーはそう思っているのでしょう。それにこれを前提とすれば、奴らの動きにも説明が付きます」
仮に地下資源が目的だとしたら、自治区全体を支配下に置こうとするのはあまりに非効率だ。
だがその「宝物」とやらが目的なら、これは大雑把ながらも合理的なやり方になる。アビドスの地下にあるというのが確定しているのなら、アビドス全土を掘り返せばいずれ見つけられるだろう。
「その「何か」を見つけるために、最後に残ったアビドス高校の土地を狙っているんですね」
『ということは……別の場所で「宝物」が見つかれば、カイザーはアビドスを諦めるのでしょうか?』
「どうだろうねー。あの連中だから、なんのかんの言って諦めないんじゃない?」
ようやく判明した敵の狙いに、にわかに盛り上がりを見せる場の空気。
だがそれは逃避でしかない。一番理解するべき現実から、必死に目をそらしているだけだ。
もちろん気持ちは分かる。しかしここに触れなければ、きっと先には進めない。
「……そしてもう一つ」
そう口にした瞬間、場の空気が凍り付く。
だが、誰かがやらなければならない事だ。私は意を決して、次の言葉を言い放った。
「―――カイザーは貴方達を……アビドスを、敵とすら認識していません」
『鬱陶しがってる? 違うな、ただ邪魔なだけだ』
『我々も忙しい身だ。だから付き合っている暇などないのだよ―――現実知らずな子供のままごとには』
脳裏に理事の言葉と表情がフラッシュバックする。
それは明らかに敵ではなく、障害物か何かを相手にするかのような態度。仮にも自治組織である学校を相手にする姿勢ではない。
それはつまり、カイザーが既に護身を完成させている可能性が高いということ。法的にも軍事力的にも、少なくともアビドスが想定するあらゆる局面で。
「仮に想定通りなら、もはやアビドスは……勝負の土俵にすら上がれないでしょう」
その言葉に応える者は誰もいない。
ただ砂混じりの風だけが、私達の間を通り抜けていった。