KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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隼と梟

「これでいい?」

 

「はい、確かに」

 

 キヴォトス某所に設けられたオフィスの一室。

 デスクランプの灯りのみが灯る薄暗い室内で、ホシノが一枚の書類を机上に差し出す。

 それを受け取った異形の男―――黒服は内容を確認すると、満足げに頷いた。

 

「契約書にサインも頂いたことですし……これで、ホシノさんがお持ちの生徒としての全権利は、私の元に移譲されました」

 

 この瞬間こそ、彼が待ちわびていた時だった。

 キヴォトス最高の「神秘」を持つ小鳥遊ホシノ。そんな彼女を実験体として、己の研究―――神秘の裏側にある「恐怖」を生きている生徒に適用できるか―――を実証する。その計画をようやく実行に移すことが出来る。

 最初に話をもちかけておよそ2年。それなりの時は費やしたものの、ついにホシノは彼の勧誘を受けたのだ。

 

「これで正式に、アビドス高校が背負っている借金の大半は、こちらで負担することにしましょう」

 

 これであんなくだらない企業の、詐欺紛いの行為を支援した甲斐もあったというもの。

 そんな内心を無機質な顔の下に抑えながら、黒服がそう口にした―――その時。

 

「……それ、いつ履行されるの?」

 

「!」

 

 不意にホシノが問いを投げかけた。

 予想外の問いかけに、一瞬だけ黒服の言葉が詰まる。

 

「なぜ、そのようなことを?」

 

「契約書を読んだけど、借金の権利が移行するタイミングについてはどこにも書いてなかった。ということは、あなたの好きなタイミングでできるって事でしょ?」

 

「確かに、そのような解釈も可能ですね」

 

「だったら今履行して。今すぐ、私の目の前で」

 

「……ほう」

 

 強気の姿勢を見せるホシノ。そんな彼女を前に、黒服の顔に走る亀裂から漏れる光が仄かに増す。

 確かに彼は契約書に、借金の肩代わりを行うタイミングについて記載していなかった。この後の流れを考えれば()()()()事項だったからだ。

 少なくとも黒服が知る限り、彼女はこのような書面上の戦いに長けている生徒ではない。だからこそホシノにこの事を指摘されるのは、彼にとっても思いがけないことだった。

 

「どなたかに教わったのですか?」

 

「親切な友達からね。こういうことはしっかり確認しておいた方がいいって」

 

「なるほど、良い友人をお持ちのようだ」

 

「それで、履行してくれるの? それとも……何かできない理由があるの?」

 

 疑念を込めた視線を向けるホシノ。対する黒服は、眼前で手を組み黙考する。

 確かに予想外の事態ではあるが、何か問題がある訳ではない。既にホシノのサインが記された契約書が手元にある以上、己の目的は既に達せられているのだから。

 だからこの要求に応じようと応じまいと、黒服にとっては何の問題もないのも事実だ。

 

(……まあ、いいでしょう)

 

 それでも黒服はホシノから視線を外し、手元の端末を操作し始める。

 ここで応じなければ、ホシノは機嫌を損ねるかもしれない。逆に応じれば、彼女は自身の実験にも協力的な姿勢を示す可能性もある。

 どちらにせよやることは同じだが、実験体のコンディションが良いに越したことはない。そのための費用と思えば安いものだろう。

 

「……手続きが完了しました」

 

 そして操作が終わった所で、黒服は端末を机に差し出した。

 画面に映し出されていたのは、アビドスが抱える借金の総額。長らく9桁目が「9」で固定されていたそれは、今や別の数字が並んでいる。

 

「9億6235万円のうち、5億1235万円を引き受けました。残るアビドスの借金は4億5000万円です」

 

「へえ、本当に半分以上も肩代わりしてくれたんだ」

 

「そういう契約ですからね。これでご満足いただけましたか?」

 

「……うん。きっとみんなも少しは楽になるだろうね」

 

 そう呟き、もう一度画面に並ぶ数字へと視線を落とすホシノ。

 

「これでもう、思い残す事はないよ」

 

 その顔には先程までの、警戒心に満ちた色はない。

 ただ満足げな微笑だけが浮かんでいた。

 


 

「ふふふっ、ふふふふふふふ……!!」

 

 夜明け前のアビドス砂漠を走る、カイザーPMCの車列。

 その一角の車両の中で、カイザーPMC理事は漏れ出る笑いを抑えられずにいた。

 それもそうだろう。ついに今日、長年の障害がこの世から消え去るのだから。

 

「最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!!」

 

 小鳥遊ホシノが契約に応じた。その知らせが黒服から届いたのは、ほんの数時間前の事だった。

 それはすなわち、アビドス生徒会の副会長が退学したということ。同時に生徒会が消滅し、アビドス高校が学校として成立する要件が失われたということでもある。

 学校が成立し得ない以上、自治区に対する自治権ももはや存在しない。つまりアビドス高校の生徒達は、もはや土地を不法占拠する違法集団と成り下がったのだ。

 

 こうなればもはや、カイザーに躊躇う理由はどこにもない。 

 ()自治区の住民は全て退去させ、学舎を占拠する生徒は武力で排除する。そうすればアビドス自治区は完全にカイザーのものになる。

 もしかすると()アビドス生は抵抗するかもしれない。しかしそれもカイザーPMCの圧倒的な戦力を前にしては、まさしく蟷螂の斧だ。

 

 車列がアビドス自治区に到達するまで後1時間もない。そしてその時が、アビドスの最後になる。

 そう考えた理事が、再び高笑いを漏らそうとした―――その時。

 

「ぐおっ!?」

 

 突如激しい爆発音が、彼の耳に飛び込んできた。

 さらに一瞬遅れてかかる急制動。急激な挙動を前に、大柄な体をシートベルトがきつく締め付ける。

 それでもどうにか体勢を立て直した理事は、操縦席の兵士に向けて怒鳴りつける。

 

「何事だ!」

 

「攻撃です! 先頭を走っていた戦車が撃破されました!」

 

「攻撃!? 一体どこからだ!」

 

「わ、分かりません! どうも報告によると……上方からの攻撃を受けたようです!」

 

「上方だと!?」

 

 ここは砂漠の真っただ中。見渡す限りの砂原に、上から戦車を狙えるような建造物はどこにもない。

 それにいくら耳をすませてみても、独特な風切り音はどこからも聞こえない。つまりヘリコプターからの攻撃でもないという事になる。

 ヘリでも建造物からでもない。なら一体、戦車はどこから攻撃されたというのか。

 

「ええい、役立たずどもめ!」

 

「理事、危険です!」

 

「うるさい!」

 

 兵士の制止を振り切り、車のドアを開けて車外へと飛び出す。

 そして空を見上げて周囲を見渡した―――次の瞬間。彼の視界の片隅を、何かが縦に横切った。

 慌てて視線を向けると、それは既に地上に降り立っていた。己のはるか前方、車列の先陣に並ぶ装甲車の直上へと。

 

 遠方な事もあって、詳細な姿までは見て取れない。だがその輪郭から、人間であることは容易に察せられる。

 大きな翼を広げたそれは、手にした銃を下方に向けて数度撃ち放つ。それが終わればまた別の装甲車に飛び移り、同じことを繰り返す。

 まるで流れ作業のように、数秒間隔で行われる一連の行動。その度に響く数発の銃声。それが何を意味するかは火を見るよりも明らかだ。

 

「総員戦闘態勢! あの襲撃者を排除しろ!」

 

 理事が号令をかけるが早いが、輸送車やトラックから飛び出す多数の兵士達。

 彼らは状況を理解できない様子ながらも、素早く襲撃者を取り囲む形で展開。一斉に銃を構え、無数の銃口をたった一人の相手へと向ける。

 だがその引き金が引かれるよりも早く、襲撃者は大きく翼をはためかせた。

 

 刹那、その体が装甲車の上から消えた。

 直後に響く無数の銃声。だが突然の挙動には間に合わず、弾丸は元いた場所を空しく通り過ぎるだけだ。

 そして再び上空に身を晒した襲撃者は、勢いよく体をひねる。体操選手を髣髴とさせるその回転とともに、多数の何かが飛散する。

 程なく地表に落下した、パイナップル状の金属物。それを認めた途端、兵士達は思わず叫び声を上げた。

 

「伏せろ、手榴弾だっ!」

 

 直後、炸裂する多数の手榴弾。  

生じた爆発と金属片の嵐は、対応が遅れた兵士を容赦なくなぎ倒す。

 さらに爆風により巻き上げられた細かな砂も、天然の遮蔽物と化して兵士たちの視界を妨げる。

 

「ぐわぁっ……!」

 

「くそっ! どこだ、敵はどこにいるんだ!……があぁ!」

 

「コンタクト……う、嘘だろ!?」

 

「おい、どうした! 正確に報告しろ!」

 

「消えたんだ! 翼で砂を巻き上げたと思ったら……そのまま消えたんだよ!」

 

 しかしそれは混乱の序章に過ぎなかった。

 前方のあちこちから響く銃声と悲鳴。さらに次々と巻き起こる砂煙。

 砂煙による視界の阻害は、あくまで数秒程度しか持続しない。しかしその数秒のうちに味方は撃ち倒され、敵は姿を消してしまう。

 そんな状況を前にしては、奇襲を受けた兵士たちが冷静さを保てるはずもない。

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

「違う! あの砂煙の中だ!」

 

「誰か助けてくれ! 脚をやられた!」

 

 錯綜する情報。飛び交う悲鳴。そして敵の姿を捉えられないという恐怖。

 それらの要因が相まった結果、もはや兵士達の統制は壊滅的なものと化していた。

 

「ええい、何をやっている! 敵はたった一人だぞ!」

 

「理事、危険です! 車にお戻りください!」

 

 たった一人の相手に、数百もの兵士が手玉に取られている。

 あまりの体たらくに歯噛みするも、それでどうにかなる訳でもない。それに襲撃を受けている今、屋外にいれば危険なのも事実だ。

 胸に憤懣を抱えながらも、護衛に促されるまま車内に戻ろうとした、その時。突如強烈な砂煙が、彼らを包み込んだ。

 

「ぐぅっ!?」

 

「まずい、理事を……がっ!」

 

 思わず目を瞑った直後、隣から悲鳴が響く。

 どうにか様子を伺おうと薄目を開ける理事。だが飛び込んできたのは、思いもよらぬ人物の姿だった。

 純白の短髪に黒い斑入りの白い翼。そして細められた琥珀色の瞳に、風を受けてはためく黒灰色のブレザー。

 確かに見覚えのあるその生徒は、眼前の理事へと向けて大きく銃を振りかぶる。

 

「うごっ……!」

 

 直後、側頭部に走る鈍痛と衝撃。たまらず地面へ転がる理事の横を、突風が過ぎ去っていく。

 だが地面に這いつくばりながらも、理事はその相手の正体を掴むことに成功していた。

 

「樋渡カナメ……KSS警備学園か!」

 

 職業柄、あの独立宣言とでも言うべき記者会見の事は覚えている。

 元SRTという点こそ気にかかるが、規模はカイザーPMCの足元にも及ばない零細PMC。そんな認識しかなかったが、まさかこうして楯突いてくるとは。

 だが、なぜPMCであるはずのKSSがここにいるのか。まさかアビドスが雇ったとでもいうのだろうか。

 

「理事、お体の方は!?」

 

「大丈夫だ!……それよりもあの敵を片付けろ!」

 

 だが痛む頭では、それ以上の思考はおぼつかない。

 駆け寄ってきた兵士の助けを借りて、どうにか体を起き上がらせる。

 そのまま車に乗り込もうと車内を覗き込んだ、次の瞬間。彼の表情は一瞬で硬直した。

 

 奇襲を受けてやられたのだろう。力なくハンドルにもたれかかる運転手。

 そして助手席にある、濃緑色の物体。小さな小包程度の大きさのそれは、黒いテープでぐるぐる巻きにされた状態で、放り込まれたかのように無造作な形で転がっている。

 そしてテープの隙間から見えるのは、黄色で記された「C-4」の文字。

 

「理事ぃ!!」

 

 直後、勢いよく突き飛ばされる体。

 さらに砂地へ体が打ち付けられたところで、激しい衝撃が追い打ちの如く襲い掛かる。

 それは理事の意識を暗転させるには十分すぎるものだった。

 

 

 


 

「ぅ……ぐっ……」

 

「理事、ご無事ですか!」

 

 理事が意識を取り戻したのは、およそ十数分後のことだった。

 痛む頭と体をこらえ、ぼろぼろになったスーツについた砂を払いながら立ち上がる。

 そして周囲を見渡した彼は―――その惨状に思わず目を疑った。

 

「何だ、これは……!?」

 

 真っ黒に焼け焦げた、あるいは横転した姿を晒したトラック。

 それも一台や二台ではない。車列に並ぶほとんどの車両が、何かしらの損傷を受けている。

 その周囲には負傷した仲間に救護処置を行う兵士達。それが両手の数で収まる範囲を超えている事は、注視せずともすぐに分かる事だった。

 

 想像を絶する光景に、思わず言葉を失う理事。

 そんな彼に応急手当を施す兵士がそっと囁く。

 

「どうやら敵の目的はこちらの車両の破壊だったようです。こちらを攪乱している隙に、爆弾を仕掛けたと推測されます」

 

「……どれだけやられた?」

 

「少なくとも全体の6割は。爆薬は少量だったようですが、搭載していた弾薬に誘爆したものは……」

 

「6割だと!?」

 

「装甲車もエンジンに徹甲弾を撃ちこまれています。中には完全に破損したものも……」

 

「それで敵は? 仕留めたんだろうな!?」

 

「いえ、それが……混乱に乗じて、トラックの一台を奪い……」

 

「……くそっ!!」

 

 感情に任せて叩きつけた拳が、僅かに砂を巻き上げる。しかしその程度で怒りが収まるはずもなかった。

 たった一人に数百人もの兵士が翻弄され、挙句の果てに車両の6割を破壊された。PMCのトップとして、これ以上に屈辱的な事はない。

 それ以上に……ようやくアビドスを併合できるというこの日に、思い切り冷や水を浴びせられた。それが理事にとっては、何よりも許しがたいことだった。

 

「―――KSSだ」

 

「は、はぁ?」

 

「なけなしの金でPMCを雇ったのだ、アビドスの連中は!」

 

 忌々し気に掃き捨てながら、傷ついた体を起き上がらせる理事。

 

「動く車両に無事な兵士を詰め込め! そうでないものは駐屯地からの救援隊に回収させろ!」

 

「ま……まさか侵攻を継続するつもりですか!? 無茶です!」

 

「無茶でもなんでもいい! ここまでされて、すごすごと引き下がれるか!」

 

 それは明らかに合理性を欠いた、感情的な判断だった。

 常識的に考えれば、これだけの損害が生じれば撤退して戦力の再編成を行うべきである。だが今の理事にその選択肢はなかった。

 死に体の……いや、既に死んでいるアビドス相手にいいようにしてやられた。その怒りが、彼から冷静な判断能力を奪い去っていたのだ。

 

「分かりました……ですが、応急修理が必要な車両も多いです。最低でも後2時間は必要かと!」

 

「だったら急がせろ!」

 

「りょ、了解!」

 

 慌てて自分の元を去る兵士を見送り、理事は侮蔑的な笑みを浮かべる。

 ここに来て2時間の遅延が出るのは想定外だ。だが、それで何が変わる訳でもない。

 アビドスの生徒達がどのようにしてPMCを雇う金を捻出したのかは分からない。しかし彼女達は、KSSが自分達を追い払う事を期待していたのだろう。

 しかし現実はこれだ。たった2時間生きながらえる時間を買っただけに過ぎない。

 

「……無駄な事を。今更足掻いたところで、何も変わらないというのに」

 

 昇る朝日に照らされ、次第に気温が上がり始める砂漠。

 その空に理事の嘲笑が響き渡った。

 


 

「カイザーのトラック!? 早く止めないと!」

 

「待って! 乗ってるのはカナメ会長だ!」

 

 奪ったトラックでアビドス高校まで戻ってくると、早速ι小隊の隊員が出迎えてくれた。

 ……その割に銃を向けかけていた事は、見なかったことにしよう。この状況でカイザーの社章付きのトラックが来たら警戒するのは当然の事だ。

 そんなことを考えながら、トラックを止めてステップを降りる。だが足が地面に着いた途端、その力がふっと抜けた。

 

「ぐっ……!」

 

 咄嗟にバランスを取ろうとするも、足へ思うように力が入らない。

 そのままぐらりと崩れる体。どうにか受け身は取れたものの、そのまま地面へと倒れこんでしまう。

 

「カ、カナメ会長っ!?」

 

「……少し疲れただけだ。悪いが、肩を貸してくれないか」

 

 羽ばたきを併用した加速はかなりの体力を消耗する。それをいつも以上に連発したのだから、こうなるのも無理はない。

 加えて今回は重量物を抱えて長距離を滑空したことも響いた。ライフルグレネードに手榴弾、そして便利屋68から譲ってもらったC4爆弾。それだけ詰め込んで高度を維持していたのだから、体力切れにだってなる。

 だがそれだけのことをした甲斐はあった。この状況で、貴重な時間を稼ぎだす事が出来た。

 

「お疲れ様、カナメ」

 

「わっ……大丈夫ですか!?」

 

「ええ、どうにか」

 後輩の肩を借りて校門をくぐると、校舎から歩いてきたのはアヤネと先生。

 校門の柱に支えを移しながらも、私は心配そうな二人へ笑顔を見せる。

 

「ホシノさんからの依頼は無事達成しました。後数時間は余裕ができるでしょう」

 

「それなら住民の皆さんの避難も間に合いそうですね。ありがとうございます」

 

「ただ……少々体力を使いすぎました。次の戦闘には参加できそうにありません」

 

「ううん、大丈夫。今はしっかり休んで」

 

 優しい言葉とともに、首を横に振る先生。

 動ける戦力は少しでも多い方がいいはずの状況なのに、よく嫌味の一つも出てこないものだ。本当に生徒を慮っているのだろう。

 

「そちらの状況は?」

 

「シロコ先輩達が自治区の皆さんの避難誘導を。それと便利屋の皆さんが、校舎周辺にトラップを仕掛けています」

 

「こっちも連邦生徒会の承認が下りた。これでいつでも大丈夫だよ」

 

「良かった。今のところ、順調そうですね」

 

 カイザーの襲撃から住民を守るための、アビドス高校への避難誘導。そして今回の作戦の鍵となる、連邦生徒会からのある承認。

 この二つが順調に進んでいるのなら、何も問題はない。カイザーがどれだけの戦力で攻めて来ようと、奴らが本懐を達する可能性は万に一つもなくなるはずだ。

 

「……でも、本当にうまくいくでしょうか」

 

 そんなことを考えていると、アヤネがぽつりと呟いた。

 

「心配ですか?」

 

「もしこの作戦が失敗したら、アビドスはなくなってしまう。ホシノ先輩も戻ってこない……そう考えてしまうと、どうしても不安になってしまって」

 

 確かに彼女達にとっては、これは一世一代の賭けだ。

 勝てば多くのものを得て、負ければ全てを失う。まさにハイリスク・ハイリターンな作戦であることは間違いない。

 もし失敗してしまったら。そんな考えがよぎるのも無理はない。

 

「大丈夫ですよ。失敗しても、全て終わりになる訳ではありません」

 

 だから俯くアヤネに対して、そっと静かな口調で声をかける。

 

「これが駄目でも後4つはプランがあります。その一つでも通れば、アビドスもホシノさんも必ず守れます」

 

「そ、そんなにあるんですか?」

 

「ただリスクを考えれば、これが最善であることには変わりありません。どうにか上手くいかせましょう」

 

「……はい、そうですね!」

 

 実際は4つもサブプランなど考えてはいない。少なくとも今の時点では、ただの出任せだ。

 もしかするとそれも察しているのかもしれない。それでもアヤネはどうにか顔を上げてくれた。

 これならきっと大丈夫。これから始まる作戦でも、しっかり役目を果たしてくれるはずだ。

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