KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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集結、OWL小隊

「周辺の整地及び障害物除去、完了しました!」

 

「ご苦労。大規模戦闘の後なのに、よくやってくれた」

 

「いえ、その……これぐらいはやらないと、失態の穴埋めにはなりませんから」

 

 アビドス高校から少し離れた、砂漠化が進む住宅街の一角。

 辛うじてアビドスが所有権を有するその土地は、今や即席のヘリポートへと変貌していた。

 その立役者でありながら、どこか顔に暗い影を落とすζ小隊の小隊長。そんな彼女に気合をいれるように、私は彼女の肩を強く叩いた。

 

「そう気を落とすな。あれだけの規模の勢力が相手なら、車両の損傷は起きて当然だ」

 

「ですが、任された貴重な装甲戦力を……」

 

「あなたは十分に役割を果たした。敵が校舎まで寄り付かなかったのは、ζ小隊の機動防御のおかげだ」

 

「……ありがとうございます」 

 

 その言葉と共に、ほんの少しだけ明るくなる小隊長の顔。

 それに頷きを返すと、私は視線を傍らのアヤネへと移す。

 

「アヤネ副会長。今回は無理を言って土地をお借りしてしまい、申し訳ありません」

 

「いえ、どうせ誰も住んでいないところですから。……でも、どうしてここまでのヘリポートが必要なんですか?」

 

「今回来るヘリは、少し勝手が違うんですよ」

 

「……どういうことですか?」

 

 こちらの要領を得ない言葉に、首を傾げるアヤネ。

 確かに一般的なヘリなら、校庭の一部でも着陸には事足りる。だからわざわざこうしてヘリポートを作る意味もよく理解できていないのだろう。

 だが百聞は一見に如かず。いざ実物を目の当たりにすれば、その理由もすぐに分かるはずだ。

 

「!」

 

 と、その時。遠方から微かな異音が届く。

 腹の底まで響き渡る強烈な重低音。すっかり慣れ親しんだその音が聞こえてくる方へと首を向け、空を仰ぐ。

 するとそこに浮かんでいたのは、タンデムローター式のヘリコプター。初めは豆粒ほどの大きさにしか見えなかったそれは、ローターの旋回音の高鳴りに合わせて急速にこちらへと近づいてくる。

 

「大きい……!」

 

 そして機影が頭上にまで迫った瞬間、アヤネの口から驚嘆の声が漏れ出た。

 2枚の回転翼を備えた横長の機体。その全長はキヴォトスで一般的なヘリの、優に1.5倍に相当する。

 しかし艶消しを施した黒色の機体色に、機首に備えられた大型のガトリング砲。それらが与える威圧感は、実際の全長以上に巨大な印象を与えるものだ。

 

「嘘!? あれって「ネスト」じゃん!」

 

「OWL小隊の専用機……ってことは、増援ってOWL小隊なの!?」

 

 一方その姿を見るや、にわかに色めき立ち始めるζ小隊の面々。

 だが彼女達の歓声も、ホバリングを始めたヘリの強烈なローター音によってかき消されてしまう。

 さらに高度の低下に伴い、ダウンウォッシュで勢い良く巻き上げられる砂埃。その勢いたるや、十分離れた位置でもまともに目が空けていられないほどだ。

 

 もっともそんな状況も、長くは続かなかった。

 決して余裕があるとはいえないヘリポートの円の中へ、寸分違わず着陸する機体。同時に2枚のローターの回転数も次第に遅くなり、しばらくすると完全に静止する。

 そして周囲に静寂が戻ると同時に、ヘリ後部のランプドアがゆっくりと開いた。

 

「わあ、ここがアビドスですか! 本当に砂漠のど真ん中……くしゅんっ!」 

 

「アヤちゃん、足元に気をつけて。砂漠はとかく足を取られるものが多いんだから」

 

「貴方達、もっと気を引き締めなさい。これは立派な任務なのよ?」

 

 やがて姿を現したのは、そろいのセーラー服にブレザーを纏った3人の生徒。

 砂埃を吸い込んで黒のポニーテールを揺らすアヤに、深い青色の翼を仰いで砂を吹き飛ばすカノン。そんな二人を諌めながら、堂々とアッシュブロンドの長髪をなびかせて歩くホナミ。

 そんな彼女達へと歩み寄ると、それに気づいた3人は即座にこちらへ敬礼を向ける。

 

「OWL2以下3名、命令に従い現着。以後OWL1の指揮下に入るわ」

 

「了解。―――3人とも、よく来てくれた」

 

「当然ですよ。他ならぬカナメ先輩直々の指名なんですから!」

 

「わざわざ私達を呼ぶあたり、相当厄介な任務なの?」

 

「ああ。やることは単純だが、とにかく時間と戦力が足りない」

 

「だとしたら、あまりのんびりもしていられないわね」

 

 そんな言葉と共に、こちらへ向けて一歩歩み寄るホナミ。

 

「状況を教えてちょうだい。作戦目標と想定される敵は?」

 

 たとえそれが何であろうと、私達に不可能はない。

 そう言外に語る瞳が、まっすぐ私の目を捉えた。

 


 

「―――以上が本作戦発動に至る経緯、及び現状把握できている情報だ」

 

 数十分後。アビドスの空き教室に場所を移した私達は、早速事前説明(ブリーフィング)を始めていた。

 黒板と携帯端末を併用した説明を、時折頷きながら聞くカノン。その隣ではアヤが内容を暗号化してメモに書き留めている。

 

「何か質問はあるか?」

 

「……一ついいかしら」

 

 そして質疑応答に移ると、黙って話を聞いていたホナミが手を挙げた。

 

「何だ?」

 

「確か連邦生徒会からの依頼は、シャーレの先生の護衛だったはずよね?」

 

「ああ、そうだな」

 

「それがどうして、カイザーからの生徒奪還なんて事態に発展しているのかしら?」

 

「……」

 

 呆れ交じりの視線が、思わず沈黙する私に突き刺さる。

 これでも長い付き合いだから、彼女が何を言いたいかは分かる。大方こちらが何かやらかしたんじゃないかと踏んでいるのだろう。

 だがこれだけは声を大にして言いたい。今回ばかりは流石に無実だ。

 

「……言っておくが、今回は何もしてないぞ。ただ変化する状況に合わせて、臨機応変に動いただけだ」

 

「嘘ね。あなたがただ流れに身を任せるだけなんて、そんな受け身であるはずがないもの」

 

「ですよねー。先輩なら流される前に土嚢を積み上げて、流れを変えるぐらいの事はしますもん」

 

 だがホナミは全く信用する様子がない。それどころかアヤまでもが彼女の味方に回る始末。

 本当に対処療法や応急処置以上の事はしていないのだが……これが日頃の行いがものを言う、というやつか。

 

「もう、そんなに責めなくたっていいじゃない」

 

 しかし捨てる神あれば拾う神あり。こちらにもまた味方が残っていた。

 にっこりと柔らかな笑みを浮かべながら、二人を宥めに回るカノン。これならこの場も乗り切れそうだ。

 

「みんなも薄々予想してたでしょ? カナメちゃんが一人で動けば、何か予想外の事が起きるかもしれないなんて」

 

「まあ、それもそうね」

 

「はい。正直ゲヘナの風紀委員会と接触したあたりから、雲行きが怪しいとは思ってました」

 

 ……前言撤回。ただトドメを刺しに来ただけだった。

 

「……もう少し、信じてくれてもいいんじゃないか?」

 

「もちろん信じてるわよ。あなたはどんな形であれ、常に私達の予想を超えてくるって」

 

「1年生の頃から何も変わってないものねぇ。ゲヘナへの工作のためになぜかレッドウインターに潜入した、あの時からずっと」

 

「え、そんなことしてたんですか!? 初耳ですよ、それ!」

 

「OWL4、ブリーフィング中だ。私語は慎め」

 

 カノンの方に身を乗り出すアヤを、口調を堅くして引き留める。

 よりにもよってその事を引っ張り出してくるのは反則だろう。他に方法がなかったとはいえ、自分の中でも黒歴史なんだぞ、それは。

 ……それはさておき、このままでは駄目だ。素直に本音を話さなければ、きっと話は永遠に進まない。

 

「……カイザーの謀略で全てを失いかけていた人がいた。だから放っておけなかった。それだけだ」

 

「全く……相変わらずね、そういうところ」

 

 再び飛び出す呆れ交じりの声。

 だが今度は呆れだけではない。向けられる3対の瞳に込められているのは、僅かな微笑ましさと、確かな信頼だ。

 

「だと思った。そういう()()がしていたもの」

 

「やっぱり、それでこそカナメ先輩ですよ!」

 

「なら早速詳細を詰めましょう。いつも通りに、ね」

 その言葉を境に、3人が纏う雰囲気が一変した。

 

「任務内容自体は簡単な要人奪還任務ね。規模からして戦術パターンBが妥当かしら」

 

「発信器の追跡記録(トラッキングデータ)はどこまで残ってる?」

 

反応消失(シグナルロスト)するまでの分は全て。確認した限りではデータの欠損もない」

 

「だったら駐屯地の地図さえ手に入れば、照らし合わせて大体の位置を把握できるかも」

 

「となると手堅く司令部でしょうか。それとも資料室を探しますか?」

 

「いや、端末の奪取でいこう。セキュリティさえ破れたらそれが一番手っ取り早い」

 

 引き締まった表情に、適度な緊張が籠った声。そして端末を見つめる真剣な眼差しに、矢継ぎ早に飛び出してくる意見。

 そこに先程までの、友人とじゃれる女子学生の面影はない。あるのはただ任務遂行だけを主眼に置いた、特殊部隊隊員としての顔だけだ。

 

回収(リカバリー)はどうするの?」

 

「メインにネストを用いた強行突入、サブプランに投入戦力を一点集中した敵陣突破を予定している」

 

「投入戦力はζとιの子達とアビドスの生徒が確定、後はシャーレの先生が集めてくる増援次第……どうにも不確定要素が大きいわね」

 

「ああ、だから増援はあてにしない。最低限の戦力を前提としてプランを組む」

 

 先生を信頼していない訳ではない。彼ならきっと約束通り、相応の戦力を集めてきてくれることだろう。

 だがそれを前提として作戦を組むようでは、SRTの生徒としては失格だ。兵士とは常に最悪を前提として行動しなければならないのだから。

 だから作戦の骨子自体は、一切増援がないものとして考える。希望的な予測を前提にした作戦などに、仲間の命を懸ける訳にはいかない。

 

「でもカナメ先輩。シャーレの先生、一体どこから戦力を引っ張ってくるつもりなんでしょうね?」

 

「分からない。ただ本人は相当自信があるようだったな」

 

 聞けば先生は今の職に就いて、まだ日が浅いという。ならそこまで多くの学校と関係を持っている訳ではないだろう。

 となると考えられるのは、接点がある相手。こちらが知る限りでは、ゲヘナの風紀委員会が当てはまる。

 しかし向こうの風紀委員長も多忙な身。そう簡単に無関係な頼みを引き受けるとも思えないが……一体どう説得するつもりなのだろうか。

 

 そんな考えを頭に浮かべながら、左腕の腕時計へと視線を落とす。

 先生の護衛についているι小隊からの定時連絡は30分後。その時に現状を確認しておいた方がいいかもしれないな。

 


 

「……良いでしょう。交渉は決裂です、先生」

 

 一方その頃。ブラインド越しの僅かな光のみが照らす、小さなオフィスの一室。

 そこで繰り広げられていた()()()()()も、一つの決着を迎えようとしていた。

 

「私はあなたのことを気に入っていたのですが……仕方ありませんね」

 

 そう言って心底残念そうに、沈鬱なため息を漏らす異形の男―――黒服。

 そんな彼を見つめながら、先生は静かに()()()()()()を懐に戻す。

 

 実験体としてのホシノを求め、先生に手を引くよう要求する黒服。生徒としてのホシノを守るため、それを断固として拒否した先生。

 両者の交渉という名の戦いは、先生の方に趨勢が傾いていた。

 

「ホシノはアビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。助けたいというなら、精々頑張って助けるといいでしょう」

 

“……随分あっさりと話すんだね“

 

「もはや私の契約では、ホシノを縛ることはできませんから」

 

 その最たる要因は、黒服がホシノと結んだ契約に存在した()にあった。

 ホシノが退学したアビドスは学校としての機能を失い、カイザーに併合される。つまり彼女が戻る場所は存在しなくなる。

 その前提に立っていたからこそ、彼はホシノが()()する可能性を一切想定していなかった。

 

 だからこそ、先生が提示した「編入届」が効いた。

 ホシノが結んだ契約は、契約時点での彼女が有する全ての権利を譲渡するというもの。つまりその後に発生する権利には一切制約が発生しない。

 故に黒服は「アビドスの生徒だった」ホシノを得ることはできても、「これからアビドスの生徒になる」ホシノを縛る事はできなくなったのだ。

 

「ですが先生、一つだけ教えてください。このやり方は、あなたが入れ知恵したのですか?」

 

“違うよ。生徒が自分達だけで考えたものだ“

 

「なるほど……であればミネルヴァの梟―――いえ、樋渡カナメの策略ですか」

 

 黒服がそう口にした途端、先生は再び大人のカードに手をかけた。

 再び指先に触れる硬い感触。同時に顔へ警戒の色がにじみ出る。

 そんな彼の視線を一身に浴びながら、黒服は静かな笑い声を漏らした。

 

「ククク……そう警戒しないでください。私は彼女に興味を持っていません」

 

“……カナメの事を知っているの?“

 

「ええ。彼女は極めて特異な神秘の持ち主です。「外の世界」から流入した因子が混入したことで、本来あるべき形から大きく変質してしまっている」

 

“……“

 

「ですがその変質のために、彼女の神秘には「裏側」がない。例えるなら表しかないコインのようなものです」

 

 そこで言葉を切ると、軽く首を傾げるように動かす黒服。

 

「「ミメシス」で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを生きている生徒に適用することができるか―――それが私の研究テーマ。だから珍しくはあっても、興味の対象にはならないのですよ」

 

“ならどうして、それを私に伝えるの?“

 

「余計なお節介、といったところでしょうか。私ではなくても、()()の中に興味を持つ者がいないとも限りませんから」

 

「……」

 

 先生は黙って踵を返す。

 黒服がどのような意図で情報を漏らしたのかは分からない。だがそれが何であれ、感謝を述べる理由には繋がらないのは明らかだった。

 そんな彼の背中に向けて、黒服はさらに言葉を投げかける。

 

「微力ながら幸運を祈りますよ、先生」

 

「それと彼女にお伝えください―――どのような結果に終わるにせよ、ホシノはアビドスの救い神になるでしょう、と」

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