KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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ホシノ奪還作戦:3

「驚いたな。まさかトップ直々のお出ましとは」

 

『ふん、私ももう後がないのだよ。お前達のせいでな』

 

 こちらの挑発に、小さく鼻を鳴らす理事。

 その拡声器越しに伝わる声は、隠しきれない怒気と僅かな恐怖で震えていた。

 

『……今や私はアビドスの自治権侵害という大不祥事の主犯格だ。そう遠くないうちに今の立場も失うことになるだろう』

 

「ふーん。でもそれ、自業自得でしょ?」

 

『この上駐屯地を襲撃され、しかも襲撃者をおめおめと取り逃がしたとなれば……もはや私はカイザーのどこにも居場所がなくなる』

 

 その言葉と共に、ゴリアテの駆動部が微かな唸りを上げた。

 挙動の前兆であるそれが耳に届いた瞬間、私はホシノの体を掴んで大きく側方へと飛び退く。

 直後、見た目からは想像できない速度でこちらに突進するゴリアテ。そして振り下ろされた右腕は、地面に大きな陥没を作り上げた。

 

『だからお前達はここで叩き潰す! 我々の技術の粋を集めた、この超強化外骨格でな!!』

 

「結局は保身のためか!」

 

 しかしこうなると厄介だ。今の理事は半ば死兵と化している。後がなくなった事でなりふり構わなくなった相手ほど、対処が面倒なものもない。

 しかも搭乗している強化外骨格は、明らかに通常のゴリアテよりも性能が高い。少なくともこれほどの機動力を発揮できている時点で、通常型と同じ戦法での対処は難しいと見て良いだろう。

 何よりこいつが搭載している火力は、ネストにとって大きな脅威となる。何としても到達前に排除、それが無理でも無力化しなければ。

 

 そのためには今の戦力では足りない。

 私は左腕に装着していた端末を取り外し、ホシノの手に握らせる。

 

「ホシノさん、これを」

 

「地図? なんでこれを私に?」

 

「赤いマークがあなたの武器の在り処です。ここからならそう遠くないはずだ」

 

 地図上で明滅する、赤い小さな光点。それはホシノの装備を詰めてきたバックパックが隠されているポイント。

 本来なら脱出まで持ちこたえるための自衛用と持ち込んだ物だが、状況が変わった。恐らく彼女の助力なしには、この場を切り抜けることはできない。

 そんな言外の意図を視線から読み取ったのだろう。一瞬の沈黙の後、ホシノは力強く頷いた。

 

「……分かった、すぐ取ってくる!」

 

『逃がすものか!』

 

 駆け出すホシノへ向けて、右腕の照準を定めるゴリアテ。その脚部に狙いをつけ、トリガーを引く。

 直後、銃口から飛び出すライフルグレネード。狙い通りの軌道を進んだそれは、脚部の増加装甲へと突き刺さった。

 だが炸裂したにもかかわらず、ゴリアテの動きは止まらない。思わず目を剥く私の耳に、拡声器を介した理事の嘲笑が響く。

 

『馬鹿め、最高純度の素材で組成した装甲だ! そのようなものが通用するものか!』

 

「……そうか、複合装甲か!」

 

 注視して見れば、被弾箇所に残る溶融した穴の内には、白い破片や粉末のようなものが見受けられる。

 恐らくあれはセラミック。それを挟んだ複合装甲であれば、HEAT弾のメタルジェットが貫通しなかったのも頷ける。

 そして理事の言う通り、全て最高品質の素材から構成された複合装甲であるのなら……手持ちのライフルグレネードで、装甲を貫くことは不可能だ。

 

『まずは貴様からだ、樋渡カナメ!』

 

 なら一体どうするか。そう考えを巡らせている間も、敵は待ってくれない。

 こちらに向けて放たれる両腕の機関砲と、両肩から打ち出されるミサイル。にわかに作り出された弾幕を、咄嗟に勢い良く翼を羽ばたかせて回避する。

 さらに着地の瞬間に地を蹴り跳躍すると、私は近場にあった格納庫の扉の隙間へと身を滑り込ませた。

 そのまま駐車してある戦車の陰で息を整えていると、インカムに飛び込んでくる通信。

 

『OWL1、何があったの?』

 

「敵が新型のゴリアテを投入してきた。こっちのHEATじゃ刃が立たない」

 

『ネストの対戦車誘導弾(TOW)ならどうかしら? あれなら新型だから、複合装甲でも正面から撃ち抜けるかも』

 

「駄目だ、敵の索敵能力が分からない。迂闊に近づけば蜂の巣にされるぞ」

 

 ネストに搭載された対戦車火器を用いるなら、どうしても一定の距離まで接近しなければならない。つまりその分だけ敵の火力に晒されるリスクが増加する。

 ネストは他のヘリよりも頑丈な方だが、ゴリアテの火力を一身に受けて耐えられるほどではない。そしてネストを失えばこの作戦は失敗だ。

 だから仮にネストに任せるにしても、その前にこちらで敵の火力を削る必要がある。特に頭部の主砲は最優先で破壊しなければ。

 

『私もそちらへ回ります!』

 

「いや、OWL4はOWL2と共に敵の撹乱を継続。包囲網を形成させるな」

 

『一人でゴリアテを引き受けるつもり? 勝算はあるんでしょうね?』

 

「ああ、一応はな」

 

 かなりうっすらとではあるが、勝ち筋自体は見えている。

 しかし敵の兵士が合流すれば、それすら容易く消え失せかねない。だから下手に増援が来るよりも、敵の足止めが行われていた方が遥かにありがたい。

 

『隠れても無駄だ!』

 

 と、その時。壁越しに響く理事の声。

 咄嗟に伏せて地を転がると、元いた場所を眩い閃光が突き抜ける。

 素早く体を起こして見れば、格納庫の壁にはまるで溶断されたかのような大穴が空いていた。そして熱が揺らす空気の先にいるのはーーー砲身を赤熱させた黒いゴリアテ。

 

「高エネルギー兵器……大したものを!」

 

 恐らくはレーザーか荷電粒子砲。どちらにせよ、ゴリアテに搭載されているところは見たことがない。

 となるとあのゴリアテは紛うことなき最新型。カイザーの技術の粋を集めた、これまでとは比べものにならない脅威だ。

 

 だが同時にこれで確信できた。あの理事、陰謀は一流でもパイロットとしてはド素人らしい。

 偏差射撃のへの字もない機関砲の掃射に、明らかにロックが不完全な状態で放たれたミサイル。そして自ら奇襲の優位を捨てる攻撃前の宣言。

 これだけのヒントがあれば嫌でも分かる。あのゴリアテは、自身の性能を最大限活かせるパイロットには恵まれていない。

 

 一流の機体に三流の使い手。

 勝機があるとすれば、まさしくこのミスマッチだ。

 

 銃口にライフルグレネードを込め、スリングを介して身体にマウント。代わりにスモークグレネードとワイヤーガンを取り出す。

 そして物陰に身を隠しながら、こちらに迫るゴリアテへ向けてスモークグレネードを放り投げた。

 

『何っ!?』

 

 数秒後、周囲に広がる濃密な白煙。

 このSRT制式仕様のスモークが遮断するのは視界だけではない。赤外線や電波であっても、この煙の前には一時的に遮られる。

 つまりあのゴリアテがいかなる視認装置を有していようと、この煙の中を暴くことは叶わない。

 

 その目眩ましの中、記憶を頼りにワイヤーガンを放つ。

 そして予測通りのタイミングで吸盤が当たる音がしたのを確かめると、即座にワイヤーをロック。さらに近くの戦車に銃ごとワイヤーを括り付ける。

 それらの工程を数秒で終わらせた私は、姿勢を低くしながら格納庫の入口に向けて走り出した。

 

『この程度のもので止められると思うな!』

 

 背後から響く、戦車がひきずられる重い音。それに次々と撃ちこまれる機関砲の銃声。

 ワイヤーを引きちぎろうとしているのか、あるいはこちらを炙り出そうとしているのか。どちらにせよそれが素人の浅はかさだ。

 際立つものがすぐ近くにあると、ついそちらへの対処を優先してしまう。そしてその間に肝心なものを取り逃がしてしまう。

 

 だからこそ、こうして隙もできるというもの。

 入口から飛び出す寸前に、羽ばたきを用いて急加速。その勢いを前転で殺して減速すると、膝立ちのままでライフルを構える。

 狙うはゴリアテの無防備な後背、無装甲の関節部。

 

『―――ぐおっ!?』

 

 数瞬後。放たれた弾体は山なりに飛翔し、狙い通りの位置で炸裂した。

 不意の衝撃に大きくよろめくゴリアテ。メタルジェットが貫通した関節部からは幾らかの破片と、激しいスパークが飛び散る。

 ……だが駄目だ。相手はまだ立っている。その歩行機能を奪うまでには至っていない。

 

「浅かったか……!」

 

『そこかあぁっ!!』

 

 すぐさま次弾を装填しようとするも、それよりも早くゴリアテの肩から放たれるミサイル。

 弾倉にあるのは空砲である以上、迎撃はできない。こうなった以上、着弾寸前に回避するしか道はない。

 多少は被弾するかもしれないが、全弾命中よりはましだ。そう覚悟して翼を大きく広げた―――次の瞬間。

 

 

「―――っ!」

 

 突如として、進路上に人影が割り入った。

 直後、爆発が激しく空気を揺らす。だが眼前の少女は、それすらも左手に握った盾で全て受け止める。

 そして衝撃が爆煙として霧散すると、少女は盾を下ろしながらそっとこちらに振り向いた。

 

「ごめん、遅くなっちゃった」

 

「……いえ。ナイスタイミングですよ、ホシノさん」

 

 左手にバリスティックシールドを、右手にショットガンを持つ、いつも通りのスタイル。

 だが髪をポニーテールに結ったホシノの顔は、いつもにはない凛々しさを帯びていた。

 きっとこれが彼女の本気。今までのお気楽な様子に隠してきた、ホシノの素顔。

 

 ……だとしたら私は幸運だ。

 当初の想定とは違い、仲間としてそれを拝むことができたのだから。

 

『二人になろうと同じだ! まとめて吹き飛ばしてくれるわっ!』

 

 だが感慨に耽っている暇はなかった。

 こちらをまとめて吹き飛ばそうと、再度主砲の発射態勢に入るゴリアテ。

 それを前にしたホシノは臆する事無く、再び盾を正面に構えた。

 

「ここは私に任せて」

 

「奴の主砲は高エネルギー砲です。受けるには相当キツいですよ」

 

「大丈夫。こう見えておじさん、結構頑丈だから」

 

 果たしてどこまで信じていいものか。だが、ここはあえて信じよう。

 ホシノの盾に隠れる形で地に膝をつき、最後のライフルグレネードを装填する。

 チャンスはただ一瞬。ホシノが主砲を防ぎ、敵が無防備なところをさらした、その一瞬だ。

 

『吹き飛べぇっ!』

 

 そして弾体が銃口に押し込まれた瞬間、再び光が迸った。

 こちらを飲み込む高エネルギーの奔流。しかしそれらはホシノの盾を起点に二つに分かれ、背後へと過ぎ去っていく。

 

「ぐっ……!」

 

 やはり相応の負荷がかかるのだろう、ホシノの口から呻き声が漏れる。

 そんな彼女の背に、私はそっと手を添える。彼女を押し込む重圧が、腕を通してこちらにも流れ込む。

 だがしばし後、その圧力はまるで嘘のように消え失せた。それはつまり、敵の攻撃を凌ぎきったということ。

 

「―――今だっ!」

 

 その瞬間、私は脚と翼を躍動させた。

 ホシノを前のめりに飛び越し、ゴリアテと距離を詰める。狙うは発射直後の、無防備な主砲の最深部。

 彼我の距離は100メートル前後。これなら目をつぶってでも外しはしない。

 

『ば、馬鹿なっ!?』

 

 数秒後、激しい爆発がゴリアテの上部で巻き起こった。

 放たれた擲弾は砲身の内部へと入り込み、その中を直進。やがて最奥部で起爆し、内部で誘爆を引き起こしたのだ。

 激しい衝撃に揺らされ、大きく仰け反る黒染めの躯体。その好機を逃すことなく、ホシノが一気に距離を詰める。

 

「左の関節部だ! 内部が露出している!」

 

「分かった!」

 

 だが彼女だけに任せてはいられない。

 着地するとすぐさま弾倉を差し替え、再び跳躍。態勢を立て直そうとするゴリアテを飛び越しながら、すれ違いざまに弾丸の雨を浴びせかけた。

 通常なら装甲に阻まれるであろう7.62mm弾も、爆発で露出した部位に受けては無事では済まない。被弾により生じるスパークが、その巨体の動きを押しとどめる。

 

 それにより生じた隙に、ホシノは彼女の愛銃の射程圏内へと滑り込んだ。

 先ほどの被弾で生じた破孔へと、立て続けに撃ちこまれるショットガンの接射。次々に襲う散弾は少しずつ、だが確実に駆動系に損傷を与えていく。

 人で例えるのなら、足の筋を少しずつ抉られるようなもの。そんな責めを受け続ければ、当然立ち続けることなどできはしない。

 

『バ、バランスが維持できん……うおおおおぉ!?』

 

 負荷に耐えきれなくなり、軋みを上げて折れ曲がるゴリアテの左脚。

 踏ん張る足を失った巨人は、崩れ落ちるように大地へ膝をついた。

 

「ふぅ……思ったよりあっさり片付いたかな」

 

「まだです。中から理事を引きずり出さなくては」

 

 既に主砲は破壊され、機動力も事実上失われた。だがゴリアテにはまだ両腕の火砲がある。

 これを無効化するには、操縦者を無力化するのが一番手っ取り早い。なので翼を大きく広げ、一気に距離を詰めようとした、その時。

 

『こちらOWL3、駐屯地上空へ到達したわ』

 

 不意に左耳のインカムから、カノンの声が届く。

 同時に微かに聞こえる、タンデムローターの重低音。この聞こえ方だと、相当近くまで迫っているらしい。

 

『……なるほど。あれがお前達の待っていた増援というわけか』

 

 だが無線に返答しようとした刹那、ゴリアテから不気味な笑い声が響いた。

 同時に傷ついた体を動かし、上空へ狙いを定めるゴリアテ。機関砲がモーターの唸りを上げ、ミサイルハッチが開かれる。

 

『ならばせめてもの足掻きだ……あのヘリを撃ち落として、お前達の望みを絶つ!』 

 

「こいつ、まだ諦めてないの……!?」

 

「OWL3、回避行動! 狙われているぞ!」

 

『こっちでも捉えた! みんな、しっかり掴まって!』

 

 こちらから攻撃を阻止しようにも、既にライフルグレネードは使い果たしてしまった。

 せめてもの抵抗に腕部の関節を狙い撃つが、ゴリアテが意にも介することなく発射態勢を整え続ける。

 このままではネストが危ない。手榴弾を取り出しピンに指をかけた―――次の瞬間。

 

『ぐ、ぐうっ!?』

 

 突如として飛来した砲弾が、ゴリアテの姿勢を大きく揺るがした。

 直後に放たれるミサイルと機関砲。しかし被弾で姿勢が狂ったことで、それらは何もない空へと飛んでいく。

 一体何が起きたのか。反射的に砲弾の飛来した方向へ視線を向けると、そこには一台の装甲車。その側面に描かれているのは、獣の頭骨とギリシャ文字をあしらった社章。

 

『……まったく。往生際の悪い悪役ほど、見苦しいものもないわね』

 

 そして無線から届いた声に、私は思わず驚きの声を上げた。

 

「その声……まさか、アル社長か!?」

 

『ええ。便利屋68、これより仕事に取り掛かるわ!』

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