KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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風邪で寝込んでいたので投稿が遅れました。
申し訳ありません。


ホシノ奪還作戦:4

『さあムツキ、しっかり狙いなさい!』

 

『りょーかいっ! 二発目、いっくよー!』

 

『ええい、鬱陶しい……!』

 

 ムツキの掛け声とともに、装甲車の主砲が爆炎を放つ。

 既に片足が破損した状態では、簡単な回避ですらままならない。着弾した砲弾の爆発により、大きく仰け反るゴリアテ。

 貫徹力の低い榴弾では、装甲を破ることはできない。だが直撃の衝撃で躯体を揺らし、動きを封じることなら十分に可能だ。

 

 対するゴリアテも機関砲を向けるが、装甲車はすぐさま死角へと回り込む。

 そして再度砲弾を撃ち込み、敵が振り向く前に別方向へ。お手本のようなヒットアンドアウェイを前に、満足に旋回できないゴリアテは次々と直撃弾を被弾するばかり。

 

『こちらOWL3、強行着陸に移行するわ!』

 

「ポイントA(アルファ)に降りる気か?! 危険だぞ!」

 

『大丈夫、私に任せて!』

 

 そして便利屋が作った隙は、決定的なチャンスをもたらした。

 重低音を響かせながら、駐屯地の上空に姿を現すネスト。その機影はこちらの頭上を横切り、予定通りの着陸地点へと迅速に降下していく。

 ゴリアテは腕を上げて迎撃を試みるが、対戦車砲でタコ殴りにされていては、まともに狙いなどつけられるはずもない。虚しく空を切る火線を尻目に、ついにネストは地表へと降り立った。

 今ゴリアテがいるのは格納庫の陰。主砲も脚も失っている以上、もうネストに手出しすることはできない。

 

「ホシノ先輩、大丈夫ですか!?」

 

「ん、ピンピンしてる。無事でよかった」

 

「間に合ったみたいね! 今援護するわ!」

 

「……みんな」

 

『対策委員会……どこまでも鬱陶しい連中め!』

 

 そしてランプドアから駆け下りてくるのは、対策委員会の生徒達。

 その姿に目を丸くするホシノ。対象的に理事はゴリアテの中から苦々しい声を漏らす。

 

『―――お前達はずっと目障りだった。いつまでも滅びかけの学校でしつこく粘り、どうにか借金を返済しようとして!』

 

『どれだけ苦しめようと、懲らしめようと、決して諦めず……どこまでも毎日毎日、楽しそうに!』

 

『お前達さえいなければ、全ては上手くいっていたんだ! お前達さえいなければっ!!』

 

 それは被害者ぶるにはあまりにも身勝手すぎる主張。逆恨み以上の何物でもない怒り。

 当然そんなもので対策委員会の心が揺らぐはずもない。真正面から受け止めた彼女達は、毅然とした態度で反論する。

 

「ふん! あんたみたいな下劣で浅はかなやつが何をしようと、私たちの心は折れたりしないわよ!」

 

「ここで全部、終わらせてもらうよ」

 

「はい! あなたみたいな情けない大人に、私たちは絶対に負けません!」

 

 カイザーに誤算があったとすれば、アビドス生達の()()を甘く見すぎていた事だろう。

 彼女達が入学する頃には、アビドスの栄光などとっくに失われていた。アビドスは既に滅びへ向かうだけの学校でしかなかった。

 それでも彼女達はアビドスへ進学する事を選んだ。そして過酷な現状を知ってなお、別の学校へ移ることを選ばなかった。

 何がそうさせたのかは、本人にしか分からないことだ。それでもこれだけは断言できる。それは誰かに強いられたものではない、彼女達自身が選んだ選択だと。

 

「いい後輩を持ちましたね」

 

「……そうだね。本当に、勿体ないぐらい」

 

 短くホシノと言葉を交わし、再びライフルを構える。

 だからこそアビドスの生徒達には報われてほしい。勇気ある選択をした者が涙を呑むなんて、そんな終わり方はしてほしくない。

 少なくとも私個人が戦う理由など、それだけで十分だ。

 

『私もここからサポートに入ります! 先生、お願いします!』

 

“分かった。皆、行くよ!“

 

 ネストの回線越しに届く、アヤネと先生の声。

 それを合図に、私はゴリアテへ向けてトリガーを引いた。

 


 

『ちょっとアルちゃん、早く次弾装填してよー』

 

『ち、ちょっと待ちなさい!……あれ、どこにあるのかしら……?』

 

 無線から届くアルの慌てた声。それと同時に、先程から絶え間なく続いていた砲声がぱたりと途絶える。

 それを耳にした途端、私はすぐさまインカムの通話ボタンに指をかけていた。

 

「弾切れなら離脱しろ! 的になるだけだ!」

 

『いえ、決して弾切れではないのよ。ただちょっと見当たらないだけで……』

 

「そこにないならどこにもない。元々弾数も少なかったんだ」

 

 ヘルメット団から鹵獲した時点で、元々砲弾はそこまで多くは積まれていなかった。5人のアビドス生を相手取るだけなら、そこまで多く提供する必要もないと思っていたのだろう。

 さらに時間も予算もなかったので、補充も行えていない。その上で二度のアビドス防衛戦にゴリアテの足止めと、派手に砲弾を使っている。そりゃ在庫も尽きるというものだ。

 そして主砲が使えないのなら、最早装甲車は戦力としてアテにはならない。囮として用いるにしても、ゴリアテの機関砲を前にしてはあまりに心もとない。

 

「どこか安全な所に停めて、降りて戦ってくれ。今はそっちの方が助かる」

 

『社長、私もそうした方がいいと思う。今のままじゃ、多分蜂の巣になるだけだよ』

 

『……分かった、一度離脱するわ』

 

 急激にハンドルを切り、ゴリアテから遠ざかっていく装甲車。

 それと入れ替わるように、私は地を蹴りゴリアテへ向けて駆け出していく。

 足止めと囮の役割を果たす装甲車がいなくなった以上、誰かが代わりを務めなくてはならない。前者はともかく、後者ならこちらの得意分野だ。

 

『何をする気か知らんが……させるかっ!』

 

 眼前を駆ける私に向け、ゴリアテの両腕から弾幕が放たれる。

 細かく進路を変えて回避するも、左右から迫る弾痕は徐々にこちらの余地を奪っていく。

 だがそれらは一点に交わった瞬間、割り込んできたホシノの盾に阻まれた。

 

「二人とも、今だよ!」

 

「分かった! アヤネちゃん、お願い!」

 

『分かりました! 爆弾、投下します!』

 

 その隙を突いて、搭載していた爆薬を投下するドローン。

 無防備なゴリアテの右腕関節部に落下した小包大の爆発物は、セリカが放った弾丸に貫かれて起爆する。

 

「……今がチャンス。逃しはしない」

 

 爆発が生じ、大きく揺らぐ腕部。そこに間髪入れず、シロコが操るドローンがミサイルを叩き込む。

 たとえ対人用爆薬であったとしても、立て続けに爆圧と衝撃波で殴り続ければダメージは蓄積する。特にそれが比較的脆弱な箇所であれば尚更だ。

 現に煙が晴れた時、関節部には微かな亀裂が入っていた。その奥には駆動系と思しきケーブルも見て取れる。

 

”ノノミ、今だ!”

 

「はい! 全弾発射!」

 

 先生の合図に合わせてガトリング砲の火蓋を切るノノミ。

 立て続けに撃ちこまれる弾丸の雨は装甲に阻まれるも、それでも一部が亀裂を介して内部へと入り込んでいく。

 そしてそのうちの一発は、幸運にも致命的な箇所を損傷させた。

 

『しまった、右腕の駆動系が……!』

 

 激しくスパークを起こす関節部。同時にこちらを狙う右腕の動きが、目に見えてぎこちないものになる。

 機関砲自体は無事なので火力に変化はない。だがこうも遅い動きでは、高速で移動する標的を追尾することはできないだろう。

 これで右腕はネストの脅威ではなくなった。残るは左腕の機関砲だけだ。

 

「……これだけやって、やっと一本か」

 

“きっと同じ手は通用しないよ。別の方法を考えないと”

 

 ネストの安全な離脱のためには、ゴリアテの全火力を沈黙させる必要がある。だが強靭な装甲で覆われた機体を破壊するのは至難の業だ。

 こちらの最大火力はネストの対戦車誘導弾。しかし通用するかは未知数な上に、用いると防衛目標そのものを危険に晒す事になりかねない。

 ならば操縦者を狙いたいところだが、それも難しい。操縦席の上部は露出しているものの、主砲の残骸が射線を妨げてしまっている。

 しかも敵が上半身を動かし回している以上、限られた射線を確保するのも容易ではない。仮に飛び乗ったとしても、容易く振り落とされてしまうだろう。

 

 たとえ被弾のリスクを冒してでも、ネストを前に出すべきか。

 そんな考えが頭をよぎり始めた、その時。

 

『そうだ、開放機構を使うのはどうかしら?』

 

 カノンからの通信が、新たな突破口をもたらした。

 

「開放機構……緊急用の手動開放装置の事か?」

 

『ええ、こういうメカには大抵、外部からの救出用に付いているの。確かゴリアテの場合、操縦席の側面あたりにあったはずよ』

 

 なるほど。言われてみれば、目の前の機体も構造自体は通常のゴリアテと同じ。だとしたら緊急用の機構も同様の場所にあるかもしれない。

 そんな考えのもとで目を凝らしてみると……あった。確かに操縦席の左側面、装甲の一部に微かな切れ込みが入っている。

 恐らくあれがアクセスパネルなのだろう。だとしたら目当ての装置はその下にある。

 

「……見えた。確かにそれらしいものがある」

 

“なら、それを使えば!”

 

「だが難しいな。どうにかして動きを止めないと」

 

 思わずそんな呟きが漏れる。

 できれば横倒し、そうでなくても一時的な行動停止。そんな状況を作れなければ、取りつくこともままならない。

 

『―――だったら、私達の出番ね!』

 

 と、そこに響く自信に満ちた声。

 

「アル社長、何を?」

 

『これで体当たりを仕掛けるのよ! 全速力でぶつかれば、きっと動きを止めることができるわ!』

 

「無茶だ! そっちもただじゃすまないぞ!」

 

 確かに10トン以上の質量が時速80キロで激突すれば、いかにゴリアテとてただではすまない。まず間違いなく、一時的な足止めは果たせるだろう。

 だがその衝撃は激突する側にも平等に襲い来る。そんなものを受ければ、装甲車もまず無事では済まないはずだ。

 だがこちらの懸念をよそに、アルは豪胆な笑い声を無線に乗せる。

 

『失敗は許されない、あらゆるリソースを総動員して臨む―――それが我が便利屋68のモットーよ! 当然社用車も、依頼成功のためなら惜しまないわ!』

 

『……そのモットー、まだ覚えてたんだ。てっきり口から出まかせだと思ってたのに』

 

『でもいいんじゃない? そっちの方が面白そうだしさ!』

 

『任せてください、アル様! たとえ地獄の果てでもお供します!』

 

 ……どうやら随分気が大きくなっているようだ。いや、浮かれているといった方が正しいかもしれない。

 確かに危険な役を進んで引き受けるというのは、アルの言うアウトローらしいあり方らしくある。だとしたら彼女がノリノリになるのも分からなくもない。

 ただこういう勢い任せの行動は、往々にして後から悔やみたくなるもの。果たして本当に大丈夫だろうか。

 

「……了解、なるべく右方から回り込め!」

 

 止めた方がいいんじゃないか。

 そんな良心の呵責を少しだけ抑え込み、わずかでも成功率を上げるための助言を飛ばす。

 キヴォトス人の頑丈さなら、激突しても最悪気絶で済む。たとえ装甲車が再起不能になろうと、乗員が無事なら犠牲は最小限に収まる。

 最小の損失で最大級の戦果。少なくとも今この時点で、これ以上の策は思いつかない。

 

『さあ、行くわよ!』

 

『はぁ……後悔しても知らないからね』

 

 次の瞬間、装甲車はアクセルを全開にして疾走し始めた。

 右側に弧を描く軌道は、ゴリアテのやや右側を狙った進路。右腕が満足に動かない現状なら、迎撃のリスクは最小限に抑えられる。

 

『ふん! 役立たずの飼い犬が、無駄な足掻きを!』

 

 だが理事も黙ってそれを見ている訳ではない。

 すぐさま無理矢理に上半身を旋回させ、まともに動く左腕の機関砲からマズルフラッシュを迸らせる。

 次々と撃ち込まれる大口径の機関砲弾。それが着弾する度に、装甲車の装甲はまるで薄紙のように容易く貫かれていく。

 

『っ!……こ、この程度、痛くありません……!!』

 

 だが、装甲車は止まらない。

 いくら弾痕が刻まれようと、その速度は寸分たりとも落ちることはない。

 

『このっ……死に損ないがあっ!』

 

 なおも止まらぬ車両に業を煮やし、左腕を大きく振り上げるゴリアテ。

 衝突直前に叩き潰して、衝突を回避するつもりなのだろう。確かにそれは動けないゴリアテがとれる、唯一の回避方法だ。

 

「させるかっ!」

 

『ぐっ!?』

 

 そんなゴリアテに向けて、私は手榴弾を放り投げた。

 計算通りゴリアテの上空で生じる爆発。飛散する破片は全て砲身の残骸に阻まれ、操縦者に届くことはない。

 だが金属片が激しく装甲を叩く音は、僅かに理事を怯ませる。それが一瞬の、致命的な隙を生む。

 

 ―――そしてその隙を突いて、装甲車がゴリアテの土手っ腹へと突き刺さった。

 

『な、何いいぃっ!?』

 

 ボンネットを大きく損壊させ、横転しながら地面を滑る装甲車。

 しかし質量と速度を乗せた捨て身の一撃は、標的に対しても大きな衝撃を叩き込んだ。

 片足では殺しきれない衝撃に、僅かに浮き上がるゴリアテの巨体。程なくしてその躯体は仰向けに大地へと倒れ込んだ。

 

 そして動きが止まった今こそ、こちらから仕掛けるまたとないチャンス。

 私は翼を大きく羽ばたかせて跳躍すると、一気にゴリアテの胸部に取り付いた。

 そして左側面を検めると、そこには小さな矢印と緊急用の開放機構を示す文字がある。これこそがこちらの探し求めていたものだ。

 

 注意書きに従い凹みを手で押し込み、開いたパネルの中にあるレバーを思い切り引き抜く。

 すると内部の炸薬カートリッジが作動し、小さな爆発と共に吹き飛ぶ装甲。

 その中を覗いてみれば、そこには唖然とした様子で操縦席に収まる理事の姿があった。

 

「……何だ!? 貴様、一体何をした!?」

 

「使わせてもらったんだよ。カイザーの最新技術の一端とやらをな」 

 

 随分と手荒な扱いをしてきたのに問題なく作動するあたり、中々信頼性の高いシステムらしい。おかげでこちらとしても手間が省けた。

 そんな皮肉を脳裏に飛ばしながら、ライフルの銃口を理事へと突きつける。

 

「投降しろ。抵抗しなければ、()()()()()身の安全は保障する」

 

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