KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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ホシノ奪還作戦:5

「第3中隊全滅! 第5中隊とも連絡が取れません!」

 

「戦車はどこだ! まさか全滅したのか!?」

 

「何をやっている! 敵はたった数人だぞ!」

 

 同時刻、基地北方の砂漠地帯。

 砂と岩だけがどこまでも広がる大地でもまた、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 いや、正確に言えばもはや戦闘ではない。当初は拮抗していた戦場は、今や一方的な蹂躙劇に移ろうとしている。

 

「……言ったでしょ、ここは通さないって」

 

 その最たる要因は、敵戦力の真っ只中で奮戦する白髪の生徒―――ゲヘナ学園風紀委員長・空崎ヒナ。

 彼女が身の丈ほどもあるマシンガンを掃射する度に、周囲の兵士がなぎ倒されていく。銃身で近づくものを打ち倒す度に、オートマタが鉄屑と化していく。

 片や数人、片やプロの兵士の一個大隊。本来なら勝負すら成立しないはずの数量差も、圧倒的な力を前にしては何の意味もない。

 

 だがそれは、カイザーPMCが苦戦を強いられる理由の一つでしかなかった。

 もしヒナの存在だけが理由なら、彼らはまだ数の力で抗う事ができていただろう。少なくとも今のように、壊走と紙一重のところまで追い込まれてはいない。

 しかし彼らの敵はヒナだけではなかった。戦況に影響を及ぼす存在は、まだ他にも存在していたのだ。

 

『……くそっ、例のコマンド部隊だ! 奴らまた……ぐわぁ!?』

 

「第4小隊、どうした!? 応答しろ!」

 

 要領を得ない内容と、悲鳴を残して途切れる無線。

 これで何度目かも分からない通信の途絶に、第2中隊の中隊長は荒々しく指揮車の装甲板を殴りつけた。

 先ほどからずっとこうだ。後方にいるはずの部隊が次々と損害を受けている。それも小隊長や通信設備といった、部隊の意思決定に関わるものが優先的に。

 

「破壊工作か……姑息な真似を!」

 

 おかげで本来なら有機的な連携を取れるはずの大隊は、いまやその足並みを盛大に乱す羽目に陥ってしまっている。

 いわば数が多いだけの烏合の衆も同然。これでは包囲したところで、有効な攻撃を行えるはずもない。

 表では圧倒的な力による場の制圧、裏ではそれを隠れ蓑に紛れ込んだ部隊の破壊工作。そんな二段仕掛けの作戦が、カイザーを着実に敗走へと追い込みつつあった。

 

「中隊長、前方から装甲車が接近中です!」

 

 そんな時、中隊長の耳に部下からの報告が届く。

「装甲車だと? まさか新手か!?」

 

「いえ、種別はカイザー(こちら)のものですが……どうも動きが変です」

 

「分かった、見てみよう」

 

 その内容に胸騒ぎを覚えた彼は、潜望鏡を用いて周囲を見渡す。 

 すると問題の装甲車はすぐに見つかった。確かに正面にカイザーPMCの社章が描かれたそれは、間違いなく友軍のものだ。

 ……だが動きがおかしい。まるで味方が見えていないかのように、まっすぐと自分達の方へと突っ込んでくる。

 

「……撃て」

 

「は?」

 

「あの装甲車を撃て! あれに乗っているのは味方じゃない!」

 

 だがその判断は一瞬だけ遅かった。

 突如、加速度的にスピードを上げる不審な装甲車。それと同時に各所のハッチが開き、数人の生徒が飛び出していく。

 青と白のグラデーションが際立つその制服には、どこか見覚えがあるような気もする。しかしそれを思い出している暇は彼にはなかった。

 

「何をしている! 早く撃つんだ!」

 

「ど、どちらをですか!?」

 

「馬鹿、装甲車だ! こっちへぶつける気だぞ!」

 

 そう叫んだ次の瞬間、何かが装甲を激しく打ち付けた。 

 直後、車内を襲う激しい衝撃。全くの無防備にそれを受けた中隊長は、たちまち床面へと突き倒される。

 頭部を激しく打った事で、急速に遠のいていく意識。そんな彼には分かるはずもない。装甲車が囮だったことも、攻撃の正体がグレネードランチャーから放たれたHEDP弾だったことも。

 

『―――交戦中のカイザーPMC部隊に通達する』

 

『そちらの総司令官であるカイザーPMC理事は、我々が確保した』

 

 やがて意識が完全に失われる寸前。

 ノイズ混じりの通信で送られてきたのは、にわかには信じがたい言葉だった。

 


 

「交戦中のカイザーPMC部隊に通達する。そちらの総司令官であるカイザーPMC理事は、我々が確保した」

 

「解放の条件は一つ。即座に交戦を停止し、我々の離脱を阻害しない事だ」

 

「理事の安否はそちらの動向にかかっている。賢明な判断に期待する」

 

 最低限必要なことだけをまとめた、簡潔な停戦勧告。

 それを一息に言い切ってしまうと、私は通話ボタンから指を離して軽く息を吐いた。

 全周波数帯に発信している以上、聞こえなかったという言い訳は通用しない。後はそれぞれの指揮官が、どれだけ現実を直視できるかだ。

 

「……貴様、なんてことをしてくれたんだ!!」

 

 そんなことを考えていると、出し抜けに怒声が響く。

 首を向けると、そこにいたのは当の張本人こと理事。ネストの座席に腰掛けた彼は、まるで親の仇でも見ているかのごとく忌々しげな目でこちらを睨みつける。

 だが後ろ手に拘束されている現状では、どれだけ凄んでみても虚勢にしか映らない。

 

「なぜこんな呼びかけをする!? これでは私が……」

 

「ええ、瞬く間に知れ渡るでしょうね。あなたがわざわざ自分から出撃した挙句、捕虜になる無様を晒したことが」

 

「分かっていて恥をかかせるつもりか! この外道め!」

 

「あなたにだけは言われたくありませんよ」

 

 アビドスの生徒が必死に稼いで返済した利息を、彼女達を襲う勢力への支援金にする。私も大概に性根が悪い自覚はあるが、そこまで悪辣な手を思いつくほどではない。

 それに今更恥が一つ増えたところで、何か変わるのだろうか。既に私欲でアビドスの自治権を侵害したという、とびきりの汚名を着ているというのに。

 

「何より、これはあなたの選択が招いた結果だ。こちらを責められても困る」

 

 理事が自らゴリアテで出る選択をしなければ、こうして捕縛される事はなかった。そもそも強引にアビドスの取り潰しを図っていなければ、こんな事態に発展することもなかった。

 たとえ前任者から継承したものだとしても、それを継続することを選んだのは理事以外の誰でもない。だから彼が責任から逃れることはできない。

 ならば選択により生じた結果は、甘んじて受け入れるべきだ。それが選択を下した者の背負うべき責任なのだから。

 

「……くそっ!」

 

 反論する気力もなくなったのか、悪態を一つだけついてうなだれる理事。

 そんな彼に背を向けると、私はランプドアから機外へと歩み出る。

 昇る朝日で徐々に白み始めた空には、威勢の良い砲声が絶え間なく轟いていた。

 

「L118……トリニティだな」

 

 発射音から察するに、用いられているのはトリニティの牽引式榴弾砲。それもこの密度だと、1個中隊ほどの数は出ている。

 それだけの数の人と装備を動かせるのは、トリニティの生徒会(ティーパーティ)を置いて他にない。

 大方先生とKSS(こちら)に恩を売るために、色々理屈をこね回して戦力を送り出した……といったところだろう。

 

 その割に随分と遅参だが、こればかりは仕方ない。()()()忙しい淑女の皆様方に、早起きを求めるのは酷というものだ。

 それにこのタイミングでかえって助かった。おかげで敵の戦意を削ぐ、良い一押しになってくれた。

 

『OWL1、敵の攻撃中止を確認したわ。どうやら向こうは要求を呑むようね』

 

『こちらもです。展開中の部隊が撤退していきます!』

 

『こちらζ1、その……敵部隊の投降を確認。対応の指示をお願いします』

 

 そして予想通り、次々と伝わってくる戦闘停止の報告。

 こういった状況で兵士がどのように動くかは、所属する組織の気風によって左右される。その点カイザーは危険を冒した奪還よりも、責任者の身の保全を優先するタイプだ。

 だから兵士達もその流れに従う。彼らとて大半は契約社員(コントラクター)、企業の機嫌を損ねて首を切られたい物好きはそういない。

 もっともこういった場合には、捕虜を慕う者が強引に奪還を試みる事も珍しくはないのだが……少なくとも今のところ、そのような気配はない。大層な肩書きの割に、意外と人望はなかったのだろうか。

 

「ζ小隊及びι小隊はゲヘナ風紀委員会と協力の上、武装解除のみ実施せよ。追撃のリスクさえなくせればそれでいい」

 

 もちろんまだ油断はできない。だが敵が手を引いたのなら、この作戦は一区切り付いたも同然だ。

 1年生達に指示を出しつつランプドアから飛び降りると、横転した装甲車へと足を向ける。

 その傍らには、気絶した便利屋68の面々を介抱する対策委員会と先生。こちらの足音が聞こえると、彼女達は一斉にこちらへ振り向いた。

 

“その様子だと、うまくいったみたいだね“

 

「はい。予断は許しませんが、ひとまず手出しはなさそうです」

 

「ということは、撤退中に攻撃を受ける可能性はないんですね。よかったぁ……」

 

 思わぬ朗報に、思わず安堵の息を漏らすアヤネ。

 たとえホシノの奪還に成功しても、追撃を振り切り帰還できるかは別の問題。この作戦中の数ある懸念点の一つだっただけに、彼女も肩の荷が下りたに違いない。

 

 「けど残念。人質にして、カイザーから身代金を取れると思ってたのに」

 

「きっとそうなる前に、本社は首を切るでしょうね。そういう事だけは手早い連中ですから」

 

「それにいくら人質でも、あんな奴を校舎に入れるのはごめんよ!」

 

 じきに価値が失われるのは明らか。それに長く顔を見ていたい相手でもない。だからこうして、停戦のための人質として使わせてもらった。

 おかげで理事を適当なところで解放する手間こそ増えたものの、それで安全が買えるなら安いものだ。

 

「みんな、気を抜くのはまだ早いよ~」

 

 と、そんな時。ホシノがいつも通りの、どこか気が抜けた声で周囲を諫める。

 確かに言っている事は正しい。いくら一時の安全が得られたとはいえ、ここはまだ敵の勢力圏なのだから。

 ……だがどんな正論でも、発言者次第で説得力が変わることは珍しくない。

 

「ほら、昔からよく言うでしょ? 遠足は帰るまでが……って、あれ?」

 

 彼女の言葉は正しい。そもそも対策委員会が鉄火場に飛び込む羽目になった原因が、他ならぬ彼女にあることを除けばの話だが。

 周囲から向けられる呆れ混じりの視線で、大方察しはついたのだろう。ホシノの頬を一筋の汗が伝う。

 

「もしかして……すごく怒ってる?」

 

「当然ですっ! 本当に心配したんですよ!」

 

「そうよ! いくら作戦とはいえ、勝手に退学なんかしちゃって!」

 

「……せめて事前に相談してほしかった」

 

「戻ったらお説教ですからね! もちろん、カナメさんもです!」

 

「うへ~……その、ごめんね?」

 

 流石に四人から詰め寄られては、いつものようにのらりくらりとはいかないようだ。

 こちらに顔を向け、目で助けを求めるホシノ。それに応じてすっと彼女の隣に移動する。

 叱られて当然だとは思うが、こちらが焚きつけたのも事実。ここで見捨てるのは道理に合わない。

 

「まあ、その話は戻ってからにしましょう。ここでする事じゃありません」

 

「そうそう、プロの人もこう言ってるんだしさー」

 

「―――ただホシノさん、戻る前に一言、言っておくべき事はあるかと」

 

「……何のこと?」

 

「家出娘が帰ってきたんです。言う事は一つでしょう」

 

 そう、彼女は帰ってきた。分の悪い賭けに勝ち、自分を待つ人たちがいる場所へ。

 だったら言うべきことは、昔から決まり切っている。

 

「あー……うん。でも、やっぱり言わないと駄目?」

 

「もちろん」

 

「まったく、他人事だと思ってさぁ……」

 

 恥ずかしそうに視線をさまよわせるが、周囲の期待に満ちた表情は逃げ場を与えない。

 やがて覚悟を決めたのだろう。真っすぐ対策委員会の皆を見つめたホシノは、幾らかの沈黙の末に口を開く。

 

「―――ただいま、みんな」

 

「……おかえりっ!先輩!」

 

「ホシノ先輩、おかえりなさい!!」

 

「おかえりなさい、です!!」

 

「おかえり、ホシノ先輩」

 

“おかえり、ホシノ”

 

 帰りを待っていた者達は、満面の笑みで出迎えた。




アビドス編は次回で完結の予定です。
なんでここまで長くなってるんだろう……。
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