KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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アビドス生にご挨拶

 

……とりあえず、状況は理解できた。

 あのすごい剣幕の生徒―――セリカは、こちらの事をアビドスを襲う武装集団か何かと勘違いしているようだ。

 それが先輩であるシロコと共に現れたものだから、彼女が私達に害されていると思い奪還に乗り出した。そして周りの生徒はそれを引き止めようとしている。こんなところだろうか。

 

 確かに言われてみれば、誤解されても仕方がない状況が揃っている。

 アビドスの生徒は学園を守るために、武装集団と抗争を繰り広げている真っ最中。そこに未知の武装勢力が現れれば、警戒するのは自然なことだ。

 そして昨日砂嵐の中を突っ切ったことで、装甲車に描かれたKSSのロゴマークはだいぶかすれてしまっていた。これでは遠方からの識別も難しいだろう。

 所属不明の装甲車が自分達の先輩の後ろを走ってる。そんな状況を見てしまえば、良からぬ目に遭わされていると考えてしまうのも無理はない。

 

『先生に事情を説明してもらいますか?』

 

「いや、今の状態だと暴発が怖い。もう少し待ってもらおう」

 

 通信を繋げたまま、アビドス学園の校門へ向けて歩み寄る。

 

「動かないで! それ以上近づいたら撃つわよ!」

 

 銃口をこちらへ向けて警告するセリカ。

 そんな彼女に見えるように、ライフルのマガジンを抜き、コッキングハンドルを勢い良く最後端まで引き切る。

 薬室から排莢され、地面に転がる銃弾。それを負っていたセリカの目が、困惑と驚きで見開かれた。

 

「……何のつもり?」

 

「誤解させてしまい申し訳ありません。ですが我々に交戦の意図はありません」

 

 そこまで伝えると一呼吸置いて、なるべく温和な口調を意識して言葉を続ける。

 

「KSS警備学園の者です。通達通り、シャーレの先生の護衛として参りました」

 

「KSS……ああ、アヤネちゃんが言っていた人達ですね!」

 

「ほら〜、やっぱりセリカちゃんの勘違いじゃん」

 

 私の言葉を受けて、僅かに安堵の表情を見せる傍らの2人。

 しかし警戒心に満ち満ちたセリカだけは、そうもいかなかったようだ。

 

「ちょっと二人とも、なんでそんなに簡単に信じちゃうのよ!」 

 

「だって時間といい数といい、さっき来た連絡通りだからねぇ。ちょっと早い気もするけど」

 

「それにあの制服の校章、SNSで見たことがあります。だから間違いありませんよ」

 

「でもシロコ先輩を追い回してたのよ!?」

 

「それは―――」

 

 咄嗟に説明しようとするも、その前にシロコが一歩前に進み出た。

 

「さっきそこで会った。だから道案内をしていた」

 

「えっ、付け回されてたんじゃないの?」

 

「ん、それはセリカの勘違い」

 

「そうだったんだ……いや、それなら良かったけど……」

 

 己の勘違いに気づき、がっくりと肩を下ろすセリカ。

 同時に銃口も力なく地面を向く。これならもう暴発の心配もないだろう。

 

「もしそのつもりだったら、流石にシロコちゃんでも逃げ切れないもんねぇ」

 

「ホシノ先輩、それは心外。私なら装甲車相手でも逃げ切れる」

 

 緊張も解けたのか、和気藹々としたやり取りを始めるアビドス生達。

 それを尻目に私は装甲車へと向かいながら、インカムに向けて指示を出す。

 

「もう大丈夫だ。先生を降ろしてくれ」

 

『分かりました』

 

 やや間をおいて後部ハッチが開くと、そこから現れる先生。

 彼が装甲車の影から姿を現すと、アビドス生達の視線はすぐにそちらへと移った。

 

「うへ〜、ほんとに大人の人だぁ」

 

「うん、「シャーレ」の顧問先生です。よろしくね」

 

「連邦捜査部の先生!? まさか本当に来るなんて……!」

 

「わあ☆ 支援要請を受理してくれたのですね!」

 

 次々と上がる驚きと喜びの声。

 それも無理はないだろう。物資の不足で追い込まれていたところに、補給品の支援が届いたのだから。

 絶体絶命の所で差し伸べられる救いの手ほど、ありがたくて嬉しいものはない。それが望み薄であればあるほど、尚更だ。

 

「んー、でもさぁ……」

 

 思わず目の前の光景を過去の記憶と重ねていると、不意に間延びした声が投げかけられた。

 確かホシノといっただろうか。桃色の髪をした小柄な生徒は、眠気を隠さないぼんやりとした様子のまま、こちらを見据える。

 

「……人一人を護衛するのに、装甲車2台はちょっとやりすぎじゃない?」

 

「!」

 

 瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 内容はただの疑問で、口調も柔らかなもの。なのにその言葉には、言い知れぬ圧がある。

 もし他意があるのなら容赦しない。そう言外に語っている圧が。

 

「……先生は重要な方です。なので万全の警護を敷ける態勢を整えました」

 

「へえ、そうなの?」

 

「それにアビドスは情報が少なかったので、念には念をと思いまして」

 

「……うん、この辺は案外物騒だからねぇ。備えとくに越したことはないよ」

 

 そう言ってうへへと笑うホシノからは、先程感じたものは既に消えていた。

 しかしよくよく見れば、その目はゆっくりと、しかし確実にこちらと装甲車を観察している。まるで敵の戦力を値踏みしているかのように。

 ……どうやら彼女は外面通りの人間、という訳でもないらしい。

 

「あっ、そろそろ対策委員会室にいきましょうか。いつまでもこんな所で立ち話もなんですし」

 

「そうだね〜、おじさんももう一眠りしたいよ〜」

 

「分かった、じゃあお邪魔させてもらおうかな」

 

「ん。うちは貧乏だけど、お茶ぐらいは出せる」

 

「ちょっとシロコ先輩、余計なこと言わないで!」

 

 そんなことを考えているうちに、一行はすっかり学園の内に向かう雰囲気になっていた。

 もう一度ホシノの様子を伺ってみても、こちらを拒絶する気配はない。なので私も後に続こうとした、その時。

 

『こちらι3、敵勢力と思われる集団を発見』

 

 僅かに焦りを帯びた声が、インカム越しに耳を打った。

 

『数は10から12、格好からしてヘルメット団と推測されます』

 

「距離は?」

 

「2000。なおも接近中です」

 

「ん~? どったの、護衛の人?」

 

 不意に足を止めたことを不審に思ったのだろう。振り向いたホシノが尋ねてくる。

 そんな彼女達に、私はなるべく平静になるよう意識して口を開いた。

 

「この学園にヘルメット団が接近しているようです。恐らくそちらに度々攻撃を仕掛けているという、武装勢力の一派かと」

 

「ヘルメット団……もしかして、カタカタヘルメット団の連中!?」

 

「あいつら……性懲りもなく!」

 

「うへー、おちおち昼寝もできないじゃん……」

 

「困りましたね……やっと補給が受けられるって時に」

 

 ある者は怒りで、またある者は焦りで。アビドス生の表情が一斉に変わる。

 今の彼女達は弾薬にすら事欠く状況。その補給に先生が来たとはいえ、まだそれはアビドス側には渡っていない。

 補給物資が彼女達の手に渡り準備が整う頃には、ヘルメット団は学園の入口まで辿り着くだろう。つまり必然的に校舎が戦場となってしまう。

 補給物資に苦心するようでは、戦闘で破損した校舎の修復が望めるとも思えない。つまり長期的に見れば、彼女達はより不利な側に追い込まれてしまう。

 

 しかしそれはアビドス生達だけの場合の事。

 ここには既に別の戦力がある。完全な状態でいつでも動ける戦力が。

 

「―――ζ小隊はここに留まり、アビドスと先生の防衛を。ι小隊は私と迎撃だ」

 

 インカムを抑え、咄嗟に編み上げた戦略に沿って指示を飛ばす。

 するとアビドス生と先生の目が丸く見開かれた。

 

「ちょっと、何するつもり?」

 

「我々が敵を抑えます。その間に補給と準備を」

 

「そりゃありがたいけど……いいの? 護衛でしょ?」

 

「安全を確保するのが護衛の仕事です」

 

 何も間違った事は言っていない。明らかな敵が迫っているのなら、先んじて叩くのも広義では護衛の仕事だろう。

 それに理由はもう一つ。個人的にはこちらが一番大事な事だ。

 

「それに……誤解させてしまった詫びが、まだ済んでいませんから」

 

 そう一言言い残すと、私は脚と翼を動かして跳躍。

 装甲車の上部へ降り立つと、引き抜いたマガジンを差し戻す。

 

「ι分隊、出撃! イノシシ作戦で行くぞ!」

 


 

「ひゃーはははっ! 進め進め!」

 

「今日こそアビドスの連中も最後だ!」

 

 赤いヘルメットのリーダーに率いられた、総勢12名のヘルメット団。

 彼女達は意気揚々と、自分達の勝利を確信してアビドス高校への道を進撃していた。

 

 弾薬の補給を絶たれたアビドスには、最早ろくな抵抗能力は残っていない。

 今まで散々手を焼かされてきたが、それももう終わりだ。今日こそあの鬱陶しい対策委員会を叩き潰し、アビドス学園を自分達の新たな拠点とするのだ。

 戦う前から勝った後の事を考えるのは明らかな慢心の証。しかしそうなっても仕方がないほどに、彼女達の脳内では高い勝算が見込まれていた。

 

「……ん? 何の音だ?」

 

 しかし遠くから聞こえてきた聞き慣れぬ音に、彼女達の脚が止まる。

 

「このエンジン音、装甲車っすかね?」

 

「馬鹿言え、アビドスの連中がそんなもの持ってる訳ないだろ」

 

「いや、でも……ほらっ!」

 

 慌てて目の前を指さすヘルメット団員。

 そこには路上に積もった砂をもうもうと巻き上げ、轟轟と疾走する一台の装甲車の姿があった。

 さらによく見れば……その上部には溶接された取っ手を掴み、張り付くように装甲車にしがみつく誰かがいる。

 

 だがヘルメット団達に、悠長にそれを観察している暇はなかった。

 何故なら装甲車は道に沿って一直線に進んでいるのだ。それも一切スピードを落とさないまま。

 

「やばい、突っ込んでくるぞっ!」

 

「避けろっ!」

 

「ちょ、待―――ぎゃあっ!」

 

 慌てて道の端に飛びのくと、そこを勢いよく通り過ぎる装甲車。

 逃げ遅れた団員の一人が跳ね飛ばされ、遥か彼方へと転がっていく。

 

「こいつ、よくも!」

 

 すぐさま起き上がり、仲間の仇を討とうとするリーダー。

 だが次の瞬間、彼女は予想だにしない者を目にすることになった。

 

「……えっ?」

 

 人が、飛んだ。

 装甲車の上に掴まっていた生徒は、握っていた取っ手を離して跳躍。装甲車の走行がもたらす突風を大きな翼で受け止め、大きく空へ舞い上がったのだ。

 そして空中で構えられるライフル。その銃口が狙うのは―――自分自身。

 

「ぐはっ!!」

 

 一瞬だけでも呆気に取られていた以上、回避する術はない。

 放たれる数発の弾丸は全て頭部へと直撃し、ヘルメット越しに襲う衝撃は容赦なく彼女の意識を刈り取った。

 意識を失い地面に倒れるリーダー。その姿を見た団員達の目に、一斉に怒りの炎が宿る。

 

「てめえ、何者だ!?」

 

「アビドスが雇った傭兵か!」

 

「何でもいい、やっちまえ!」

 

 地面に降り立った白髪の生徒に、一斉に向けられる銃口。

 だが銃弾が放たれたのはそこからではなく、彼女達の背後からだった。

 

「な、なんだ!?」

 

「後ろだ! あの装甲車、撃って来やがった!」

 

 急ブレーキをかけ、路上を塞ぐように横向きで停車した装甲車。 さらに装甲車上部に据え付けられた遠隔操作式無人銃架(RWS)―――7.62mm機関銃が勢いよく火を噴く。

 何人かが掃射に巻き込まれ倒れる中、蜘蛛の子を散らすように散開するヘルメット団員。だが、それこそが彼女達の敵が狙っていたことだった。

 

「フェーズ1完了、フェーズ2へ移行!」

 

「了解、残敵を掃討する。ι3、10時に制圧射撃!」

 

 装甲車の後部ハッチから転がり出た二人の生徒。彼女達はばらけて連携が取れないヘルメット団員達に、容赦なく正確な射撃を浴びせ沈黙させていく。

 かといって他の団員と連携しようと思えば、装甲車の機関銃がそれを妨害する。そして後ろからは白髪の生徒もまた、機関銃の範囲外から団員を狙い撃っている。

 そしてここは道のど真ん中。隠れられる場所はどこにもない。

 

「畜生……!」

 

 それでも諦めず、装甲車の側にいる敵に向け発砲する者もいた。

 だがその弾丸は遮蔽物とされた装甲車に阻まれ、反撃を受けた団員は力なく地面へと転がってしまう。

 ヘルメット団員は知る由もないが、この装甲車は要人護衛用に装甲モジュールを増設した特別仕様。重機関銃さえ跳ね返す装甲が相手では、アサルトライフルやショットガン程度ではどうにかなるはずもなかったのだ。

 

 火力で負け、装甲を貫く武器もない。さらに奇襲で動揺し、司令塔になるリーダーも失っている。

 そんな非力な烏合の衆と化したヘルメット団が壊滅するまでには、さして時間もかからなかった。

 

「ま、待ってくれ! 降参だ、降参する!」

 

 最後まで生き残っていた団員が、銃を捨て両手を挙げて叫ぶ。

 それを見て装甲車の陰から飛び出し、団員に駆け寄ろうとする生徒。しかし白髪の生徒は、小さく首を横に振ってそれを制した。

 

「私が行く」

 

 短く言葉を発し、銃を降ろしてゆっくりと近づく生徒。

 その距離がある所まで縮まった瞬間―――団員は隠し持っていた手榴弾を取り出した。

 

「へっ、馬鹿め!」

 

 誰が降伏などするものか。初めからこれが狙いだったのだ。

 この距離ならまず逃げられることはない。のこのこ騙されてきたこいつを吹き飛ばして、その隙に逃げおおせてやる。

 己の知略の勝利を確信し、ヘルメットの下でほくそ笑む団員。そのままピンを―――抜こうとした手は、その外側からがっちりと抑え込まれた。

 

「―――あ、え?」

 

 つい先ほどまで、まだ少し離れた所にいた生徒。それがいつの間にか、自分と目と鼻の先にいる。

 理解が追いつかない状況に、一瞬思考が止まる。その隙に手首が捻じ曲げられ、痛みで開かれた手から手榴弾が零れ落ちる。

 そして次の瞬間、彼女の体は一回転して、地面へと打ち付けられていた。

 

目標制圧(タンゴダウン)

 

 痛みと衝撃で意識が暗転する直前。

 彼女が目にしたのは、氷のように冷たい視線を投げかける、琥珀色の瞳だった。

 

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