KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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アビドス対策委員会

「いやぁ~、まさか私達が来る前に勝っちゃうなんてねぇ。思いがけず楽できちゃったよ~」

 

「もう、ホシノ先輩ったら……でも、学校が不良のアジトにならなくてよかったです」

 

 ヘルメット団を打ち破ったしばし後。

 私は先生の護衛として、アビドス高校の教室に足を踏み入れていた。

 

 結局のところ、アビドス生の準備が整う頃には既に大勢は決していた。

 彼女達が行ったのは、気絶したヘルメット団達の拘束だけ。好意的に見るなら、補給を受けたばかりの弾薬を温存できた形になる。

 本来はこちらが撹乱を行なっている間に準備を整えて合流してもらうつもりだったのだが……想像以上に作戦がうまくハマってしまったようだ。まあ、こういう事も稀にある。

 

 ちなみに拘束したヘルメット団員は空き教室に押し込んだ上で、ζ小隊とη小隊が見張りを行なっている。

 ヴァルキューレにも通報しておいたから、多分後数時間もすれば()()が来るはずだ。

 わざわざこんなところまでご足労願うのは大変だろうが、これも仕事だ。勘弁してもらおう。

 

「突撃で撹乱して各個撃破……ん、参考になる」

 

「あら? セリカちゃん、どうしたんですか?」

 

「な、何でもないわよ! うっかり攻撃しなくてよかったとか、別にそんなこと考えてないから!」 

 

 何やら考え込んでいるシロコに、ノノミの指摘に顔を真っ赤にして自爆するセリカ。

 そんな他のアビドス生を傍目に、赤い眼鏡をかけた黒い短髪の生徒は私達の方へと向き直った。

 

「少し遅れちゃいましたけど、あらためてご挨拶しますね。私達はアビドス対策委員会、私は書記とオペレーターを担当している、1年のアヤネです」

 

「折衝担当の者から聞いています。今回は我々のアビドスにおける活動を許可していただき、ありがとうございます」

 

「いえ、そんな! 元は私達がシャーレにお願いしたことですから!」

 

 こちらが頭を下げると、わたわたと慌てて手を振るアヤネ。

 どうやら書記らしく、だいぶ生真面目な性格らしい。

 

「それで、こちらは同じく1年のセリカ」

 

「……どうも」

 

「こちらが2年のノノミ先輩とシロコ先輩」

 

「よろしくお願いしますね〜」

 

「ん、改めてよろしく」

 

「そしてこちらは3年の委員長、ホシノ先輩です」

 

「いやぁ~よろしく、先生。それと護衛の人ー」

 

 黒髪を2つ結いにした、警戒心を隠さない猫耳がセリカ。おっとりしたベージュのロングヘアーがノノミ。灰色の短髪をした犬耳がシロコ。そして桃髪の小柄な生徒がホシノ。

 咄嗟に外見と名前を結びつけて脳の記憶領域に叩き込んだところで、ふと気づく。今この場にいる中で、私だけが名乗っていない。

 

「KSS警備学園の樋渡カナメです。何卒よろしくお願いします」

 

「樋渡カナメ……あっ、SNSのトレンドで見ました。確か記者会見に出ていた、生徒会長さんですよね?」

 

「ええ、その樋渡カナメです」

 

「えっ、会長が直々に現場に出てきてるの?」

 

KSS(うち)の会長はそれが仕事ですので」

 

「へぇー、大変だねぇ。ある意味うちとおんなじだ」

 

 そう言って眠そうに突っ伏すホシノ。

 だがその直前、その目は確かに鋭い眼光をこちらへ向けていた。

 一つくらい()()ができたところで、それだけで警戒を緩めるタイプではないらしい。

 

 

「一つ聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

 

 そんなことを考えていると、先生が口を開いた。

 

「なんですか?」

 

「対策委員会っていうのは、何をする委員会なの?」

 

「あっ、そういえばご説明がまだでしたね」

 

 アヤネはそう言ってにわかに姿勢を正したかと思うと、少しだけ姿勢を正して口を開いた。

 

「対策委員会とは……このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活です」

 

「うんうん! 全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです!……といっても、私たち5人だけなんですけどね」

 

「他の生徒は転校や退学で街を出ていった。そんな有様だから学園都市の住民はほとんどいなくなったし、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの」

 

 ……5人。随分生徒が少ないとは思っていたが、そこまで数が減っていたのか。

 理屈の上では一人でも生徒がいるなら、条件付きだが学校は存続できる。だがまともに学校を機能させるには、もっと多くの生徒が必要だ。

 5人となると……辛うじて学校の体裁を保つのが精一杯だろう。

 

「5人では防衛もだいぶ厳しかったのでは?」

 

「うん。現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのは難しい。恥ずかしい限りだけど」

 

「もしシャーレからの支援がなかったら……今度こそ、万事休すってところでしたね」

 

「補給品も底をついてたしねー。本当に良い所に来てくれたよ」

 

 不意にホシノがむくりと立ち上がる。

 

「おかげで考えてた計画も、どうにか実行できそうだしね〜」

 

「えっ、ホシノ先輩が!?」

 

「うそっ!?」

 

「いやぁ、その反応はちょっとひどくない? おじさんだって、たまにはちゃんとやるんだよ?」

 

 日頃どういう扱いなのかがよく分かる反応を見せる、セリカとアヤネの1年生コンビ。

 それに苦笑いしながら、ホシノは教室に置かれていたホワイトボードにペンを走らせていく。

 

「ここのところとのサイクルからして……多分数日もすれば、ヘルメット団はまた攻撃してくるはず」

 

「我々が捕縛した分を差し引いてもなお、ですか」

 

「多分ね。あいつら、数だけは多いから」

 

 そう言いながらホワイドボードに記された、簡易的な地図。

 その一点にホシノは大きな丸をつけた。

 

「だからこのタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって」

 

「い、今ですか?」

 

「そう。今なら補給を受けたばっかりで、こっちは万全の状態だしね」

 

 なるほど、確かに悪い案ではない。

 今のアビドスのように補給がない状態で防衛に徹すれば、次第に消耗してじり貧に陥っていくだけだ。

 余裕があるうちに敵の拠点を叩き、一時的にでも攻勢に出る力を奪えば、それだけアビドス側には余裕が生まれる事になる。

 

「いいと思います。あちらもまだ、何が起きたかさえ把握していないでしょうし」

 

「うん、そうだね。私もいいと思うよ」

 

 同じ考えに至ったのか、即座に同意を返すノノミと先生。他の面子も言葉こそないが、表情からして同意見らしい。 

 唯一アヤネだけは慌ているが、襲撃自体に異論はなさそうだ。

 

「先生のお墨付きももらったことだし……一休み出来た分、いっちょやっちゃいますかー」

 

「ヘルメット団の前哨基地はここから30㎞くらいだし、今から出発しよっか」

 

「それならこちらの装甲車(くるま)を出しましょう。こういった奇襲にはうってつけです」

 

「お、いいの?」

 

「我々の任務は先生の護衛ですから」

 

 護衛である以上、直接ヘルメット団の襲撃に参加する事はできない。

 しかし先生が前線に赴くなら、安全確保のために装甲車を出すのは自然な事だ。

 その時に()()()が多少増えるくらいは、別に何の問題もないだろう。

 


 

『半径10キロ圏内に、敵のシグナルを多数感知』

 

「迂回は難しそうですか?」

 

『はい、ここから先は実力行使になりそうです』

 

 無線から伝わるアヤネの言葉に、運転手の小隊員が装甲車のブレーキをかける。

 どうにか迂回やショートカットを繰り返して警戒線を突破してきたが、それもここが限界のようだ。

 できることなら拠点まで肉薄したかったが、こうなった以上は仕方ない。

 

「ん、ここからは私たちの仕事だね」

「そのようです。ご武運を」

 

「よーし、気合入れてこー」

 

 かえって気合が抜けそうな掛け声とともに、開いた後部ハッチから飛び降りるホシノ。それに続いて3人のアビドス生も駆け降りていく。

 その後ろ姿をハッチ越しに見送ると、私は操縦席に座る小隊員へと視線を移した。

 

「それにしても、何で運転手に立候補したんだ? 運転なら私もできるのに」

 

「カノン先輩からお願いされてるんです。カナメ先輩には絶対ハンドルを握らせないで、って」

 

「……何を後輩に吹き込んでるんだ、あいつは」

 

 確かに日頃からカノンは操縦を私に譲ろうとしない。だからといって後輩にも同じことをさせる必要もないだろう。

 確かに少し運転が荒っぽい自覚はあるが、決して下手な部類ではない。それはあいつも分かっているだろうに。

 思わず漏れそうになる愚痴をため息で打ち消すと、ハッチをくぐり後部座席へと移る。そこには兵員輸送席に座った先生が、何やらタブレット端末を睨んでいた。

 

「ドローンは使いますか? 必要ならそちらとリンクさせますが」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「分かりました」

 

 とはいえこちらから覗いた限りでは、見えるのは暗転した画面だけ。

 何かが映っているようにはとても見えないのだが……よほど高性能な保護フィルムを使っているのだろうか。

 気にならないと言えば嘘になるが、気にしている暇もない。私も装甲車に据え付けられた端末を操作し、偵察用のドローンを飛ばす。

 

『シロコ先輩! そっちお願い!』

 

『分かった、任せて』

 

『ノノミ先輩、今です!』

 

『分かりました☆ 覚悟してくださいね~』

 

 映像が表示されると、そこでは既にアビドス生がヘルメット団と戦闘を開始していた。

 ドローンによる射撃支援を挟みながら戦場を駆けまわるシロコに、その後方から正確な射撃で敵を確実に排除するセリカ。そしてミニガンによる制圧射撃で敵の動きを制約するノノミに、適切なタイミングで支援を行うアヤネ。

 それらの抜群な連携は、数で勝るヘルメット団を逆に押し込んでいる。

 

 ……正直に言えば驚きだ。まさか弱小校の生徒が、ここまでの動きを見せるとは。

 個人の技量も秀でているし、チームワークも抜群。練度だけで見ればゲヘナやトリニティといった三大校の戦力にだって勝るとも劣らないだろう。

 校舎を守る過程で鍛え上げられたのか、それともこれだけの精鋭が揃っていたから守り抜けたのか。何にせよ全校生徒5名のアビドスがなぜ今日まで陥落しなかったのか、その理由が分かった気がする。

 

「ホシノとシロコはそのまま前進して。セリカとノノミはそれを援護」

 

「アヤネ、10秒後に支援をお願い」

 

 そしてこの戦場には、その力をさらに引き出す指揮官がいる。

 先ほどから聞こえてくる先生の指示は、こちらから見ても非常に的確なものだ。私が指揮にあたっていたとしても、間違いなく同じ動かし方をしていると思えるほどに。

 聞いた話によれば、先生はサンクトゥムタワーの機能奪還に大きく貢献したという。なるほど、これだけの戦術指揮ができるのならそれも納得だ。

 

 そんなことを頭の片隅で考えながらも、私の視線は一人の生徒に固定されていた。

 

「私が前に出るよ、集まって~……っ!」

 

 最前線で盾を持って攻撃を引きつけ、自らもショットガンで反撃を行うホシノ。

 あれだけものぐさな風だったのに前衛(タンク)を引き受けているのは驚きだが、問題はそこではない。彼女の動きだ。

 移動のタイミングや攻撃を受け止める際の体捌き。それに折を見て盾を用いた近接戦闘を仕掛ける機転。彼女の技量は、明らかに他の生徒より一歩抜きんでている。

 

 唯一の3年生である以上、経験の差があるのは当然なのかもしれない。だが気になるのは、明らかに彼女は本気を出していないという事。

 こういう事は息遣いを見れば分かる。荒さを感じない呼吸を見るに、本気を出せば今の数割増しの動きは可能だろう。

 あくまで推測だが、もし事実なら彼女の実力は非常に高い。それこそ他校の最強格と呼ばれる生徒に比肩する可能性すらあるほどに。

 

 ただそうなると、分からない事が一つ。

 ゲヘナの空崎ヒナしかり、トリニティの剣先ツルギしかり、突出した実力を持つ生徒というのは自ずと他校にも名が知れ渡るものだ。

 しかし記憶にある限りでは、この数年の間に小鳥遊ホシノという生徒の名前を聞いたことはない。

 

 アビドスという、言い方は悪いが弱小の学園に身を置いていたからかもしれない。だがそうなってくると、何故そうしているのかという疑問が出てくる。

 単にアビドスという学園に思い入れがあるのか、それとも何か他の理由があるのか。それ次第でホシノという生徒に対する評価と判断は、大きく異なってくる。

 正直に言って、意図が読めない実力者ほど厄介なものはない。突出した個の暴走によって小さな学園の一つが壊滅する事もあるのが、キヴォトスという場所なのだから。

 ……小鳥遊ホシノ。あなたは何を思って、その姿を演じているんだ?

 

『敵の退却、並びにカタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認!』

 

 そんな思索を巡らせているうちに、気づけば戦いは決着していた。

 ドローンを操作し視点を変えてみれば、そこにあったのはあちこちから黒煙を上げて壊滅した拠点。ヘルメット団の規模なら、この規模の被害から再建するにはざっと数週間は必要になるだろう。

 つまりそれだけの間、アビドス側は時間を稼ぐことが出来る。作戦成功だ。

 

『これでしばらくはおとなしくなるはず』

 

『よーし、作戦終了。みんな、先生、お疲れー』

 

 そんな緩い言葉とともに脱力して見せるホシノ。

 そこに先程まで戦場で見せていた鋭さはどこにも感じられない。

 

『それじゃ学校に戻ろっかー。護衛の人、帰りもお願いしていいー?』

 

「ええ、もちろんです」

 

 その眠たげな瞳の奥で、彼女が一体何を考えているのか。

 それは今の私には読み切れそうにはなかった。

 




リアルが忙しいため、更新が不定期になっております。
何卒気長にお待ちください。
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