KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~   作:卵パサパサ感

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樋渡カナメの慌ただしい半日

 砂漠地帯の建物は、とにかく砂が入り込む。

 アビドス高校の校舎も例外ではない。何なら現在進行系で砂漠に浸食されている分、舞い込む量も尋常ではない。

 大事な校舎を砂に埋もれさせないために、日々対策委員会の面々も手を打ってはいるらしい。しかしやはり5人だけでは、どうしても限界があるようだ。 

 そのため雑役支援任務(ざつよう)を引き受けた私達に砂への対処が依頼されるのは、当然と言えば当然のことだった。

 

「……よし、こんなものか」

 

 持っていた箒を靴箱に立てかけ、額の汗を手で拭う。

 数時間前まで至る所まで砂が見受けられた昇降口。それは数時間に渡る格闘の結果、どうにかきれいな姿を取り戻していた。

 人の出入りが多く開口部も広いだけあって、舞い込んでいた砂の量も相当なもの。おかげで随分骨を折る羽目になったが、それでもやれば何とかできるものだ。

 

「後はこいつを片付けないとな」

 

 そのまま視線を目の前に積まれた砂の山へと移す。

 昇降口の各所から集められた、膝丈を超える高さはある砂山。これをちりとりで集めて捨てていては、それだけで結構な時間を取られかねない。

 だから裏技を使う。多分私にしかできない、とっておきの裏技を。

 

 ドアの固定よし、立ち位置よし、周辺の障害物及び飛散物なし。

 周囲の状況を手早く確認すると、翼に力を込める。

 完全に広げれば身長と同等かそれ以上はある、純白の翼。それが大きく反り返る。

 

「―――ふんっ!」

 

 そして風が収まったタイミングを見計らい、私は翼を勢いよく振り下ろす。

 刹那、砂山が霧散する。翼が生み出した突風は、砂を一気に屋外へと吹き飛ばした。

 角度と力を適切に調整したおかげで、生み出した風による周囲の物品への被害はなし。砂の拡散も許容範囲内。全て計算通り、完璧だ。

 

「おお〜」

 

 上出来な結果を前に悦に入っていると、後ろから歓声と拍手が響いてきた。

 見ればそこにいたのは、ι小隊のポイントマンを担当する生徒。心なしかその目は輝いているような気もする。

 

「これが噂に聞く、カナメ会長の必殺技。本気を出せば装甲車さえひっくり返すという羽ばたき……」

 

 一体誰だ、そんな噂を流してるのは。確かに武器としても使うことはあるが、流石にそこまでの威力は出せないぞ。

 そんなツッコミを内心で繰り出しながら、私は一つ咳払いをする。

 悪いことをしていた訳ではないとはいえ、実家の方でははしたない事とされていたのも事実。それを見られてしまったのは、少しばかり気恥ずかしい。

 

「どうかしたのか? 今は先生の護衛中だろう」

 

「もうじき交代の時間。だから会長が忙しそうなら手伝って来いって、リーダーが」

 

「それなら大丈夫だ。こっちはもう片付いた」

 

 腕時計を見れば、針は交代時間の20分前を指していた。

 今すぐ代わるには少し早いものの、手伝い込みならちょうど良い時間だ。

 ただせっかく来てもらったのはいいが、ここはもうやる事がない。残った砂掃除なら、一人で十分事足りる。

 

「まあ折角だ、少し休んでいくといい」

 

「やった。今日は朝から走り回ったから、ちょうど休みたかったところなんです」

 

 こちらの言葉に従い、近くの階段へと腰を下ろす生徒。

 しかしその言葉が少し引っかかる。護衛任務中に走り回るとは、一体何があったのだろう。

 

「何かあったのか」

 

「戦闘じゃないですけど、ちょっとしたアクシデントが少し」

 

 そう言って腰のポーチから飲料水のボトルを取り出し、勢いよくあおる生徒。

 ものの数秒で飲み干した彼女は、口元を拭いながら次の言葉を繰り出した。

 

「先生が突然、あのセリカってアビドス生を追いかけ出して」

 

「……なんだって?」

 


 

「事情をお聞かせ願いますか、先生」

 

 それから20分後、対策委員会の部室。

 ι小隊と護衛を交代した私は、早速先生に事の次第を問いただしていた。

 一体なぜ彼がセリカを追いかけていたのか。KSSを率いる者として、その理由ははっきりさせておく必要がある。

 

「決して疑っている訳ではありません。ですがKSS(わたしたち)としては、こういった事には敏感にならざるを得ないのです」

 

 KSSは事実上の民間軍事会社(PMC)だ。だが金のために悪人の走狗になるつもりは毛頭ない。

 だから依頼人や護衛対象の素性については、他のPMC以上に気を遣う必要がある。

 これもその一環。もし先生が邪な意思のもと生徒をつけ回すような人間なら……その時は、今後の付き合い方を再考しなくてはならない。

 

「……多分だけど、カナメが思っているような理由じゃないよ」

 

 そんな気迫が声に滲んでいたためか、わずかにたじろぎを見せる先生。

 それでもすぐにまっすぐな視線をこちらに向けると、いつもの温和な口調で答えだした。

 

「セリカがアルバイトをしてるって聞いたから、その内容を確かめておきたかったんだ」

 

「それは対策委員会の顧問として、ですか」

 

「うん。もし危険なことをしているなら、見過ごすわけにはいかないからね」

 

「ですが、何も追い回す必要はなかったのでは?」

 

「逃げられちゃったから、つい。自分でもちょっとやりすぎだったかなと思ってる」

 

 目の動き、息の乱れ、それに汗の量。

 少なくとも見ている限りでは、嘘をついている際に出やすい身体的特徴は認められない。

 それに話の内容も筋が通っている。セリカが先生から逃亡したのも、まだ気を許していないためと考えれば辻褄は合う。

 

 何より事前にι小隊から聞き取りしていた内容とも、彼の話は合致している。

 もし食い違う内容があれば、その時点で警戒レベルを上げるつもりだった。しかしどうやらその必要もなさそうだ。

 もちろん疑おうと思えばいくらでも疑える。しかし今はそうする必要性も感じない。

 

「……分かりました。お時間をとらせてしまい、申し訳ありません」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 こちらが頭を下げると、嫌味の一つもなく笑って返す先生。

 やはり接している限りでは良い大人だ。これが彼の本性であってくれれば良いのだが。

 

「それにしてもセリカちゃん、また新しいアルバイトを始めたんですね〜」

 

 そんな事を考えていると、横合いからこちらを見守っていたノノミが口を開く。

 もしかすると雰囲気を変えようとしてくれているのかもしれない。だったらこちらも乗らせてもらおう。

 

「ご存じなかったのですか?」

 

「はい。セリカちゃんって、私達にバイトしてることを隠してるんです」

 

「でも実際はバレバレ。授業中に寝てることも多いから、意外と分かる」

 

 続くアヤネとシロコの言葉から察するに、どうやらセリカは素直ではないタイプの生徒らしい。

 そういえば同期にもそんなタイプの生徒がいた。金髪で狐耳のポイントマンな彼女は、今も元気にやっているだろうか。

 

「でも今度はどんなバイトなんでしょうね?」

 

「先生にもひた隠しにする内容……も、もしかしていかがわしい感じの仕事だったり……!?」

 

「それはないと思う。昼間からやってるんだし」

 

 ふと知り合いの顔を思い返しているうちに、対策委員会の話題はすっかりセリカのバイトへと切り替わっていた。

 純粋に疑問を呈するノノミに、何を想像したのか顔を赤らめるアヤネ。そしてそれに冷静なツッコミを返すシロコ。

 なんとも和気藹々とした、取り留めのない空間だ。きっとこれが彼女達の日常なのだろう。

 

「うへ〜、みんな興味津々だねぇ」

 

 そんな流れを変えたのは、眠たげな目をこすりながら現れたホシノだった。

 

「それなら、これから会いに行ってみない? ほら、ちょうどもうすぐお昼時だしさ〜」

 

「ホシノ先輩、セリカちゃんのバイト先を知ってるんですか?」

 

「別に知ってるわけじゃないよー。ただここかな、って候補はあるだけ」

 

 言葉とは裏腹に、ホシノの表情はどこか自信に満ちている。口ではああ言っているが、実際はすでに目星をつけていると見た。

 やはり侮れない相手だ。そう心の内で身構えていることを知ってか知らずか、ホシノはこちらの方へと振り向く。

 

「せっかくだし先生も一緒にどう? それに護衛の人も」

 

「うん、いいね」

 

「私も賛成です。ただ事前に索敵(クリアリング)を行いたいので、住所などが分かれば有り難いのですが」

 

「オッケー、えっと……あった、これこれ」

 

 スマホを取り出して何度かタップすると、画面を返してこちらへ見せつけるホシノ。

 

「柴関ラーメン、ですか」

 

「そ。セリカちゃんがバイトするなら、きっとここだと思うよ〜」

 

 地図アプリの住所の下に掲載された写真。

 そこには青い法被を着て腕組みする犬獣人の看板を掲げた、和風な外観の店舗が映し出されていた。

 


 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで……わわっ!?」

 

「あの~☆ 6人なんですけど~!」

 

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

 

「セリカ、お疲れ」

 

「うへ~、やっぱここだと思った」

 

 柴関ラーメン店舗内に、セリカの驚きの声がこだまする。

 それもそうだろう。バイト先に学友が大挙して押し寄せてくれば、誰だってたまげるものだ。

 

「み、みんな、それにせんせいまで……どうしてここに……!?」

 

「セリカちゃんが昼からバイトしそうなところといえば、この辺りではここしかないじゃん? だから来てみたの」

 

「ううっ、ホシノ先輩か……!」

 

 身バレの元凶たるホシノを軽く睨むセリカ。

 しかし今の彼女はバイト店員。いつまでも普段のように話に生じている訳にはいかない。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

 

「は……はい、大将。それでは広い席にご案内します……」

 

 厨房から飛ぶ店主と思しき犬獣人の声。それに促されたセリカは、恥ずかしそうな顔をそのままに一行を席へと案内する。

 私はそれに逆らい、別の方向へと足を進めていく。

 

「……って、あんたはどこに行こうとしてるのよ!」

 

「今の私は護衛です。なので申し訳ありませんが、厳密には客ではありません」

 

 護衛任務中は対象と同席する事はなるべく避けるべきだし、同じものを食べるのは絶対に避けなくてはならない。SRTの護衛教本の冒頭数ページに記されている基本事項だ。

 もっともそのせいで、飲食店からすれば迷惑この上ない客……正確には客ですらない何かが誕生してしまう訳だが。

 

「大将、あちらの角をお借りしても?」

 

「なるほど、あんたは護衛さんか。ああ、構わないぜ」

 

「何なのよ本当……まあなんでもいいけど、営業の邪魔だけはしないでよね!」

 

 店主に許可を取り、セリカに匙を投げられながら、私は店の角へと身を収める。

 この位置からなら店内と入り口を一挙に観察できる。警戒にはもってこいの場所だ。

 ただこんな所に人が突っ立っていては、店内の客に不要な圧をかけてしまうのも事実。ここは一つ、気配も殺しておくことにしよう。

 

「先生はこちらへ! 私の隣、空いてます!」

 

「ん、私の隣も空いてる」

 

「分かった、じゃあこっちに」

 

「ちょっと狭すぎ! シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ!」

 

 店内の喧騒に厨房から聞こえる調理音、それに皿がこすれる音や、セリカが慌ただしくフロアを駆け回る足音。

 それらに耳を澄ませ、その中に共通する一定のリズムを感じとる。そして自分の呼吸もそこに合わせていく。

 こうすることで自然とその空間に溶け込み、自らの気配を霧散させることができる……らしい。  この方法を編み出したのはうちのカノン。なんでも極端に影が薄い1年生の後輩をよくよく観察した結果、導き出した理論なんだとか。

 

「……あれ? セリカちゃん、カナメさんを見ませんでしたか?」

 

「何言ってるのよノノミ先輩。さっきからそこにいるじゃない」

 

「あ、本当ですね。なんで気づかなかったんでしょう?」

 

 どういう理屈なのかは皆目理解できないが、それでも一定の効果があるのは間違いない。

 現に訪れる客は見向きもしないし、存在を知っているはずの対策委員会の面々も時折こちらを見失っている。

 それでもセリカにはしっかり認識されている辺り、限界があるのも確かなようだ。

 

 とはいえこの規模の護衛なら、この程度の隠蔽が保たれていれば十分。

 なので気にすることなく警戒を続けるものの……予想していた通り、この任務は楽なものではない。

 やること自体は単純だが、周辺の環境がこちらの集中力を削りにかかってくる。遂行には強い意思が必要だ。

 

「お待たせしました! 塩ラーメンと、特製味噌ラーメン・炙りチャーシュートッピングです!」

 

「うへぇ、待ってました!」

 

 ……端的に言ってしまえば、ラーメンの匂いがとてもそそられる。

 それに視界にちらちらと映るラーメンそのものも、見た目だけですごく美味しそう。量は少し多いが、味は私の好みの部類に違いない。

 予め軍用糧食(レーション)を食べてきておいて本当に良かった。流石に空腹のままこの場に来ていたら、間違いなく耐えられてなかったぞ、きっと。

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

 

「私はそれでも大丈夫ですよ☆」

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよ〜。それに今日は先生がいるんだし、ね?」

 

「えっ、初耳なんだけど……?」

 

 いかに鍛え上げられた兵士でも耐え難い、生物としての欲求がもたらす誘惑。

 それに耐え続けること数十分、ようやく終わりが見えてきた。

 あらかた食べ終え、支払いに関して何やら話し出す対策委員会と先生。そんな面々を尻目に、私は店の外へと歩き出す。

 食事が終われば先生は店外に出る。それに備えて周辺の警戒が必要だ。……決して小腹が減ってきたからではない。

 

 扉を空け、店の外の空気を吸い込んだ―――その時。

 

「!」

 

 不意に突き刺すような視線が体を襲った。

 咄嗟に視線を向けると、そこにはビルの陰に隠れるようにして立つ人影。

 こちらと目が合った途端に物陰へと引っ込むが、そのシルエットを見間違えるはずもないヘルメット団だ。

 

 理解した瞬間、即座に思考が切り替わる。若干食欲に侵食されていた脳内が、戦闘に適した状態に置換される。

 侵攻部隊を壊滅させ、前哨基地も叩いた。それでもなお勢力として壊滅していない辺り、カタカタヘルメット団の生き残りはまだ相当数いるらしい。

 それがこちらを見張っていたということは、何らかの形で報復を目論んでいるということ。しかしそれにしてら動きが妙だ。柴関ラーメンにいる対策委員会を襲うわけでもなければ、がら空きのアビドス高校の校舎を急襲した訳でもない。

 

「だとしたら、搦手か……?」

 

 脳裏に何通りかの可能性が浮かぶ。同時にそれを潰すための対策も並行して構築されていく。

 搦手を用いてくるとすれば、考えられる手段は2つ……いや3つ。だがそのうちのどれを用いてきたとしても、こちらは一手で対応できる。

 仮に外れたとしてもリスクは最小化可能。やらない選択肢はない。

 

「OWL1よりアビドス派遣部隊各員に通達。現時刻をもって、本日以降の雑役支援任務の内容を変更する」

 

 思考が固まるよりも早く、私の手はインカムの送信ボタンに触れていた。

 

「これより翌2300まで、雑役支援任務の内容は「柴関ラーメン」における警戒待機、及び従業員の護衛とする。なお当該地は飲食店につき、営業妨害にならないよう細心の注意を払うこと」

 

『ζ1了解。でも急な変更ですね』

 

「先日掃討した敵勢力の残党を確認した。詳細は追って知らせる」

 

「ι1よりOWL1、飲食店での露骨な警戒任務は店員への警戒を招くおそれがあります。対策として客に擬態することを具申します」

 

「許可する。ただし以後の作戦への影響を考慮し、摂食は1人3杯までとせよ。以上」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばし終えると、ポケットの中の財布を取り出し中を改める。

 1杯580円を三杯、それを8人分。それにトッピングも加味して計算した場合……うん、どうにか足りそうだ。

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