「ラッキー、"どくどく"」
「くッ! ユンゲラー、サイコキネシス!」
「"みがわり"」
「もう一度"サイコキネシス"だ!」
「"たまごうみ"。……ラッキーには"しんかのきせき"を持たせてる。君のパーティじゃ、落とせないよ」
「ウゼェぇぇぇッ!」
「ゴルバット! レアコイルと交代だ!」
「ペリッパー、"とんぼがえり"。キングドラ、"りゅうのまい"」
「レアコイル! "10まんボルト"! ……クソッ、耐えられた!?」
「キングドラ、"ウェーブタックル"」
「なにッ!? "みず"タイプの技でレアコイルを一撃だと!?」
「ペリッパーに雨を降らせた上、"りゅうのまい"も積んだ。君のパーティじゃ、耐えられないよ」
「クソがぁぁぁぁッ!」
「カバルドン」
「ぐッ!? 特性"すなおこし"か!? ならコイツだ! 行け、ギャラドス!」
「交代。ダグトリオ」
「ダグトリオなんかオレのギャラドスの敵じゃない! やれ! "なみのり"! ──なに!? 外れた!? ……特性"すながくれ"か!?」
「"つるぎのまい"からの"ロックブラスト"」
「ギャラドス!? クソッ! また一撃で……!」
「"なみのり"が当たってたら、危なかったかな」
「ふざけやがって……!」
オレは何度やってもこの人に勝てなかった。
毎日ポケモンバトルに明け暮れる事でオレのパーティのレベルは"シビルドン登り"に上がっている。
にも関わらず、一度もこの人に勝てない。
しかもこの人は、バトルする度に新しい戦術を繰り出してくる。
その戦術の引き出しの多さ、そしてそれを実行するポケモン達の強さには舌を巻くばかりだ。
この時点でオレは認めていた。
この人は間違いなくオヤジの血を継いでいる。
カントー最強のポケモントレーナーであり、トキワジムのジムリーダー、サカキの血を……。
「君のパーティには、コンセプトがないね」
「コンセプト……?」
「そう、コンセプト。ポケモンバトルには、ある程度決まった型がある。分かりやすいのは、天候パーティ。天候パーティは"はれ"、"あめ"、"すなあらし"、"あられ"といった天候を前提としたパーティのこと。例えば私がよく使う"砂パ"は、"すなあらし"状態でダメージを与えるから、特性"がんじょう"や"こらえる"みたいなワザをほぼ無効化できるし、"いわ"タイプの防御力も上がる。特性"すながくれ"で回避率を上げたり、特性"すなかき"で機動力を上げたりしてバトルを有利にする」
天候パーティの厄介さは理解できる。
オレのパーティには天候を上書きできるポケモンがいないので、この人の"砂パ"にいいようにやられたからな。
「こうやって言うと強そうだけど、もちろん弱点もある。そもそも天候を上書きされたら戦術の前提が崩れるし、"すなあらし"と相性の良いポケモンは"じめん・いわ・はがね"タイプに偏っている。"みず・かくとう"タイプのポケモンを上手く処理出来なければ、1匹のポケモンに全抜きされる危険もある。だからパーティのうち何匹かは、苦手なタイプに対抗できるポケモンを入れないといけない。私は"みず"タイプ対策に、特性"よびみず"のユレイドルを使う」
「なるほど。特性"よびみず"なら"みず"タイプの技を無効化しつつ、自身の能力アップも出来る。しかも"いわ"タイプだから"すなあらし"の恩恵も受けれるという訳か……」
「そう。直ぐにそこまで思い当たるって事は、ちゃんと勉強してるね。エライエライ」
「ウッ!? あ、頭を撫でるな! 早く続きを話してくれ!」
オレがこの人の手を振り払うと、少し不満そうに口を尖らせながらも続きを説明してくれた。
「じゃあ、次は役割の話をしよう」
「役割……? 余り聞いたことがない言葉だ……」
「そうだね。そこまで考えている人は、少ない。だから皆、弱いんだよ」
「そうなのか……? なら、早くその役割について教えてくれ!」
気が付けば、オレ達の周りには他のジムトレーナー達も集まっていた。
皆この人の話を真剣に聞いている。
「役割には、大きく"アタッカー"、"受け"、"サポート"の3種類がある。"アタッカー"は相手にダメージを与える役割で、物理技に特化した"物理アタッカー"と特殊技に特化した"特殊アタッカー"がいる。"受け"は"アタッカー"の逆で防御役だね。"サポート"には幾つか種類があるけど、"壁張り"や"積み"が代表的。パーティの"起点作り"をする役割だよ」
"アタッカー"と"受け"は理解出来る。
オレのパーティだとギャラドスは"物理アタッカー"、ユンゲラーは"特殊アタッカー"、ゴルバットは……"受け"ではないな。
"アタッカー"というほど攻撃力が高い訳でもないし、"サポート"になるのだろうか?
でも"サポート"役が何をする役割なのかよく分からない。
"壁張り"、"積み"、"起点作り"……どれも聞いたことのない言葉だ。
「……"起点作り"っていうのは、例えば"砂パ"において天候を"すなあらし"状態にする役割のポケモンとかのことで、そのパーティのコンセプトの起点となる役割の事。"壁張り"は"リフレクター"や"ひかりのかべ"を張って味方の耐久力を上げること。"積み"は"つるぎのまい"や"ちょうのまい"みたいな能力アップ技を積むこと。能力アップした後に"バトンタッチ"で"アタッカー"に引き継ぐのが基本的な立ち回りになる」
"アタッカー"はただでさえ攻撃力の高いポケモンだ。
それをさらに能力アップしたなら、例え相性が悪い相手でも一撃で倒す事が出来るかもしれない。
「……他にも相手の"起点作り"を潰したりするのも"サポート"の役割。例えば、君のゴルバットに"ちょうはつ"を覚えさせれば、相手の"積み"や"壁張り"を妨害出来る。"しんかのきせき"を持たせれば耐久力も上がるし、"受け"の役割をさせる事も出来なくはない」
「なるほど。"ちょうはつ"にはそんな使い道があったのか……」
「ゴルバットは覚えられないけど、"アンコール"で延々と変化技を出させるのも有効。"まもる"や"みがわり"と組み合わせるのも面白い。ただ、相手がどんな技を出してくるのか読み間違えると逆に不利になる」
「確かに。攻撃技を繰り出してくる相手に"ちょうはつ"をしても意味ないしな……。相手がどんな技を出してくるか、予測するのが大切になる。でも、それをするにはポケモンに対する膨大な知識が必要だ」
この人は、何故こんなにも色々な事を知っているんだ……?
もしかして、オヤジに教えて貰ったのだろうか……。
オレは教わっていないのに……。
…………ん?
いつの間にかオヤジもオレ達に混ざって真剣にこの人の話を聞いている。
しかもメモまで取ってる……だと?
もしかして、オヤジも知らない知識なのか?
オヤジから教えて貰った訳じゃない?
…………。
つまり、この人はこれだけの知識を自分で研究したって事だ。
ずっと無表情で何を考えてるのかよく分からない人だけど、きっと人知れず凄い努力をしたんだ……。
「……あの、さ」
「……なに?」
「ポケモンバトルのこと、もっと教えてくれないか? ……あ、姉貴。………………あ、ちょ、止めろ! 抱き着いてくるな! 頭を撫でるんじゃない! や、止めろってば!」