「タマタマ! "サイコキネシス"!」
「ブーバーン! "かえんほうしゃ"!」
「タマタマ、戦闘不能! 勝者、アキラ!」
「 ……クソッ!」
「レアコイル! "10まんボルト"!」
「うぐッ!? ピジョット!?」
「ピジョット、戦闘不能! 勝者、テツヒサ!」
「ラッキー! "まもる"」
「くッ、"どく"が……」
「フーディン、戦闘不能! 勝者、アキエ!」
「ヤドキング! "サイコキネシス"!」
「リザードン! "かえんほうしゃ"!」
「リザードン、戦闘不能! 勝者、レイカ!」
「……」
なぜだ……?
なぜ勝てない……?
オレ様は天才のはずなのに……!
自慢の、最強のポケモン達なのに……!
オレ様のポケモン達は決して負けてねぇ。
レベルも、技の強さも、テクニックも、そして……心の強さも。
今だって、必ずオレ様なら勝てると信じて、何度やられても立ち上がっている。
なぜだ……なぜ…………。
ポケモンは負けてない。
……………………なら…………オレ様、か?
オレ様が…………劣っている……のか……?
オレ様は…………天才なんかじゃ…………なかった?
「グリーン」
「…………ノワール、か」
バトルコートの片隅で項垂れるオレ様に、ノワールが話し掛けてきた。
「パパ、もうお仕事行っちゃった」
「…………そうかよ」
「これ、パパから」
「これは……ジムバッジ?」
緑色の葉っぱを模した、トキワジムのグリーンバッジ。
これを、なぜオレ様に……?
「パパがね、ポケモンリーグでも十分通用するだろうって」
「……」
十分に通用する……?
ここで1勝も出来ないオレ様が……?
「もしかして、負けて凹んでるの?」
ノワールがオレ様の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
凹んでる、か……。
…………そうだな。
正直、かなり凹んでるぜ。
今までバトルで負けた事がない訳じゃねえ。
でもそれは、運悪く技が外れたとか、まだポケモンが育ってなかったとか、オレ様以外に負ける理由があった。
だが、今回は違え。
鍛え上げたオレ様のポケモン達は最高の状態だった。
間違いなくオレ様のベストメンバーだ。
だから負けたのは、ポケモン達じゃねえ。
トレーナーのオレ様が、負けたんだ。
「…………どうすれば勝てる?」
「……」
「トレーナーの欲目かもしれねえが、オレ様のポケモン達は決して負けてねえ。にも関わらず、バトルしてると気付いたら絶対に勝てねえ状況に追い込まれてる。オレ様に、足りないものは何だ? オレ様が強くなるには、何をすればいい? 一体、どうすれば……」
気付けば、オレ様はノワールに弱音を吐いていた。
そしてノワールはオレ様の話を黙って聞いている。
レッドみたいに普段は何考えてんのか分かんねえ奴だが、こういう時はありがてえ。
「簡単だよ」
「なに? ……簡単、だと? それは、オレ様が強くなるのが簡単って事か?」
「そう」
その言葉に居ても立っても居られなくなり、縋り付くようにノワールの肩を掴む。
「お、教えてくれ! 何でも! そう、何でもする! 強く、いや、最強になれるなら、オレ様に出来る事ならなんだってやってやる! だから教えてくれ! 一体どうすれば──」
「おいキサマァァァッ! 姉貴に何をやっている!? その汚い手を離せぇ!」
「うるせえッ! シスコンは黙ってろ!」
「なッ……!? だ、誰がシスコンだ!?」
「2人とも、うるさい」
「うッ……す、すまん」
「ご、ごめん姉貴」
「……ん、許す。シルバーはバトル中でしょ? バトルコートに戻りなさい」
シルバーは何か言いたそうにしていたが、大人しくバトルコートに戻っていった。
このシスコンめ。
姉ちゃんの言う事は素直に聞きやがって。
「はい、これ。グリーンにあげるね」
そう言って、ノワールはオレ様に一枚の紙切れを渡してきた。
何だこりゃあ?
住所に氏名、年齢、得意とするポケモンのタイプ、相棒のポケモンなどを記入する欄がある。
そして下の方へ読み進めていくと……。
「……振込先? ……5、50万だとッ!? おいノワール!? 何だよコレは!?」
「入会金の50万円」
「いや高えよ!? てか入会金って、いきなり何の話だっつーの!?」
「このジムの入会金。あと、初月は無料だけど、翌月からは月々10万円、会費として払ってもらうから」
「おいおい!? 滅茶苦茶ボッタクリじゃねーか!?」
「……本当にそう?」
ノワールはグイッとオレ様に顔を近付ける。
その妙な迫力に、オレ様は思わず一歩後ろに下がった。
「例えばタマムシ大学。ポケモン博士になるにはタマムシ大学の博士課程を修了する必要があるけど、タマムシ大学の入学金は約100万円。卒業までの学費は総額で500万円以上」
「そりゃあ大学の話だろ? なんでジムの月謝で大学の話が──」
「一緒だよ。ポケモン博士になるのも、強いトレーナーになるのも、一緒。知識は力なの」
知識は力?
あまり聞かねえ言葉だが、納得する部分もある。
ポケモンの特性や覚える技、タイプ相性など、ポケモンバトルにおいて覚える事は非常に多い。
「このジムでは、トレーナーズスクールでは決して教えて貰えない超ハイレベルなバトル学について学べるの。しかもポケモンや道具のレンタルも出来て、いくらでも実戦で試す事が出来る」
「そう言われると……妥当な金額…………なのか?」
「妥当じゃない。超お得。大学と違ってこのジムに卒業はないから、学び尽くしたと思った時に辞めればいい。君が本当に天才なら、さっさと学び尽くして辞めちゃえば大学と比べて遥かに安くつく」
「それは……そう、だな」
「ポケモン博士はたくさんいるけど、最強のトレーナーは世界でたった一人。それなのに、あまりポケモンバトルを学ぶためにお金を掛ける人はいない。それって変じゃない? おかしくない? 本当に一番になりたいなら、時間も、お金も、努力も、惜しむべきじゃない」
「まあ……そう思う」
「でも、人生は短い。自分一人で色んな戦術を研究しようと思ったら、時間もお金も、いくらあっても足りない。もし自分の戦術に珍しいポケモンが必要だったら? 他の地方にしかいないポケモンだったら? わざわざそのポケモンを探して、何とか見つけてゲットしたとしても今度はそこから育成しないといけない。そして育成が終わった後、もし自分の戦術に致命的な弱点が見つかったらどうする? 今までの時間も、労力も、全部パアだよ? 捕まえられたポケモンだって悲しむでしょう?」
「それは、そうだけどよ……」
「でもね、このジムに入ればそんな悲しい事は起きないの。トキワジムは珍しいポケモンだってレンタル出来る。色々な戦術にあわせて、育成済みのポケモンがね。そして、思い付いた自分のバトル理論を実力のあるトレーナー相手にすぐ実戦で確認できる。もし理論に穴があっても、ジムリーダーのパパを始めとした経験豊富な先輩ジムトレーナーからアドバイスを貰える。しかも、ジム内のランクマッチで使用されたポケモンの育成論や戦術はアーカイブされてるから、それを調べて参考にする事もできる。これがどれだけ便利な事か、分かるでしょう?」
「それは、まあ……」
「なら、この入会金や月謝がどれだけ
「……」
オレ様は何も言えずに黙り込んでしまった。
今まで、誰かと一緒に強くなるなんて考えたことはなかった。
確かにこのジムに入れば強くなれるかもしれない。
だが、本当にそれでいいのか?
何となく、レッドの事を思い出す。
同じマサラタウン出身のトレーナー。
ガキの頃からの腐れ縁でライバル。
アイツなら、こんな時どうするだろうか?
…………コミュ障のアイツの事だ。
こんな話、乗るわけねえよな。
なら、オレ様も────
「グリーン」
ノワールが、考え込んでたオレ様の顔を両手で挟み、自分の方へ向ける。
「お、おい! なんだよ急に……!」
とっさに手を振り払うが、いきなりの事で驚いて声が上ずってしまった。
クソッ……オレ様らしくねえ。
「君が本当に最強を目指しているなら、他に選択肢はないよ。それに残念だけど、君にはもう、時間がない。今、君よりも私やシルバーの方が強い。それはナゼ? 君の今までのやり方が、間違っていたからだよね? 一体、何が間違っていた?
コイツ……!
普段は無表情のくせに、こんな時だけオレ様を憐れむような顔しやがって……!
「…………るよ」
「もっと、ちゃんと、はっきり言って?」
「入ってやるって言ってんだよッ! そんでもって直ぐにオマエ等より強くなって、とっとと辞めてやらぁッ!」
「本当? …………私、嬉しい!」
「は……? 嬉しいってオマエ……」
「
「え?」
「グリーンに、入会を勧めたのは私。だから、紹介料は私のもの」
「……」
「ここ、紹介者のところ。ノワールって、書いといたからね?」
オレ様は紙を破り捨てた。