「ドサイドン! "じしん"だ!」
「……ハッサム、"バレットパンチ"」
ハッサムの攻撃が先に当たり、ドサイドンが倒れる。
それと同時に、ちょうど視界を塞いでいた"すなあらし"が収まった。
私の前に広がるフィールドは酷い有様だ。
地面は至る所がヒビ割れ、陥没した所には水溜りができ、壁には炎が燃え上がっている。
このフィールドの状況が、今のバトルがどれほど激しい闘いだったかを物語っている。
「ド、ドサイドン、戦闘不能! 勝者、ノワール!」
審判の判定。
一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声が響き渡った。
「やったな姉貴!」
「さすがお嬢だ!」
「ノワールちゃんおめでとう!」
ジムトレーナー達からもみくちゃにされるノワール。
しかし、普段あまり感情を表に出さないノワールも今は嬉しそうだ。
「これで、ついに負け越してしまった……。強くなったな、ノワール」
「パパ」
ノワールが私に向かって両手を広げる。
仕方ないので近付いて力いっぱい抱き締めてやると、私の腹に頭をグリグリと擦り付けた。
こういうところはまだまだ子供だな。
「……むふー」
「フフフ。これで、今月のトキワジム・ランクマッチはノワールが1位だ」
ノワールはまだ子供。
自分の娘とはいえ、この歳で最強のトレーナーであるこのサカキに勝ち越すとは……。
子供の成長は早いものだ。
そう感じるのも、私が歳をとったからか……。
「さて、ノワールにはご褒美をあげないといけないな。何か欲しいものはないか?」
ノワールは腕を組み、片手を顎に当てて考える。
あまり子供らしくない仕草だが、時折左右にコテンと傾く頭は年相応で、そのアンバランスさが面白い。
「パパ、私、会社が欲しいの」
「か、会社?」
ノワールの口から出たあまりに突拍子もない答えに、間抜けな声を出してしまった。
普通このぐらいの歳の子供は人形やゲームを欲しがるものだが……。
フフフ、本当にこの子は面白い。
「その話は場所を移してしよう」
「うん、分かった」
「では皆、ランクマッチの検討会は明日にしよう! 我々は遅れていくから、皆は先にいつもの店に移動して慰労会を始めていてくれ!」
私のこの言葉でジムトレーナー達からワァッと歓声が上がる。
毎月開催しているランクマッチバトルが終わった日には、有志で慰労会をやっている。
ジムトレーナーには家庭があるものや飲み会が苦手なものもいるので全員参加ではないが、毎月かなりの人数が参加している。
ただで飲み食いできるから参加するというものもいれば、熱くバトルについて語り合うのが好きというものもいる。
参加する理由は十人十色だが、これが割と好評だった。
ちなみに、店はもちろんロケット団が経営している店だ。
支払い側のトキワジムの会計も、受け取る側の店の会計も私の息が掛かっている。
ちょっとした脱税やマネーロンダリングをするのにも丁度良い。
「さて、ノワール。会社が欲しいという事だったが、今度は何を考えているんだ?」
「ポケモンを使った、電子機器の開発」
「ポケモンを使った……? どういう事だ?」
「これ、見てほしい」
「何だ? これは……ポケギア?」
ポケギアとは、ジョウト地方で流行りだした電子機器で、電話、ラジオ、時計、マップなどの機能が使える携帯端末だ。
ポケギアの画面を開こうとすると、何とポケギアが宙に浮き、勝手に画面が開いた。
「何だとッ!? これは、エスパー? …………いや、もしかして、中にポケモンが入っているのか?」
「出ておいで」
「ロトロトロトッ!」
ノワールが声を掛けると、ポケギアからロトムが飛び出してきた。
「これは驚いた……。確か、ロトムは"でんき・ゴースト"タイプだったか? なるほど、"ゴースト"タイプゆえに実体がなく、"でんき"タイプだから電子機器に潜り込めるわけか」
「そう。ロトムを入れておけば、宙に浮くから身に着けなくてもいい。ポリゴンでもいい」
「ふむ……悪くない。しかし製品として販売するなら、ロトムやポリゴンを大量にゲットする必要がある。流石にロケット団だけでは厳しいぞ? そこはどうするつもりだ?」
「ロトムもポリゴンもメタモンとセットにしておけばタマゴが出来る。温泉の近くに
メタモンでタマゴが出来るとは聞いたことがない。
しかし、以前ノワールの言う通りにしてラッキーの
別に損するものでもないし、今回もノワールの直感を信じてロトムとポリゴンを量産してみるか。
ポケギアのような電子機器。
普通なら二番煎じなんぞ絶対に手は出さないのだが……。
ポケモンが入っていて、ポケモンに指示するように音声操作ができ、宙に浮くので身に付ける必要もない。
────売れる
これは間違いなく売れる。
平然とポケモンが好きなどと言う偽善者どもには刺さるだろう。
思わず口角が吊り上がる。
「良く考え付いたな。良い子だ」
「パパ、違うでしょう?」
「フフフ、そうだったな。さすが私の娘だ。とっても
「……むふー」
ノワールを抱き寄せ、頭を撫でる。
やはりロケット団
「まだ、続きがある」
「何だ? パパに教えてくれ」
「電子機器に入れるポケモンを、販売前にロケット団が所有者として登録しておく。そうすれば、その機器の中の情報を抜き取り放題」
「ほう! そうすれば企業の公表前の重要情報から銀行口座、そしてそのパスワードまで手に入るな! それはロケット団の新しい大きなシノギになるぞ!」
「それだけじゃない。電子機器で稼いだ資金で、モンスターボールの研究をする」
「なに? モンスターボールだと? …………流石にモンスターボールは無理だ。シルフやデボンからシェアを奪うのは難しい」
「研究は、モンスターボールを使えなくするため」
「使えなくする?」
「そう。現代のモンスターボールは電子機器。もしモンスターボールを外部から制御できたら、どうなると思う? ポケモンを強制的にボールに戻す。ボールを開かなくする。ボールからポケモンを逃がす。勝手にポケモンを交換する。考えただけで、ワクワクしない?」
モンスターボールを外部から制御だと?
それは…………世界が変わる発明だ。
モンスターボールへのハッキングが社会問題になった後、何食わぬ顔でハッキング対策されたモンスターボールを売り出せばシルフやデボンのシェアを"よこどり"する事も出来る。
「……フフフ、アッハッハッハ! ノワール! お前は"あく"の天才だ! お前が私の娘である事が誇らしいぞ! 会社の件はパパが何とかしよう! お前が大人になるまではパパが代理の社長として名前を貸す! 好きにやってみなさい!」
「ありがとう、パパ。大好き」
ノワールは今日一番の笑顔で応えた。