「ふぅ……。困ったものだ」
思わずしかめてしまった眉間をほぐすように指で揉む。
「やはり……今度のチャンピオンも?」
困ったように頬に手を当てたカンナが問いかけてくる。
「ああ……新チャンピオンとなったレッドも、チャンピオンの座を返上すると言ってきたよ」
新チャンピオン・レッド。
相棒のピカチュウを筆頭に、エーフィ、カビゴン、フシギバナ、カメックス、リザードン。
恐ろしく鍛え上げられたポケモン達で我々四天王を倒し、新たにこのポケモンリーグのチャンピオンとなった。
しかし、そんな新チャンピオン・レッドが、一度も防衛戦をしないままチャンピオンの座を返上したいと言ってきたのだ。
「理由は、どうせグリーンの坊やへのリベンジだろう?」
私はキクコの言葉に頷き、ため息を吐いた。
「グリーンの坊やは強かったねえ。まるで若い頃のオーキドのジジイみたいだった。……いや、あれはそれ以上か。あたしも思わず熱くなっちまったよ」
キクコが誰かをここまで褒めるのは珍しい。
この人は若い頃のオーキド博士を少し神格化している気があるが、そのキクコをもってしてオーキド博士以上と言わせるとは。
だが確かに、グリーンにはそう言わせるだけの強さがあった。
我々四天王を倒して新チャンピオンになった後、たった一度だけ防衛戦をして引退したチャンピオン。
その防衛戦の相手がレッドだった訳だが、あのバトルはお互いに鬼気迫るものがあった。
生まれた時からマサラタウンで共に育ち、共にオーキド博士からポケモンと図鑑を託された2人の少年。
そんなお互いをよく知る2人だからこそ、絶対に負けたくない闘いだったのだろう。
手持ちポケモンも何かのタイプに偏る事なく様々な相手に優位を取れるようなバランス型の構成。
そしてどのポケモンも考え抜かれた技構成。
幼馴染というだけあり、お互い似たようなバトルスタイルだった。
傍目からはお互いのポケモンの練度はほぼ互角、僅差でレッドの方が優勢に見えた。
初手からお互いの魂を燃やすようなポケモン同士の激しいぶつかり合い。
片方が相手を倒せば、今度は逆に相手に倒される。
そんなシーソーゲームを制したのは、グリーンだった。
勝因はパーティとしての練度……だろうか。
グリーンのポケモン達は、常に一つのパーティとして動いていた。
倒されるにしても、必ず次のポケモンの為に何かを残す。
"おいかぜ"で速度を上げたり、"リフレクター"で壁を貼ったり、"ステルスロック"を撒いたり。
そんな小さな技の積み重ねが、僅かに勝るレッドのポケモン達を打ち倒したのだ。
この防衛戦はカントー・ポケモンリーグ史上最も激しく熱いバトルだったと言えるだろう。
「…………レッドはともかく、問題はグリーンだ」
今まで黙っていたシバの言葉に、皆が頷いて同意する。
「グリーンは、最強のトレーナーになるためにチャンピオンを辞めると言っていたわ。つまり彼は…………このポケモンリーグのチャンピオンを、最強だと思っていないということ」
カンナのその言葉に、先程ほぐした眉間にまたシワが寄る。
「ポケモンリーグのチャンピオンは、最強のトレーナーでなければならないわ。そうでなければ、このポケモンリーグの存在意義が──」
「そんな事は分かっている!」
カンナに対し、つい強い言葉で返してしまう。
彼女もポケモンリーグの事を考えて意見を出してくれているというのは分かっているが、現状解決の糸口が見つからない問題に苛ついてしまった。
「……声を荒げてすまない」
「構わないわ。貴方の気持ちも、分かっているつもりよ」
「……ありがとう」
微笑みながら私を許してくれるカンナ。
冷静で聡明な彼女には、いつも助けられている。
私も元チャンピオンなのだが、これではどちらが上か分からないな。
「フェッフェッフェ。ここで悩んでたって、何時まで経っても解決なんかしないよ。待つだけでなく、あたし達の方から足を運ぼうじゃないか」
「足を運ぶ? 一体何処に行くというんだ?」
私の質問にキクコは"こわいかお"で笑って答える。
「決まってるだろう? 最強を
そうして我々四天王は、トキワジムに視察へ赴く事が決定した。