「さて、ノワール。何でこんな事をしたんだ?」
あれから吹き飛んだ扉を下っ端の団員に片付けさせたサカキは、ソファの隣に座ってお菓子を頬張る娘にそんな質問を投げかけた。
「パパに会いにきた」
「家で待っていれば良かっただろう? それにこのアジトの場所は何処で知った?」
「街で噂になってる」
「なに? 噂だと? ……何処かで情報が漏れたか?」
「お店の名前も
「むぅ……。流石に安直過ぎたか」
ロケット団は力が全てだ。
敵対する者は力尽くで捻じ伏せるという考え方が根底にあるため、情報の秘匿に対する認識が甘かったか。
そもそもポケモンマフィアたるロケット団のアジトに自ら侵入する者など今まで存在しなかったが、まだ10歳に満たない娘にこうも簡単に侵入されては考えを改めなくてはならない。
「入り口はどうやって見つけた? 地下への階段は隠してあったはずだが……」
「ポスターを触りながら、秘密のスイッチについてずっと独り言をつぶやいてる団員さんがいる」
「なるほど。少し組織の引き締めをしないといけないようだな……」
このアジトの入り口は隠されており、1階店舗のポスターの裏にある"秘密のスイッチ"をポチッとする事で地下への階段が現れるようになっている。
普通にしていれば気付かれる事はないはずだが、まさか自ら喋っているバカがいるなんてサカキは思いもしなかった。
「制服も辞めた方がいいよ。目立つし」
「そうか? しかし名前を売るにはある程度目立つ必要がある」
「必要ないよ。ロケット団は
「ほう。…………何故そう思うんだ?」
私のその質問に、ノワールは考える間もなく直ぐに答えた。
「その方が、お金儲けがしやすいから」
「…………フフフ、ハッハッハ! そうかそうか、金儲けがしやすいからか!」
サカキは隣に座る娘を抱き上げて自らの膝の上に座らせる。
自身と同じ黒髪を撫でてやると、娘は気持ちよさそうに目を閉じた。
ノワールの母親は髪も眼もブラウンであるため、黒髪黒目はサカキの遺伝だ。
それに母親は眼の形もどちらかというと垂れ目だったので、つり目がちなのもサカキの遺伝だろう。
だが、外見など些細な事だ。
まだ10歳に満たないにも関わらず、手持ち1匹でロケット団のアジトを壊滅させる程の強さ。
これはポケモントレーナーとしての才能がなければ出来る事ではない。
それもトップクラスの。
ノワールはポケモントレーナーとしての才能もサカキからしっかりと受け継いでいた。
しかし、ノワールにはもっと稀有な才能がある事をサカキは見抜いていた。
ただの優秀なトレーナーであれば、ノワール以外のサカキの子でも成れるかもしれない。
特にノワールの腹違いの弟に、既にトレーナーとしての才能の片鱗を見せている者もいる。
トキワジムのジムリーダーであれば、ノワール以外の子にも継がせる事は出来るだろう。
だがロケット団は別だ。
これを継がせるのはノワール以外あり得ない。
10歳に満たずしてサカキにそう考えさせる程の才能をノワールは持っていた。
サカキは何より、ノワールがポケモンを愛して
もちろん手持ちのハッサムとは深い信頼関係で結ばれているし、愛情を持って接しているだろう。
それはハッサムの懐き方を見れば一目瞭然だ。
では、野生のハッサムに対してはどうだろうか。
ノワールはきっと、邪魔であれば躊躇なく殺すだろう。
手持ちのハッサムは愛しているが、ポケモンとしてのハッサムはどうでも良い。
きっとそう考えている。
ロケット団はポケモンマフィアであり、ポケモンを使って金儲けをする組織である。
当然ポケモンを傷付ける事もあれば殺す事もある。
トレーナーとして日々ポケモンと接していると、ポケモンを家族だ友達だと勘違いしてしまう連中もいる。
──家族を戦わせた事はあるか?
──友達を交換した事は?
ある訳がない。
ではポケモンは?
見ず知らずの人と交換する事もあれば、バトルをするのも日常茶飯事だ。
これだけでポケモンが家族や友達なんてものではないと分かる。
そう、ポケモンは"どうぐ"なのだ。
ポケモンを
それをノワールは持っていた。
「そういえば、何でパパに会いに来たんだ?」
「…………会いたくなったから」
「フフフ。そういうところはまだ子供だな」
サカキは膝の上に座る娘を、そっと抱き締めた。