ガラル地方。
あそこはかなり独特な仕組みを採用しているリーグだったはずだ。
私達がガラルのポケモンリーグについて記憶から引っ張り出そうとすると、サカキが説明をしてくれる。
「ガラルは他の地方と違い、一般企業とのスポンサー契約によって運営されている。しかもジムバトルなども大々的にテレビ放送し、地方を挙げた興行となっているんだ。テレビ放送などの都合でジムバトルは全てスケジュール化されていて、チャンピオンは年に一度のチャンピオンカップにて選出される。四天王がいないのも特徴の1つだな。まずは予選として、ジムチャレンジが行われる。少しエンタメ色が強いが、基本的にはどの地域でもやっているジム戦と大きな差はない。違うのは大々的にテレビ放送されるので、負けたのにバッジを渡さない、逆に実力のない相手にバッジを渡すなどの不正が出来ないところだ。そしてジムチャレンジを勝ち残った一般トレーナーによるセミファイナルトーナメントがあり、その勝者とジムリーダー達でファイナルトーナメントを行う。そして最後に、ファイナルトーナメントの勝者とチャンピオンが一騎打ちをするチャンピオンカップがある」
「ガラルでの運営をカントーでも取り入れるべきだという事か?」
「私はその方が良いと考えている。これには様々なメリットがある。まず、スポンサーが付くことにより、ポケモンリーグ、及びジムリーダーは資金集めに奔走する必要がなくなり、バトルやその運営に集中できるという点だ。これによりトレーナーの質、そしてバトルコートなどの環境的な質も上がるだろう」
「確かに。ニビジムはトレーナーが1人しかいないから経営がかなり苦しいと、以前ジムリーダーのタケシが言っていた。過去にも資金繰りが上手くいかずに潰れたジムもあったはずだ」
「優れたトレーナーが、優れた経営者となれる訳ではないという事さ。そういったのが嫌でジムリーダーになりたくないという者もいるだろう」
「そうだな。間違いなくそういった者もいるだろう」
「それにテレビ放送されるというのも大きい。テレビ放送されればそうそう悪いことは出来ないし、トレーナーのモラルも必然的に上がるだろう。さらに各トレーナーにファンが付く。自分と同じポケモンを使っているトレーナーや、同じ街出身のトレーナーは応援したくなるものだ。そしてファンが付けばグッズなども売れるし、スポンサーとしても人気のトレーナーにはCMなどの依頼をしやすい。そうすればトレーナーの懐はより潤うだろう。カントーの経済も活性化する」
「フンッ! なんだい、金の話ばっかりじゃないか!」
「そうは言うがな、キクコよ。トレーナーにとって金は、バトルの強さにも繋がる大事なものだ。金がなければポケモンを養えない。カビゴンなんかが良い例だ。奴は文字通り桁違いに食費が掛かる。金があるトレーナーほどたくさんのポケモンを所持する事が出来る。うちのジムだって、トレーナーから集めた入会金や、私がビジネスで稼いだ金でレンタル用のポケモンや道具を維持している。うちのジムトレーナーが強いのは、間違いなく金の力だ。もちろん、本人達の努力もあるがね」
「なるほど…………。いいね! 気に入ったよ! トレーナーの質が上がるってんならあたしは賛成だ! さっそくカントーでもスポンサー集めとテレビ放送を始めようじゃないか!」
「おい、キクコ。これはそんなに即断できる話ではないだろう? 今後のポケモンリーグの話なんだ。慎重に事を進める必要がある」
「ワタル! アンタはいっつもそうだ! 男の癖にウジウジするんじゃないよ! やってみないと良いか悪いかも分からんだろうが!」
「それはそうだが……」
キクコは一度言い出したら聞かないからな。
トレーナーとしては尊敬できるんだが、サカキが言ったトレーナーとして優秀な者が経営者として優秀な訳ではないという言葉、あれが身に染みて分かる。
「キクコ、ワタルの言う通りだ。落ち着きたまえ」
「サカキ! アンタまでそんなこと言うのかい!? 元々アンタが言い出した話じゃないか!?」
「まあ、そうだがね。私がした話は、あくまでガラル地方での話だ。これをカントー用にローカライズする必要がある」
これにカンナが首を傾げる。
「ローカライズ……? どういう意味かしら?」
「その地方にあわせた形に改修する必要があるという事さ。カンナ、今のガラルリーグの話をどう思った?」
「え? 話を聞いただけでは、良い事ずくめのような気がするけれど……」
「それは、私がまだ良い事しか話していないからだな。次はガラル地方で起きている問題の話をしよう。まずスポンサーが付く事のデメリット。これは、リーグやジムリーダーがスポンサーの言いなりになってしまう危険がある事だ」
「そんな……! 我々はお金のためにスポンサーに媚を売ったりしないわ!」
「君はそうかもしれないが、君の後任はどうだ? それに、君達四天王以外のリーグ関係者は? 例えば、巨額の資金提供をしてくれているスポンサーに、うちの子供をトーナメントに出してくれと言われて賄賂を渡された場合、全員がキッパリと断る事が出来るのか?」
「それは…………分から、ない」
「だろう? だからスポンサーを付けるのであれば、こういった不正が発生しにくい仕組みを考えなくてはならない」
「そう、ね。……ガラルではどうしているの?」
「ガラルでも数年前に起こったよ。リーグ委員長が賄賂を貰い、選手に八百長をさせたとか。その委員長は既に更迭されたがね。現在の委員長は清廉潔白な人柄で同じ問題は起こっていないそうだが、運営の仕組み自体は何も変わっていない。別の人間が委員長になれば、同じ問題が発生するだろう」
「ガラルでも既に起きているのね……」
「他にもあるぞ? スポンサーが付いたりテレビ放送される事により、バトルの強さ以外の面も評価されることになる。バトルが強いのに容姿の悪い者が冷遇され、バトルが弱くても容姿が良ければ優遇される、といった事が考えられる。他にも、"どくどく"で相手を"どく"状態にし、相手が倒れるまで"まもる"、"みがわり"といった技で耐える戦術なんかは視聴者からの受けは悪いだろう。もし不人気のトレーナーが人気者に勝ってしまったら、不当な誹謗中傷を受ける可能性もある」
「確かにそれは問題だわ。不当な誹謗中傷など、あってはいけないもの」
「それ以外にも、ガラルのリーグ運営をそのままカントー持ってきた場合、もっと大きな問題がある」
「もっと大きな問題……? それは、一体どんな問題?」
サカキはその"するどいめ"で我々をグルリと一瞥してから言った。
「ガラルに四天王はいない。君達全員、失業するのさ」
一瞬静まりかえる室内。
そして、一拍おいてサカキが笑い出した。
「ハッハッハ! 冗談だよ、冗談。まあ、カントー地方にあわせた改善はする必要がある、という事は分かってもらえただろう。賄賂などの不正を防ぐ、バトルの強さ以外による人気不人気をどうするのか、そして四天王をトーナメントにどう絡めるか。少なくとも、これらの問題は解決しないといけないな」
サカキが挙げた3つの問題。
たった3つだが、大きな問題だ……。
コレはカントー・ポケモンリーグの未来を決める話。
やはり慎重に考える必要がある。
ここにいないリーグ関係者にも相談する必要があるが、相談したところで直ぐに解決できる問題ではないだろう。
この問題を解決するには…………絶対に、この男の力が必要だ。
「なあ、サカキ。君も、ポケモンリーグの運営に携わってくれないか?」
「なッ!? ワタル!? そんな勝手に──!?」
「カンナ、君も分かっているだろう。サカキは、我々よりも遥かにカントー・ポケモンリーグの未来について考えている。チャンピオンの威信が揺らいでいる今、リーグを立て直すには彼の力が必要だ」
「それは……! …………そうね、分かったわ。サカキ、私からもお願いするわ。どうか、貴方の力を貸して」
私とカンナは頭を下げてサカキに頼み込むが、サカキは難しい顔をしている。
「…………大変光栄な話だが、私は忙しい。流石にポケモンリーグの一員として動くのは難しいだろう」
「そんな……!」
「なので
「──ッ! ありがとう! それでも構わない! 他のリーグ関係者には私から説明をしておくから、可能な限り会議などに参加して欲しい!」
「分かった。……ああ、そうだ。コレを渡しておこう」
サカキから渡されたのは、B5ノートぐらいの大きさの一枚の板。
コレは一体……?
「これは今、私の会社で開発中のものでね。ロトムフォンという」
「ロトムフォン……?」
「ああ、
サカキが板をコンコンと叩くと、板が宙に浮き上がり、画面にロトムの顔が映し出された。
「これは……!?」
「ハッハッハ! この板の中にロトムが入ってるんだ。ロトムの力を借りる事で、従来の携帯電話よりも遥かに高音質、高画質でテレビ電話が出来る。しかも手で持たなくても宙に浮くんだ。便利だろう? デデンネ達の力を借りて電波を飛ばしているから、カントーの街なら何処にいても通話出来るぞ。恐らく私はあまり会議に参加出来ないから、このロトムフォンでリモートで会議に参加させて頂くよ」
ポケモンを使った家電だと……!?
これは画期的だ!
私は、ポケモンと人の新しい未来の形を見せられたような気がした。
「私の番号を登録してあるから、私と話したい時はそのロトムフォンに話し掛けてくれ」
「ああ、分かった! こんな貴重な物をありがとう! 後で連絡させて貰うよ!」
私はサカキに手を差し出し、固い握手をしてからトキワジムを出た。