そいつは、明らかに普通じゃなかった。
肩に掛かるぐらいの黒髪のミディアムヘア。
ニューラのような"するどいめ"。
身長はオレ様より少し低い。
ダボダボのパーカーにショートパンツ、そしてゴツいハイカットのスニーカー。
そのラフな格好と、キラリと光る宝石があしらわれた右手の指輪がアンバランスだ。
たぶん歳はオレ様とそう変わらないだろう。
「ロケット団を壊滅させに来た子供って、君?」
"ふぶき"のように冷たい声。
そのたった一言で、オレは"くろいまなざし"を受けたかのように動けなくなった。
「その実力、私が────試してあげる」
そいつはそんな事を言ってモンスターボールを構えた。
オレは固まった身体を無理矢理動かし、何とか自分の腰のモンスターボールを掴む。
「天才たるオレ様を試すだと? 上等だ! 身の程ってやつを分からせてやるぜ!」
オレ様は天才だ。
ポケモン図鑑の完成を目指して色々なポケモンを捕まえるうち、どんなポケモンが強いのか分かってきた。
そんなオレ様が同世代の奴に、ましてや女なんかに負ける訳がねぇ。
オレ様の強さを思い知らせてやる!
「いけ! ピジョット!」
「ケンタロス」
相手の先発はケンタロスか。
なかなか珍しいポケモンで、オレ様も実物を見るのは初めてだ。
気性が荒く育成の難しいポケモンのはずだが、しっかりとこの女の指示に従っているように見える。
オレ様程じゃないにしろ、それなりにポケモンを育成する才能はありそうだな。
なら、手加減はなしだ!
「ピジョット、"つばさでうつ"だ!」
「"のしかかり"」
くそっ!
素早さは相手の方が上か!
だが問題ねえ。
もう一度"つばさでうつ"で反撃──と思った時、ピジョットが倒れた。
「なんだと!? オレ様の相棒が一撃で!?」
こいつ……強い!
恐らく今までバトルした誰よりも。
「クソッ! 次はお前だ! ギャラドス、"かみつく"!」
「"のしかかり"」
ケンタロスの攻撃がギャラドスにヒットし、まるで車同士が事故を起こしたかのような轟音が響き渡る。
ギャラドスはあまりの衝撃に吹き飛ばされたが、何とか立ち上がった。
「オレ様のギャラドスの特性は"いかく"! 貴様のケンタロスの攻撃力は下がっている! さぁギャラドス、反撃だ!」
かなりのダメージを負ってしまったがここから反撃だ!
さぁギャラドス、やってやれ!
オレ様は反撃を指示したが────ギャラドスは突然倒れた。
「どうしたギャラドス!? 何故だ……!?」
「ケンタロスの特性は"ちからずく"。そして持ち物は"いのちのたま"。君のギャラドスじゃ耐えられないよ」
クソッ! 特性"ちからずく"のケンタロスだと!?
ケンタロスの特性は"いかく"と"いかりのつぼ"じゃねーのかよ!?
"ちからずく"のケンタロスなんて聞いたことねえぞ!?
ふざけやがって……!
"いのちのたま"は常にダメージを受ける代わりに技の威力を上げる"どうぐ"。
特性"いかく"で少し威力を下げたぐらいじゃあまり意味はなかったか。
その後に繰り出したタマタマとフーディンも、ケンタロスの攻撃を耐える事は出来ずに一撃で"ひんし"になった。
オレ様の手持ちは、最後の1匹であるリザードンのみ。
最後の1匹…………だが、最強の1匹だ。
「行け! リザードン!」
リザードンの気合いは十分。
ケンタロスの方が素早さは高いが、なんとか相手の強力な"のしかかり"を耐える事が出来た。
このリザードンは旅に出るときに
ヒトカゲの頃から、辛い事も楽しい事も全てを共にしてきた。
オレ様の半身と言っても過言じゃない。
ムカつくよなぁ?
最強のオレ様達が、こんなスカした女に負けるなんて。
許せねぇよなぁ?
見せてやれよリザードン。
お前の力を。
相手のケンタロスに向かって口を大きく開ける。
そうだ。やれ。やっちまえ!
「ブチかませっ!」
『ガアアアァァァァ!!!』
リザードンの咆哮と共に大きく開いた口から飛び出した"かえんほうしゃ"がケンタロスに直撃する。
ふっ飛ばされたケンタロスは壁に叩きつけられてそのまま地面に倒れた。
何とか立ち上がろうと上体を起こすケンタロスだが、女に対して申し訳なさそうに一声鳴いて崩れ落ちる。
はは。ざまーみろ。
ピジョット、ギャラドス、タマタマ、フーディン、
「見たかオレ様のリザードンを! リザードンの特性は"もうか"! ピンチの時に威力が上がる、正にこの世界の
女はケンタロスがやられたのがショックだったのか、俯いてしまった。
んん〜、気持ちいぃぃ〜!
自分が強いと思ってる奴をぶっ倒すのは最高だぜ!
……まあ、まだ1匹倒しただけだけどな。
女の腰にはもう1つモンスターボールがある。
だから相手も次が最後の1匹。
でも、1対1なら負けはしねえ。
"もうか"状態のオレ様のリザードンは最強だ!
どんな相手でもブチのめしてやるぜ!
「…………
ここで、俯いていた女が顔を上げて呟いた。
「あぁ? ……そうさ、オレ様はいずれチャンピオンになる。史上最年少でポケモンリーグの頂点に立つ男だ。そんなオレ様が主人公じゃなくて、この世界の一体誰が主人公だってんだ?」
「…………ふふふ、あははは。そっか、主人公か」
「……何がおかしい?」
「…………なれやしないよ。君も───私も」
「何だと? お前、何を言って──」
「ハッサム」
女はハッサムを繰り出してきた。
そして、その瞬間に悟る。
───勝てない。
タイプ相性では圧倒的にリザードンが有利なはず。
しかし、全く勝てるビジョンが見えない。
オレ様のその予感は正しく、リザードンはハッサムの攻撃で呆気なく"ひんし"になった。
オレ様は、生まれて初めて目の前が真っ暗になった。