取りあえず店内に入った俺は、適当に入り口近くの席に座った。
入り口近くは良く勝てるって噂がある。
なんでも入り口近くは店外からよく見えるため、客が入店しやすいよう勝ちやすい設定にしてるんだとか。
こんなお遊びでも良く考えてんだなと思う。
「おぉ、本当にテレビが付いてら」
スロットの上部に小さいテレビが付いており、そこにはポケモン達が映っている。
台の横に吊るしてある説明書を読んでみると、このポケモン達の中から相棒を一匹選べるらしい。
選べるポケモンはヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメ、そして────ピカチュウ。
俺は迷わずピカチュウを選択し、早速コインを投入する。
俺がレバーを叩くとディスプレイのピカチュウが動き出す。
だが、特に何かある訳でもなく、ただ雪山のようなところを歩いている。
なんとなく歩き方が俺の相棒だったピカチュウに似てる気がする。
懐かしいな。昔はよく一緒に洞窟探検したっけ。
俺がそんな事を考えていた時、レバーを叩くと同時にディスプレイのピカチュウに変化が起きた。
ピカチュウの頭上には"!?"のマークが表示され、辺りをキョロキョロと見回している。
なるほどな、これが演出というやつか。
取りあえずボタンを押してリールを止めると、今度は大きな音がなり、ディスプレイには大きな変化が。
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対戦相手が現れました!!!
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氷の女王
四天王 カンナ!
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777が揃えば勝利!
おおっ! 四天王のカンナだ!
ディスプレイにはカンナとその相棒であるラプラスが現れた。
『相手を凍らせるってとっても強力よ! だって、凍っちゃったらあなたのポケモン、全然動けないんだから。……あははッ! じゃ、覚悟はいいかしら!』
カンナが喋っている。
俺がポケモンリーグに挑戦した時、まだカンナは四天王ではなかった。
だが、トレーナーを辞めた今でもリーグ戦は必ずチェックしているのでその強さは知っている。
元トレーナーの血が騒ぐぜ!
勝つには777を揃えればいいんだな。
こちとらタマムシシティが誇るクズ四天王の一人。
同じ四天王として、負ける訳にはいかねぇ。
目を閉じ、深く息を吐く。
トレーナー時代、いつもバトル前にやっていたルーティンだ。
カッと目を見開き、人差し指で力強くボタンを押す!
まずは左!
……よし! ド真ん中に7!
次は真ん中!
……来た! これまたド真ん中に7!
最後は右!
…………あぁ!? 一つズレた!?
なんでだよッ!? 完璧なタイミングだっただろうがッ!?
ディスプレイには、ラプラスの"ふぶき"によって"こおり"状態にされたピカチュウが映っていた。
『出直して来なさい!』
クソッ!
ボーナスを外した事よりも、ピカチュウがやられた事に腹が立つ!
俺の相棒ならこんな攻撃簡単に避けられるのに!
俺は苛立ちながら乱暴にレバーを叩いた。
突然ディスプレイが闇に覆い尽くされたかと思えば、"ゆめくい"のように闇が欠けてゆく。
かと思えば今度は薄暗い洋館の中をピカチュウが歩いている。
え~と、台の横にある説明書を読んでみると、これはステージチェンジというらしい。
ステージチェンジ時に抽選がおこなわれ、大当たりの出やすさが変わるんだとか。
暫くレバーとボタンを淡々と叩くが、ディスプレイでは様々な変化が起こっていた。
野生のポケモンに遭遇したり、落ちてるアイテムを拾ったり、トレーナーとバトルをしたり。
なるほど、これは楽しい。
以前のスロットは作業という感じが強かったが、この新台は違う。
なにか演出があるたびに、トレーナー時代を思い出す。
相棒のピカチュウと過ごした日々。
そういえば、あいつは怖がりのくせに色んなところを冒険するのが好きだったな。
野宿した時、風で木の揺れる音が怖くて俺の寝袋に潜り込んで来たのには笑った。
本当は"おくびょう"な性格なんじゃないか?
なんてからかったら不機嫌になっちまって、あの時はどうやって機嫌を直したんだったっけ?
確か────
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対戦相手が現れました!!!
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セキエイ高原の悪夢
四天王 キクコ!
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777が揃えば勝利!
『ポケモンは戦わせるものさ……! あんたにもホントの戦いってものを教えてやる!』
────ッ!?
キクコだとッ!?
このスロットは四天王とバトルするってのがテーマだ。
そりゃあいるよな……!
相棒のゲンガーもあの時のままだ。
"ゴースト"タイプだもんな。
そりゃあ変わる訳ねぇか。
ゲンガーはいいとして、問題はこのババアだ。
何年四天王やってんだ。
……いや、むしろ好都合か。
未だに四天王やっててくれてありがとよ!
さぁ、あの時のリベンジといこうじゃねえか!
ピカチュウよ!
俺に力を貸してくれっ!
まずは左! …………よし! 上段に7!
次は真ん中! …………おっしゃあ! 中段に7!
残すは右のリールのみ。
右の下段に7が来れば俺の、いや、俺達の勝ちだ。
…………まだだ。焦るな俺。
タイミングを見て…………ここっ!
俺は力強くボタンを押し、7は右下段に────止まらずに枠外に滑っていった。
『口程にもないね! もう一遍鍛え直しな!』
俺のピカチュウはゲンガーの"シャドーボール"を食らって倒れた。
「糞ババアァァァァッ!!! 畜生がッ! てめぇは絶対に倒す! 次は絶対に、あっ、コインが……。すぐ金を下ろして来るからな! 首を洗って待ってろ!」
俺はダッシュで金を下ろしにいった。
必ずキクコを倒し、勝った金で少し高級なポケモンフードを買う。
それを手土産に実家に帰って、かつての相棒達に今までの事をちゃんと謝ろう。
そして皆でシオンタウンにいって、ピカチュウの墓参りをするんだ。
あいつは"さみしがり"な性格だった。
皆で会いにいけば、きっと喜んでくれるだろう。
それとも、もっと会いに来いって怒るかな?
これからはもっとたくさん会いに行ってやろう。
キクコを倒してな。