【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「随分と物々しい場所ね。というかなんか暗くない?」
「教授の趣味なのデス。わたしは暗い方が眠れるので別にいいデスけど。それよりお友達とのお話は済んだのデスか?」
「生憎、話しは出来なかったわ」
本来敵対関係にある二人が肩を並べて歩いている。空のような青髪をポニーテールにし気だるげな眼をしている少女は、エメラルドグリーンの髪をツインテールにした愛らしい少女を連れて施設内を案内していた。軽口を叩きながらも互いに油断せずに相手が不穏な動きをすれば即座に対応できるように。もっとも青髪の少女の方の対応とは逃げの一手だが。
「着きましたデスよ。ここがわたし達の雇い主、『観測希究』ライド・ソローネ。通称教授の研究室デス」
「研究室ねぇ……。イメージした通りの光景ってのもなんか変な気分ね。まぁ人間の標本とかない分想像よりはマシなのかしら」
青髪の少女――――ディアンナと共にこの施設の主の元に現れたのは上級天使の一人、風天使シルフィだった。彼女はドッペル達を逃がし殿になった後、今の今まで人々の避難に手を貸していた。急に起きた悪魔に寄る襲撃は多くの人間を巻き込みその命を脅かした。
上級悪魔が去った後もなお崩れかけるショッピングモールの中には脱出できずに死にかけている者もいる。少しでも被害を減らす為に空気の流れを察知し、埋もれていた人々を全て助け出している。出力ではエルに勝てないが能力の操作技術では圧倒しているシルフィにしか出来ない事だっただろう。
あの戦いから二日間ほど経った。その間の時間能力を使い続け、疲れ切った彼女を迎えに来たのはリョウが死にかけた時に聞こえた声の主。ドッペルの仲間だと言う彼女に連れてこられたシルフィは転移した先で待っていた見知った顔に眉をひそめた。
「まさか貴方が悪魔……それも上級だとは思わなかったわ。ねぇライドウ社長?」
「今この場では教授と呼んでほしい物だがね。それに隠していたのはお互い様だろう、エアロード君?」
「そっちは私達のことを知っていたんでしょ?やり込められた気分だわ」
「一応言っておくが、吾輩は社長業と悪魔であることは切り分けて活動しているのだよ。以前我が社のCMに君を起用したのは君がアイドルとして大成しそうだと考えたからであって、天使としての君には用がなかった」
「そう。アイドルとして評価してくれてるならそれは素直に受け取っておくわ」
リョウがドッペルだとバレてしまった以上教授との繋がりもすぐに明らかにされるだろう。天界組織が動く前に仲間に引き入れそうな人材は早急に集めなければならない。エルもシルフィもその人柄は保証されている。人間に被害を与えない教授にとって敵対する可能性は酷く低い。ここまで来てしまった以上巻き込むという選択をしたライド・ソローネを責めることは誰にもできないだろう。
「――――で、誰がリョウをドッペルにしてこっちの世界に巻き込んだのかしら?」
シルフィの身体を中心に風が吹き荒れ始める。上級天使の本気の威圧にディアンナはすぐに逃げ出し、教授の傍にいたドールは反射的に戦闘態勢に入り、教授は冷や汗をかく。
「返答によってはリョウの治療が済み次第ケジメつけてもらうわよ」
アイドルをやっていただけあり愛らしいという言葉がよく似合う綺麗な顔、その額に血管を浮かせるほどの激怒。エルやリルナのように我を忘れるような戸惑い方はしてはいない。理性を手放さずに保っているからこその憤怒が能力として表に出てしまっていた。
ここで返答を誤れば間違いなく教授も、その仲間である悪魔も全員シルフィに殲滅されるだろう。エルと比較された結果下に見られることも多いシルフィだが、ただ単に比較対象が悪いだけ。その年齢で上級天使になっている時点で彼女もまた類まれなる天才であり、その戦闘力は中級悪魔程度ならばどれほど集まっていても一蹴することが可能だ。
教授は一応上級悪魔ではあるがその戦闘力は低い。ドールのような人形兵を多数用意して数で押すのが基本戦術の為それが通用しない相手には絶対に勝てない。だから彼は虚言を用いることもなく純粋な真実のみを口にする。
「吾輩が沢渡君をこの組織に誘ったのはドッペルになってからなのだよ。故にその質問に対する答えは彼自身が飛び込むことを決めた、だ」
「……そう。まぁ、そうじゃないかとは思っていたわ」
教授の言葉に目線を地面に向けながら少し笑う。シルフィの目は髪に隠れて見えなくなり、その表情は他者からは見えない。それでも彼女がその答えを予想していたことくらいは分かる。細心の注意を払い天使達にバレないようにしていたというのに、だ。
「時々、偽物と入れ替わってたでしょ。動作や口調は完璧だったけど違和感があったから何度か会ってればなんとなくわかったわ」
「彼女の
「どれだけ模倣しようと本能を抑え込むのは難しいってことでしょ。悪魔が天使を敵視するのは当然の心理。普段のリョウと、偽物じゃこっちを見る目の熱と気遣いとかそこらへんが全然違ったしもう少し精進させることをお勧めするわ」
「……気付いたのは君だけなのかね?ライトガーデン君の方が付き合いは濃いはずだが」
「その偽物、エルとは極力会わないようにしてたからそのおかげじゃないかしら。私の方には油断してたのかリョウみたいに接して来たけど……これでも私、アイドルよ?人を見る目はあるつもりなの。私をどう見てるかくらいは察せれるわ」
「成程。ヒルダ君には改善点を伝えておこう。己が能力を使いこなせるようになることが強さに直結するのは天使も悪魔も変わらないはず」
「それで、リョウは」
俯いていた顔を上げ真っ直ぐに見るシルフィを教授は無言で案内する。進む施設の中は秘密結社のアジトのような雰囲気を放っている。これが会社の地下にあるという事実に実益などを放り捨てて“欲望”を優先させる辺り確かに悪魔なのだと理解した。
やがて行き止まりの部屋に辿り着く。他の部屋と違い厳重に守られている。恐らくシルフィが全力で攻撃しても数分間は耐えるであろう扉。教授は暗証番号を入力しその扉を開く。ゆっくり、音を立てて開かれたその先にはシルフィが探していた少年がいた。
「リョウ……」
リョウは教授の作った救命ポッドの中に入り、スメラギ製薬が作った回復薬の原液に使っていた。口には酸素マスクが取り付けられて呼吸を補佐している。その目は未だに閉じており、胸の辺りには痛々しい傷口が残っている。
「手術自体は成功した。リルナ君が咄嗟に防いだが故に心臓から逸れたのが功を成した。だが、あまりに傷口が大きいのと出血が多すぎた。そして何より現在進行形で沢渡君から生命力、“欲望”が奪われていっている」
「…………」
「普段であれば何の問題もないが、意識がない今は致命的といえるだろう。彼の無尽蔵といえる“欲望”も君達に与えられていた“愛”も、今は生まれる余地がない。契約を奪った『炎天渇奪』……いや、今は『愛求堕喰』だったか。奴を倒しその契約を奪い返さない限り彼はこのままだと思っていい」
「……生きてるのよね」
「当然だ。吾輩の名に懸けて彼は生かす。吾輩達の仲間であり中心でもあるのだから」
「そう。どこにいても変わらないみたいね、本当」
リョウの入っているポッドに触れながら呟く。呆れと嬉しさの入り混じった声からは確かな決意を感じる。助け出す方法が分かったのであれば迷う暇などないとばかりに。その決意に反応するかのように風が彼女の周囲を吹き始めた。
「奴らの居場所は」
「既に探し始めているが見つかってはいないのだよ。君達天使側はどうかね?」
「私もエルも今は天界組織と連絡は取ってないわ。悪魔と契約をしていたリョウをどうするか分からないもの。最悪の場合『愛求堕喰』を弱体化させるために殺す可能性だってある」
「妥当な判断だろう。ライトガーデン君とその後輩君の言い争いを聞いていたヒルダ君の報告では彼女が最上位天使になる方法には沢渡君の命が必要になるとのことだからな」
「どこもかしこも真っ暗で呆れるわ。それが必要だというのは分かるけどムカつくことに変わりはないし」
今まで秘匿されて来た最上級天使への昇格方法。それを聞いてどこか納得する。シルフィが接して来た最上級天使四人は誰も彼もがどこか壊れた印象を抱かせる。合理性を優先するあまりに逆に合理的な判断が出来なくなる節があった。
「天使とか人の感情を考慮しないところはあったけどその話を聞いて納得したわ。真っ先に自分達がそれを捨てたから、壊してしまったからもう直視できないのよ。今のエルをあの人達に見せたらその原因になっているリョウを真っ先に排除するわ。消してしまえばもう一度戦える
「合理的というか、ただの馬鹿じゃないかね、それは」
「実際悪魔の被害を広げないって部分じゃ優秀なのよ。損切が上手いから天使達はここまで戦えてきたし悪魔も少なくない数を倒してこれた。ただ視点を狭めると一気に欠陥が出てくるの」
「手を組む以前の話なのだよ、それは……」
「でも悪魔討伐の為に必要ならこことも組むわよあの人達。悪魔を使って悪魔を討伐できるなら何の問題もありませんって顔で。その上で利益を出せるなら積極的に動くまであるわ」
要するに最上級天使とは全体主義なのだ。最愛という個人を犠牲にしたからこそ全体に強い価値を認めている者達。全体を守る為ならば個人を切り捨てることに躊躇いはない。魔王という最大の敵を倒す為ならば悪魔が作った組織と手を組むことも厭わない。そこに遺恨はなく、その方が目的を達成しやすくなるという合理性だけが存在する。
「それで、リョウと契約していたっていう悪魔は?」
「眠っている、というよりは眠らせているのだよ。リルナ君はずっと救命ポッドに縋りつき泣いて叫んでいた。眠ることも一切せず、目が充血し涙が枯れ果ててもなお。だからこそ無理矢理にだが睡眠薬を飲ませて眠らせている。悪魔といえど彼女は下級、あのままでは体力がもたずに死んでしまうだろう」
「そう」
言いたいことは山ほどあった。だがそれほどまでにリョウを強く想っているというのであれば追い打ちをかけるのはやめておくべきだと判断する。リルナを一番責めているのは間違いなく彼女自身なのだから。
「ライトガーデン君はどうかね?少しでも戦力が必要な今彼女ほどの実力を遊ばせておく余裕は我々にはない」
教授の言葉にフルフルと首を横に振る。話すことも出来ず、ただその姿を見ただけだったが分かることがあった。今、エル・ライトガーデンは絶望の中にいるのだと。そこから立ち上がらせることが出来る存在がいるとすればそれは目の前で目を閉じている少年しかいないと。
「エルはもう戦えない。だから私がやるわ」
風天使は真っ直ぐ今も眠る少年を見つめながら決意する。俯いている暇など一秒たりともないと次の戦いを見据えていた。
クソ暑かったせいで投稿できなくてすみませんでした。
テントの中での作業は50度超えるからみんな気をつけような!!!!
今回の曇らせは良かったか?
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絶望が足りてない
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もっと序盤で見たかった