【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
別に、最初から好印象だったわけじゃない。その少年を始めて見た時の魂の震えにリルナは未だに気付いていなかったし、これから先も気付くことはないだろう。だから一目惚れのような素敵な感情はなく跳ねるような鼓動は始めの頃はそれっきりで、長い付き合いになると思った頃には日常になっていて。
「これからよろしく、リルナ」
そう言った人間は一見何の変哲もない人間の少年だった。背だって低くもなければ高くもない。黒髪黒目だし、容姿だって飛びぬけていいわけでもない。ただその言葉と行動が異常と言えるくらいにはおかしかった。
「僕、エルの事本当に好きみたいで」
記憶も認識も天使に弄られて、歪められると知ってなおそう言い切った。その時点で目の前の人間は
(コイツ頭おかしい……)
怪しい店で怪しいネックレスを買ったことはいい。天使から盗んだ認識阻害の技術を使っていたのだから当然の結果ともいえる。だけどそれ以降の全てにおいて沢渡リョウはおかしかった。悪魔の誘いに乗らずネックレスを土に埋めようとしたり、飛んできたネックレスの入った木箱を素手で殴り壊したり。挙句の果てに下級とはいえ悪魔相手に肉弾戦で勝利したのだから。
(でも、コイツは利用できる……!!)
近くにいるだけで理解出来る“欲望”の質と量。それは普通に人間をどれほど集めようとも届かない程。この人間を利用し、その“欲望”を溜め込むことが出来れば近い将来中級、いや上級悪魔にだって手が届きうる。そして何よりリョウの周囲には彼を守る天使の存在があった。それも天才と言える最高の上級天使が。
嘘を吐いて取り入る。堕落を愛し、怠惰に過ごすことだけを望むと言い切る。怪しまれようとかまわない。自分がそれを望んでいたことは嘘ではなく真実なのだから。ただ、そこに愛する6人の姉がいた事だけを黙って。天使も悪魔もくだらないと半ば本気の言葉だけをリョウに言い放つ。
(安全地帯としてこれ以上はない。ここで力を溜め込んで、いずれアドラメレクを殺す……!!)
下級悪魔の身では遠く及ばない
「僕は今の世界がどうなってるのか何も知らない。だからそれに関しての知識が欲しい。君は安穏と寝て過ごせる環境が欲しい。僕達の利害は一致してる……だろ?」
「そりゃ一蓮托生って一度言ったからだよ。僕は自分の言葉を嘘にするのが嫌いなんだ」
「そういう時は鼻にティッシュ突っ込むかこの水中ゴーグルをつけるといいのさ!!玉ねぎの刺激から目を守ってくれるよ!!!」
出会って、次の日には既にこちらに好意を向けてきた。チョロすぎやしないかと思ったが好都合だったからそれを告げずにただ話しを合わせた。
馬鹿馬鹿しい話をした。真面目な顔で、ツッコミを待っているようなことを言い続けるリョウにいつしかリルナも遠慮がなくなった。復讐心を埋没したくなるような輝かしい日々。姉達と共に過ごしてきた日常を思い出させるような平穏な生活。
(なんで、こんな人間が溢れんばかりの“欲望”を持っているんだろう?)
その疑問は復讐に必要だったからか、それともただ単に能天気に笑っている少年を心配になったからか。リルナと名付けられた彼女には分からなくなっていた。
「――――ねぇ、お兄さんはさ。復讐とかどう思う?」
『病孤涙苦』との戦いが終わってしばらく経ったある日のこと。今まで考えていたことをリョウに問いかけた。そこは誰もいない空間、文字通り二人だけしか存在しない世界。秘密の話をするのであればここ以上の場所はないだろう。
夕飯をすまし、学生の敵である宿題を終わらせたリョウは毎日の日課のようにこの白い空間に来ていた。自分の持ち物を想像すれば持ち込めるという特性を使いゲーム機を持ち込んでリルナと二人で遊ぶのを楽しんでいた。いや、楽しんでいたのはリルナも同じだろう。
そんな娯楽の時間に唐突に差し込まれるリルナの問いは重すぎてあのリョウですら一瞬何を言われたのか分からずリルナの顔を見ていた。なお彼は綺麗な目だなという事しか分からなかったが。
「なにいきなり言ってるの?対戦プレイで負けそうだから気を逸らす作戦なのかな?」
「いや今押してるのアタシだし。お兄さん攻めに思考が寄りすぎてて分かりやすいよ。格闘ゲーム弱いと本気で思うよ?はいKO」
「ぬああああああああああああ!!!!!」
ゲーム歴半年未満のリルナにボコボコにされたリョウは両手を上げて悔しがる。こういうオーバーリアクションな所も大袈裟だなぁとリルナに思わせる部分だった。別にそれが嫌いなわけではなかったが。
「あーもう、エルにもシルフィにもボコボコにされるし……。シルフィに至っては配信しちゃったから僕の弱さが全世界に発信されちゃったし……」
「いやアレに関しては「僕が負けたら流していいよ。負けないけどね(キリッ)」とかしたお兄さんの方が悪くない?なんでそんな自信満々だったのか分からないくらいすぐにKOされたし」
「だってドッペルとして戦ってきたわけだしゲームでも強くなれたと思って……」
「その理論だと格闘家は全員格闘ゲームの達人だよ」
地面に敷かれた絨毯の上でゴロゴロ転がって悔しがるリョウに苦笑しながらその頭を捕まえて膝の上に乗せる。こうすればもう動かないと経験で分かっていた。頭を抑えて色の違う両目でじっと見ればリョウは観念したように話しを戻す。
「えっと、復讐についてだっけ?まぁ、リルナがもし人間で、相手も人間だったら止めてたよ。その場合は絶対に法に任せるように説得する」
「……なんで?それじゃアタシは納得できないって言ってもお兄さんは止めるの?」
「うん。だってそれじゃあ僕が困る」
これを言えば怒るだろうとリョウは確信している。だけどもリルナという生死を共にしている相棒の真面目な質問に対して本心で答えないのはリョウの本質が許さなかった。
「法に任せないでリルナが人を殺したらリルナが捕まる。そうなったら刑務所に行っちゃうでしょ。刑務所から出てくるのにどれだけ時間がかかるか分からない。それじゃあ僕が
「へ、あ?」
「リルナには出来るだけ長い時間幸せでいてほしい。それが偽らざる僕の本音だ」
真っ直ぐすぎるその言葉に頬が熱くなる。鼓動が早くて膝枕しているリョウにそれが気付かれないか心配になった。そんな自分をどこか客観的に見ている自分もいて、リルナの頭はバラバラになりそうだった。
そんな火傷しそうなほど熱くなった頬に冷たい手が添えられる。いや、冷たいと思ったのはただ単に頬の温度と比較したからで、リョウの手は間違いなく温度が宿っていた。
「僕は復讐を否定しないよ。うん、何故か分からないけど僕だけはそれを否定しちゃいけないと思う。大切な人を奪われたことに対する復讐はきっと愛の証明だ」
「愛の、証明」
「どれだけその人達のことが大切だったのか。どれだけ自分にとって大きい存在だったのか。自分の人生を懸けるに値するのだという証明。特に悪魔に奪われたのなら法に訴えるなんてことも出来ない。だから自分でそれを成さなければならない」
「…………」
「リルナはきっと。ううん、間違いなくお姉さん達を愛していた。大好きだった。だからそれを奪われたことに対して怒っているんだと思う。下級悪魔のリルナが上級悪魔の『炎天渇奪』を殺そうとするのがどれほど無茶な事か今の僕にはわかるよ。命を賭しても、一生を賭けても届かないだろう差がある」
「うん……」
「それでもその道を選んだ君を、僕は幸せにしたいんだ」
真っ直ぐに見つめられて、何の恥ずかしげもなく伝えられた言葉に心臓だけではなく身体全体が跳ねる。目を逸らそうにも頬に手を添えられていることで全てを吸い込むような黒い目から逃げられない。自分が何を言っているのかきっとリョウは分かっている。分かってて言っているからこそ性質が悪い。
「だから僕も君の復讐を手伝うよ。契約内容だし、何より僕がそうしたいという気持ちがある。早くリルナの復讐を終わらせて何の憂いもなくこうやってゲームとかしたいしね!!」
膝枕から腹筋の力だけで起き上がった少年はそう言って心の部屋から消えていった。リョウも恥ずかしかったのだろうか、いつもより声音が上ずっていた気がする。リルナの願望だったかもしれないけれど、そうであればいいなと無意識に考えてリルナは首を大きく振ってその考えを吹き飛ばす。自分の全ては復讐の為にあるのだと決めて、その為に利用すると決めた人間に絆されるなんて悪魔としてあってはならない事だと。そのはずなのに。
「…………リョウちゃん」
初めて呟いた少年の名前。それだけで恥ずかしくなって、リョウに貰った1m近くあるぬいぐるみに顔をうずめて足をバタバタさせて熱を冷まそうとする。それでも熱は消えなくて、それからの毎日でどんどんその温度は高くなる一方で。心臓はあくまでなかったら潰れてしまいそうなほど鼓動が早くなって。
「アタシも、このままでいたいよ」
そう呟いたのは、彼女以外は知らない事実だった。
◆
パチリと目を開ける。そこはもう既に見慣れてしまった教授のラボの休憩室でリルナは目覚めた。直前までの記憶を思い出そうとして頭が痛む。視界が歪んで身体に掛けられていた布団を握り締める。
「起きたのね、リルナ様」
「ひる、だ……?」
自分を様をつけて呼ぶ存在などヒルダとドールの二人しかいない。そしてその二人の声を聞き違えるほど浅い関係ではない。
だが疑問が湧く。何故自分はここにいるのか。ラボ自体に見覚えはあるが、それはあくまでリョウの中から見ていた光景だ。こうして自分の身体で見ることなどほとんどなかったはずなのに。
「りょう、ちゃんは……?」
リルナは本能的にリョウを探した。確かにあったはずの繋がりが消えている。魂で結んだはずの
「リョウちゃんと、話をさせて……?」
「リョウさん、は」
今や姉と同じくらい大切になった少年の声を聞きたい。いつも読んでくれるあの声で名前を呼んでほしい。これから先の未来の話がしたい。そんなリルナの願いは叶わない。
「ねぇ、ヒルダ。リョウちゃんと、話をさせてほしいの……。少しで、いいから……」
「リョウさんは、未だに意識不明よ。目も覚まさないし、これから覚ますかも分からなくて」
「嘘だッ!!!!!!」
姉達を失った時のトラウマがフラッシュバックして髪を振り乱して呟き続ける。他の何も見えなくなるくらいの劇場が駆け巡りそれを抑える為に頭を両手で抱え込む。それでも段々と明瞭になってきた脳は記憶を思い出す。
「嘘だ……」
飛び散る血に奪われた契約。
「嘘だ、嘘だ……!!」
倒れ込むリョウに、高笑いするアドラメレク。どんどん流れだす血に消えていく体温。
「嗤うな、嗤うなぁ!!!!!!」
また奪われた。またあの女に全てを奪われた。その想いがリルナを突き動かす。嘘だと否定しても意味はなく、現実が捻じ曲がりリョウが扉の向こうから現れるなどということもない。うわごとはやがて叫びとなり喉が裂けるほど叫んでようやくリルナは顔を上げた。その目にはリョウが好きだと言った輝きはなく、暗い恩讐の炎しかない。
「絶対に許さない、絶対に、絶対に絶対に絶対に!!!!!!!」
彼女を止められる者はもういない。唯一残った姉はアドラメレクの元にいる。“欲望”と愛を与えてくれていた契約者は今も意識を取り戻していない。だから例え破滅に向かう道だとしてもリルナはもう止まることなど出来ない。愛する者に対する執着が人一倍強い彼女だからこそ、それを失った時の反動は大きくその恨みは黒く燃えるのだから。
「殺してやる……!!絶対に殺してやる!!!!!邪魔する奴も、何もかも!!!!全部ぶっ壊してやる!!!!!リョウちゃんを、返せえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
彼女の復讐はまだ止まらない。
感想&評価センキュー!!!
もっといっぱいくれるとやる気とか上がって投稿頻度も上がるかもしれない!!!かもしれない!!!(重要なので二度言った)
今回の曇らせは良かったか?
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最高だった
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良いと思う
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もっと時間をかけて欲しい
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絶望が足りてない
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もっと序盤で見たかった