【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
天使の生まれ方は三種類ある。一つは天使同士が交わった結果出来る純天使。その才覚は保証されるがそもそも出生率が少ない為例外ともいえる方法。二つ目はツガイを得た天使がその人間と交わることで出来る生物として当然の生まれ方。最後の三つ目は最上位天使が輪廻の輪から拾い上げた魂に肉体を与えることで出来る方法。最初の例の場合は問題なく、総じて天使としての人生を順当に歩んでいく。
二番目の場合、天使としての特徴を強く持つか人間に寄るかでその後の生き方が変わる。人間の場合は世界の真実、悪魔の存在などを教えられた上で表で生きることになる。人として地位を上げることで天界の動きをサポートする人材の多くはこの出身だ。全てを知っているが故に次代を作る為の天使のツガイ候補としても機能している。一方天使としての力が強ければ天界組織の元での訓練が加わる。もちろんそれは両親や本人の意思を確認し、十分な素質があればの話。人材が欲しい天界ではあるが意思のない存在は邪魔にすらなることを経験から知っていた。
では三つ目の場合はどうなるか。初めから天使として生み出された彼ら彼女らは天使として戦うことを宿命づけられている。輪廻の輪から拾い上げられる魂は総じて意志が強く、力もそれに比例する。前世の影響が抜けきらないが故にこだわりも強くなるが、それでも悪魔と戦うには貴重な存在だった。そして史上最高の天才と言われるその少女は後者によって生まれた。
「エル・ライトガーデン。それが貴女の名前です。これから人々を守り、世界を慈しみ、悪魔を滅し続ける。それが天使としての役割だと心得なさい」
この世に産み落とされて5年、その時に初めて名前が与えられた。エルと名付けられた彼女は無表情でそれを受け取った。天使としての才覚を覚醒させ、常に戦闘訓練もトップ。同世代どころか何年も訓練をしている年上の中級天使でさえも訓練を初めて一年もしないうちに徹底的に叩きのめす結果になる。
「素晴らしい。貴女はいずれ、我々と同じ位階に立つことでしょう」
最上位天使であり、事実上の生みの親であるミカエルからそう言われてもエルの心は震えなかった。文字通り天の上の存在のはずなのに、幼い頃のエルにとってはそれが価値ある物だとはどうしても思えなかったから。
「エル様は凄いですね!!」「エル様ならばいずれ完璧な天使に!!」「悪魔共を殲滅する、エル様の道をサポートしたいです!!」「今は負けてるけど俺の方が上になる!!」「悪魔を殺しつくすのはわたくしの方ですわ!!!」「お前はいいよな、才能があってさぁ!!!」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」「エル様」
「うるさいですね」
称賛の声も妬みの怨嗟もなにも届きはしない。有象無象の声などどうでもいいし、そもそもの問題として何をそこまで悪魔を滅することにこだわっているのか分からない。エルにとって戦いの訓練も同世代の天使達も総じて価値を感じないものだった。
「なにかが、足りないんです。何を求めてるかも分からないんです」
砂漠の真ん中でオアシスを探しているような渇き、生まれた時から何かが足りない気がしていた。求めても求めても埋まらないその飢えはまるで悪魔にとっての“欲望”のようで、天使なのにそれを求めることに罪悪感を抱いていた。価値を感じないとはいえそれを大切にしている者が多くいるという事実はそれだけでエルの肩に重くのしかかる物で。
「ここに私が求めてるものはないんですね」
だから逃げるように彼女は天界から抜け出して人間の世界に繋がるゲートを通って逃げ出した。軽い気持ちで行ったのではなくここにはない何かを求める心、魂の叫びに耐えられなかったから。
「君、凄いねぇ!!どうやって何もない所から出てきたの?てれ、てれ……テレポーテーションって奴かな!!それにその羽根!!天使みたいだ!!!」
「…………いきなり失敗してしまいました」
出てきた街の路地裏に偶然少年がいて、その少年に全て見られたところから彼女の運命は動き出す。目をキラキラ輝かせてこちらを見る少年を誤魔化そうとも思えずエルは重い溜息を吐いた。
その少年を見た時、魂が大きく震えたという事実に気付かずに。欲していた物が目の前にあるということに気付かずに。彼女は運命と出会った。
◆
「はいソフトクリーム!!冷たいから気をつけてね。早く食べると頭キーンってなるから!!」
「ありがとうございます。冷たい、ですね」
沢渡リョウと名乗った少年はエルの手を引いて街を歩いていた。無論エルならばただの人間の、それも子供の手など簡単に解けたがどうしてかそうしようという気にはなれずにされるがままに歩いて一緒にソフトクリームを食べることになっていた。公園のベンチに座りながらこの現状に対して疑問符を頭に浮かべながらも手渡されたそれに対する好奇心を抑えられずに一口舐めて、その冷たさと甘さに驚く。
「エルちゃん、でいいよね。なんであんな所にいたの?路地裏は危ないって学校で習わなかった?」
「それを言ったらあなたもそうだと思いますが。それに私の方が背が高いです。私よりあなたの方が子供ですよ」
「背はその内追い抜くからいいもーん。お父さんが女の子の方が成長が早いから今は負けてても仕方ないって教わってるし。それに牛乳だって毎日飲んでるからね!!エルちゃんだって今のままで満足してたらその内背が伸びなくなっちゃうよ?」
「そんなことはありえません。私はガブリエル様のような背の高いないすばでぃになるんです。私が決めた予定は絶対なんです。っ!!あ、頭痛い……!!」
「あっ、だから急いで食べたらキーンってなるのに。口も汚れちゃったし……はい、動かないで」
「む、むぅ……。一応、お礼は言っておきましょう」
手に持っていたハンカチで口元を拭われて無表情を維持していたエルの顔が悔しそうに歪む。どうにも目の前の人間に対して平静でいられない。いつもの調子でいられないと自己分析する。むしろ今の姿の方が自然体なのではないかとさえ。そんな考えを首を振って振り払って手に持ったソフトクリームを一気に食べきる。当然頭にキーンとなる痛みが走るがそれを気合いで捻じ伏せたエルは立ち上がってリョウを睨みつける。
「私は天使です。さっき羽根を見たことからもそれが本当だと分かるでしょう。しかも私は天使の中でも最高の天才と呼ばれるくらいです。あなたとは次元が違うんです」
「じげん?えっと、エルちゃんの背中に真っ白でキレイな羽根があったのは僕も見たよ?すぐに消えちゃったから幻かもって思ったけど」
「そうです。私は天使なのですからこんな所でお菓子を食べる暇はないのです」
「でも、ソフトクリームおいしかったよね?口元にまだついてるくらい急いで食べてたけど」
「む、むぐっ!?」
その言葉に思わず白い服の袖で口元を拭う。完璧な天使であることをアピールしようとしているのに今エルがリョウに見せているのは間抜けな姿。そんな評価は嫌だと思うのにどうしてもいつもの調子に戻れない。
「でもエルちゃんは凄いなぁ」
「なにがですか。今の私の姿を見てどこを凄いって言ってるんですか。滑稽とでも言いたいんですか?」
「こっけい?ってどういう意味?」
「下らない、みっともないって意味です」
「むっ。そんな風になんて絶対思わないよっ!!!」
勢い良く立ち上がったリョウは自分より背の高いエルを睨む。子供にとって5cmというのは大きい。その差を気にせずにエルに詰め寄り顔と顔がくっつきそうなほどに近づく。
「よくわかんないけどエルちゃんはすごいってみんなに思われてるんでしょ!!それってすっごく頑張ったってことだもん!!頑張ってるエルちゃんのこと馬鹿になんて絶対にしない!!!」
「私が頑張ったって、あなたになにが分かるんですか。私は逃げてきたんです。嫌になったから」
「いやになって、逃げるくらい頑張ったってことでしょ。僕だったらもっとずっと早く逃げてたよ。ソフトクリームも食べられないなんて絶対に嫌だもん」
反射的に後ろに下がろうとするエルの手を取ってリョウは強く握りしめる。その目は真っ直ぐにエルの目を見つめて、真っ直ぐすぎる言葉をぶつけてくる。
「エルちゃんは頑張ってる!!他の誰も、エルちゃんも自分を褒められないなら僕が褒めてあげる!!!エルちゃんはすごい、エルちゃんは努力家!!エルちゃんは可愛い!!エルちゃんの髪はすごい綺麗!!!赤い目も凄く綺麗!!!ずっと見てたいくらい!!!」
子供らしい支離滅裂な言い分。単純すぎる誉め言葉。何の解決にもならないはずなのにその言葉はエルの心に響く。
両手を包むリョウの手のひらの暖かさ。真っ直ぐな言葉に笑顔。それが何故か今まで求め続けてきたものだと理解して。飢えが、渇きが満たされていくことに。そのうえでずっと欲していた言葉に無意識のうちにエルは涙を流した。
今回の曇らせは良かったか?
-
最高だった
-
良いと思う
-
もっと時間をかけて欲しい
-
絶望が足りてない
-
もっと序盤で見たかった