【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
『あの人工島のショッピングモールで起きた不審火による火災から既に一週間が経ちました。それから毎日のように同じような被害が日本中で広がっています。被害者は総じて無気力になっており社会復帰が非常に難しいとの報告も。また、被害地から空へ飛び立つ人影を見たという人々が多く確認されています。現場からは以上です、カメラをスタジオに戻します』
『ありがとうございます木下さん。例の不審火による被害とそれに伴う無気力化と集団幻覚、どう思いますか天野さん』
『不審火自体は自然現象とは言えないかもしれません。もしかしたら何者かによるテロの可能性もあります。無気力化も集団幻覚もその影響だと思われます。ただ安易な判断は避け、警察からの発表を待つのが一番だと思いますね』
教授のラボに存在する大きいテレビ画面にはこの数日に起きた火事による被害とそれの被害者達の話しが流されていた。ニュースに出演している天野という男は冷や汗を流しながらなんとか無難な所に着地させようとしているがこれだけ被害が出ている以上それに反発する者も出てくる。今もまた画面の向こう側では別の有識者が天野に対して反論している。
「…………不味いであるな。これは、天界側も後手に回っていると思っていいだろう」
「どういうことデスか?別に無責任な発言しまくる奴なんかどこにでもいるじゃないデスか」
「あの天野という男、天使なのだよ。テレビ出演において天使の認識改変を強化する役目を持っている。それが全力で動いているのにもかかわらず納得していないものが多すぎるのだ」
ソファに座りながらテレビを見ていた教授が呟きソファに寝そべりその教授の膝に頭を乗せているディアンナがぎょっとする顔をして画面を見直す。そう言われてみれば確かに天野というどこにでもいそうな男から天使特有の気配を感じる。その性格上周囲の気配などに敏感なディアンナでさえ深く探らなければ分からない程の隠蔽能力。間違いなく中級以上の天使だろう。
「まさか、天使達による認識阻害が不完全になってきているということ……?」
「そういう事になるのだよ。ヒルダ君、これはいよいよ不味いことになってきたぞ……」
ソファの後ろに立っていたヒルダが冷や汗を流しながら現状の不味さを理解する。天使達が張った認識阻害は人間の認識をずらし、天使や悪魔の存在が表に出ないようにすることが目的とされている。その理由は天使達の活動の邪魔にならないようにするため、“愛”を集めるのにそちらの方が効率がいいということもあるがそれ以上に悪魔に“欲望”や“負の感情”を集めさせないためだ。
「『炎天渇奪』が想像以上に大暴れしている。悪魔と言えどドッペル君から受けた傷はそこまで浅くはないはずだ。動き出すにしても時間をかけると思っていたのだが、計算違いなのだよ」
「治療も後回しにして何かをなそうとしているの?そこまで急ぐ必要性なんて」
「悪魔ならば理解は出来るのではないかね?『炎天渇奪』は今、自身の“欲望”に背中を後押しされているのだ。それこそ理性を引きちぎるほどに強烈に何かを求めている。そして奴の去り際の言動から推測するに、『炎天渇奪』の狙いは」
「リョウ、ってことね」
扉が自動で開き、廊下から協力者となったシルフィ・エアロードが入ってくる。その表情は深刻で教授達よりも事態を重く見ているように見える。いや、実際入ってきた情報から自体はのっぴきならない状況に動いていると理解していた。
「アリナから話しを聞けたわ。『永死殺総』もコソコソ動き回っていると思ったら、各地で天使狩りをしているらしいのよ。奴の能力からするとこのまま行けば」
「多種多様な能力を持つ天使のゾンビ集団を相手に立ち回らなければならなくなる、という事か」
「そういう事。最上級天使もこの状況を不味いと思っているから重い腰を上げてくるって話もある。ミカエル様やガブリエル様が出て来れば確かに勝てるとは思うけど、こっちに来るには時間がかかるわ。最悪、その前に奴らの準備が整うかもしれない」
既にエルとシルフィが天界組織から離脱していることは知られている。リョウのこともある以上こちらから姿を現すわけにはいかない。悪魔と契約した人間というのはそれだけ危険なのだ。しかもその“魂魄契約”は今や不審火火災を起こし続けているアドラメレクに奪われている上その身柄を執着されている。最上級天使の判断によってはリョウが処分されるかもしれない。その結果だけは認めれれない。
「よくあっちが素直に情報を離してくれたわね。その子の立場、悪くなるんじゃないの?」
「アリナには悪いことしてると思うけど、情報はどうしても欲しいから色々と取引って形で引っ張ってきたのよ。あの子もこっちの居場所を探ろうとしているからお相子だとは思うけど」
「天使っていうのは面倒くさい探り合いが好きみたいね」
「今だけは強く否定できないわ……。とにかく、あっちの準備が整うのは時間の問題ってことね。『炎天渇奪』と『永死殺総』は日本で動いているけどそれ以外がその外に目を向けてる。上級悪魔が動き出してこっちにばかり注視出来なくなってる話よ」
「出来ることならば、先手を打ちたいところだが……難しいのだよ。相手がどこにいるかも分からない。戦力的にも戦えるかは難しい。吾輩の方でも戦力として人形を作り続けているから、『永死殺総』の数による圧殺に対抗できるとは思うが、どうしても三体の上級悪魔が止められん。ダフネ君が上級悪魔に成りかけているが、経験不足な状態の彼女では足止めが精々になるだろう」
教授の仲間になっている中で現在上級悪魔と戦い勝利出来ると断言できる者はいない。シルフィならば十分に戦えるだろうし、一対一ならば敗北しないだろうと言いたいが相手は複数。しかも『永死殺総』はシルフィにも強く執着している。その上でアドラメレクとも戦えとなれば敗北は必至だろう。光天使や影法師が健在であれば、それでも勝機があったと言えるだろうが。
「……リョウの治療は、どうなの」
「傷自体は塞がったのだよ。急ぎだった為傷跡は残ってしまったがそれでも命自体は助かったと言ってもいい。ただ、意識が戻らん。いつ目覚めるかも判断できん状態なのだよ」
「そう、なのね。でも命が助かったっていうのは朗報かしら」
「……それ以外はいい情報はないのだがね。ライトガーデン君のほうは、どうだね?」
期待を込めて聞かれた疑問にシルフィは首を横に振る。今もなお与えられた部屋で一人膝を抱えて辛うじて生きている。与えられた食事は食べるし、睡眠もとっているようだがそれでも今のエルが戦えるとはどうしてもシルフィには思えなかった。
「追い詰められて追い詰められて、精神的に死に近い所まで行ってるわ。それでもまだ生きているのはリョウが完全に死んでいないという事と天使の使命感から。戦えるかどうかで言えば戦えるだろうけど……」
今の状態で三体の上級悪魔に挑めば間違いなくエルは死ぬだろう。最悪一体くらいならば相打ちに出来るかもしれないが、その場合『永死殺総』の存在がネックになる。もしも相打ちになったのが『永死殺総』以外の二体だった場合、あの悪魔は間違いなくエルの死体を利用するだろう。戦力的にも復讐という目的を考えてもそうしない理由がない。ならば『永死殺総』を真っ先に狙うとしてもあの悪魔は多数のゾンビにより身の護りを固めている。一番最初に打ち倒すのは非常に難しいと言わざるをえない。
「生憎、自殺志願者を戦場に出すつもりはないわ。その分は私が働く……と言うのは無理ね。エルの代わりを出来る奴なんてそういないし」
「じわじわと真綿で首を締められていく感覚なのだよ。本当に、厳しい状況だ」
そう言いながらも教授の口元は弧を描き、口角は上がっている。厳しい状況だとしてもまだ最悪ではない。まだリョウは生きているしここから巻き返すことも不可能ではない。経過でどれほどの不利を押し付けられようとも最終的に勝てばいい。
「彼等ならば。そう思わせてくれる存在がいるのは頼もしいことだと思わないかね?」
その質問に対してその場にいる悪魔も天使も内心頷く。どれほどの危険であろうと危機であろうとドッペルがいれば何とかなるかもしれない。それだけの実績を四月から八月までの間で彼らは稼ぎ続けたのだ。
「教授、申し訳ありません。リルナ様が姿を消しました。恐らくは影の能力を使いここを脱したものかと思われます」
自動扉が開くと同時にドールから告げられたその言葉に教授は唖然とし今度こそだめかもしれないとシルフィは天を仰いだ。
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絶望が足りてない
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もっと序盤で見たかった