【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
ちょっと仕事も忙しくなるので一週間に一度の投下になるかと思います。
出来る限り月曜日の00:00に投下できるようにしますのでこれからもよろしくお願いします。
文字数は5000文字くらいを目指したい。
夜、誰もいない路地裏から一人の少女が出てきた。夜の闇の中にありながらも輝きを放っているような金糸のような髪を無造作に伸ばしている少女。左右で色の違う目で辺りを確認しながら街の中を歩いていく。復讐の炎を瞳に宿らせた悪魔の少女、リルナは教授達にバレないように影の中を移動してラボから出てきていた。怒りという“負の感情”とそれまでの経験から中級悪魔に進化していた彼女は今まで以上に影の能力を使いこなせるようになっていた。
(ここも、随分人が減ったね……。ちょっと前とは大違いだよ)
周囲を見渡し小さくため息を吐く。少し前、リョウが倒れたあの日に一緒に歩いていた街の中。昼と夜の違いはあれど確かに大勢の人だかりが行きかっていた場所は今や閑散としていた。
夏の暗くなっている時間とはいえ今は深夜というわけではない。それにもかかわらず街中には明かりが灯っていない店が多く、人の姿はほとんどない。これも全ては『炎天渇奪』――――否、『愛求堕喰』の仕掛けている攻撃の影響だろう。
(アイツが日本中で燃やしまくって人間の“欲望”を集めてるのは間違いなくリョウちゃんとの契約の影響だ。じゃなきゃリョウちゃんと繋がってる状態で更に“欲望”を集める理由なんてない)
通常悪魔は人間が垂れ流す“欲望”や“負の感情”を自身に取り込む。“欲望”は悪魔側の能力と相性が良ければ吸収率が上がり、“負の感情”は“欲望”に比べ吸収率は低いがそれでもほぼ全ての悪魔が吸収することが出来る。
ただし、死んだ人間からはそのどちらも得られない。“欲望”も感情も人間が生きているからこそ得られる貴重な資源なのだ。もっとも人間が増え続けているこの世界では悪魔の人間に対する印象は増え過ぎた家畜のようなもので幾ら殺そうとまた増える程度の認識でしかないが。
だが例外が存在する。リョウとリルナだけが知っている事実。教授達にも話していないそれは、“魂魄契約”で繋がっている限りリョウからの“欲望”の供給は止まることがない。リョウは感情ではなく本能のように“欲望”を出している。まるで尽きることのない『強欲』のように。
(リョウちゃんの容体は今も変わらず、それでも生き続けてる。つまりアイツに今もリョウちゃんの“欲望”は流れ込んでいるという事。それなのにまだ動かないのはリョウちゃんとアタシの契約内容がアドラメレクを殺すことだから。それを抑え込むために人間の“欲望”を集めてるんでしょ。つまり、今の奴は能力を使うことも困難な状態、今を逃せばアタシ一人でアイツを殺すチャンスはないと言っていい)
リルナとリョウの契約は互いの条件を守ることでその力の貸与と増幅という効果を得ていた。リョウ側の条件は「リルナの姉を殺した上級悪魔を倒す」こと。リルナ側の条件は「幸せになることを諦めない」こと。互いの契約内容を守り続けた上で二人が協力すればドッペルとして上級悪魔に匹敵する力を行使することが出来ていた。
(このチャンスは絶対に逃せない。アタシの復讐もある。だけどそれ以上にリョウちゃんとの契約を抑え込んだうえでその力を使えるようになったら……。下級悪魔であるアタシでも上級に匹敵するくらいに跳ね上がったんだ。上級悪魔であるアドラメレクが十全に使いこなせるようになったら、魔王にも匹敵しかねない)
リョウの無限と言える“欲望”供給に上級悪魔の能力上昇を考えればそれを妄想と切り捨てることなど誰も出来ないだろう。今すぐ止めなければ未曽有の大災害を起こしかねない。今のアドラメレクを理解できる者など誰もいないからこそ、そんな考えを捨てきることは誰も出来ない。
「と言っても魔王なんてアタシ、伝聞でしか聞いたことないんだけどね」
周囲から隠れる為に影から影へと移動しつつゆっくりとだが目的地に近づきながら苦笑しながら思わずこぼす。下級悪魔にとって魔王など雲の上の存在でしかない。害することも、その足元に手をかけることさえその生涯をかけたとしても出来るはずがない。もしもアドラメレクが魔王と同格になったとすれば、それはリルナにとっては絶望的でしかない。
「そんなこと関係なしに、絶対ぶっ殺すけどね……」
それでもリルナには勝算があった。いや、勝算というより相打ちに近いのだが。リョウが健在であれば絶対に許さない方法ならアドラメレクを殺すことが出来ると確信している。今もなおリョウから与えられていた莫大な“欲望”を使った自爆。残っているそれに火をつければ一気に弾け飛ぶ。周囲を巻き込むことになるが、このまま放置しているよりかは遥かに被害だって抑えられる。
間違いなくリルナ本人も死ぬがアドラメレクも死ぬ。死なずともその一歩手前まで持っていくことが出来るだろう。そうすれば後は教授達が何とかしてくれると考えるくらいにはリルナは彼らを信頼していた。もっとも、本当の意味で信頼出来ているのはリョウ一人だったのだが。そのリョウが倒れている以上リルナを止められる者は誰もいない。
「やーっぱり、ここに何度も足を運んだみたいだねぇ……」
そんな影移動を繰り返した末に辿り着いたのは三体の上級悪魔と戦うことになったショッピングモール、その一階だった。今もなお倒壊したままで何の修復も行われていないその場には痛々しい血の跡が残っていた。一人の人間から出たとは思えない血はあの時天使に貫かれたリョウの物。あの時の光景を思い出そうとするだけで頭が煮え立つがリルナはそれを無理矢理抑え込んで周囲を観察する。
「あの時、アイツはリョウちゃんに執着してた……。だとしたら今も探し回ってるはず。ここで血を集めて探し出す方法を見つけようとしてもおかしくはないと思っていたけど、ビンゴだね」
乾ききった血に触れながら一人呟く。復讐しか考えていなかったリルナにとってここにいたアドラメレクの痕跡を感じることなど造作もない。姉達を殺したあの悪魔を殺す為に全てを賭して来たのだから。そしてアドラメレクはリルナを障害だとは考えていない。だからこそここにある残滓を隠す気もない。それを伝って行けば間違いなく『愛求堕喰』に辿り着けると確信する。
「アイツの所に行ければ後は何とかなるね。問題は一緒にいるであろう『永死殺総』と――――」
「――――僕の事かい、7番」
その声が聞こえた瞬間、ほとんど反射で影による迎撃を行う。突発的に伸ばされた影はしかし誰も貫くことなく柱の一本を破壊するにとどまる。
リルナは眉間にしわを寄せながら声の主のいる方へゆっくり振り向いた。そこにいたのはリルナより大人びていてそれでいてアドラメレクよりかは幼い少女と女性の狭間にいそうな金髪の悪魔。リルナにとって何よりも大事で、自身を想っていてくれた姉達の長子。アドラメレクからベルサシエの名を与えられた『盗炎結偽』。今のリルナにとっては敵としか言えない愛している存在。
「随分と、影の扱いが上手くなったね。昔は影に潜ることしか出来なかったのに。今じゃあの子達より君の方が強いだろうな」
「ベル姉」
「良かったよ。君ならあの方に辿り着く為にここに来ると思っていた。だからずっとここで待っていたんだ。ようやく君とゆっくり話せる。今までの事を、これからのことを」
「ベル姉、聞いてよ」
「目を、見せるようになったんだね。その綺麗な目を隠さなくなったのはいいことだ。それだけ大切な人が出来たってことだ。君が目を見せてもいいと思える程に。僕はそれが途轍もなく嬉しくてたまらないんだ」
「聞いてってば」
「だけど今は帰りなさい。強くなったのは分かるけど、一人であの方に勝てるとは思っていないだろう?今は引いて、いずれ勝てるようになった時に戦いを挑めばいい。あの方はもう君のことを思考の外に追いやっている。今なら何の問題もなく逃げられる。人間達には悪いとは思うけど今は我慢してもらうほか」
「――――聞けって言ってんでしょうがッッッ!!!!!!」
妹の憤怒の様子に気付かずに言葉を続けていたベルサシエをリルナの叫びが貫く。今まで出したこともないような喉が裂けるような叫び声はベルサシエの言葉を止める。影が膨れ上がり今にも一番上の姉を貫こうと揺らめいていた。今まで聞いたことのない大きな声にベルサシエの動きが止まる。その瞳は動揺に揺れ、何故末妹が激怒しているのかを分かっていなかった。
「ベル姉。ベル姉がアイツへの復讐を諦めたのは別にいいんだよ。あの時、アタシを置いてアドラメレクに戦いを挑みに行ったベル姉が生きているのも、嬉しい。あの時のベル姉がそのまま挑めば間違いなく死んでいただろうから。だから復讐を諦めたとしても、戦って負けて逃げていたとしてもアタシはベル姉のことが大好きなままだ」
「7番……ボクは、ボクはみんなを」
「だけどこれだけは許せない。あのクソ女に今も付き従っているその姿だけは許せないし認めたくない。戦って勝てないなら逃げればいいっていうのはアタシが姉さんに言う言葉だよ」
「違うんだよ7番、ボクは、ボクは妹達を生き返らせたいんだ。その為に、あと一度だけ仕事をすればいいだけなんだ。だから」
「死人は蘇らないよ。それは人間でも悪魔でも天使でも神でも魔王でも変わらない。絶対に」
確信をもって突き放すように断言をするリルナにベルサシエの瞳の揺れが酷くなり、その目から涙がこぼれだす。頬を伝って落ちていったその雫は地面を濡らし、
「凄いね、7番。君はそこまで考えられるようになった。凄い成長だ。姉として、心の底から君のことを誇りに思う。しっかりと自分の意思と考えを持ち、そして姉であるボクとも戦おうとするほどに大切な者も出来た。ああ、本来だったら君を抱きしめてその温もりを確かめながらこれまであったこと全てを聞いてみたい」
(な、に……?あの頃のベル姉さんとは、何かが違う。いや、そもそもなんであのベル姉がアドラメレクに付き従ってる?他の姉さん達が殺された時、復讐をしに行った時のことを忘れたかのような反応……。ま、さか……)
「でもね、駄目なんだよ7番。復讐心を捨てた先にしかあの子達との再会はありえないんだ。その為にはあの方と『永死殺総』の協力が必要なんだ。ボクは、その為に全てを捨てて跪いたんだ」
その言葉にリルナは己の考えが正しいと直感した。あの日、姉達に救われ一人で残ったリルナを置いて『炎天渇奪』時代のアドラメレクに挑んだベルサシエは敗北した。だがそのまま殺されることはなかった。殺すには惜しいと思ったのか、手駒が欲しかったのかは分からない。だけどただ一つその場であったと断言出来る事がある。
「復讐心を、奪われた……!?いや、それだけじゃなく、反逆心みたいな逆らう感情を奪われて、その上で都合よく動かす為の感情だけを残されて」
「そう、なのかもしれないね。だけど7番。今重要なのはそこじゃないんだ」
その瞬間上から激しい音と共に巨体が落ちてきた。これまでの経験から咄嗟に下がったリルナの前に上半身が異常に膨れ上がり肌が真っ赤に染まった化け物が姿を現す。見ているだけで不安を煽るような存在がゆっくりとリルナを見つめる。リョウの中に潜み、その日常を共に過ごしていたリルナはその顔に見覚えがあった。
「ざわ゛だり゛ぃ……ゆ゛る゛ぜね゛ぇ……!!!」
「コイツ、あの時リョウちゃんに脅された……!?」
「な゛ぐら゛ぜろ゛ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
アドラメレクによってその“欲望”を肥大化させ、悪魔にいいように使われるようになった竜崎がリルナに今襲い掛かった。
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