【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「ざわ゛だり゛ぃいいいいいいいィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」
「チィッ!!!」
振りかぶられた巨腕を目にしてリルナはその場から跳び下がる。次の瞬間地面に巨腕が突き刺さり周辺の地面ごと砕き破片を飛び散らした。咄嗟に腕を交差して顔を守るも全てを防ぐことは出来ずに幾つかの破片がリルナの腕に突き刺さり思わず顔を顰める。
(ああクソ!!リョウちゃんの戦いは見てたけど痛いってのは実際耐えられないなぁもう!!なんでリョウちゃんはあのハイテンションで戦えてたんだろうね!!いやハイテンションだったから戦えてたのかなぁ!!!)
共に戦っていた契約者の異常性を再認識しつつこの場での対応を考える。リルナは決して戦いに慣れているわけではない。これまで数々の上級悪魔を相手に戦ってきたのはあくまでリョウでありリルナはそのサポートをしていただけだ。だが多くの命懸けの戦いを見てきた経験は今この場において彼女に冷静さを与えた。
(コイツを倒すこと自体は問題ない、今のアタシでも十分やれる!!だけどその後が続かない!!今はリョウちゃんと繋がってないから“欲望”にも限りがある。今コイツに能力を使いまくったらアドラメレクを相打ちに持ち込むだけの“欲望”が足りなくなる!!)
「お゛ま゛え゛も゛ざわ゛だり゛の゛ぉおおおおおおおお!!!!!」
「ああもう!!しつこい男は嫌われるっての!!!ただしリョウちゃん除く!!!」
巨大化した上半身を支えるのにその下半身は不釣り合いなのかバランスも悪く動きも遅い。それでもその一撃は人間が変化したにしては威力があった。リルナがまともに受ければそのまま意識を飛ばされるだけの威力が。そして疲れを知らない様子でその剛腕を振り回しているせいでリルナもまた影の中に退避する隙を得られずに跳び回りながら逃げなければならない。
「あのさぁ!!なんでそんなにリョウちゃんを恨むのさ!!!確かにあの馬鹿天使を好きになるのは分かるよ!!それでリョウちゃんがアイツに好かれてるから嫉妬するのも分かるさ!!!でもそれは言っちゃ悪いけどあの二人の問題であってアンタが関係していい話じゃないよねぇ!!?」
体力及び“欲望”の消耗を限りなく抑えなければならない。その為には打開策を考えなければならない。この改造人間だけではなくその後ろには上級悪魔となった上で未だ『愛求堕喰』に従う
「あ゛い゛づはぁ!!!ライトガーデンにすかれてるくぜに!!!ほかのおんなをくどいてやがったぁ!!!きれいだとかかわいいだとか、かんたんにいいまくってたんだよぉ゛!!!!!」
「…………」
その叫びに思い当たる部分があるリルナは思わず黙る。変わらず振り回される剛腕を躱しつつ、砕かれた瓦礫の上に立つ。息を荒げながら怒りと嫉妬を叫んでいる竜崎の姿にリルナはこの後言われるであろう言葉のフォローをどうしようと考えて諦めた。
「あいつのおんなぐせがわるいのはべつにどうでもいいけどなぁ!!!ライトガーデンをまきこんでることがゆるぜね゛ぇ!!!!!!!!」
「ごめんリョウちゃん、フォロー出来ないや」
暴れながらも怒りの理由を叫ぶ竜崎に対しリルナは遠い目をしながら在りし日のリョウの姿を幻視する。基本的にリョウは思ったことをすぐ口にする。一応TPOを本人なりに考えているようだが周囲に人がいたとしてもそれが誉め言葉だったり伝えたい言葉だった場合平気で言い放つ。しかもその対象はエルだけにとどまらずシルフィや鈴と言った親しい者全員に適応されるのだからたまったものではない。事情やリョウの人格を知らなければ好き勝手に口説いているだけの男に見えても否定できないのだ。竜崎がそれを見てリョウをクソ野郎だと評価してもおかしくはないとリルナは考えた。いやだって好きな人が好きな人間が平気で他の美少女褒めてるとか見てたら嫉妬と憤怒でおかしくなっても仕方ないと思うと一人静かに心の中で頷いた。
「あー、竜崎だっけ?そりゃリョウちゃんは常に口説いてるようなこと言ってるような人間だけどあくまで全部本音で本人として伝えたいことを言ってるだけなんだよね。だから、うん、言いたいことは分かるけどそれ全部正気に戻ってからリョウちゃんに伝えてくれない?」
「ねぇ、7番。そんな人間を守る価値あるの……?」
「はぁ!?あるに決まってるでしょうがベル姉だからといってそれ以上言ったらぶっ潰すぞ!!!」
リョウの悪い癖を突かれて一瞬正気に戻りかけたリルナの頭が再び沸騰する。リョウとの繋がりが切れた事と限られた“欲望”でアドラメレクを仕留めなければならないという事実がリルナの感情は常日頃よりも燃えやすくなっていた。
いや、そもそもリルナという悪魔の本質は『憤怒』に近い。自身の大切な者を傷つけられることに対する怒りと、それに対して何も出来ない自分に対する力のなさへの怒り。今までは姉達との日々とリョウという精神安定が存在がいたが今は共にない。故に冷静さという外付けの理性はすぐに外されて本能のままに暴走しやすくなる。今この時のように。
「お前もぉ!!!!いい加減アタシの邪魔するのやめろやッ!!!!!!!!」
「ぐごごおおおおおおおおおおおおおおアアアアアア!!!?!!!?」
「ッ!ボクごと狙って!!?」
改造人間が剛腕を振り上げた瞬間を狙いその懐にその身体を滑り込ませたリルナは一瞬だけ能力を使用し影を爆発的な勢いで突き出した。影が巨体に隠れて一瞬反応が遅れたベルサシエを巻き込みながら上階まで吹き飛ばす。リルナは必要最小限の消耗でこの場を逃げることのみを考えてそれを実行に移した。改造人間もベルサシエも倒す必要などない。リルナの目的はこの地に残るアドラメレクの残滓を追い、自分諸共あの世に送ること。だからこの場における戦闘はリルナの勝利と言えるだろう。
「――――二体相手にして逃げ切れると思って油断したわね?」
「な、ぁっ!!??」
その安堵の瞬間を『愛求堕喰』は見逃さなかった。唐突に地面を這うように展開された赤い炎がリルナが入り込もうとしていた影を飲み込み消した。それはただ影が消えただけではなくそこを伝ってリルナの中にある“欲望”までをも奪おうとしてくる。
「クソッ!!」
「あら、判断が早いじゃない。ドッペルの一人として戦ってきた経験則?羨ましい……いや、妬ましいわね」
「ッッ……!!アドラメレクッ!!!!!!」
咄嗟に影との繋がりを断ち切り炎からも物理的に離れたリルナは声のした方向に視線を向け、その声の主の名前を叫ぶ。そこにいたのははたしてリルナの予想通り紅いドレスを着た金髪の美女。リルナが順当に成長すればそうなるであろう女悪魔、アルドメラクがいた。両者は互いに似た容姿をしながらも決定的に違う色の違う瞳で相手を見据える。
「彼の敵討ちに来たのかしら?でも彼はまだ死んでない……そうでしょう?彼が戦えるようになるまで待たなくてもよかったのかしら」
「リョウちゃんをこれ以上天使と悪魔の事情に、アタシの復讐に巻き込んでたまるか。アタシが死ねばリョウちゃんに契約を持ち込むような悪魔はいなくなる。あの二人の天使がいればリョウちゃんが危険にさらされる確率も限りなく低くなる。お前が死ねば、リョウちゃんがドッペルだって知ってる奴もいなくなる。全部解決する……だからアタシ一人でぶっ殺しに来てんだよッ!!!」
「あら。私はてっきり私と彼が繋がっているという事実に嫉妬して来たのだと思ってたのだけど……思ったより献身的なのね。私とはやっぱり大違い」
「お前に似てるって言われた方が頭おかしくなるほど不愉快だからそっちの方が喜ばしいね!!」
叫びながら影を操作し自分とアドラメレクを巻き込みながら影をドーム上に展開する。ドッペル時に使える技の中で最高硬度を誇る“影牢”。あれほどの硬さを維持するのは難しいがそれでもアドラメレクを一時的に捕らえるには十分だった。
「お前を殺す。お前の手がリョウちゃんに届く前にアタシが殺す。それが、アタシの復讐にリョウちゃんを巻き込んだアタシのけじめだ」
「彼……リョウはそんなこと望まないと思うけど?」
「お前がリョウちゃんを語るなよッ!!!!何も知らないくせに、何も分かってないくせに、流れ込んでくる“欲望”だけでリョウちゃんを分かったふりするなッ!!!!!」
無限に近い“欲望”。なるほど、それは確かに沢渡リョウという人間を評価するのに外せない項目だ。だけど共に戦い、日常を過ごしたリルナは知っている。リョウは断じてそれだけで語れるような人間ではない事を。彼の本当の価値がどこにあるのかを。
「そんな馬鹿みたいな“欲望”抱え込んでて!!!それでも他人を思いやれるってことがどれだけ凄いか知らないくせに!!!自分がやりたいからって理由でいつだって他人を助けてきたのか知らないくせに!!!リョウちゃんの“愛”も知らないくせにリョウちゃんを語るなァ!!!!!!」
二人を包み込んでいる“影牢”が狭まっていく。互いに逃げ場を失くしたこの場で残った“欲望”全てと魂を込めた自爆。予想外のタイミングでの対敵だったがリルナは自分がやることは変わらないと考えて即座に準備を整えた。リルナの足元の影が縮み破裂して
「アタシ纏めてぶっ飛んで欠片も残さずに消えうせろ『炎天渇奪』アドラメレクッ!!!!!!」
「お生憎様。今の私は『愛求堕喰』のアドラメレクよ」
その影を即座に青い炎が囲み二体の悪魔の命を守った。青い炎が囲んだ場所は結界となり、その中で弾けた影はそれを破壊することには成功するも致命的な一撃を与えることは出来なかった。
「ぐ、ああ!!!?」
それでも破裂した影の威力は高く、すぐ傍にいたリルナは弱まったそれを身近に受けて地面を転がる。周囲に転がる瓦礫の上を転がったことで身体中を傷つけながらもリルナは何が起こったのかを把握しようと顔を上げる。
「今、のは……ベル、姉の……!?」
青い炎に結界、これは以前戦った時にベルサシエが使った能力だった。だがその能力の使用条件は視界内に映る物か、事前にマーキングした部分だとリルナは知っている。だからこそ“影牢”の中に姉が入らないようにしたのだ。見ることさえ出来なければ咄嗟の攻撃に反応することは出来ない。ましてやここでアドラメレクと対峙してまとめて自爆しようなどリルナ自身ですら予想できなかった出来事なのにもかかわらずマーキングすることなど出来るはずがない。だから、これはベルサシエの仕業ではありえない。
「そう。私が使ったのよ。事前に借り受けてね」
「な、あ……!?あ、りえない……!!悪魔の、能力は本人の“欲望”が形になってる、はず……!!お前が、ベル姉の能力を使うなんて、出来るはずが……!!」
「そうね、その通りだわ。『永死殺総』も他者の能力を使っているけど、あれはあくまで死体に残留している物を利用しているだけ。死体を操った結果能力も使えるというだけ。他者の能力を使おうなんて、それこそ全てを受け入れるような大きい“愛”がなければできるはずもない。私にはそんな“愛”はないわ」
「それなら、なん、で……!!」
「私にはなくても、私と繋がっている彼にはあるでしょう?全てを受け入れてもおかしくないあの彼が」
その言葉で答えまで辿り着く。アドラメレクの能力、その本質は他者の“欲望”を焼き奪う事。人間から大本の“欲望”を奪いそれをエネルギーとして活用することで破格の継戦戦闘力と破壊規模を誇る。悪魔からも“欲望”を奪う事は今までも出来ていただろう。だがその能力を使うことは出来なかったはず。それを可能にするとすれば、それは彼女が今契約で繋がっている人間の存在しかありえない。
「お前、リョウちゃんを……使って……!!」
「そう!!その通りよ!!!彼の愛が私の能力を進化させた!!!彼の愛が私を更なる高みに押し上げた!!!全ての悪魔の力を手にするだけの力を私にくれたの!!!これが献身的な“愛”だと言わずになんというのかしら!!!」
「ッ……!!!」
リョウという器に他の悪魔の能力の元となる“欲望”を詰め込み、自身が能力を再現する。リョウの特異性を利用しつくしたその悍ましさにリルナは叫びそうになり、その口元を覆うように青い炎が結界を作りその声をシャットアウトした。
「とはいえ。私が彼にそのまま受け入れてもらえるなんて思ってないわ。だって私は彼を愛しているけど彼はそうではないでしょう?むしろ憎まれてるまであり得るわ」
「……!!……!!!」
「だから、お前を使うのよ。お前は彼から受け入れられて、好意までもたれている。嗚呼、妬ましいわ――――だからお前の全てを寄こしなさい」
首を掴まれ持ち上げられたリルナはアドラメレクの腕を握り外そうともがくも力の差は歴然。微動だにしないその力にギリギリと絞められ、腕を伝って来た赤い炎が意識を奪っていく。その間にも聞こえてくるアドラメレクの悍ましい計画にどうしようもない拒否感を持つ。
「お前の名前を。お前の記憶を。お前の感情を。お前の能力を。お前の容姿を。お前が彼に好かれているであろう要因その全てを私に寄こせ」
「ッ……!!!」
「嗚呼、安心していいわ。お前から全てを奪った後の抜け殻はお前の姉にあげる予定だからそこでゆっくりすればいい。抜け殻らしくただ息をしているだけの人形になるでしょうけど、あの腑抜けならそれでもお前を愛でてくれるでしょう。多分だけどね」
赤い炎に包まれて意識が消えていくリルナが最後に思い出したのは姉達の姿でもなく、目の前にいる憎い復讐相手でもなく、この悪魔に執着された少年の笑顔だった。
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