幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった 作:ビスマルク
色々とあったが結論から言おう。僕の考えた今回の企画は大成功と言ってよかった。
「ライトガーデンさんって綺麗な髪してるよね!!どんなシャンプー使ってるの?」
「シャンプーとリンスに関してはリョウ君が買ってきてくれた物を使ってます。本人は安いのを使ってるのに私のだけびっくりするような値段で……」
「えっ、なんで沢渡君がそこまでしてるの。幼馴染だからってそこまで把握してるのはちょっと気持ち悪いんだけど……」
「気持ち悪くなんてありませんよ。リョウ君は朝昼晩のご飯まで作ってくれてるんです。家事全部を任せるなんて負担が凄いので洗濯や掃除は私の仕事ですが」
「…………その言い方だとまるで一緒に暮らしてるみたいなんだけど」
「はい。リョウ君と同居してます。彼のご両親からも許可はとっていますよ」
「「「「殺せぇ!!!!!」」」」
「嫉妬にまみれた俗物共がァ!!!返り討ちにしてやらぁ!!!!」
エルが隠す必要がないとばかりに爆弾発言をしてくれたので教室にいた男子の内半数が僕に襲い掛かってくる。今のこいつらに対して説得など不可能、必要なのは純粋な暴力。鍛え上げた身体と反射神経を信じて彼らに対して対処していく。フィジカル!!結局喧嘩って最後はフィジカル!!
「エアロードさん!!いつもテレビ見てます!!というかテレビはライブとかエアロードさんが出てる奴しか見てないです!!」
「俺なんかこの前ライブまで行きました!!最高でしたよ!!!」
「恋人いないって本当ですか!?立候補してもいいですか!!?」
「誉めて!!私をもっと褒めなさい!!ええ、テレビ出演の依頼は絶対断らないからもっと見てちょうだい!!ライブにも来てペンライトを振り回して!周りにはちゃんと配慮した上でね!!そして恋人はいつも募集中!!ただし私をデートに誘う難易度は高いから誘い文句もちゃんと考えておきなさい!!」
クラスの隅の方で大乱闘しながら横目で見ればエアロードさんの方は上手くやっているようだ。自分でも言っていたように承認欲求が強いせいかこの状況は望むところなんだろうか。物凄く生き生きした顔で笑っている。
あそこまで拗らせてるってエルとはまた違った意味で困った人なんだと思う。アイドルしている分人を見る目とコミュニケーション能力はエルより遥かに上のようだが。
「ちなみになんでエアロードさんは今回この会に参加したんですか?」
「友達のエルと昼休み一緒になってね。その時に沢渡君に人慣れしてないからって言われたのよ。だからその為に色んな人と話をしようと思ってね。クラスメイトとはあんまり話をしないし」
「成程なぁ。じゃあ沢渡とはあんまり関りがなかったってことですね!!」
「そうね。今日初めて会ったわ。エルから話は聞いていたけど……。突き飛ばされた私を片手で支えて、その後頑張ってる私を応援してくれたところから、凄いいい人だと思うわ」
それはそれとしてエアロードさんの笑顔を見た数人が襲い掛かってくるので対処することにする。カウンターこそが最も効率的な喧嘩方法だと教育してやろう!!
握りこぶしを構えてあらかたを片づけているといつの間にか智弘君が近くにまで来ていた。サッカーに影響が出ないように離れていたのだろう。僕も我が校の至宝を巻き込むつもりはなかったのでナイス判断だとしか言いようがない。
「結構上手くいってるみたいだな。あの二人は学年どころか学校全体で有名だから声掛けにくいところあったけどこれなら人間関係も広がるだろ」
「そうだね。だけど智弘君、僕は心配なんだ。もしもエルが他の人を好きになったらと思うと……泣きたくなる。そいつが幸せに出来ないと判断したら殴ってでも矯正してやる」
「お前はお前で重いと思うぞ。さっさと告れ……いや告ってもあの反応なのか……」
「そこに対しては同情はするぜ沢渡……それはそれとして隙ありぃ!!!」
「声出したら隙を突く意味がないだろうがよぉ!!!」
殴られそうになったので避けてカウンターで顎を揺らす。軽くやったので五分程度で立ち上がってくるだろう。いや彼らのゾンビのような体力と嫉妬心を考えれば一分で再び襲い掛かってくる可能性は否めない。こんな所で戦闘経験を積めるとは、僕もまだまだ人を知らなかったようだ。
「ちなみにもしも、仮にだが他の男とライトガーデンさんが付き合ったらどうするんだ?」
「その人が本当にエルを託すに値する人だと分かったなら心の中で血涙を流しながら祝福するよ。その代わりその晩から僕の夜は寝るためではなく枕を濡らす為だけに存在することになるね。あとエルの住む場所を考えないと駄目だ。今の生活のままでそうなるとか脳がスリップダメージ(大)を受け続けることになるし」
「そうか……同居生活送ってるってことはその可能性もあるのか……。俺沢渡の立場だったら死んでるかもしれないわ」
「駄目だよ轟君。それで自殺や自傷行為なんてしたらエルが責任感じるだろ。だから表面上だけでも僕は彼女達を祝福しないといけないんだ」
「俺、お前の友達であることを誇りに思うよ。リョウは凄い奴だ」
自分が好きになった人と同棲していると言えば聞こえはいいが、もしもその好きな人が他の男と付き合ってるとなったらもはやそれは地獄と同義だと思う。
本当にその時は悪いとは思うが僕も僕自身を優先させてほしい。しばらくはいいけどずっと続くと考えると僕は前世で一体どんな悪行をしたのか気になって仕方ない。精神的拷問を受けるのは正直ごめんなのだ。
もっともそれはこちら側の都合なのでエルに対してその想いを抑えろなんて言えるはずもない。好きな人に幸せになってほしいなんてそれこそみんな思う事だろう。出来ればその幸せを自分の手で、そう考えるのは
「そういえばライトガーデンさんって沢渡君と幼馴染なんだよね?」
「ああ。その関係で今は同棲してるのかぁ。ライトガーデンさんがそこまで信頼してるってかなり昔から一緒にいるのかな?」
どういう話の流れからそうなったかは分からないが、少しだけ聞こえてきたその内容に僕の好奇心が少し溢れだした。
リルナの言葉からエルとの幼馴染という関係性は嘘だと分かる。だがそれはそれとして疑問は残るのだ。なぜ彼女は僕を選んだのか、そこがどうしてもわからなかった。
偶然なのか、それとも誰でもよくただ目がついた人間を選んだのか、それ以外の何かがあったのか僕は分からないし判断材料が欠片もない。本人に対してこちらから聞くなんてことは出来るわけもない。
僕がその偽物の認識に騙されていると彼女が思っている状態で怪しまれるようなことをすれば芋づる式にリルナのことがバレて彼女の命まで危険にさらすことになる。
だからこれはチャンスなのだ。エルがどうして今の状態を望んだのか、その理由の一端を知る絶好の。女性達の会話に聞き耳を立てるのはどうかと思うがこの場だけは許してほしい。
「―――――ええ、はい。リョウ君とは幼い頃から一緒ですよ。昔、一人で泣いてたところを助けてもらってから、ずっと一緒です」
それは予想外の言葉で思わず顔ごと振りむきそうになるところを横目で見る程度で我慢する。エルははっきり言って嘘が下手くそだ。だからその顔を見れば本当かどうかは簡単に分かる。
その僕が見たところ、彼女の言葉は本当なのだと分かった。嘘を吐いている様子は少しもない。いや、少しだけ罪悪感が混じっているのかもしれない声音だ。だけどその綺麗な顔が本当に珍しい、僕も見たことのないような満面の笑みをしていることから全てが嘘ではないことが分かる。
(どういうことだ。リルナが僕に嘘を吐いた可能性……は普通にある。そこまでの信頼関係を僕達はまだ築けてない。だけど嘘をついた理由が分からないし、そもそも幼馴染だという記憶が本当じゃない事は確かなはずだ)
記憶が本当なのか嘘なのか/本物か嘘か、それを確かめる方法はいくらでもある。写真魔である僕の母さんはことあるごとに記録を取るように写真を撮りそれをちゃんと保管している。アルバムを見れば事あるごとに撮られた写真が存在していたが、その中にエルが写っていた物は何もなかった。
認識を弄られていた頃ならばそれさえも「偶然だろう」の一言で片付けていたが、流石に今はそれがおかしいということは分かる。幼い時から一緒にいるはずなのに100枚以上ある写真に一枚も写っていないなんてありえないはずだ。
(僕の認識が狂わされているのと同じようにエルも認識を弄られている可能性……。何かしらの理由でそう思わされている可能性……。駄目だな、考えるための材料が少なすぎてどんな仮定も確信には至らない)
この事実に関しては僕の心の奥に沈めておいた方がいい。答えの出ない類のことは考え続けるだけ無駄だ。それを解き明かすだけの材料が出たらその時改めて振り返ればいいと割り切ることにする。
それより大事なのは今のエルとエアロードさんの笑顔だ。何の柵もなく笑っていられるその光景が僕には眩しくて敵わない。行動に移して本当によかったと改めて思う。
結局のところあの笑顔の為なら僕は何でも出来ると思うくらいには惚れこんでいるのだろう。わがことながら呆れるしかないが、それはそれで悪くないとも思う。
「そういやお前は混ざりに行かなくてもいいのかよ?行けば楽しく話せるだろ」
「もうバレたから言っちゃうけど、同居生活送ってるからね。だから今は他の人に譲るよ。それに今回の企画を立てたのは僕で、その理由はエル達に人に慣れてもらうこと。僕がそこに混ざったらせっかくのチャンスなのにだいなしになるだろ?」
だから我慢する。欲望を抑え込む。本当は一緒にいたいけれどそれは今の彼女達の邪魔をすることに繋がるから。僕の想いであの二人の笑顔の邪魔はしたくはない。
『――――お兄さん!!伏せてッ!!!!』
「伏せろォ!!!!!!」
そう考えていたところに脳内でリルナの声が響く。それは焦りに満ちた声で、予想外の何かが起きたことを僕に伝える。反射的に叫び、同時にエルの方に飛び込んだ。その細くも確かにしっかりある身体を抱きかかえて地面に倒れ込む。
クラスメイトが何をするのかと言おうとしたその瞬間、外から爆音が鳴り響いた。教室の窓を全開にしていたからかその爆音とともに雪崩れ込んできた爆風に全員が煽られる。幸い爆発が起きた場所は学校から離れたところだったからか窓が割れるようなことはなかった。
その場にいる全員が地震災害の時のように自分の身を守るためにその場に丸くなる。爆発音が止まったと判断した僕はそのまま窓の外を見て驚愕する。
高いビル。その一角から煙が立ち上っている。そこには他の建物が突き刺さっている。現実ではありえないそんな光景に僕は呆然とした。
「本当に、悪魔は空気を読めませんね」
ボソッと、僕の腕の中で抱えられたエルが呟いた。そのまま少し悲しそうな顔をして彼女はこちらを見てただ一言だけ伝える。
「ごめんなさい、リョウ君に皆さん。
僕の日常はこの時本当の意味で終わり、非日常が目を覚ました。