【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-   作:ビスマルク

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初めてのエル視点、というよりエルの一人称視点。

自己評価最低になってる彼女を書くのすっごい楽しかった。


光天使は光を見る

 どうしようもない暗闇に放り出された時、どんな行動を取るかは人によって違うと思います。暗闇の中で叫ぶ人もいれば淡々と歩き続ける人もいるでしょう。リョウ君ならどうするのかを想像して、きっと好きな歌でも歌いながら歩いている姿が容易に思い浮かんで思わず笑ってしまいます。

 

 

(なら、私は……?)

 

 

 そんな疑問が思い浮かぶも答えなんて今の姿が物語っています。無様に膝を抱えてリョウ君がいつものように起きて、笑ってくれるのを待っている。話し掛けてくれて、何の変哲もない変わらない日常を送れることを夢見ている。自分から動くことをしないくせに望みばかり高い卑しい存在が私という天使の本質なのでしょう。まったくもって恥ずべき行為なのに、それをやめることが出来ません。今の私をリョウ君が見たらなんというでしょうか。

 

 

(ああ……こんなことになったのに、まだリョウ君が私を気にかけてくれるなんて思いあがっている……)

 

 

 私が巻き込んだ結果あんな風になったというのに今もまだ彼が笑いかけてくれると思っているその性根を私は許せないのです。自分がこれほどまでに弱かったなんて知らなかったし、知りたくもなかった。この数ヵ月の幸せな日々は私を弱くしたのでしょうか?

 いいえ、いいえ、違います。私は元からこんな弱い天使だったのです。天界での訓練時代ではリョウ君と再会することを夢見て、今までの私はリョウ君との暮らしを守る為に戦ってきただけ。リョウ君がいなくなってしまったら戦う理由もなくなりこうなってしまう恥ずべき存在、それが私エル・ライトガーデンという存在です。

 

 

「声が……なにか、あったのでしょうか……?」

 

 

 そうやってまた頭を抱え込もうとしていたところに部屋の外から声が聞こえてきます。このラボの主である『観測希究』と名乗った悪魔と人間のハーフ。通称教授の所で活動している天使と悪魔の声。今までドッペル……リョウ君を支えてきた彼の仲間達。

 

 

「リルナちゃんどこ行った!?」「いない!!こっちにもいないわよ!?」「あの子が今行きそうなのって『炎天渇奪』のところじゃない!?ヤバいよね!!?」「自爆する気じゃないデスか?今のあの人だったらやると思うデスよ」「呑気なこと言ってないでさっさと働けナマケモノが!!」

 

 

 聞こえてきた声から察するにリョウ君に力を与えていたあの金髪悪魔が姿を消したらしいです。彼女もまたリョウ君が傷ついたことに責任を感じて泣き叫んでいたのを覚えています。ですが流石というべきか、自分がやるべきことを既に決めて行動しているとのこと。私とは大違いですね。でも、確かにずっとここにいるわけにもいきません。外がどうなっているのか私は何も知らないままです。シルフィも忙しそうに動いている関係上彼女に聞くのも憚れます。

 

 

「それも、言い訳ですね……ははは……」

 

 

 乾いた声で自嘲しながら立ち上がり、乱れた髪を整えることもなく外に繋がる出口へ歩いていきます。慌ただしく動いている彼女達には悪いとは思いますが、今の私は何の役にも立ちません。せめて邪魔をしないようにここからいなくなった方が良いでしょう。

 

 

「なんて言って、本当は、リョウ君が起きてきた時が怖いだけですけどね……」

 

 

 起きるかどうか分からないのに、今も私はリョウ君が起きてくれることを夢見ているのです。でも起きてきた時にどんな声を掛けられるか分からなくて、拒絶の言葉だったらと想像するだけで身が裂けそうで、逃げるように私は外に出たのでした。

 

 

 

 

 

 

「もう暗い、ですね……」

 

 

 もう夜なのにもかかわらず外は暑いです。7月の中頃、もうすぐ学生が待ち望むという夏休みの時期です。リョウ君も楽しみにして、皆で海に行くという計画も立ててました。シルフィも水着を用意していたとのことです。私は水着の良し悪しも分からないので彼女に選んでもらうつもりでした。でも、そんな計画も今はもう立ち消えたも同然でしょう。

 

 

「しかし、人がいませんね……」

 

 

 少し前であれば人がいるはずの公園近くの街道、リョウ君がいつもジョギングしている場所に来てみましたが人っ子一人いません。何があったのか、ふと見てみればゴミ箱の中に日付の近い新聞紙が捨てられていました。なにかの情報があるかもしれないと思い拾って読んでみればそこには驚くことが書いてあります。

 

 

「日本中で火事が多発……!?それに、火事被害者が無気力化……まさか、『炎天渇奪』が……」

 

 

 リョウ君から命すらも奪おうとしたあの悪魔が今もまだ活動している事実を目にして怒りがこみ上げてきます。リョウ君だけでなく、平和に生きている人々さえも毒牙にかけようとしているという事実。あのリルナという少女が『炎天渇奪』アドラメレクを憎み、殺そうとする気持ちが分かった気がします。それほどまでにあの悪魔は悍ましい。

 

 

「それが分かっても、私は……」

 

 

 天使として正しい行為は今すぐ『炎天渇奪』を探し出し討伐する事。それが分かっていながらも身体は、足は動こうとしてくれません。天使として使命感も今は支えにはなってはくれません。戦おうと能力(ちから)を使おうとしてもリョウ君が血を流し倒れる姿がフラッシュバックして霧散してしまう。白い羽を出すことも今は出来ない。息をするように可能だったことのことごとくが出来なくなり無力感が募っていくだけ。シルフィ達が話していたのを聞いた限り、世界中で悪魔が活発化しているというのに私は何も出来なくて、それが自分への嫌悪感を生み出し背中を圧し潰しそうで、何もかもが嫌になりそうで。

 

 

「あれ?ライトガーデンさん、だよな?こんな所で何してんだ?」

 

「えっ……?あ……貴方は、秋野君……」

 

「おう、秋野君だよ?何してんだこんな時間にこんな所で。早く帰らねぇとリョウが心配すんじゃねぇの?」

 

 

 ベンチで座っている所を声を掛けられて顔を上げればそこにいるのはリョウ君の親友である秋野智弘さんがいました。中学生の頃から一緒にいたという、偽物の私とは違う本当に付き合いの長い少年。リョウ君よりも背の高い高校生がサッカーボールを持っています。近いうちに大会があるからその練習でしょうか。

 

 

「リョウ君は、今少し入院してます。あのショッピングモールでの崩落で、怪我をして……」

 

「はぁ!?アイツまーたそんな……。自分から首突っ込んだんじゃねぇだろうな?ライトガーデンさんはじゃあ今家で一人なのか?」

 

「はい。あっ、いえ、今は違うところでお世話になっていて……。あの、学校の方はどうなってますか?皆さん元気だといいんですが……」

 

「ああ、学校の方は臨時休校だってさ。連絡いってなかったのか?ほら、例の謎のテロ事件みたいな火災。あれ、人が多い所でよく発生するから学校も危ないってことになってんだ」

 

「それは、そうなんですね」

 

 

 気力が湧かずになにかを気にすることすらしていなかった自分を恥ずかしく思いつつ聞けば学校は休校中で、今は誰も学校には来ていないとのことでした。

 確かに人が多く集まる学校は『炎天渇奪』にとっては狙い目の場所でしょう。“欲望”を多く集めるにはやはり人が多い所がいいと判断しているからこその日本中で火災行動を行っていると考えるべきです。

 そう思えば学校という“欲望”に染まりやすい若い人々がいる場所は格好のえさ場になりかねません。学校を休みにしたという先生方の判断には感謝しかありません。そう考えていたところで視界に入って来たのは秋野君の右腕で、そこには真っ白い包帯がありました。

 

 

「あっ……。あ、の……その、腕の包帯、は……」

 

「ん?ああ。ほら、最近多いだろ不審火火災。ちょっと部活帰りに他の部員と一緒にそれに巻き込まれちまってな。コンビニに行ったらそこが軽く燃えて俺らもちょっと焼かれちまった。ま、軽いやけどで済んだんだけどさ」

 

「そんな……」

 

 

 秋野君の腕には包帯が巻かれており、その原因は間違いなく『炎天渇奪』でしょう。リョウ君の身近な人を巻き込んだことに怒りが湧き、どの口でそれを言っているのかを思い出して冷たい氷水をかけられた気分になる。リョウ君の友人が被害にあったというのに心を奮い立たせることも出来ない自分の不甲斐なさこそを許せなくなりました。

 

 

「やけどをした人は、無気力になると聞きましたが大丈夫ですか?何もやりたくないとか、そう思ったりはしませんか?」

 

 

 『炎天渇奪』は長年活動している上級悪魔です。その能力も天使の中で共有されています。もちろんその被害者達の様子も。その中には生きるという生存欲求まで奪われて無気力に死に向かっている人達もいました。秋野君の快活な様子を見れば心配はないとは思いますがどうしても気になって聞いてしまいます。

 

 

「あー。確かに火傷した後サッカーやる気なくなったな。プロになりたいとか思ってたのに全然その気がなくなっちまった。他の奴らなんか今は練習にも来なくなっちまったし」

 

「えっ!?」

 

「まぁあの無気力状態じゃしょうがないとは思うけどなぁ。そんなことになってる奴が多くて練習しようにも人が来ないから大会前だけど部活が休みになって他の先輩達は怒ってたぞ。俺も一人で自主練してきた帰りだし」

 

「あ、あの。他の人達はやる気なくなってしまったん、ですよね。なんで秋野君はサッカーをやり続けてるんですか?」

 

「んーーー。やる気はないんだけどどうしてもボール蹴ってないと落ち着かなかったりするし……後は、あれだ」

 

 

 どうしても気になって深く聞いてしまいます。もしかしたらそこに『炎天渇奪』の能力を打ち破る何かがあのではないかと期待して。そんな私の様子に気付くこともなく秋野君は少しだけ考えるそぶりをして自分の中で答えが出たのか頷きました。

 

 

「リョウが応援してくれたからな」

 

「リョウ、くんが……?」

 

「おう。リョウだけじゃないぜ?うちのぐうたらな妹だってなんだかんだで応援に来てくれたし母さんも身体づくりの為に色々と飯作ってくれるし、親父なんか休みの時は俺に付き合ってパスとかドリブル練習に付き合ってくれたりしたし」

 

「…………」

 

「そこまでやってくれてんのに急にやる気なくなったからやめるなんて出来ねぇんだわ。そこまで無責任にはなれねぇしなりたくもねぇ。俺は家族と親友に誇れる俺でありたい。その為に今一番やるべきことはサッカーしかないって思ってさ」

 

「自分の為じゃなくて、大切な人達の為に……」

 

「いやまぁ自分の為ってのも大きいと思うぜ?今はやる気でねぇけどさ。戻った時に身体鈍ってたりしたら嫌だしな」

 

 

 秋野君はそうやってカラカラと笑いました。彼はサッカーで勝ちたい、プロになりたいという自分の“欲望”を奪われているのに家族や親友の為に頑張っているのです。その事実に心のどこかに熱が灯った気がします。それは小さくて、それでも間違いなく私の力になるもので。その火を大きくすれば立ち上がれる気がして訝し気にこちらを見ている秋野君にお願いをします。

 

 

「リョウ君の、お友達は大丈夫かは知っていますか?」

 

「ん?ちょっと巻き込まれてる奴はいたけど大怪我してる奴とかはいないはずだぞ。クラスメイトとはよく連絡とってるからな。リョウは最近返信なくて心配されまくってたけどその内戻るだろって言っておいたから沈静化してるぜ?」

 

「すみません。少しだけ見させてもらってもよろしいでしょうか」

 

「おう。見られて困るようなもんじゃねぇしな」

 

 

 秋野君のスマートフォンを借りて過去のメッセージを見ていきます。中には火傷をしたと言っている人達がいて、彼らもまた“欲望”を奪われてしまったはずです。その中にはあの日、リョウ君の一日を観察していた日に見かけた少女達の言葉もありました。

 お洒落が大好きで彼氏さんにアピールしていた桃園華さんはお化粧が面倒になったと言っています。だけど彼氏さんがお洒落な自分が好きだと言ってくれたので頑張ってやるとも言ってました。

 シルフィのファンだという上池くろねさんもまた被害を受けてます。ファングッズを集める為のバイトをやめたいと書いていますが最近配信も何もしていないシルフィを応援する為にも頑張ると書いていました。

 そして彼らはみんながみんな、連絡のつかないリョウ君を心配してくれていました。返事のない彼を想って言葉を残してくれてます。

 

 

「皆さん、“欲望”を奪われても、まだ……」

 

 

 自分の欲を失っても未だに頑張っている人達がいる。それは自分ではなく他の大切な誰かの為で。“欲望”ではなく“愛”で『炎天渇奪』に抗っているように見えて。

 自分の為に求める“欲望”。誰かの為に行動する“愛”。どちらも人にはあって当然の物。どちらか一方だけでは不自然になってしまうもの。その片割れを奪われてもまだ頑張っている人達がいる。

 

 

「リョウ君は、これも守りたかったんですよね……」

 

 

 私が一番大切に想っている人を思い浮かべて確信をもって呟きます。だって私が好きになったあの人はいつだって誰かの為に戦っていたはずだから。私を守る為に、皆さんを守る為に、見知らぬ誰かの平穏を守る為に。それを“愛”と言わずなんといえばいいのか私は知りません。

 私がいなくてもリョウ君だったら天使と悪魔の戦いの事を知れば同じ選択をするでしょう。そう確信するだけの時間を私達は共に過ごしたのですから。短くとも濃いあの幸せな日々を。共に悪魔に抗った戦いの時を。私がリョウ君を好きになったからこうなった、その考えはどうしても消えてはくれないけれど戦う理由を取り戻せた気がします。

 

 

「なら私も、頑張らないと。頑張って、もう一回貴方に会った時に笑えるように」

 

 

 結局のところ私は安くて俗物な女なのでしょう。天界にいた時に言われた天才という言葉が何の意味も持たないくらいに。だって天使であること以上に彼に笑いかけてほしいという理由でまた立ち上がれるのですから。

 

 

「ヒャンも探して、ちゃんと話をしないと。シルフィにも心配をかけたから謝らないといけませんね」

 

 

 私を想ってリョウ君を刺したヒャンはきっと後悔して今も一人で戦おうとしているでしょう。私が彼女だったらそうするはずです。だけどそれは破滅への道に他なりません。可愛い後輩である彼女をどうにかしたい。

 リョウ君を好きになったシルフィだって悲しいはずです。だけどそれをおくびにも出さずに戦いの時に備えて今も動いている。親友が頑張っているというのにその間何もしなかった自分を呪いたくなりますが今はその暇すらありません。私の不甲斐なさに関しては全てが終わった後怒ってもらうことにします。

 

 

「――――秋野君、ありがとうございました。」

 

「もう大丈夫みたいだな。顔色、大分悪かったけど」

 

「ええ。もう大丈夫です。やるべきこともしたいことも見つかりました。いえ、分かっていたはずなのに目に入らなかっただけですね」

 

「そんじゃ家まで送るぜ。放置しちまったらバレた時にリョウが怖いからな」

 

「いえ、私はこのままリョウ君の所に戻りますから。早くいかないといけませんから」

 

 

 あの金色の髪を持つ他者をなんとも思っていない悪魔から彼らの“欲望”を取り戻さなければならない。リョウ君が起きる前に全部終わらせて彼を笑顔で待っていたい。その二つを改めて心に刻み込みベンチから立ち上がり秋野君にスマートフォンを返そうとした瞬間、スマートフォンが強く震えてなんらかの連絡が来たことを知らせてきました。

 見てはいけないとは思いつつも思わず見てしまった画面には世界で見られている動画サイトからのお知らせで。その時点で嫌な予感がしました。

 

 

「なんだこれ。動画……ニュース報道か?」

 

 

 秋野君が不思議そうに見ながらスマートフォンを操作して動画サイトにアクセスします。いやな予感がした私は悪いと思いつつその動画を覗かせてもらいました。

 

 

「――――ひゃっほー♪『永死殺総』アネモネちゃんだよー♪私の玩具の人間&存在そのものが鬱陶しくてたまらないクソ天使共、見てるー?」

 

 

 画面の向こうにいたのは今この事態を起こしている上級悪魔の一人、『永死殺総』アネモネ。いやらしい底意地の悪い笑顔を浮かべた奴が公共の電波に乗せて自己紹介を行っていました。

 




自分のせいでリョウ君が傷ついたと思っていたけど、自分がいなくてもきっとリョウ君は同じ選択をしたと確信したエルちゃん復活。

自分のせいでこうなった想いは消えないけどそれで圧し潰されて何もしないままでいる方がずっと許せないので戦う決意を再度固めました。後は本編中にも言ったけどリョウ君が起きた時にちゃんと謝って、その上で彼の好きな笑顔を見せたいという“愛”が決定打です。

次回、悪魔陣営大暴れ。悪魔の最後のピークを楽しみな!!!!

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