幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

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悪魔の襲撃

 

「ごめんなさい、リョウ君に皆さん。今日はもう終わりにして(・・・・・・・・・・・)大人しく家に帰りましょう(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 何を言っているのか分からなかった。エルはあの爆発を見ていなかったのだろうか。ここを動けば危険かもしれない。いや、間違いなく危険だろう。それは移動しなかった場合危険ではないなんて馬鹿らしい楽観論なのだろう。

 だがそれでもこの状況でそんなことを言ってみんなが受け入れてくれるなんて少しでも考えればありえないはずだ。

 

 

「そう、だな……。帰るか……」

 

「今日はたのしかったよぉー……また明日ねー……」

 

「しょうがねぇや……今日はバイト休むかぁ……」

 

「学校にいる連中にも言っておかないとな……」

 

 

 そんな僕の予想とは裏腹にみんなが口々にそんなことを言い出して荷物を持って教室を出て行く。まるで先程の爆風や爆発がなかったかのように淡々と歩を進めるその姿に恐怖し震えそうになる身体を無理矢理抑えつける。

 

 

「リョウ君。どうかしましたか?早く(・・)帰りましょう(・・・・・・)

 

『お兄さん!!周りに合わせて!!!』

 

 

 いつまでも動き出さない僕に疑問を持ったのだろう。エルが直に耳元で囁いてくる。その甘い声に脳が揺らされながらもリルナの声で正気を保ちながら周りに合わせて動き出す。

 ここでエルに不審に思われればその瞬間終わりだという確信があったからだ。

 

 

「そう、だね……。エルも、一緒に帰ろう……」

 

「いえ、私はお仕事がありますので。リョウ君は帰って、ご飯を作っててください。絶対に家から出ないように。ご飯の材料がなくても、です」

 

「わか、った……。じゃあ、また、後でね……」

 

 

 周囲が半眼になっているとリルナから聞き、それを真似るように言葉を重ねる。エルは再び力を込めて言葉を吐く。それはまるで僕の脳に直接響くようで、リルナが居なければ間違いなくこの声に従っていただろう。

 周囲を見ればもうそこには誰もいない。エアロードさんもいない事から今この場でエルがやったことと同じことを学校中でやっているのかもしれない。

 自分の荷物を持ってゆっくりと教室を出る。何が起きているのかをエルに問い詰めたくなるがそれをやれば確実にリルナを巻き込む。彼女のことを考えればこのまま帰る方が安全だ。

 

 

「…………ごめん、リルナ」

 

『しょうがないよ。気になるのは分かるしね』

 

 

 だが僕は危険を冒してでも現状を把握したかった。教室を出てすぐ隣の教室に入り掃除道具の入っているロッカーの中に入り息をひそめる。

 ロッカーに入るのとほとんど同じタイミングで誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

 

「エル!!学校の生徒はもうみんな帰らせたわ!!被害予想域に住宅街は含まれてないから大丈夫のはずよ!!」

 

「ありがとうございますシルフィ。こちらも全員帰らせました。私達と直前まで会話していたので記憶操作が少し大変でしたが、皆さんもう気にしないはずです」

 

「そっちもお疲れ様ね……。ああもう!!なんでこういう楽しいことがある時に限ってアイツらはこういうことしでかすのよ!!予知班は一体何してんの!?」

 

「仕方ありません。予知も確実ではありませんし、悪魔は種族全体で個人主義ですから。何をいつしでかすかの予測も立てにくい。とにかく私達も急いでいきましょう。今日の担当だけではあの被害を出すレベルの悪魔は不味いかもしれません」

 

「…………アイドルとして“愛”を集めてる私と同じくらいの出力だせる奴、少ないしね。エルは例外として」

 

「…………人々の気持ちを力に変えるというのは、正直あまり受け入れがたい物ですが。とにかく行きましょう。学校の人々も、日常を過ごしている人々も、誰も死なせないように」

 

 

 二人の会話がそこで止まり窓が開く音が聞こえ、バサッという鳥が翼を広げる音と共に二人の声が消えた。

 外に誰もいないことを祈りつつロッカーから出て開いた窓から外を眺めれば小さくなってはいるけれど確かに二人の特徴的な髪が見えた。そしてその背中から大きな白い翼をはためかせているのも。

 リルナの二人が天使だという言葉を疑っていたわけではない。だがやはり聞くだけなのと実際に見るのとでは大きく違う。この時初めて僕は二人が天使なんだと理解した。

 

 

「一体、何が起きてるんだ……」

 

『これがこの世界の真実。常日頃から天使と悪魔の戦いが世界中で行われている。この国だけじゃなくて、他の国でもね』

 

「じゃあ、あのビルにビルが突き刺さっている悪夢みたいな光景も」

 

『そう、本物。もっともあんなこと出来るのは悪魔の中でも上級の『名有り』クラスだけど。ただお兄さんがあの光景を見えているのはアタシがいるから。試しにアタシの入ってるネックレスを外してみればいいと思うよ』

 

 

 言われるままにネックレスを外して机に置く。そうしてもう一度外を見てみれば先程の悪夢のような光景はなく、普段通りの街の姿が広がっている。

 同時に脳の動きが鈍くなり、先程エルに言われたことが頭に響き続ける。不味いと思い咄嗟にネックレスを再び首にかけ大きく息を吸い、吐く。

 

 

『天使達が世界中に巡らせてる認識操作、認識阻害の効果が分かったでしょ。これを無効化できるのは天使に事情を教えられた者と悪魔だけ。で、天使側は多分だけど組織としてもちゃんと動いてるから協力者の人間のこともちゃんと把握してるはず』

 

「だから、僕がこの状況で正気だったら消去法的に悪魔とつながりがあるってバレるのか……」

 

 

 天使達は人と協力関係を築いている。そのことに少し安心すると同時に不安になる。だってそうだろう?天使は人と協力しているのにあんな被害が出る戦いを未だに続けているのだから。

 それは、悪魔がどれだけ凶悪なのかを僕に想像させるのには十分な事実だった。

 

 

『…………お兄さん、今ならまだ間に合うよ?アタシをあの天使達に差し出せば』

 

『絶対嫌だ。その先は言うな。死にたいわけじゃないだろ』

 

『……そりゃ、まぁ……そうだけど……』

 

『なら話はそこまでだ。今はもっと考えなきゃいけないことがある』

 

 

 エルとエアロードさんは先程の会話を考えればあの戦いの現場に向かったのだろう。だとすれば僕がこれからとれる行動は二つだ。

 一つはエルの言う通り、何も知らないふりをしてこのまま家に帰る。そしていつも通りの日常を送ればいい。こちらならばリルナの安全も確保できるし僕も危険に遠ざかることが出来るだろう。

 

 もう一つはあの二人を追ってあの事件の現場に向かう事だ。結局のところ百聞は一見に如かずの言葉通りリルナに何度も話しをしてもらうより一度見た方が現状を把握するのは簡単だろう。悪魔の危険度というのも、エルがどんな相手と戦っているのかも知れるチャンスだ。

 だが言うまでもなくこちらは危険度が高い。命懸けの戦いを覗きに行こうというのだから、その危険性は平和ボケした日本人でも分かるだろう。そしてこちらはボロが出る可能性が非常に高い。エルやエアロードさんは見たところ天然気味だが天使が全員そうだというのは楽観論が過ぎる。

 

 つまり、リルナを巻き込み消される可能性が高いということだ。僕個人で決めていいことではない。彼女が僕を先に巻き込んだのは確かだが、そこから先は僕の選択なのだからその責任は僕がとるべきだ。

 

 

『行けばいいと思うよ、お兄さん』

 

「……いいのかい?君にとっては行かない方が良いと思うけど」

 

『そりゃそうだけどねぇ。でもただ生きるだけって言うのは辛いもんだってことくらいは知ってるんだ。それにアタシがこうして会話出来るのはお兄さんだけ。そのお兄さんがいつまでも辛気臭い顔しているって言うのはアタシにとっても死活問題なんだよねぇ』

 

 

 意図して明るい声を出しているのだろう。この気遣いが出来る子が本当に悪魔なのか疑わしくなる。もしこれで騙されていたとしてもそれはそれでいいかと思うくらいにはこちらに寄り添ってくれているのが分かる。

 

 

『行かないならそれはそれでいい。アタシが長生きできる可能性が高くなるからねぇ。行くなら行くで力も貸す。アタシはこう見えて悪魔が大嫌いだから、その悪魔の悪辣さと凶暴性をお兄さんが知ってくれるならそれはそれでいいと思う』

 

「要するにどちらでもいいけど自分で選べ、ってことか」

 

『そう言う事。誘導されたんじゃ意味がない。お兄さん自身が欲している物を明確にしないと“欲望”って言うのは力を発揮しないから』

 

 

 それが必要ならばやはり僕自身が決めるのが大事なのだろう。そして僕の結論は決まっている。このまま逃げ帰ってエルの無事を祈るなんてこと、この行動力の塊である僕が出来るはずもない。最終的には間違いなくエルの戦いをこの目で見ようとする。結局早いか遅いかの違いならば不安になる時間が少ない今の方が良いに決まっている。

 

 

「ごめん、リルナ。僕はエルの戦いを見たい。だから力を貸してほしい」

 

『ん、いいよお兄さん。その見たいがお兄さんの欲望なら、それをアタシの力にするから』

 

 

 その言葉と共にトプンという水に沈み込むような音共に僕は地面に吸い込まれる。いや、地面ではなく影の中というべきか。

 そこは真っ暗で何も見えないはずなのに自分の姿だけはやけにクリアに見える。この空間がリルナの力だというならば想像以上に悪魔というのは凄いのではないかと思う。今更ながらに少し震えるが押し殺して走り出す。

 

 

『アタシの言う通りに進んでくれれば真っ直ぐ戦いの現場に迎えるよ。身体能力もアタシの魔力を貸すから上がってるはずだしね』

 

「ああ、全力疾走してるのに息切れしないんだからすごいね!!ジョギングの時は負荷が欲しいからやらないで欲しいけど!!!」

 

 

 黒い空間の中をリルナの言う通り走り続ける。彼女の言う通り身体の動き、そのキレが違う。これもまたリルナの力の影響だとすれば悪魔の力というのは間違いなく脅威だ。彼女の言う事が本当ならばリルナは悪魔の中でも名前を与えられないくらいの下級だそうだ。その下級でこれなのだから上級というのは一体どんな化物なのだろう。

 

 

『ああ、一応言っておくけどアタシ単体じゃこんなこと出来ないからね。影の中を移動して別の影から出るとか出来なかったし。アタシ一人の場合は自分の影に沈み込むだけ。移動なんか出来ないその場に隠れるしか出来ない力。外の様子も殆ど分からないからねぇ』

 

「それ、潜ったところを見られたら待ち伏せされるんじゃ」

 

『うん。緊急避難は出来るけどそれ以外は出来ないだろうね。逃げるも何もその場から動けないし』

 

「じゃあなんで今はこんな風に動けるのさ」

 

『お兄さんの“欲望”のおかげだよ』

 

「欲望、ってさっきも言ってたけどそれが悪魔の力の源ってこと?」

 

『話が早いねお兄さん』

 

 

 理解が早いのは僕が生まれ育ったのが現代日本だからだろう。あらゆるサブカルが存在するこの国の創作物には色んな設定がある。それとリルナの言葉を合わせて考えれば察することは比較的難しいことじゃない。

 

 

『天使の力の源は人間の“愛”。それに対して悪魔の力の源は人間の“欲”と“負の感情”』

 

 

『気をつけてねお兄さん。これから行く場所は、色んな意味で地獄だと思うから』

 

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