【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-   作:ビスマルク

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影と光と希望の力 ②

(ありえないありえないありえない!!!!あっちゃならないこんなことぉ!!!!!)

 

 

 『永死殺総』アネモネは黒い翼を広げて逃げ惑う。通常であれば涼やかな笑顔を浮かべている顔には大量の冷や汗が流れている。それだけで今の状況がどれほどアネモネにとって不条理であり不可解であり不平等なことが起きてるかが分かる。

 

 

「ッ!!!?」

 

「外しましたか。この速度にはまだまだ慣れませんね」

 

 

 アネモネのすぐ後ろにまばゆい閃光と共に破壊音と粉砕された瓦礫が舞った。土煙の中で立ち上がるのは光天使エル・ライトガーデン。アネモネが殺そうとし、あと一歩まで追い詰め、完全に完璧に詰ませたはずの少女。絶望の表情を引き出し、あと残すのは殺すことだけの所まで追い詰めたはずの天使に今は逆にアネモネが追い詰められている。

 

 

「調子に乗るな――――」

 

 

 完全に“愛”を取り戻し、以前と変わらない力。いや、以前を遥かに超える能力を手に入れたエルにアネモネは追われ、逃げることも出来ずに徐々に傷を増やしていく。そのことをプライドの高いアネモネは認められない。つい先ほどまで追い詰めていたはずの獲物、それも友を殺した連中の一人から逃げ惑うなどあってはならないと叫び、その身体を“光鎖”が拘束する。

 

 

「ぁああああああアアアアアアアアアアアア!?!?!?!!?」

 

「“光鎖”も強化されてますね。強度に展開時間、それに長さも」

 

 

 エルを中心に振り回され絶叫を上げながら地面に叩きつけられる。喉から声にならない叫びと共に空気が身体から吐き出された。千年生きた上級悪魔が完全に手玉に取られている。しかも敵はエルだけではない。

 

 

(私の、私のコレクションが!!千年かけて集めてきた私のコレクションが消えていく!!!ドッペル、ドッペルドッペル!!!!お前はまた私から奪うのか!!!『病孤涙苦』の命だけじゃなく私の大切な物さえも!!!!)

 

 

 繋がっていた(支配していた)ゾンビ達が次々に消えて(解放されて)行くのを感じる。自分の手元に確かにあったそれが次々と消されていく。ドッペル、下級悪魔と契約しただけの人間。歴史上何人か類似した存在がいたが、どれも取るに足らない存在だった。その同類が、上級悪魔である自分の宝を穢し壊し奪っていく。それはアネモネから理性を奪うのに十分すぎた。

 

 

「ふ――――ッざけるなぁアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

「お前達がやってきたことに比べれば十分まともだよ」

 

「なッ、ンぐっ!?」

 

 

 怒りのままにここで全てを出し切ろうとするアネモネの下―――地面に延びる影の中からドッペルの声が聞こえそのまま引きずり込まれる。黒一色の空間は水中のように身体が浮遊感に包まれ、しかし呼吸には何一つ支障をきたさない不思議な感覚を覚えさせる。

 だがアネモネにはこの空間に対する感想を持つだけの余裕はなかった。目の前に色の違う双眸を輝かせる影法師が怒りのまま腕組みをして眺めているのだから。

 

 

「戦いだから怪我だとか、そういうのは仕方ないと思うさ。特にお前らみたいなのにそこらへんを考慮しろってのもおかしい話だし、そもそもこれは殺し合いだ。生きるか死ぬかの瀬戸際でああだこうだ言うのは僕は好きじゃない」

 

 

 そこまで言い切り、だけどと切り替える。その握られた拳には過剰なまでの“我欲”が宿っており、それは半端な能力を使うよりも恐ろしい力を感じさせる。今すぐここから逃げなければ不味いと本能が叫ぶもアネモネの四肢は影により拘束されておりそう簡単には解けない。

 

 

「よくもエルの髪を切ってくれたなクソッたれがアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 

 それは私がやったわけじゃない、そんな言葉を言う前に振るわれた拳は轟音と共にアネモネの身体を撃ち抜く。衝撃は全く減らず、影による拘束も引きちぎり影の世界から打ち上げ花火のように遥か上空まで届く。

 空高くから見下ろす人々の作った街は天使と悪魔の戦闘によりボロボロになっている。しかし結界の外にある今も人々がいる場所では光が灯っておりそこで誰かが生活しているのが分かる。その営み全てを自らの掌で転がし玩具にしようとしていた悪魔は忌々しく睨みながら叫ぶ。

 

 

「ヴ、あぁあああっ!!!こ、んな……!!こんな、馬鹿な展開があってぇえええええ――――」

 

 

 血を吐きながらそれでも体勢を立て直そうと必死に翼を広げるも、その翼を光の鎖が縛り上げることで固定する。逃げるどころか動かそうとすればするだけ強く締めあげられる。抵抗する気力さえ奪うエルの光が悪魔であるアネモネの身体を焼く。

 

 

「ふ、ざけるなァ!!!!!ドッペル!!ドッペル!!!お前の“欲望”は契約を通してアドラメレクに流れ込んでるはずでしょ!?私はアドラメレクからその“欲望”を受け取ってる!!!お前の無尽蔵と言える“欲望”を!!!!!」

 

 

 能力の根源、その供給元が同じはずなのにまるで出力で及ばない現実をアネモネは理解できない。どうしても道理に反していると叫ぶ。同じ力ならば負けるはずがないと怒りを吐き出す。

 

 

「エル・ライトガーデンだって同じだ!!!ドッペル、お前が契約してる悪魔だって!!!なんでここまで差が出る!?そんなのおかしい!!おかしいに決まってる!!おかしいでしょ!?私だけがなんでこんなに追い込まれる!!!!数では圧倒してるはずなのに!!!!」

 

 

 無尽蔵の“欲望”によるゾンビの強化。それは間違いなく為された。事実としてつい先ほどまでエルを追い詰めていたのだ。天使の中で最高の天才と言われているエルを後一歩の所まで。それが出来たのはゾンビが以前よりも遥かに強くなったから。だが、そのゾンビも今やドッペルとエルの前では雑兵と言えるほどに抵抗も出来ずに塵にされる。その事実がアネモネの心を、魂を、“欲望”を抉る。

 

 

「なんでここまで力の差が!!!」

 

「お前には永遠に分かりません。本気で誰かを愛することも、求めることもしようとしなかったお前には」

 

 

 エルの言葉が聞こえたと思ったと同時に星の浮かぶ夜空を超高速で引っ張られ意識が明滅する。上級悪魔だからこそ辛うじて意識を保っていられる。だがそれが幸運かどうかはまた話しは別だ。エルが向かう先である地上に“我欲”を込めた影で武装したドッペルが待っている。

 

 光の鎖により雁字搦めにされ、意識は高速で引きずり回されることで点滅し、待ちゆく先には処刑人が武器を構えている。その全てが『永死殺総』の最期を作る材料となり抵抗するどころか身じろぎする事さえも出来ない。このままでは確実に死ぬと直感したアネモネは死力を尽くしとある死体の入った鳥籠を取り出す。

 

 

「や、めろぉ!!!!止めろ下級悪魔ァ!!!!この中にはお前の姉達の死体が――――」

 

『やっちゃって、リョウちゃん』

 

 

 アネモネの言葉を聴き取れなくとも咄嗟に取り出されたその中にある死体の正体を直感で気付いたリョウは“影爪”を反射的に止めようとして、中の相棒の言葉がその制止を止めた。

 

 

「や、め―――――」

 

「お前はもう黙れ」

 

 

 『永死殺総』はそうして終わる。影が消え“我欲”が込められた拳が音を置き去りにして振るわれる。顔を砕き、その身体は死んだ。魂もまた現世にしがみつくことも出来ずに輪廻に引きずり込まれる。多くの捕らえられていた魂たちもまた、追いかけるように解放されていった。

 

 

『ごめんね姉さん。ううん、違う』

 

 

 振るわれる影が鳥籠を捉え、切り裂かれたその中から5人のリルナに似た少女の死体が解放される。傷一つなく解放された少女達の身体をリルナが愛おしい家族を抱きしめるように影を操って優しく受け止める。

 

 

『姉さんたちみんな、ずっとずっとずっと大好きだよ』

 

 

 別れと決別の言葉を交わしてリルナの復讐は終わる。ちゃんと別れを言えなかった後悔をようやく果たす。最期の別れの時に告げられた言葉を一つ一つ思い出し、飲み干す。涙を流さないように精一杯笑おうとして、声が聞こえた。

 

 

『7番、頑張りなさい』

『甘い物の食べ過ぎには気をつけるんだね』

『影の使い方、前よりずっと上手い』

『やりたいこと、見つけたんだね』

『自分の“欲望”にちゃんと向き合えよ』

 

 

 いつかの過去に聞いた姉達の言葉と似ている声がリルナの魂に響く。周囲を見渡しても誰もいない、もしかしたらただの幻聴なのではないかと思わせるそれを、リルナは本物だと信じる。姉達ならきっとこう言ってくれると思うから。

 

 

「ねぇ、リョウちゃん。背中、借りてもいい?」

 

「うん。リルナにならいくらでも貸すよ」

 

「……ありがとう。少しだけ、待ってて。そしたら、いつもと同じに、戻るから」

 

 

 戦いが終わり瓦礫だらけになった街の真ん中で立つリョウの後ろに金糸のような髪が広がる。

“欲望”を使うことで実体化したリルナはリョウの背中にしがみつき顔を隠す。

 

 

「う、あぁあああああ……!!ああああああああああぁ!!!!うああああああん!!!!」

 

 

 どうしても止められない涙と共に泣き声が響く。

 姉達に告げられなかった少女は今日、ようやくさよならを言うことが出来た。あの日から一歩も前に進んでいなかった時間を動かすことが出来た。

 

 それが嬉しいことなのか、それとも悲しいことなのか分からないぐちゃぐちゃな感情をすべて吐き出す悪魔の少女の泣き声を少年は静かに受け入れていたのだった。

今回の曇らせは良かったか?

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  • 絶望が足りてない
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