【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
『永死殺総』との決戦、それが終わるとほぼ同時に『炎天渇奪』との繋がりが消えるのを感じた。任せきりにしてしまったがどうやらダフネが勝利してくれたらしい。ここからもう一戦をするのは無理ではないが出来れば避けたかったので助かる。
『ごめん、リョウちゃん。背中ビショビショにしちゃった』
「気にしないよ。こんな背中だったらいくらでも貸すからさ」
戦いが終わり、お姉さん達との最後の別れを告げられたリルナは泣き止むと同時に僕の中に戻った。どうやら泣き止んだ後の顔を見られたくないらしい。僕は気にしないがそこは女心というものなのだろう。男には完全には理解できないかもしれないが努力はしていきたいところである。
『ほらリョウちゃん。ちゃんと話すんでしょ』
現実逃避気味に思考を回していた僕の背中をリルナの声がそっと押す。正面を見て見れば長かった銀髪を短く切り落したエルが立っている。
「リョウ君……」
「エル……」
ギリギリの死闘を繰り広げた影響か酷く疲れているがそれでもこちらを見る目には力がしっかり宿っている。戦っている時は向き合えなかった、言えなかったことがたくさんある。僕がエルに言うべきことも、エルが僕に言うべきことも。お互いにあって、でもお互いに言いづらい。
「エル、僕は」
「――――元気そうで、本当によかったです」
それでも話しをしなくてはいけないから、意を決して声を掛けようとしてエルの言葉に止められた。僕が今まで見てきた中で一番晴れ晴れとした笑顔で、とても輝いて見えた。それだけでここまで頑張ったこと全てに報われたと思えた。
「エル。僕がドッペルだ。君と共闘したり、目の前で悪魔と戦ってたのは僕だ」
「はい」
「リルナと出会って、エルとシルフィが天使だってことも知ってた。幼馴染だって認識を変えられていたのも知ってた」
「はい」
「その上で僕は、君のことが変わらず好きだ。君達が好きなんだ。君を守りたいから戦った。君と過ごしたいから天使だって知ったことも黙ってた」
「はい」
「僕はこれからも戦う。エルはきっと止めると思うけど、それでも戦う。悪魔だろうと天使だろうと、僕の大事な物を奪おうとするんだったら全部まとめて相手する。僕の好きな人全部、僕が守る。誰にもそれを止めさせたりしない」
「止めませんよ」
頷きながら聞いてくれたことに感謝する。こんな風に穏やかに秘密を打ち明けられるなんて思っていなかったから。これが幾つもの奇跡が重なった結果なのか分からないけれどこの幸運に今は感謝したい。
僕は今、間違いなく幸せだ。
◆
目の前にリョウ君がいる。それだけでこんなにも胸が躍り温かくなる。もう彼がいなければ私は文字通り生きていけない。もしも命があったとしても死んだように生きる事しかできないでしょう。
「リョウ君、私は天使です。貴方の認識を弄り一緒に暮らしたり、幼馴染だと思わせていました」
「うん」
「子供の頃出会ったリョウ君とまた会いたくて、一緒に過ごしたくて頑張ってきて。それでやったことが貴方を騙すことでした」
「うん」
「だから信じられないかもしれません。でも私は貴方が好きです。初めて会ったあの日からずっと。天使であることを捨ててもいいくらいに貴方のことを想ってました」
「うん」
「私はこれからもずっと、生きてる限り。ううん、死んでも貴方のことが好きなままです。生まれ変わっても貴方のことをまた好きになります。運命だとかただの偶然だとか、言い方はいっぱいあるかもしれませんけどこれだけは絶対だって言い切れます」
「ありがとう。本当に嬉しいよ」
伝えたいことを全て伝える。もっと早く伝えていれば、リョウ君がドッペルになることにはならなかったかもしれない。そこまで考えて思わずフッと笑ってしまう。だって確信があるから。リョウ君は知っていようが知らなかろうが、あの金糸の髪を持つ悪魔と出会えば間違いなく契約してドッペルになる。私を守る為に、自分の“愛”と“欲”の為に。
それでも構わない。どこまでも自分に正直で無謀な道だろうと笑って突き進むその姿は私にとっては希望で。
その優しさを。
強さを。
魂を。
私は好きになったのだから。
そしてこれからも、未来永劫この気持ちは変わらないと断言出来る。例え記憶が消されたとしても私はきっと彼に恋する。リョウ君と一緒にいれるなら何も怖くない。ずっと幸せだ。
辛さも苦しみも、その全てを愛していける。それだけ私は彼が好きなんです。
◆
一歩ずつ歩いていく。瓦礫だらけで足がとられそうになるけどそっと影が伸びて支えてくれる。格好悪いところを見せずに済んだことをリルナに感謝して近づいて、手を動かせばすぐに触れ合える距離まで近づく。
エルの紅い瞳が僕を捉えて離さない。そっと握り締めた手の温かさがここに彼女がいることを証明している。もう少しで失いそうになってしまった少女の存在を確かめて、一番伝えたいことを告げる。
「エル。僕はどこまでも我儘で欲しいものは絶対手に入れたいし、大切な人にはずっとそばにいてほしいし、その大切な人がどんどん増えていくような節操なしだけど」
受け入れてほしい。受け入れてもらえないかもしれない。
期待と不安が両立している。僕が一番彼女達を幸せに出来るという確信は確かにある。だけどそれをエル達が受け入れてくれるかは話しが別だ。幸せなら何をしても許されるなんてそんなことはあってはいけない。
だからちゃんと伝える。僕がどんな人間なのか、初めてエルに打ち明けて全てはそこからだ。
「僕は、僕がエルを、リルナを、シルフィを幸せにしたい。我儘だろうとなんだろうとそうしたい」
怖くて上手く彼女の目を見れない。どんな顔で、どんな感情で聞いているのか分からない。それでもずっと一緒にいたいという気持ちだけは絶対に本当だから。
「これからも、僕と一緒にいてくれますか」
握った手が力強く握り返される。拒絶かそれとも違うのか。目を開けて、顔を上げて、大好きな人の目を見つめる。ずっとこちらを見ていてくれた紅い目はどこまでも綺麗で。浮かべている表情は花が咲いたような笑顔で。気のせいかもしれないけど、嬉しくてたまらなくて涙を流しそうなほどに幸せそうな顔で。
「一緒にいさせてください」
受け入れてもらえた。死んでもいいくらい幸せ、そんな言葉は信じてこなかったけれど、生まれて初めてそんな気持ちが実在したのだと理解する。
「貴方が許してくれるのなら私は貴方の隣に立ち続けます。誰に譲ることもなく一番近くにいます。私が一番最初に貴方に恋して、一番強く貴方を愛したんですから。」
自分の言葉に絶対的な自信を持っているエルのその言葉にリルナが反応してざわついているのを魂が感じる。以前よりも近くなった距離はリルナの感情をより強く感じさせた。対抗意識を持っているのだろうか、それでも今は黙っていてくれる辺り彼女は自分の“欲望”を抑えるのが上手いと思う。悪魔としてはそう言うところが心配になるんだけど、そこもリルナの良い所だ。
「んっ」
「―――――」
目の前に瞼を閉じたエルの顔がある。唇に柔らかい感触がある。それはつい先ほどやってしまった感触と同じで、キスされているということに気付くのはその感触が離れた後だった。
「二回目、です」
イタズラが成功した少年のような快活な笑顔でエルは言った。何も言えずに思わず口元を抑えてしまう。顔が赤くなってしまうのを止められない。だけど僕以上にそれをやったエルの顔の方が赤い。耳まで真っ赤になっている。
「シルフィにだって、そこの金髪悪魔にだって負けてあげません。今すぐじゃないですけど、死の間際にでもリョウ君に言わせてみせます。“エルが一番好きだよ”って」
それは宣戦布告なのか、それとも宣言なのか。それは分からないけどそれでも二つ分かることがある。今のエルのその姿はとても美しいという事と、僕の中のリルナが今にも出てきて喧嘩を売ろうとしていることだ。
「だからリョウ君、それまでずっと私のことを離さないでくださいね」
『リョウちゃん、アタシは死んでもずっと一緒だからね』
双方から挟まれて共に宣言されて、不謹慎ながら僕はとても幸せで思いきり笑いだしてしまった。
「元気そうでよかった、よ」
その声が聞こえた瞬間今まで見つめていたエルから目を離しすぐさま振り向いた。気を抜けば死ぬかもしれないという悪寒が背中を駆け巡り生存本能が警鐘を鳴らし続けている。
「流石はドッペル、だね。上級悪魔
そこにいるのは親友の妹。僕も交友があり何度か勉強を教えたり遊んだりしたこともある少女。だがその少女の目はいつも通りならば黒のはずなのに今は夜でも輝く金色になっている。そして離している内容は確実に僕達について知っていることを表している。
「だってリョウ兄の前世は、『傲慢』の馬鹿を殺した聖騎士なんだ、から」
僕の知らない僕の話をしている。間違いなく彼女は僕の全てを僕以上に知っている。そしてこの威圧感は只者じゃない事を示している。天使よりも悪魔よりも上の存在なのだと断言出来る。
「それじゃあ、お話、しよっか」
逆らう気力さえ奪おうとするその言葉と雰囲気は目の前にいる少女――――秋野鈴が人外であることをこれ以上ないくらい明確に理解させた。油断すれば一瞬で殺されるかもしれないというこの直感は気のせいではない。
ぐぅううううううという強烈な音が僕達を現実に戻した。音の主を見れば普段から表情を変えない鈴ちゃんが無表情のまま顔を赤くしている。
「……………………リョウ兄、お腹空いた、から。なんか奢、って?」
「……………………うん、それじゃあお好み焼き屋さんに一緒に行く?」
もしかしたら気のせいかもしれない。
これにて三章「希望と炎とフラグメント」は終わりになります。
次章、「天使と悪魔とラブコメディ」に続きます。今後もよろしくお願いします。
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