【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「よっしゃアタシが焼いたぞ!!!リョウちゃんほら口開けて開けて、あーんしたげる」
「待ちなさい金髪悪魔。まだまだ生焼けじゃないですか。そんなもの食べたらお腹を壊します。ほらお皿を寄こしなさい。私が焼いたのを分けてあげます」
「……別にいらないんだけど。というかアタシの世話を焼こうとするのやめてくんない?」
「私だってしたくてしてるわけではありません。折角の祝勝会なのにリョウ君がお腹を痛めるのが可哀そうだからフォローしてあげてるだけです」
「なんでもいいけどアンタら案外仲いいわよね。あっ、もう焼けてるじゃない。リョウ、ちょっと分けてくれない?」
「いいよ、ほらあーん」
「あーん、むぎゅ、はふはふっ。うん、焼けたばっかで熱いけど美味しいわね」
「あー!!何抜け駆けしてんだ風天使!!!アンタねぇ!!ちょっとねぇ!!前から言いたかったけど吹っ切れてから遠慮ってもんどこかに落としてきたんじゃないの!!?」
「そうですよシルフィ!!こう、引っ越してからしばらくの間にあったあの遠慮は何処に行ったのですか!!貴方はもう少しこう引っ込み思案というかなんというか……いえ、別に今が悪いと言いたいわけではありませんが!!!」
「うーん、やっぱりアンタら仲いいわね」
「「良くないっ!!!」」
エルとリルナが喧嘩しそうな雰囲気になる所を上手く流すシルフィに感謝しつつお好み焼きを焼き続ける。間に入ってくれるバランサーが人間関係において非常に重要だと分かる光景である。僕はこういうバランスを取るというのがどうにも苦手で最終的に全部まとめて何とかしようとする悪癖があるから本当に助かる。
「ありがとうシルフィ……」
「別に構わないわよ。リョウにも出来ない事があってそれがこういう細かいところってだけでしょ。助け合い、ってなら今まで助けられすぎってくらいなんだから気にしないで頂戴。気にするなら次はイカ玉焼いて」
「了解了解、ほいっと」
「リョウ兄、私は豚玉、ね」
「鈴ちゃん、そっちは智弘君に焼いてもらったら……」
「このグチャグチャ状態を見てまだそれを言えるなら尊敬する、よ?お兄はサッカー以外は基本不器用だから、ね?」
見れば鉄板の前で悪戦苦闘している智弘君がいる。お好み焼きも丸くすることが出来てないようだ。それなりの付き合いだがまだまだ知らないこともあるものだなと苦笑しつつフォローに入る。
「わ、悪いなリョウ。まさかここまで難しいとは思わなかったわ」
「いいってこれくらい。心配かけたし、聞きたいこといっぱいあるだろうに空気壊さないように黙っててくれたみたいだし」
「あーまぁ、そりゃなぁ。大変だったってことくらいは何となくわかるつもりだ。お前の怪我とか見れば猶更だ」
痛々しく見てくる彼の視線の先には包帯が巻かれた僕の右腕がある。『永死殺総』との戦いの時に傷つけた物だ。ダフネに頼んで治してもらおうにも彼女も『炎天渇奪』との戦いでダウンした上に巻き戻し圏外になってしまったのでこうしている。教授に頼んで傷を隠す用のスキンを用意してもらわないとみんなに心配かけてしまう。
「あっちもあっちで騒いでるし、とりあえずは腹ごなしが済むまではこういう感じで行こうぜ」
「そうだね。多分話が進んだら食欲減ると思うし」
視線を向けた先では竜崎がヒャンとアリナと一緒にやけ酒(ジュースで)していた。自分の周囲の連中がどうのこうのだのもう少し常識を考えてほしいのだの、それでもエル様は麗しいだの言っている。最後の言葉に三人全員頷いている辺り多分場の雰囲気で既に酔っているのだろう。
「……天使って本当にいたんだな」
「言葉通りに聞くと一目惚れした人のセリフに聞こえるね。まぁ、あんまり実感湧かないのも仕方ないと思うよ。色々とあって弱ってるだろうけど認識阻害は効いてるだろうしね。それに天使って言ってもこっちの神話上のアレコレじゃなくて異世界由来だから実体はかなり違うし」
「世の宗教家からしたらそれでも頭抱えそうなもんだけどな。というかお前はいいのかよ。ライトガーデンさん、幼馴染じゃないんだろ。勝手に脳みそ弄られてるようなもんじゃねぇか」
心配してくれる彼に思わず苦笑する。結局のところ色々聞きたいことがある中で一番最初に出てくるのがこれな辺り本当に智弘君は人がいいというか友人想いというか。そんな親友に心配をかけてる自分が情けないやら。
「僕は大丈夫だよ。一緒に住み始めて一ヵ月くらいでリルナに出会ってその認識も解かれてたから。その上で一緒にいたいと思ったんだから今こうしているんだ。うん、僕は今幸せだ」
「そっか、それならいいや」
共に持っているグラスで乾杯して笑いあう。この騒がしい日常こそが求めていた物であり愛おしいと思うものである。この平穏を守る為ならばどれだけ戦おうとも構わないと断言出来る。付き合わせてしまう仲間達には迷惑をかけるとも思うが、そこは悪いが諦めてもらいたい。
「そんでだリョウ。話しは変わるんだが……うちの妹が頭おかしいこと言ってるのはマジなのか?それとも冗談なのか?」
「ごめん、僕にも分かんない」
智弘君の妹である鈴ちゃんは今も僕が焼いたミックス焼きを頬張りハムスターのようになっている。エルよりも上の最上級天使でさえ勝てないとされる魔王の姿か?これが……。
「ハムハム。む?
「物を口に入れながら喋るんじゃねぇよ」
こうして見る限りはただの少女なのだが、背後をとられた時に感じた悪寒は間違いなく上級悪魔以上だった。ドルザルクよりも『病孤涙苦』の方が圧が上だったことからも分かる通り同じ上級という区分でも差はあるのは知っているが、それでもあれは初めての経験だったと断言出来る。戦っても勝てないと直感させられたのは。
「そのはず、なんだけど……。鈴ちゃんやっぱり説明してくれない?本当に魔王なの?魔王だとしたらどうしてそのポジションなの?エル達と同じように認識改変してる?」
「別にそれくらいは軽く出来る、よ?でもそういうんじゃなくて……うーん、説明が難しいけどあえてするなら、そうだ、ね」
そう言うと鈴ちゃんは僕が焼いたばかりの豚玉の上にソースで矢印を書く。最初の点と最後の点が同じになるように一周させて。
「輪廻転生ってあるで、しょ?通常はこの輪廻の中で前世の記憶とかを洗い流し、それが終わったら次の生に行くん、だ。だから連続性を持つ人格って言うのはありえないんだけ、ど。私の場合はその記憶をずっと継続している、の。だから前……確か前は悪魔だった、か。そこで死んで、次に生まれたのが秋野鈴、ってこと。だから正真正銘、私は秋野家の長女なんだ、よ?」
「なんか色々と世の理を暴露された気がするんだけど……。でもその言い方だと悪魔以外にも転生してるように聞こえるよ?」
「してる、よ?天使にも人間にもなってる、し。才能ある人間に転生した時なんか聖女とか言われて、魔王討伐の旅に出された、し」
「魔王なのに魔王討伐すんのか……?お前適当なこと言ってんじゃないだろうな?」
「私、魔王だってこと黙ってる、し。黙ってないと死亡率高いんだよ、ね。まぁボロ出しやすいから基本的に10歳前に殺されるんだけ、ど。ウリエルの奴も本当にしつこいから勘弁してほしい、よ。私以上に無害な存在本当にいないの、に」
「多分天使側からしたらその言葉信じれる要因がないんだと思う」
「酷い、なぁ。『傲慢』のアホを討伐したパーティーの一人なの、に。まぁその事あっちは知らないから言っても仕方ないんだけ、ど」
多分凄いこと言ってるんだと思うのだが言ってる内容はともかく喋り方がいつもと変わらないせいでどこまで信じていいものか分からなくなってくる。多分常にこんな感じだから天使陣営も魔王ってこともあって先手必勝するんじゃなかろうか?
「ちなみに、だけど。天使も悪魔も一夫一妻とかそういう価値観ないから、悩んでるとしたらリョウ兄のそれは完全に無駄な時間だ、よ?」
「詳しく」
「一番食いつく話しがそれなのか……」
僕の一生と三人の一生が関わっているからね、仕方ないね。そう言うわけで僕は全力で鈴ちゃんの言葉を信じようと思いました。