【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「まず最初に言うと、この世界から見たら異世界に当たる私達の故郷は(多分)今も人類が残っているんだ、よ」
「今多分って言わなかった?」
「気のせい。少なくても私の前世ではまだ生き残って国とかあった、から。100年くらい前だけ、ど」
今更ながら鈴ちゃんと僕達のタイムスケールが違い過ぎる。これが最古の存在である魔王の時間感覚なのだろうか。それともただ単に鈴ちゃんがのんびり屋なだけなのか。恐らくは後者な気がする。数年の付き合いだがそれくらい分かるくらいには鈴ちゃんは分かりやすい。
しかし全滅していると聞いていた異世界人がまだ生きてるとは。まぁ言っていたのが情報源が姉だったリルナだったから信憑性が低いと言えばそこまでだが。
「まぁ『憤怒』の馬鹿が攻め込みまくってるせいであっちに残ってる天使も悪魔も人類も総じて追い詰められているんだけ、ど」
「今、悪魔もって言った?アタシあっちのこと行ったことも聞いたこともないから何も知らないんだけどなんで魔王が悪魔からまで恐れられているの?」
「だってアイツ、自分以外の生物の存在を許せないって馬鹿だもん。だから絶滅戦争そのものだ、よ?天使も悪魔も敵対してる余裕なんてないし、もう手を組むどころか敵対なんて欠片も見せずに人間達も含めて一緒に戦ってる、し」
「衝撃的過ぎる発言なんだけど……。エル、そうなの?」
「そう、ですね。私もそこまで詳しいわけではありません。私の教育係はミカエル様で、あちらの世界の担当者はガブリエル様とウリエル様ですから。ただ戦力をあちらにも送っていることもあります。戦力的には拮抗している、と言ってもいいと思います。……悪魔とも協力しているとは知りませんでしたが」
リルナと出会った頃にこの世界の裏側を聞き、天使の数が足りないとは聞いていたがこれを聞いたら余計に納得してしまった。こちらの世界ではどこに悪魔がいるか分からない上に“欲望”に忠実過ぎるので突発的に行動を起こすことが多い。今回の『永死殺総』と『炎天渇奪』との戦いでも後手後手に回ってしまう事からもそれが分かる。
天使達だけでは把握できない程に世界は広いというのにそれに加えて元々いた世界にまで戦力を送っているとしたらそりゃ手が足りなくもなる。
「リョウ兄みたいに悪魔と契約している人も少なくない、よ。人間が戦力になる一番簡単な方法だから、ね。リョウ兄ほど頭おかしい人は早々いない、けど」
「リョウちゃんみたいなのが多くいてもそれはそれで困るけどね」
「否定できないわね……」
「リルナ酷くない?シルフィはちゃんと否定して?」
あまりにあまりな評価に少し自分を見直そうかと考えてしまう。僕はそこまで変なことをしているつもりはないのだが。
「しかし天使と悪魔が協力してる、ってただの人間である俺からしたら不思議なもんだけどそういうこともあんのか?」
しばらく黙って話しを聞いていた智弘君がお好み焼きを切り分けながら口に出す。その疑問に形のいい顎に指を当てながら鈴ちゃんは答えた。
「根本的な話をすると、天使にとって“愛”っていうのは戦うために必要な物だけど、本能的に最も求めているものなんだよ、ね。」
「それは、まぁなんとなくわかるよ。エルもシルフィもそういうところあるから」
「私は“愛”もそうだけど認めてもらいたいって気持ちも強かったわね、そこらへんは個人によるから何とも言えないけど」
「ふむ、リョウ君以外から貰いたいと思ったことはありませんが確かに強く求めてはいますね」
天使組であるエルとシルフィの二人が自分のことを思い返して頷いている。流石は鈴ちゃん、天使になったこともあると言っていたが確かに理解度が高い。というよりこれは魔王としての知識だろうか?
「その理由が天使達の祖が『嫉妬』の魔王だからなんだけど、ね」
「なんて???」
鈴ちゃんの言葉に思わず聞き返す。あまりに大きすぎる発言にエルとシルフィに至っては絶句して息が苦しい金魚のように口をパクパクさせている。
「いや、まぁ天使達見てればなんとなく納得出来るんだけどさ……」
「なんで私を見て言うんですか貴女は」
「なんで『嫉妬』の魔王がそんなことしたの?する理由が分からないんだけど?」
「なんで、って。リルナ、だっけ。貴女みたいに人のことを愛しちゃったからだ、よ?」
この中で比較的冷静、というより天使についてあまり興味のなかったリルナが聞き返すもそれに関する鈴ちゃんの返答は至極単純な物だった。単純すぎて反撃を喰らったかのようにリルナの顔が赤く染まり、それを誤魔化す為かお好み焼きを食べ始めた。
「天使と悪魔の在り方が似てるのも、元々が同じだからだ、ね。どっちも魔王が作り出した存在だから、似通るのも当然だけ、ど」
「“愛”を求める天使と“欲望”を満たそうとする悪魔、か。確かにどっちもベクトルは違うけど強く欲しているのは確かね」
「違う点を言うなら『嫉妬』の魔王、レヴィアタンは自分の能力で自分自身を“改造”しつくしたことか、な。天使が“欲望”じゃなくて“愛”を求めてそれを力にするようになったのはその影響が強く濃く残っているからだ、よ」
「自分を全て変えるくらいに人を愛したのか……」
一体どんな人だったのだろう。一体どんな考え方をしていたんだろう。一度会って話してみたいと思うもそれはきっと叶わないのだろう。今残っているのは三大魔王と言われる三体だけ。生き残っているのは『怠惰』『強欲』『憤怒』という事はその中に含まれていない『嫉妬』はもう死んでいるはずだ。
「簡単に言うと承認欲求の塊?自分のことを一番見てほしいって考えて、それを達成する為に何でもやった努力家、かな?歌とか踊りとか楽しそうにやってた、よ?」
「思った以上に愉快そうな魔王だね……。でももういないんだよね?」
「うん、まぁ、『色欲』と相打ちになって死んだから、ね。確か5000年くらい……前だったか、な。戦った周辺は今も誰も寄り付かない不毛の大地になってたと思う、よ。まぁ、あっちに戻って実際見てみない事には分からない、けど」
「スケールが大きい話ですね。流石にそこまでの戦いは最上級天使であるミカエル様達でも難しいでしょう。当然今の私にも無理です」
「強敵を倒してくれていてありがたいというべきか。それでもまだ残っていてほしかったと思うべきか判断に迷うわね」
「だけどうん、“愛”に狂った魔王が天使達の祖だっていうのは分かった。元々が同じだからあっちの世界では天使と悪魔が手を組んでるってこと?」
「そうしないと全員絶滅させられるから、ね。『憤怒』の能力は“生命想造”。ありとあらゆる多種多様な生物を無限に作り出せる、の。戦力という意味ではアイツ以上はいないんじゃない、かな。当人も滅茶苦茶強いし、ね。まぁ、3000年くらい前に『黒騎士』って言うのに痛い目会わされてからは戦ったって聞いたことはない、けど」
その整った顔を歪めて心底嫌そうな顔を隠そうともせずに言い捨てる辺り『憤怒』を嫌っていることが分かる。この誰に対しても平等に興味なさそうな鈴ちゃんにここまで嫌悪感を抱かせるって一体『憤怒』は何をしたというのか。
「だけどまぁそれで天使と悪魔が共闘しているっていうのは分かったよ。根本的な部分が同じだから同一の危機の前で手を組むって言うのも出来るってことだね」
「そういうこと、だね。それでも戦力的に拮抗するのがやっとだろう、けど。で、話が元に戻るけどそう言うわけであっちでは一夫一妻とか欠片も残ってない、の。そもそも人手が足りな過ぎるから。当然、その価値観のもと育てられてる天使達も影響されてるん、だ」
その言葉に思わず二人を見る。エルとシルフィはそういえばといった感じで納得しているようだ。
「そもそも論で言っちゃうと天使三人に一人のツガイって言うのも珍しくなかったわね。一番に想われたいっていうのはあるけど共有することに違和感はないわ」
「それもそうですね。一人独占という贅沢が許されないという凄く切実な考えですし。こちらの世界の社会的立場というのも極論認識阻害で何とでもなってしまいますし」
「僕と竜崎の殴り合いって一体……」
あれはあれで必要だったとは思うのだがそれはそれとしてこのようなオチはどうかと思う。いやあの騒動が起こる前は二人が天使だと知っているとはいえなかったし、目が覚めた後は大変でそんな話をする余裕もなかった。
だが考えてみればエルのことを尊敬しているヒャンが三股かけてるような僕に対して何も言わなかった時点で違和感はあった。何も言わなかったのはヒャンにとってもそれが当然だったからなのだ。
「なんというか、ひどく疲れたというか。価値観とか常識って育つ環境で違うんだね……」
「えっと、どんまいリョウちゃん。アタシはリョウちゃんの味方だよ」
肩を優しく叩いてくれるリルナだけが今は救いになっていた。