幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

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天使の戦い

 暗い闇の中をリルナの誘導に従い走り続ける。障害物一つない世界、現実世界と同じ距離だとすればこの強化された身体能力で走れば5分で現場に辿り着くだろう。

 だからそれまでに最低限の基礎情報をリルナから聞く。

 

 

『アタシ達みたいな下級悪魔はその欲を集めるために昨日のお兄さんみたいな人間にとりつこうとする。そして集めた“欲望”を上級悪魔に渡し、それを使って上級悪魔は暴れる』

 

「言い方悪いかもしれないけど女王アリと働きアリみたいな関係だ」

 

『言いえて妙だね。実際、アタシ達下級悪魔は上級悪魔によって作り出される使い魔みたいなもんだから。それぞれ意志があるからそっちよりはマシだとは思うけど。……いやどうだろう、なんも考えられない方がマシだった可能性が……』

 

「リルナに何があったかは知らないから大したこと言えないけど僕はリルナがリルナでよかったと思うよ。心の底からね」

 

『…………本当卑怯だよねお兄さん』

 

「何故!?」

 

 

 今の僕の言葉のどこに卑怯な要素があったというのか、僕はただ思ったことをちゃんと伝えただけだというのに理不尽ではなかろうか。いや、それよりリルナの話に思考を回すべきだ。必要なこと以外を今は気にする余裕はない。

 

 

『あの天使がクソボケなのってお兄さんからの影響が強いんじゃ……。いややめよう。アタシの勝手な予測でお兄さんを混乱させたくない』

 

「凄い気になる言い方するじゃん……。んんっ!!と、とにかくだ。今街で暴れてる奴らはその上級悪魔ってことでいいの?」

 

『そうだけど、一つ訂正。今暴れてるのは奴らじゃなくて個人だよ』

 

「は?」

 

 

 走っていることも忘れて思わず呆ける。あの被害を、個人で出した?ビルにビルを突き刺すなんて言う悪夢のような光景を一人で。

 

 

『さっきも言ったでしょ。悪魔の力の根源は“欲望”と“負の感情”。アタシ達に欲望を集めさせて力を使えるようになれば後はあんな風に大きい被害を出せばその時点で後者が揃う。そうなればもう上級悪魔は全力を出すことが出来るようになる』

 

「じゃ、じゃああの光景は、人間の“負の感情”を集めるためだけに……?」

 

『天使を誘き出すのと、後は本人の趣味嗜好もあるだろうけどね。根本的にアイツらは思考の螺子が外れてる。お兄さん達の常識は通用しない。そして、あんな被害が出るのも今回が初めてってわけじゃない。初めてだったら天使連中ももっと慌てたでしょ?』

 

 

 絶句するという言葉をこの時初めて僕は体感した。様々な理由はあれどあそこまでやっておいて結論的に趣味嗜好で済ませるのか。

 天使達が悪魔を危険視するのも分かる。そりゃ悪魔と人間が繋がってると分かったらその時点で消しにかかるわけだ。そんなもの危険人物に他ならない。

 

 

「…………死人は、出てないの?」

 

『今は出てる。よくは知らないけど天使達が死者の魂を保護して、あそこの戦いが終わった後に蘇生するらしいよ。ただ、壊れた建物とかを完璧に直すのは難しいらしいから被害痕は残るらしいけどね』

 

 

 そこまで聞いて一つ納得する。国がスマートフォンに導入を推奨しているアプリの存在。あれは国民を悪魔から引き離す為の方法の一つなんだろう。事故があった場所なんて普通の人ならわざわざ見に行こうとしない。

 二次災害を受ける人間を減らす為にあれは用意されたのだとすれば導入を推奨されるのも当然だ。出来ることならば強制したいところを旨味を出すことで自主的にやらせてる面もあるんだろう。

 

 

『これまでの戦いはその全てが悪魔が敗北してる。だけど死んでる上級悪魔はいない。いつもいつも天使達に力を削られてもすぐに逃げ出してまた“欲望”を集めさせて出てくる。その繰り返し』

 

「まさに鼬ごっこって言葉が当てはまるな、クソッたれ……!!」

 

 

 だが、だからこそ上級悪魔達は手を組むことをしないのかもしれない。どうあっても自分達が死なないと分かっているから徒党を組むという発想がでない。

 恐らくだが、リルナの言葉が本当に全てが真実だとすればいずれ天使達はすり潰されるんじゃないかと思う。どれだけ良い感情を持ったとしても危険や危機に対しては負の感情が湧くのが人間だ。認識阻害が突破されるようなことがあれば、その感情が悪魔になだれ込む。その時点で悪魔が勝利する可能性が高くなるのではないだろうか。

 

 

『――――ただまぁ、お兄さんが思っているようなことにはならないと思うよ』

 

「は?」

 

『言ったでしょ。お兄さんの一番近くにいるアイツ、あれは上級天使だ。アレもアレで一種の化け物のはずだよ。アタシは見たことないから伝聞でしかないけどね』

 

「そういえば、そんなこと言ってた……っけ?」

 

『他のことが衝撃的過ぎて忘れちゃってたかぁ。でもまぁ実際見て安心するのもいいかもね。ちょうど戦ってるところに着いたみたいだし。そこから大きくジャンプすれば影から出られるはずだよ』

 

 

 リルナの言葉に従いその場でジャンプする。するりと影の中から出ることが出来た。この異常事態そのものに僕は慣れてきているのかもしれない。周囲は瓦礫だらけでこれを一個人がやったなどとは信じたくはなかった。どこか現実離れした光景に圧倒されつつもまだ考えることが出来ている僕は凄いかもしれない。

 そんな感慨深い感情も上で鳴り響く轟音に搔き消される。

 

 

「――――楽しいなぁ天使ィイイイイイ!!!!!」

 

「――――さっさと死になさい。私は早く帰りたいんです」

 

 

 そちらに目を向ければ大きく肥大化した拳を振りかざす褐色の大男と、手に光の槍を持ちそれをぶつける可憐な美少女がいた。

 互いの武器をぶつけるごとにそこから衝撃と轟音が鳴り響き、僕は顔を庇うように腕を動かし、隙間から戦っている二人を見る。

 

 

「エル……!!」

 

『うわ、破壊狂のドルザルクだ……。見たくもない顔の中でも上位だなぁ……』

 

 

 リルナは名前を知っているのだろう。ドルザルクと言われた方は見たこともないがその背中から生えているリルナと似たような翼がその正体を悟らせる。だがその翼から発せられる悪意、プレッシャーはリルナとは全てが違っていた。威圧感も、その破壊性も。それを目にして立っていられるだけで恐らくは奇跡だろう。

 

 もしも、仮に僕がリルナという前例を知らずにここに来ていたら理性も何もかもかなぐり捨てて逃げ出していたはずだ。今もそうしたい気持ちに駆られる。そうしない理由はただ一つ、その上級悪魔と戦っているのが僕が好きだと言った女の子だからだ。

 

 

「帰りたいなんて言うなよなァ!!お前とも何度もやり合ってんだ!!!いい加減ここで決着つけようじゃねぇか!!!もし生きてたら持ち帰って可愛がってやるよッ!!!!」

 

「は????ぶっ殺すぞあのデカブツ」

 

 

 恐怖も何もかも吹き飛んで純粋な怒りがこみあげてくる。あのデカいだけで美しさも何もない筋肉で何を叫んでいるんだあの馬鹿は。頭に脳が詰まっていないのか?

 今すぐに飛び出したくなるところを辛うじて残った理性を総動員してこらえてあの戦いに巻き込まれないように影の中に頭半分だけ出して隠れる。万が一にも見つかるわけにはいかない。

 

 

「その臭い口を閉じなさい。私が帰るところは一つです。そしてもう一つ、私はこの戦いを楽しんだことなどありませんし、いい加減あなたの顔を見るのもうんざりです。ここで死ね」

 

 

 ドルザルクと近接で光の槍をぶつけていたエルがその翼を大きく動かし後退する。同時にその背中に幾つもの光の矢が生み出されそのまま射出される。

 その全てをドルザルクは躱すことなく迎え撃つ。デカくした拳とその乱打によって真っ向から全てを打ち砕くつもりなのだろう。

 

 

「いい加減わからねぇか!!こんなもん俺様にとっちゃ蚊トンボ同然だってよぉ!!!」

 

「そっちもいい加減理解しなさいよ。アンタみたいな脳筋相手に真っ向勝負仕掛けるわけないでしょ」

 

 

 言葉と同時にドルザルクの身体が巻き上がる風によって見えなくなる。声の方を見ればそこにはエアロードさんが指を動かし、その動きと連動するように竜巻の方向が変わる。

 テレビで見たことのあるアメリカのハリケーン、それを圧縮させたような竜巻はドルザルクの皮膚を削り、紫の血が流れだす。

 

 

「鬱陶しいぞガキが。邪魔すんじゃねぇ」

 

 

 竜巻によって聞こえないはずの声が届き、耳と魂を揺らしてくる。巻き上がる風に削られ続けているはずだが一切怯むことなくドルザルクは懐から何か小さい物を取り出す。

 それを風に任せるように離すことで小さい塊は風によって上空まで巻き上がる。

 

 

「“巨大化(ビッグ)”」

 

『お兄さん不味い!!影の中に入って!!』

 

 

 ドルザルクの呟きと共に小さい塊がその大きさを100倍近く変える。周囲全てを圧し潰すようなその瓦礫は逃げることなど許さないとばかりに重力に従い落ちてくる。

 竜巻だろうが何だろうがあの質量を押し上げることなど出来ないと断言できる。

 

 

「何度も見せてんだから対処法だってわかるわよ」

 

 

 慌てる様子もなくエアロードさんは腕を大きく振るう。風がカッターのような鋭さを持って大きな瓦礫を幾つもの塊に切り分ける。そうして小さくした彼女は対処するべき最低限の瓦礫のみをその風を操る力で浮き上がらせ、それ以外の瓦礫を放置した。

 

 

「何度も見せてんだからそう対処すんのも分かんだろォ!!!」

 

 

 放置された瓦礫の一つにドルザルクは自らの身体を小さくすることで隠れていた。その声に咄嗟に風を防御に回そうとするも一手遅く元の大きさに戻ったドルザルクの拳がエアロードさんを捉えそのまま崩れかけているビルに叩きつける。

 

 

「そこです」

 

 

 その伸びきった腕を冷徹な言葉と共に幾つもの光の矢が貫く。紫の血が噴き出し、光によって焼けて蒸発していく。その余りに痛そうな光景にも一切怯むことなく上級悪魔は戦意を漲らせて叫ぶ。

 

 

「ああそうだ!!それでいいィ!!!仲間なんぞ放っておけよ!!!俺様を見ろ!!俺様を殺しに来い!!!その全てを返り討ちにしてテメェを貪り食らう!!!!」

 

「気持ち悪い……」

 

 

 エルの顔は僕が見たこともないくらいの嫌悪の感情で統一されていた。あの目で見られたら僕だったらすぐに縄を用意し首を吊るだろう。冷たいを通り越してまるで南極の冬を思わせる目は汚物を見るなんて表現ですら足りないだろう。

 

 

「そう言うなよ。今回はただのデモンストレーションだ。ただの本番前の挨拶ってやつだな。人間や天使も大事にしてんだろ、挨拶」

 

 

 ドルザルクは翼を背中に収め地面に足をつける。エルは光の矢を最早数えきれないほど用意し今にも射出しようとし、それを止めた。

 もしかしたら地面の瓦礫の中に人がいたらと考えたのかもしれない。ドルザルクは意識的にか、それとも悪魔の本能によるものか、人がいるかもしれないというエルの思考を利用し人質を取ったのだ。

 

 

「今回はここまでだ。次はもっと大きくやる。この街全部潰すような物を用意してやる。お前らの認識阻害が機能しなくなるレベルのをなぁ」

 

「そんなことを聞いて私達がお前を逃がすとでも?ここで死になさい」

 

「おおっと、やめときな。あと30分程度で住宅街がぶっ壊されるぜ?俺様が戻ればそうはならないだろうけどなァ」

 

 

 エルが動きを止める。怒りに顔を歪め強く睨みつける。それを見てドルザルクは陶酔したように顔を赤らめ、その口は切り裂かれたように大きく頬を上げた。

 

 

「次だ。次はテメェを殺しその身体を俺様専用に作り変える。待ってなぁ、天使ィ……!!」

 

 

 そこまで言い切り、その場からドルザルクは消えた。恐らくは自分の身体を小さくすることでこの瓦礫の山に隠れて逃げたのだろう。豪快な印象とは別になんて陰険なやり方だろう。

 

 あとに残されたエルは悔しさのあまり手を強く握りしめ、赤い血を滴らせながら上空で佇んでいた。

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