【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
今月から忙しくなりますが出来る限り投稿続けていくので応援オネシャス……!!
夏休みになっても普段の日課はあまり変わらない。それは朝のジョギングも含まれる。保冷剤を仕込める首に負けるタオルをつけて走り出す。ドッペルとして強化された今も“我欲”を使わなければ身体能力は普通の人間と変わらないのでこういう普段から努力することが大切なのだ。
「それでは行きましょうかっ」
「うん、エルも準備できたみたいだしね」
玄関でいつも通り持っている物のチェックをしていると後ろから声がかけられる。振り向けば長い銀髪をポニーテールに結び運動しやすいようにしたエルがいる。僕の来ている青いジャージと色違いのピンクのジャージを着ているが、やはり素材がいいと何を着ても似合うのかとても可愛らしかった。
「うん、エルが着ると野暮ったいはずのジャージも輝いて見える。すごく可愛い」
「……もう一回言ってもらえますか?」
「凄くすごく可愛い。滅茶苦茶似合ってる。正直見惚れてた」
「~~~~~~~!!!!は、早く行きましょうそうしましょう!!!」
大切なことはちゃんと口に出さないと伝わらないので褒める時は基本思考を垂れ流しにしている。いやまぁ何を着ても似合ってるなんて誉め言葉としてはあまり良い方ではないと思うのだがエルはこれだけで顔を赤くしてしまうので段々と慣らしていく段階だ。
顔を赤くしたまま運動靴を履いてすぐに飛び出したエルの後を追うように僕もまた駆け出した。
「だけど髪、戻ってよかったね」
「そうですね。彼女のおかげというのが少し釈然としませんが。天使として魔王に手助けされるのはちょっと……」
そう言って困った顔をするエルの髪は『永死殺総』との戦いで切ることになった時以前に戻っていた。彼女の言う通り『怠惰』の魔王こと鈴ちゃんがショートカットになった髪を見て伸ばしてくれたのだ。
「これで貸し一だ、ね?」
その一言を告げて髪を一撫でするだけでするするとエルの髪は伸びた。不思議なことに前髪はそのままだったのだが彼女の能力、というより権能はかなり応用性が効くらしい。ただし本人は疲れるのであまり使いたがらない。その後も智弘君におんぶされて帰ったし。いやそれは権能関係ない彼女自身の性格だとも思うが。
「でも、うん。やっぱりエルには長髪が似合ってると思う。見慣れてるっていうのもあるけどさ」
「私も髪を伸ばした状態で生活していたので短すぎるのは少し違和感がありましたから。髪を洗うとか色々と大変ですからたまに切りたくもなりますけど」
「キラキラしてて綺麗な髪なんだし、失恋したわけでもないのに切るのは勿体ないよ」
「ふふ、それじゃあ私は一生髪を切ることがなさそうですね」
「うん。そんな機会がないように僕も頑張るよ」
「はいっ。私も頑張りますよ!!」
以前よりも明るくなった、と言うより本来の彼女はこちらなんだろうと思う。過去のことを想いだした今思えばやっぱり隠し事をしているというのは非常に強いストレスだったはずだ。リルナのこともあり仕方ないとは思うがエル達が天使だったと知っていることを黙っていたことに対する罪悪感は今もある。だけどそれを表に出せばきっと彼女は悲しむだろうから胸の中に沈めておく。
「シルフィも本当だったら一緒にジョギング出来たらいいんですけど……」
「本人が嫌がってるから仕方ないよ。アイドルだし日焼けもあんまり好ましくないだろうから。天界の動きによってはアイドルとして活動再開するって言ってたしね」
隣り合って大きな公園を走っていく。お互い走る程度で息を荒げるほど軟ではないので会話もしながら。認識阻害は天使にとって標準技術らしいのでエルも使える。そのおかげで外でこういう話をしていても周囲に不審に思われることはない。
「シルフィ曰く天界ももう隠しきるのは不可能と判断して事実を明かす方面のようです。『怠惰』の魔王の証言から『強欲』の魔王が四ヵ月程度で動き出す可能性が高い以上戦力の増強も必要なのですが……」
「本当に色々と爆弾発言残して後はお任せしてくれたよね、鈴ちゃんも……」
『怠惰』と『強欲』が小競り合いとはいえ実際にぶつかり合ったということも、その時に聞いた事実も天界を揺るがすには十分すぎた。ここ数百年動きのなかった『強欲』が直に動き出そうとしているのだ。上級天使の数も昔より増えているとのことだがそれでも魔王とその配下の上級悪魔を相手にするには数が不足していると言わざるをえない。
「だからこそ僕みたいなのが許されている所があるから強くは言えないけどさ」
「あちらの世界ではリョウ君のように悪魔と契約している人もそれなりにいるらしいですからあまり目くじらを立てなくてもいいと思いますけどね」
「まぁ天界組織のトップからしたら滅茶苦茶怖いと思うしね」
なにせ下級悪魔と契約した結果上級悪魔に匹敵する力を得た人間とか言うイレギュラーなのだからあちらからしたら気が気ではないだろう。あちらの世界で僕のように契約している人もいるとのことだがここまで強化幅が大きい例はほかにないらしい。ぷんすか頬を膨らませて怒っているエルには悪いけどこれに関しては排除しようとしてくるあちらの気持ちも分からないでもない。
だが今は状況が変わった。『強欲』が動くことがほぼ確定し、戦力が必要になることが確実な今僕を殺そうとすれば少なくてもエルとシルフィ、二人の上級天使が敵に回る。更に僕もその時は抵抗せざるを得ないので更に戦力が減らされる。味方になりえる教授達も敵対すればそんなの『強欲』が笑う結果になるだけだ。そんな愚の骨頂を起こさないだけ理性的と言わざるをえない。
「……私はそれ以上にリョウ君の前世が『聖盾』だからという『怠惰』の一言で信じた結果こうなったことが許せないです。リョウ君は前世とか関係なく、リョウ君なのに」
「信憑性も皆無だしね。前世の記憶も何もないからそんなこと言われても困るだけなのに。実際本当かどうかは分からないし」
「むぅ、リョウ君は自分のことに関して少し無頓着が過ぎると思います」
「はは、ごめんごめん。でも僕はこういう奴だから許してほしいな」
「駄目です許しません。……午後、一緒に出掛けてくれるなら、許します」
「うん。それじゃあデート、しようか」
「はいっ」
予定の半分程度を走ったところで一度休憩として公園に設置されているベンチに座りウエストポーチの中に入れていきたスポーツドリンクの入ったペットボトルを取り出して手渡す。流石にこの暑さではただの人間である僕は当然ながら天使であるエルも汗をかく。
汗をかいてる程度は気にしないのだがエルもそうだとは思わないので少し間をあけて座る。ベンチは木陰になっており周囲よりは大分マシだ。何も喋らない時間も居心地が悪いということもなくお互いにゆっくり過ごせている。ただ手だけは重ね合わせている状態で。僕の手に重ねておかれた手が熱いのは多分夏のせいだけじゃないだろう。そしてその手の熱さを僕は嫌ではなかった。
そうしてのんびり過ごしていると見慣れた人物とワンちゃんが歩いているのを見つけた。あちらも見つけたようでこちらにゆっくり歩いてくる。その歩みは確かなようで、この前の事件には巻き込まれていなかったのだと安堵の息を吐いた。
「おや、沢渡君じゃないか。今日も元気そうだねぇ」
「三澤のお爺さんは今日も散歩ですか。暑いのに凄いですね……」
「はっはっはっ、まだまだ若いもんには負けんよ。っと、そちらのお嬢さんは?」
「あっ、えっと。私はエル・ライトガーデンと言います。リョウ君とはその」
「恋人です。この前くっついたばかりの」
「~~~~~~~!!!!」
「うんうん、お似合いのアベックじゃなあ」
事実を言っただけなのにエルが肩をペシペシ叩いてくる。痛くはないしただのじゃれ合いだとは分かるのだがそこまで恥ずかしがることなのだろうか。お互い告白してキスまでしたのだから恋人と言っていいと思うのだが、ここら辺は乙女心と言う奴なのかもしれない。乙女心って難しい。
「沢渡君もお嬢さんもまるで若い頃の儂らを見てるようじゃわい。まぁ流石にこの暑さの中散歩するのは命の危機を感じると言って妻は家にいるがのう」
「三澤さんも気を付けてくださいね。ほら、これ予備に持ってきたスポーツドリンクです。開けてないから安心だと思いますけど」
「大丈夫じゃよ。儂も小銭は持ってきてるからのう。そこらの自販機で勝手に買って飲んどる。金太郎用の水は持ってきてるがのう」
「それならいいですけど……気を付けてくださいね」
悪魔とか関係なく熱中症で倒れる人も多い季節だ。三澤さんは年寄りと言うには筋骨隆々でペットの金太郎君と一緒に散歩していることから体力もあるのだろうけど心配は心配だ。
「それじゃあ邪魔しちゃいかんし儂も行くとするわい。ああ、そうそうお嬢さん」
「えっ、は、はい。なんでしょうか?」
「沢渡君のことはちゃんと知っとると思うが一応言っておこうと思ってのう。この手の少年は無茶を重ねることが多いからちゃんと見ておかないと後が怖くなるぞ。儂もそうだったからよく分かる」
「は、はいっ!!ちゃんと見ていることにします!!一生!!!」
「僕、そんな無茶しそうかなぁ……?」
「しそうです。というか実際してます!!」
エルからの評価が僕の胸に突き刺さる。これでもちゃんとリスク管理とかはしてるつもりなのだが。そんな僕らの様子を見て三澤のお爺さんは笑っている。
「うんうん、これなら心配いらなさそうじゃ。それではご両人、末永くのう」
そのまま歩き出した三澤のお爺さんを見送り、その背中が見えなくなるくらいに立ち上がり再び二人並んで走り出す。
末永く、その言葉を大切に胸の中にしまい込む。そうなればいいとも、そうしたいとも言わない。ただ絶対にそうするという決意だけを刻み込んで僕達は共に光の中を走った。
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