【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
メインヒロイン第一人者だからね、仕方ないね。まだまだ攻めていくぜ。
「ふぁー、暑かったぁ……」
「さ、流石に汗をかきましたね」
「うん。出掛ける前にシャワーでも浴びた方が良さそうだ」
朝の日課のジョギングを終えて帰ってきた僕達は二人して汗でじっとりしていた。ジャージも汗を吸っていてこころなしか重い気がする。この後一緒に出掛ける約束をしている所だが流石にこのまま着替えるのは気分が悪いのでシャワーでも浴びた方がいいと思う。
「それならお風呂も入ってしまいましょう。今日はシルフィが朝入っていたのでまだお湯も残っているはずですし」
「そういえば今日はアイドル復帰の話をしに行ったんだっけ。天使アイドルとして復活ってなったら絶対話題になるよね。もしそうなったら最初のコンサートは絶対最前列を取るよ」
「ふふ、そうなったらきっと彼女も喜ぶと思いますよ」
「そうだといいな。でも僕一人を喜ばすよりきっとアイドルとしてのシルフィはファン皆を喜ばせるのを選ぶはずだよ」
彼女は自分の役割をしっかり果たす
だからこそファンとしてきっちり正規の手順で最前列を獲得するのだ。絶対に不正だのコネだのは使わずに純粋な実力と運で勝ち取ってみせる。そしてコンサートをしているシルフィを一番近いところで見届けるのだ。
「それじゃあエル、先にシャワー浴びていいよ。お風呂も入ってるならゆっくりしていいから」
「いえ、ちょっと色々と準備したいので……。リョウ君が先に入っていいですよ」
流石に少女を汗だくのまま待たせるというのはいくら僕がちょっと天然気質だとしても躊躇われる。そう思っての言葉だったのだがエルは断った。それも有無を言わさずにそのまま自室の方に行ってしまった。準備と言うが何をするのだろうか。出掛ける準備ならばお風呂に入った後で十分だと思うのだが。
だけど走り去ったエルを追いかけるのもデリカシーに欠けるだろう。仕方ないのでそのまま脱衣所に向かいジャージを脱いで洗濯機に放り込む。汗の染みこんだ下着もさっさと放り込んでお風呂の扉を開いてそのまま閉じる。
「ウーム、随分鍛えられた気がするなぁ」
お風呂のまだ曇っていない鏡を見てみればそこに映る身体には無駄な肉が何一つついていない僕の身体が映っている。元々筋トレが趣味だったのだがなんとなく実戦的な筋肉がついている気がする。まぁそれ以上に目立つ部分はあるのだがそれに関しては気にするつもりもないので問題なし。
「暑い日こそ熱湯シャワーだよねー」
熱めのお湯を出して汗を洗い流していく。汗でべたついていた感じが消えていく感覚は思わず鼻歌を歌いそうになるくらいには気分がいい。そのまま椅子に座って頭を洗う。どうにも僕は肌が弱いのか汗をかくと頭が痒くなったりして子供の頃は強く掻いてしまって血が出るということも多々あった。流石に今はそうなることはないのだが気を付けるに越したことはない。
「リョウ君、湯加減はどうですか?」
「うん、ちょうどいいよ」
お風呂に手を突っ込んで湯船の温度を確認すれば十分気持ちよく入れる温度だ。ちなみに我が家の風呂場は海外出張している両親が日本に帰ってきた時くらいは脚を伸ばせるお風呂に入りたいとのことでかなり広めに作られている。二人で入っても問題ないくらいだ。
「よかった。そ、それじゃあ失礼しますね」
「え」
ガチャリと音が鳴り、続いて扉が開く音がする。外の空気が入って来たことから間違いなく風呂場のドアが開かれたのだろう。そして僕は扉に触れていない。というか髪を洗ってるせいで目を開けることも出来ていない。
「え、エル?」
「こ、こっち見ちゃだめですよ?タオルで隠してますけど」
「いや、ちょ、へ?」
自然と入ってきたエルはそのまま優しく柔らかい手で僕の髪を洗いだした。流石の僕でもこの状況にはフリーズせずにはいられず指一つ動かすことも出来ずにされるがままになる。こういう時どう反応すればいいのかなんて僕は知らない。こんなの僕のデータにないぞ!?
『リルナ!!リルナ助けて!!!』
『ううん……?勘弁してよ、リョウちゃん……。アタシ昨日徹夜でダン○ンロンパやってたんだからさぁ……。寝不足なんだよねぇ……』
『だって!!だってお風呂にエルが入ってる!!!』
『あの銀髪天使だってお風呂くらい入るでしょ……。ふぁぁああ~~。悪いけどアタシまだ眠いから寝るね~~~……』
心の中のリルナはそう言ってまた布団にくるまって寝息を立て始めた。何一つ助言をくれない相棒を起こそうとその身体を揺らそうとした瞬間背中を指一本でなぞられる。思わずビクンと反応してしまう。
「駄目ですよリョウ君。今はちゃんとこっちに集中していないと」
「う、うん。いや、でもこれはちょっと流石に」
「ふふふ、いつもやられてばかりですから。たまには私もリョウ君をからかいたくなったんです」
しなやかな白くて綺麗な手。いつも見ていて知っているそれが今僕の頭に触れてしっかりとシャンプーを泡立ててゆっくりと洗ってくれる。その感触はどこか官能的であり興奮で反応しないように気を付けるのが精いっぱいだった。
シャワーをかけられて髪を覆う泡が洗い流されていく。こうなれば目を開けることも出来るのだがこの状況でそれが出来るほど僕の理性は弱くない。いや本当は“欲望”のままにエルの方に振り向きたいのだが必死に我慢しているのだ。それにここまで耐えてしまえばもう終わり、この勝負僕の勝ちだ。
「それじゃあ次は背中を洗いますね」
「えっ」
エルはそのまま流れるようにスポンジを手に取られて背中を洗い始めた。僕は立ち上がるチャンスを失ってされるがままになる。時折柔らかい手が身体に触れてゾクゾクしてしまうのは僕に変な性癖があるからではないと思いたい。今も目を閉じたままだから背中に神経が集中してしまい普段よりも感覚が研ぎ澄まされている。こんな時にドッペルとしての経験を生かさなくてもいいだろうにと思うのだが僕の不良品の身体は言う事を聞いてくれない。
「……身体、傷だらけですね」
「え、うん。自分で納得してやった結果だから気にしてはないんだけどね」
なぞるように這う指先が傷跡に触れる。普段は教授の開発した人工スキンで隠しているがもう家では隠す意味もないので使ってはいない。流石に学校に行くときなどはバレないように使っているけど。今までの悪魔との戦いによって刻み込まれた傷は少なくはない。
ダフネの能力の時間回帰で傷を失くすことは出来るのだが、それは彼女の負担が大きいのとごくごく短い時間しか巻き戻すことが出来ない。治療などは教授が魂干渉の能力の応用で済ませてくれるのだが流石に傷跡を全て消すようなことは出来ないらしい。
「背中にも、大きい傷……」
「あー、この前ヒャンに刺された奴だね。貫通してるから胸元にもあるよ。あっ、でも彼女には言わないでね。これ以上気にされても僕が困るからさ」
「分かっています。私も、後輩を悩ませるようなことはしたくありません。ただ、それでも……」
「それでも?」
「やっぱり、無理をさせてしまったのかなと思って」
「違うよエル。これは僕が選んだ僕の道だ。例え誰であろうとそれを否定させない」
どこか罪悪感を感じる声音、そんな声を聞く為に僕はドッペルをしていたわけじゃない。あの日あの時、リルナと契約し共犯者となり、共に悪魔と戦うことを決めた。その時からここまで一切の後悔はない。
「やらなければよかったなんて後悔した時間なんて一瞬たりともない。僕は僕の選択を誇りに思う。だからエル、この傷は僕の選択の結果で、証でもある。だからそんな風に言わないで。それよりもただ頑張ったねって言ってくれればいいんだ」
エルが息を吞む音が微かに聞こえた。彼女視点から見れば自分がここに来たからこうなってしまったと思うかもしれない。だけど僕の異常な“欲望”のことを考えればいずれ必ず巻き込まれていた。リルナと出会う前に悪魔と関係なく過ごせていたのは奇跡と言っていい。だからこのことに彼女が責任を感じる必要などない。
「そう、ですね。これは、リョウ君が頑張ってきた証なんですから。だから私もそれを誇りに思わないと。リョウ君が頑張って守りたいものを守ってきた証を」
澄んだ声には少し前にあった動揺はなかった。ただそれまで痛々しいものを触っていたような感触が愛おしいものを触るような優しい手つきになっている。それはそれでちょっと困るので止めてほしいのだが流石にそれを伝えるのは憚れる。
「前は流石に自分でやるから、うん。見られたくないし」
「そ、そうですね。では、どうぞ」
空気を変える為に身体を洗う続きをする。全身が泡だらけになり、そこをシャワーで洗い流していく。今日は偶然だがタオルを持ち込んでいたのでそれを腰の周りに巻き付けて見られないようにする。この状態で反応してしまったら一部分だけ盛り上がってしまうので必死に我慢する。そう、これが悟りに至る為の修行なのだと思うことにして。
「そ、それじゃあリョウ君。次は、私を洗ってくれますか……?」
お釈迦様はこんな理性をぶっ壊すようなことを言われても耐えることが出来たのだろうか。それが出来た結果が悟りだというのならば僕は心の底から尊敬する。そんなことを考えながら汗を洗い流したはずの背中に冷や汗が流れたのだった。
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やる気アップで投稿頻度上げられるので(多分)!!!!